死別
「京楽・・・・・・別れよう」
「えっ」
院生試合に想いが実り、4回生の頃から付き合いだした二人は、死神として順調に出世をしていた。
京楽は8番隊の副隊長に、浮竹は13番隊の副隊長に。
お互い忙しい日々ではあるが、逢瀬を重ねていた。
「どうしてだい、浮竹」
「もう限界なんだ・・・・・俺には、もうあまり時間はない」
「どういう意味だい?」
「そのままの意味だ・・・肺の病が、この前の健康診断で・・・。いや、はっきり言おう。余命半年と宣告された」
「そんなバカな」
京楽は、目の前が真っ暗になった。
「でも、浮竹、僕は別れないよ。たとえ、君と死別するとしても、その時までずっと君の傍にいる・・・・・・・」
「ばかだなぁ、京楽は。つらいのは、お前なんだぞ?今のうちに別れて、新しい誰かと恋を始めればいいのに」
「そんな器用なこと、できないよ」
京楽は浮竹を抱き締めた。この頃まとも食べれていないせいか、浮竹の細さが心に痛かった。
「ごほっごほっ・・・」
咳込みだした浮竹を、13番隊の隊舎に抱き上げて連れていく。
「薬、どこにあるの」
「もう、飲んでいない」
「そんな!」
「俺なりのけじめのつけ方だ。延命処置はしないで、潔く散ろうと思う」
「浮竹・・・・・・!」
京楽は、想いを固めてしまった恋人を胸に抱き込んで、涙を流した。
「嫌だよ浮竹・・・・僕を置いていかないでくれ・・・・浮竹」
「まだ時間はある。その時までも、心の整理をしておいてくれ」
その日、京楽は浮竹の部屋に泊まった。
浮竹が発作を起こしたにも関わらず、体を重ね合わせた。
浮竹の細い体は、前に逢瀬をしたときより細くなっていた。
それから数週間が経ち、京楽も浮竹の終わりを受け入れた。もう、副隊長の座をあけた浮竹に、京楽はできるだけ傍にいた。
13番隊隊舎にはいられないので、家をもたない浮竹のために、瀞霊廷の中の屋敷を貸した。
日々、眠るのが多くなる浮竹に、京楽は何もできないでいた。
ただ、傍に在れることしかできない。
何度も4番隊の、隊長にまで診てもらったが、もう手遅れで、余命2か月と診断された。
その2か月も、あっという間に過ぎてしまった。
「京楽・・・・・」
ふと、浮竹が気づいた。
ここ1週間、ずっと昏睡状態だったのだ。
「浮竹・・・いやだよ、いかないで・・・・」
「我儘なことを言うな・・・・心の整理は、もうできているんだろう?」
「できてないよ、そんなもの!」
浮竹を抱き締める京楽。
京楽も、浮竹のせいで食事が喉を通らずに痩せていた。
点滴の管のついた自分の右手をみる浮竹。
「いい子だから、俺の死を受け入れてくれ」
「無理だよ・・・・・・」
京楽の背に手を回し、浮竹は言う。
「お前と、隊長になりたかったな。ずっとお前と一緒に在りたかった。でも、俺はここまでだ。後は頼む、京楽。俺の分まで、隊長になってくれ・・・・」
その言葉を最後に、浮竹はまた昏睡状態に陥った。
「浮竹、浮竹!」
何度声をかけても、反応はない。
浮竹は生命維持装置を使っていなかった。
最期は、穏やかに静かに息を引き取った。
「僕は・・・君の分まで、隊長になるよ・・・・・」
浮竹の遺骸は、火葬されて現世の無人島に遺灰を撒いた。
「見ていてね、浮竹。君の分まで、生きてみせる」
やがて、13番隊隊長に朽木ルキアが就任し、京楽は総隊長となった。
「浮竹・・・ルキアちゃんはいい子だよ。きっと、君とならうまくいけただろうにね」
もういない恋人を想いながら、酒を飲んだ。
珍らしく深酒をした京楽は、夢を見ていた。
その夢の中に、元気な姿の浮竹が出てきた。
「流魂街の右端の花街に、楓という名の遊女が産んだ、「つづり」という名の女の赤子がいる。俺の生まれ変わりだ。記憶も、一部継承している。まだ俺に未練のあるお前のせいで、成仏できないで生まれ変わった」
「浮竹・・・・?「つづり」だね?」
夢から覚めると、ふと浮竹の霊圧の名残を感じた。
会いに、来てくれたのだ。黄泉の国から。
そして、次の日には花街にいき、楓という遊女を探した。そして、お荷物として扱われている「つづり」の身柄を金で買った。
みんな、上流貴族が、将来の妾にするために買ったのだと思っていた。
十数年後、美しくつづりは成長した。
「つづり、おいで」
「はい、京楽総隊長殿」
学院を卒業し、1番隊の3席にまでになったつづりは、ところどころで浮竹という人物の記憶があるらしく、けれどつづりは浮竹ではなく、つづりだった。
「つづりは、京楽総隊長に昔恋人がいて、その人の記憶がなぜかつづりの中にあるのです。でもつづりはつづり。こんな私でも、愛してくれますか?」
「ああ、勿論だよ、つづり・・・・・・」
浮竹の生まれ変わりといっても、性格も全然違うし、記憶をあやふやにもっていて京楽になついているだけだ。
それでも、と思う。
浮竹の魂が少しでも混じっているならと。
「結婚しよう」
つづりは、目を見開いた。
周囲から猛反対されたが、つづりを娶り、子が生まれた。
男の子だった。京楽は、その子に十四郎という名を与えた。
つづりには、もう浮竹の記憶はなかった。
それでも、つづりを大切にして、子を増やしていった。
京楽の中で、一難愛していた浮竹とつづりは、同位置にあった。
もう、つづりを浮竹の生まれ変わりと見ることはなかった。ただ、昔、浮竹という大切な恋人がいた・・・・・。
そうつづりに、言い聞かせた。
「つづりは、その浮竹という方の代わりですか?」
「いや、違うよ。つづりはつづりだ」
つづりの体を抱き締めると、浮竹のように甘い花の香がした。
それだけで、魂は浮竹と混じり合っているんだと分かった。
「君が大好きよだ、つづり」
もう、浮竹と名を呼ぶ相手はいないけれど。
つづりと共に総隊長とて生きた。つづりは、やがて1番隊の副隊長になっていた。
とても仲のいい夫婦として、京楽とつづりは最期の時まで、お互いを愛し合ったという。
「えっ」
院生試合に想いが実り、4回生の頃から付き合いだした二人は、死神として順調に出世をしていた。
京楽は8番隊の副隊長に、浮竹は13番隊の副隊長に。
お互い忙しい日々ではあるが、逢瀬を重ねていた。
「どうしてだい、浮竹」
「もう限界なんだ・・・・・俺には、もうあまり時間はない」
「どういう意味だい?」
「そのままの意味だ・・・肺の病が、この前の健康診断で・・・。いや、はっきり言おう。余命半年と宣告された」
「そんなバカな」
京楽は、目の前が真っ暗になった。
「でも、浮竹、僕は別れないよ。たとえ、君と死別するとしても、その時までずっと君の傍にいる・・・・・・・」
「ばかだなぁ、京楽は。つらいのは、お前なんだぞ?今のうちに別れて、新しい誰かと恋を始めればいいのに」
「そんな器用なこと、できないよ」
京楽は浮竹を抱き締めた。この頃まとも食べれていないせいか、浮竹の細さが心に痛かった。
「ごほっごほっ・・・」
咳込みだした浮竹を、13番隊の隊舎に抱き上げて連れていく。
「薬、どこにあるの」
「もう、飲んでいない」
「そんな!」
「俺なりのけじめのつけ方だ。延命処置はしないで、潔く散ろうと思う」
「浮竹・・・・・・!」
京楽は、想いを固めてしまった恋人を胸に抱き込んで、涙を流した。
「嫌だよ浮竹・・・・僕を置いていかないでくれ・・・・浮竹」
「まだ時間はある。その時までも、心の整理をしておいてくれ」
その日、京楽は浮竹の部屋に泊まった。
浮竹が発作を起こしたにも関わらず、体を重ね合わせた。
浮竹の細い体は、前に逢瀬をしたときより細くなっていた。
それから数週間が経ち、京楽も浮竹の終わりを受け入れた。もう、副隊長の座をあけた浮竹に、京楽はできるだけ傍にいた。
13番隊隊舎にはいられないので、家をもたない浮竹のために、瀞霊廷の中の屋敷を貸した。
日々、眠るのが多くなる浮竹に、京楽は何もできないでいた。
ただ、傍に在れることしかできない。
何度も4番隊の、隊長にまで診てもらったが、もう手遅れで、余命2か月と診断された。
その2か月も、あっという間に過ぎてしまった。
「京楽・・・・・」
ふと、浮竹が気づいた。
ここ1週間、ずっと昏睡状態だったのだ。
「浮竹・・・いやだよ、いかないで・・・・」
「我儘なことを言うな・・・・心の整理は、もうできているんだろう?」
「できてないよ、そんなもの!」
浮竹を抱き締める京楽。
京楽も、浮竹のせいで食事が喉を通らずに痩せていた。
点滴の管のついた自分の右手をみる浮竹。
「いい子だから、俺の死を受け入れてくれ」
「無理だよ・・・・・・」
京楽の背に手を回し、浮竹は言う。
「お前と、隊長になりたかったな。ずっとお前と一緒に在りたかった。でも、俺はここまでだ。後は頼む、京楽。俺の分まで、隊長になってくれ・・・・」
その言葉を最後に、浮竹はまた昏睡状態に陥った。
「浮竹、浮竹!」
何度声をかけても、反応はない。
浮竹は生命維持装置を使っていなかった。
最期は、穏やかに静かに息を引き取った。
「僕は・・・君の分まで、隊長になるよ・・・・・」
浮竹の遺骸は、火葬されて現世の無人島に遺灰を撒いた。
「見ていてね、浮竹。君の分まで、生きてみせる」
やがて、13番隊隊長に朽木ルキアが就任し、京楽は総隊長となった。
「浮竹・・・ルキアちゃんはいい子だよ。きっと、君とならうまくいけただろうにね」
もういない恋人を想いながら、酒を飲んだ。
珍らしく深酒をした京楽は、夢を見ていた。
その夢の中に、元気な姿の浮竹が出てきた。
「流魂街の右端の花街に、楓という名の遊女が産んだ、「つづり」という名の女の赤子がいる。俺の生まれ変わりだ。記憶も、一部継承している。まだ俺に未練のあるお前のせいで、成仏できないで生まれ変わった」
「浮竹・・・・?「つづり」だね?」
夢から覚めると、ふと浮竹の霊圧の名残を感じた。
会いに、来てくれたのだ。黄泉の国から。
そして、次の日には花街にいき、楓という遊女を探した。そして、お荷物として扱われている「つづり」の身柄を金で買った。
みんな、上流貴族が、将来の妾にするために買ったのだと思っていた。
十数年後、美しくつづりは成長した。
「つづり、おいで」
「はい、京楽総隊長殿」
学院を卒業し、1番隊の3席にまでになったつづりは、ところどころで浮竹という人物の記憶があるらしく、けれどつづりは浮竹ではなく、つづりだった。
「つづりは、京楽総隊長に昔恋人がいて、その人の記憶がなぜかつづりの中にあるのです。でもつづりはつづり。こんな私でも、愛してくれますか?」
「ああ、勿論だよ、つづり・・・・・・」
浮竹の生まれ変わりといっても、性格も全然違うし、記憶をあやふやにもっていて京楽になついているだけだ。
それでも、と思う。
浮竹の魂が少しでも混じっているならと。
「結婚しよう」
つづりは、目を見開いた。
周囲から猛反対されたが、つづりを娶り、子が生まれた。
男の子だった。京楽は、その子に十四郎という名を与えた。
つづりには、もう浮竹の記憶はなかった。
それでも、つづりを大切にして、子を増やしていった。
京楽の中で、一難愛していた浮竹とつづりは、同位置にあった。
もう、つづりを浮竹の生まれ変わりと見ることはなかった。ただ、昔、浮竹という大切な恋人がいた・・・・・。
そうつづりに、言い聞かせた。
「つづりは、その浮竹という方の代わりですか?」
「いや、違うよ。つづりはつづりだ」
つづりの体を抱き締めると、浮竹のように甘い花の香がした。
それだけで、魂は浮竹と混じり合っているんだと分かった。
「君が大好きよだ、つづり」
もう、浮竹と名を呼ぶ相手はいないけれど。
つづりと共に総隊長とて生きた。つづりは、やがて1番隊の副隊長になっていた。
とても仲のいい夫婦として、京楽とつづりは最期の時まで、お互いを愛し合ったという。
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