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京楽と浮竹と海燕と 梨

「京楽、梨だぞ。今年初の梨だ」

浮竹は、果物も大好きで、海燕が買ってきた梨を京楽に見せた。

「梨かい。夏も中盤に差し掛かってきたねぇ」

35度をこえる気温をたたき出す夏。

京楽は、浮竹の手をとって雨乾堂の縁側にきた。

「どうしたんだ?」

「井戸水を、たらいに汲んだんだよ。冷たいだろうから、足先だけでも冷やして涼もうよ」

浮竹を抱っこする形で、それぞれ裸足になってたらいの水に足を浸した。

「冷たい・・・・でも、ひっついていて暑くないか?」

「日陰だから、それほどでもないよ。それより、どうだい。暑気あたりはしてないかい?」

「ああ、今年も暑いが今のところまだ暑気あたりはしていないぞ」


「浮竹隊長、梨がむけましたよー・・・って、何してんだあんたら」

「見れば分かるでしょ。水で足を冷やして涼んでるの」

「きもいいぞ、海燕。お前もどうだ?」

「いや、遠慮しておきます。梨、ここに置いておきますから」

去ろうとする海燕に、浮竹は子供用の水鉄砲を持ち出して、海燕の背後から水をぶっかけた。

「冷たっ・・・・あんた、何遊んでるんですか。おとなしく梨でも食べててくださいよ」

「海燕も、一緒に涼もう。たらい、もう1つあるから、それに井戸水くんで・・・」

「あーもう、分かりましたよ。そうしないと、また水鉄砲撃ってくるんでしょう?」

「よくわかったな」

浮竹は、むかれた梨を一口食べた。

「甘い・・・・・」

「僕にもちょうだい」

「ほら」

あーんと、口をあけた京楽に、浮竹が梨を口にいれる。

「うん、甘くて美味しいね。まるで浮竹みたい」

「ふふ、俺は甘くはないぞ」

「甘いよ。浮竹は甘い」

耳朶を甘噛みしてくる京楽に、浮竹はくすぐったそうにしていた。

たらいに井戸水を汲み終えた海燕は、バカップルの隣で、水に足を入れた。

「あー。確かに冷たくて気持ちいいっすね」

「そうだろう。海燕もたまには休め」

「まぁ、たまにはこういうのもいいかもしれませんね」

「海燕、梨がなくなった。冷蔵庫に冷やしているのがあっただろ。むいてくれ」

「はいはい・・・・・・」

たまには休めと言っている先からこれだ。

海燕も、もうとっくに浮竹の性格を把握しているので、素直に冷蔵庫から梨をとりだしてむいて、均等に切り分けて浮竹の元に持って行った。

それを、京楽が受け取る。

「あんたにあげるわけじゃないですよ」

「僕が浮竹に食べさせるから」

ばちばちと視線がぶつかる。

仕方ないかと、海燕はむいて切った梨を入れた皿を、京楽に渡した。

「はい、浮竹あーん」

「一人で食べれる」

「いいから、いいから」

京楽の言葉に、仕方なく浮竹は口を開ける。

梨を放り込まれて、その甘さとおいしさに、浮竹は幸せそうな顔をした。

「あ、いいね、君のその顔。すごく好きだよ」

「京楽も食え」

口をあけた京楽に、今度は浮竹が食べさせた。

そんな二人を見ながら、海燕はこっそりむいて切っておいた自分の分の梨を食べる。

「げろ甘・・・・・」

隣のカップルが。

げろ甘で、困ってます。

そう最後までは口にせず、梨を食べる。

梨はまだ旬ではないので、明日はスイカを買ってこようとか、海燕は考える。

京楽はまた、遊びにくるのだろう。

スイカ丸ごとは多いので、半分に切られたくらいのものでいいか・・・。

「浮竹、好きだよ」

「俺もだ、京楽」

隣で足を水に浸して涼みながらも、愛を語り合っているバカップルを見て、海燕はため息を一つついた。

「あー。今年も暑いし、隣は違う意味で熱い。どうにかならないか・・・・ならないな」

海燕は、最後の梨を口に入れた。

ほんのりとした上品な甘さが口に広がる。

隣のバカップルは、相変わらずいちゃいちゃしている。

ちりんと、風鈴が涼しげな音を立てる。

バカップルは、水が太陽の熱でぬるくなっても、いちゃこらしていて、海燕はいい加減にしろと、どこから取り出したのかもわからぬハリセンで、二人の頭をはたくのだった。





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