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浮竹と京楽と海燕と 海へ行く

3人で、許可をとって現世の海にきていた。

まだ春で、海水浴をするには早すぎる時期であるが、浮竹は一度海燕に、本物の海を見せてやりたがっていたので、京楽も一緒になってなんとか山じいから許可をもぎとった。

「これが海だぞ、海燕。お前の名前の元になるものだ」

「これが海ですか・・・・どこまでも、水が続いてるんですね」

海燕は、夕暮れに染まっていく海を、ただ見ていた。

「綺麗ですね」

「ああ、綺麗だろう。夕暮れになると、海も浜辺も街も、何もかもオレンジ色に染め上げられていく」

「どうせなら、夏にくればよかったのに」

京楽の言葉に、海燕もそうだなと思った。

「夏は・・・・暑いし、人が多いだろう。それに俺は直射日光に弱いから、夏はあまり外に出れない」

「それもそうだね」

京楽が、浮竹を抱き締めた。京楽の腕の中で、浮竹は申し訳なさそうにしていた。

滞在が許された時間は半日。

なので、夕暮れから夜にかけてを選んだ。

「せっかくだし、写真でも撮ろうか」

「そうだな」

カメラで、3人で夕暮れの海をバックに、写真をとった。

綺麗にとれて、後日焼き回しをして浮竹と京楽と海燕だけでなく、一般隊士までなぜか出回るようになった。

夜の海は静かだった。

ざぁんざぁんと、押し寄せては返す波を、海燕はただ見ていた。

「海って・・・綺麗だけど、なんか寂しいですね」

「そうか?」

「俺は雨乾堂にある池のほうが好きです」

「まぁ、人懐っこい鯉もいるしな」

雨乾堂にある池は、浮竹にとってもお気に入りだ。

「隊長、今日は海に連れてきてくださって、ありがとうございました。記憶に一生刻みこんでおきます」

「そんな大層なことじゃないだろう」

「だって、俺が現世にこれることなんてそうそうないですから」

「それを言えば、俺と京楽だって現世にはこれないぞ」

「まぁ、今回は僕が山じいを脅したに近いからね」

「なんだと!」

浮竹が気色ばむ。

「まぁまぁ。現世に行かせてくれないと、浮竹と一緒にかけおちするって言っただけだし」

京楽なら、その気になれば、本当に浮竹を連れて現世にでもかけおちしそうだった。

「山じい、困った顔してたねぇ。けっさくだった」

「あまり、先生を困らせるなよ」

「まぁ、お陰で海燕君は余計だけど、現世の海を二人で見れたことだし」

「また俺は空気ですか」

「うん」

「こら、京楽!海燕は空気じゃないぞ」

「隊長・・・」

自分の部下が空気扱いされたことに、浮竹が怒るが、そんな浮竹にキスを何度もしていると、浮竹はそれ以上空気じゃないとか言わなかった。

「んっ」

現世の、夜とはいえは浜辺で男同士でキスしているシーンを、他に見られてはなるまいと、海燕がきょろきょろと辺りを見回した。

「隊長、京楽隊長、盛るなら雨乾堂でしてください!」

手を伸ばせば、届きそうな星空が綺麗だった。

「多分、現世には今後ほとんどこれないだろう。海燕、もういいか?」

「はい。俺は別に、現世に興味なんて元からあんまりありませんから」

「そうか・・・・海を見せたこと、余計だったか・・・」

しゅんとしおれる浮竹を見て、海燕が首を横に振る。

「いえ、海は見れて感動しました」

「そうかそうか」

朗らかに笑う浮竹に、海燕も安堵する。

「多分、3人で現世にこれることなんてもうないだろうから。海燕、海は綺麗だろう。本当は、南の珊瑚礁のある昼の海も見せてやりたかったんだが、そっちは写真だけになるが、いいよな?」

「はい」

「もし、また許可が下りたら、夏に一度珊瑚礁の海にいこう。俺も直射日光でやられないように対策するから。京楽も、たまには現世の海で泳ぐのもいいだろう?」

「そうだねぇ。無人島なら、人に会う心配もないだろうし」

「じゃあ、決まりだ。もし、また現世にくることがあったら、昼の珊瑚礁の海に行こう」

「はい」

珊瑚礁の海。

とても綺麗な色をしていると、書物で読んだことがあった。

「じゃあ、戻ろうか。尸魂界へ」

「はい」

「うん、戻ろう。僕たちのいるべき場所へ」

名残惜しいが、滞在時間が限られている。海を最後に振り返った。3人で。

「また、いつか・・・・」

現世の海に手をふって、浮竹たちは穿界門をくぐった。

尸魂界に戻ると、山じいが待っていた。

「うげっ」

「こりゃ、春水!お主、ようもわしを脅しよったな!体の弱い十四郎が、お主と共にかけおちななど、考えてみればするはずもないことじゃ!」

ぼっと、流刃若火で京楽の尻に火がついた。

「あちゃちゃちゃ!」

「十四郎、その身になんの危険もなかったか?」

「はい、先生。海燕もついていてくれましたし」

浮竹は、尻に火がついた京楽の火を消してやってから、海燕を見た。

「ほんに、お主はよい副官をもった。志波海燕、今後も十四郎を頼む」

「はい!」

海燕は、山じいから直々に声をかけられて、感動で震えていた。

ああ。

やっぱり、浮竹隊長の副官でよかった。

そう思うのだった。


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