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桜のあやかしと共に4

「このあやかしまんじゅう、うまいね」

「小豆とぎが作っているからな」

「え、小豆とぎが?」

京楽は、火車におみやげとしてもらったあやかしまんじゅうを、億ションの部屋で浮竹と一緒に食べていた。

当たり前のように、浮竹の隣には白哉がいた。

「白哉君さぁ、ちょっとは遠慮ってものないの。居候のくせに」

「兄に遠慮しても何もならぬ。居候ではなく、いてやっているのだ。なんだかんだで、子猫好きだろう」

「う・・・・・」

今の白哉は、人の姿をしていた。

あやかしまんじゅうを、3人で分けて食べると、あっという間になくなってしまった。

「これ、本当にうまいな。火車の朧(おぼろ)に聞いて、どこで売っているのか聞いてみよう」

「小豆とぎが作ってるんでしょ」

「ああ。小豆とぎに聞いたほうがはやいか?」

「さぁ?」

京楽は、今日は依頼もないので、ゆっくりしていた。

浮竹は、スマホをとりだすと、小豆とぎに電話をかけた。

「は?」

その光景を、京楽はびっくりして見ていた。

「ああ、小豆とぎか。あやかしまんじゅうって、お前たちが作っているんだろう?どこで売ってるんだ?え、三途の川?うーん、取り寄せは無理そうか・・・・え?送ってくれる?ありがとう。代金は、現金でいいか?え、クレジットカードがいい?」

電話の向こう側で、小豆とぎはあやかしまんじゅう20箱で2万円になるといっていた。

「じゃあ、妖怪配達で頼む。手数料もクレジットカードで払っておくから」

「あやかしが、スマホ・・・配達・・・・クレジットカード・・・・」

ちょっとしたカルチャーショックに見舞われて、京楽は頭を抱えた。

「知らなかったのか?退治屋の便利屋をしているわりには、無知だな」

「いや、ボクはどっちかっていうと幽霊のほうがおおいから。祓うの」

「ふむ。最近のあやかしは、現代文明に乗っているのも多いからな」

「そうなんだ」

浮竹は、小豆とぎにもう一度電話して、小豆バーも注文した。

「浮竹、たまには桜の精霊たちで宴を開かぬか。いやだが、この京楽とやらもきていいから」

「白哉が宴を開くなんて珍しいな。よし、桜の精霊たちに声をかけておこう」

その日の夜、異界への道が開いた。

宴は賑やかにおこなわれており、人間である京楽は珍しがられた。

「桜の精霊だらけだね・・・・・っていうか、ボク以外みんな桜の精霊?」

「そうだ。兄は、特別に桜の王である浮竹の寵愛を受けているから、この場にいられるのだ」

「浮竹って、やっぱりえらいんだ」

「当り前であろう。桜の王は、4大あやかしの長老の1人だぞ」

「いや、そんなこと言われても分からないし、知らないし」

「そこに座れ!桜の王がどうやってはじまったかを・・・・・」

白哉は、そこで突然スイッチが切れたように眠ってしまった。

「ああ、酔いつぶれたか。白哉は酒に弱いのに、宴好きだからな」

「そうなんだ」

「白哉とは、生まれてきて200年の付き合いだからな。弟のようなものだ。俺の本体の桜を株分けしたから、まぁ実際弟になるんだろうが」

でも、妹は契約したとはいえネモフィラの精霊のルキアである。

「うーん、ルキア・・・・・・」

「なんか、うなされてるよ。ルキアちゃんって、確か白哉君の妹だよね?」

「ああ。ネモフィラの精霊だ」

「花や木には、みんな精霊がいるの?」

「いや、年月を経た者や、力ある者が精霊になれる」

「じゃあ、桜の王って呼ばれてる浮竹はすごくえらいんだね」

「まぁ、否定はしない」

「桜の王、ルキアさんに迎えにくるように電話かけておきました」

「ああ、ありがとう」

浮竹は、白哉の体に自分が着ていた着物の羽織をかぶらせた。

「風邪、ひくなよ」



「兄様!」

1時間ほどして、桜の精霊の宴は他の花の精霊たちも混じるようになってきて、そこにルキアの姿があった。

「ああ、ルキア、元気か?」

「あ、はい。浮竹さんも、元気そうで何よりです」

「へぇ、この子がルキアちゃん・・・・・・」

ルキアは、浮竹の隣にいる京楽を見た。

白哉の話を聞いている限りでは、かなりいっているらしいが、普通の特異体質の青年に見えた。

「いつも兄様がお世話になっております」

「ああ、いいよいいよ。もう身内みたいなもんだからね」

京楽は、人懐っこい笑みを浮かべた。

「「春」さん?」

「え」

「あ、ごめんなさい!私ったら・・・兄様を連れて帰りますね。浮竹さんも京楽さんも、宴はほどほどに」

「ああ」

「うん」

京楽は、自分の姿までが「春」そっくりだとは知らなかった。

「ボクって、そんなに「春」に似てる?」

「ああ・・・生き写しのようだ」

浮竹は、懐かしそうに宴の中心で酒を他の桜の精霊たちに注がれて、それを飲んでいた。

「生き写しか・・・」

京楽は、複雑な気分だった。

「昔は、よくこうやって、桜の精霊たちで宴を開いて、そこに「春」も混じっていた」

「うん」

「春水。俺は、ちゃんと春水ってわかっているからな」

「うん」

絆を確かめるように、宴の最中であったが、キスをする。

桜の王に新しい恋人ができたと、大騒ぎになった。

「さぁ、皆宴はこのあたりでしまいにしよう。俺は京楽と人間界に戻る」:

「桜の王。やはり、異界にいてくれないのですか。あなたがいれば、異界の治安の悪さも・・・・」

「俺は人間界が好きだ。それに、俺がいたところで異界の治安の悪さは関係ないだろう。いた時もいなかった時も、あまり変わりなかったと聞いている」

「桜の王を惑わした人間・・・・・・」

「桜の王がいってしまう・・・・・」

「桜の王は・・・・・」

「ボクの浮竹は、桜の王じゃないよ。ただの、桜の精霊だ」

思いもよらなかった京楽の言葉に、浮竹の目が潤んだ。

ボクの。

自分のものだと、言ってくれた。

そんな扱いを京楽から受けたのは、初めてだった。

「京楽・・・・・・」

「浮竹、行こう。ボクたちのいるべき場所はここじゃない」

「ああ」

桜の精霊たちは、宴はおしまいだと悲しみだす。

「帰ろうか」

「うん、帰ろう」

白哉は、ルキアの手ですで人間界に戻っている。

浮竹と京楽も、それに続く。

「なぁ、春水」

「なに、十四郎」

名前を呼ばれて、浮竹は顔を赤くした。

「その、好きだぞ」

「うん。ボクも、好きだよ」

「「春」のことを重ねてしまう時があるかもしれないが、春水ってわかってるから」

「うん。信じてるから」

二人は、億ションに戻ると、お風呂に入って、同じベッドで眠った。

酒が入っていたせいか、眠りは浅く、京楽はまた自分が「春」である夢を見ていた。

「大好だ、「春」」

「ボクも大好きだよ、シロ」

「春」は、浮竹のことを十四郎からきているシロと呼んでいた。

「シロ、いつか別れることになっても、ボクは必ず君の元に戻ってくる」

「「春」そんな、縁起の悪いことを言わないでくれ」



「シロ・・・・・・」

京楽は起きた。

泣いていた。

シロと呼ばれた浮竹が、「春」を失って自閉症になったのを夢で見たのだ。

「十四郎・・・ボクは、「春」のようにはならない」

まだ眠る浮竹を抱きしめて、京楽は「春」がいかに浮竹にとって大切であったかを、再確認させられるのであった。




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