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桜のあやかしと共に10

季節は移ろい、夏も終わり秋になった。

だが、残暑の厳しさに浮竹だけでなく、白哉もだれていた。

ここは、京楽の住む3億もするマンションの一角。

冷房のエアコンが壊れてしまったのだ。

室温はぐんぐんあがり、35度をこしていた。

「暑い。水シャワー浴びてくる」

「浮竹、兄がいくなら私もいく」

「ちょっと、二人とも!もうすぐ修理の人が来てくれるから、それまで我慢してよ!」

「兄は平気そうで羨ましい」

白哉は、浮竹と違うバスルームに向かった。



やがて、エアコンは修理しきれない状態で、買い替えることになった。

「暑い・・・猫の姿でいよう」

「にゃああああ」

すでに、白哉は黒猫の子猫姿で冷たいフローリングで寝そべっている。

「浮竹、買いにいくの一緒についてきてよ」

「猫の姿でいいか?」

「いや、ペット同伴はだめだから」

「じゃあ、京楽一人で行ってこい」

「ぐすん」

結局、京楽は一人で家電屋にいき、百万をこえるクーラーを買ってきて、さっそく店の人にとりつけてもらった。

「極楽極楽・・・・・・」

「あれ、猫がしゃべったような?」

店の人が、うっかり子猫姿で人の言葉を話した浮竹を見てから、笑った。

「猫が、人の言葉話すわけありませんよねぇ」

「そうだね」

「でも、ここって便利屋っていう退治屋してる人の家って聞いたので、よければ話だけでも聞いてくれませんか」

「どうしたんだい?」

浮竹と白哉は、自分の部屋で人化して、京楽のところにやってくる。

「それが、季節外れの藤の花が咲いていて、枯れかけていたんで、水をやって肥料を植えたんです。その次の日から、藤の精霊だというあやかしがやってきて、お礼をさせてくれってうるさいんです。適当に今の上司が気に入らないって言ったら、その上司骨折しちゃって・・・・。他にも愚痴を言ってしまった相手に、次々と不幸が。どうにかなりませんか」

「こりゃ、ボクらの出番だね」

「そうだな」

「うむ」

店の人は、田原といった。

20代前半の若者で、見た目はよかったし、身なりもきちんとしていた。

「ここが、例の藤です」

「10月だぞ・・・5月の藤がこんなに咲いている。狂い咲きだな」

「狂い咲き?」

「季節を間違えて、咲き乱れることだ。確かに、藤のあやかしがいるようだ。人のにおいがするな・・・・あなたの上司やらに災禍をもたらしたのは、この藤の精霊・・・・・藤の花鬼だな]

「祓うかい?」

「狂い咲きの花は理性があまりない。話すだけ無駄だろうし、祓おう」

浮竹は、ふっと桜の花びらを吹くと、藤が枯れていく。

「ぎゃああああああ」

藤の花鬼が現れる。

「おのれ、人間め!」

「残念。こっちの子は桜の王だよ。それで、こっちは桜の王の弟」

「さ、桜の王・・・あやかし殺しの、桜の王・・ひいいいい」

「あやかし殺しとは失礼な。120年前にそれはやめてるぞ」

浮竹がそう言うと、藤の花鬼は震えた。

「他の花鬼が言っていた。人間と、あやかしを退治すると」

藤の花鬼は、綺麗な女性だったが、田原の好みではないらしい。

「もう、他の人に災いがおこるなんてまっぴらごめんだ」

「どうして。あなたのために、してあげたのに。愛しているわ」

「俺は、人間だ。あやかしなんて、好きになれるわけがない。この化け物が!」

「ひどい・・・・・・」

「まぁ、田原君そこまでにしておいて。ボクの十四郎が切れるから」

「あやかしは化け物かもしれないが・・・・・」

浮竹は静かに怒っていた。

「眠れ」

怒っている浮竹の代わりに、白哉が浮竹と同じように、桜の花びらをふっと吹いた。

甘い香りがして、藤の花鬼は、眠りにつく。

「さぁ、兄の出番だ」

「滅!」

眠ったまま、藤の花鬼は消滅した。

「ありがとうごいざいます。給料が出たら、料金をお支払いいたしますので・・・・」

「京楽、藤の花の種が落ちているだろう」

「あ、ほんとだね」

「花鬼の元だ。違う場所に埋めてやろう。新しい藤の花鬼として、成長するだろう」

田原は、浮竹の言葉に嫌そうな顔をする。

「やっつけたんでしょう。また、俺のところにきたらどう責任とってくれるんですか」

「兄の記憶を消す。厄介だ」

ふっと、白哉は桜の花びらをふいて、田原のあやかしに関係した記憶だけを切り取った。

「白哉、俺の技うまくなってきたな」

「浮竹、兄に毎日訓練を受けているからな」

藤の種を、億ションの庭に埋めて、3人は部屋に帰還する。

「藤の花は、自分を救ってくれた男を好いて、男の障害をとりのぞこうとしたが、人に手を出すのはあやかしの世界ではタブーだ」

「うん、そうだね。ボクや、術者の浮竹の元なんかに依頼がくるから」

「今年は、秋になったのに桔梗の王の卯の花烈の姿を見ない。何かあったのだろうか」

「噂では、病にかかったと聞いたぞ」

白哉は、独自のあやかしネットワークをもっていた。情報を集めるのが早い。

「今度、桔梗の王のところに、お見舞いにいくか。何か菓子を作って」

「もちろん、ボクもいくよ」

「浮竹と京楽、兄らが行くのであれば、私も行こう」

こうして、桔梗の王に会うことが決まったのであった。



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