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浮竹死んだけど幽霊です憑いてます4

「あーおいしかった」

浮竹は満足げだった。

今回は、高級料理店に、京楽と二人きりで訪れたのだ。とはいっても、浮竹は幽霊だったが。しかも幽霊なのにものを食べれるのだ。

おまけに、短い時間なら具現化できて触れるし、寝るし、お風呂に入ってそのぬくもりを堪能するし・・・ないことといえば、厠にいくことと、着換えることがないことだろうか。

「んー。お酒の味もよかったね」

「ああ。この幽霊の姿だと、酔うこともないようで、京楽の飲む酒の良さも分かった」

「一つ、新しい発見をしたね」

「ああ」

二人きりで、夜の瀞霊廷を歩く。

月明りが綺麗で、星も綺麗だった。

「総隊長は意外と大変だからねぇ。ああ、8番隊の隊長であった頃が懐かしいよ」

「俺も、生きてた頃が懐かしい」

できることなら、京楽と一緒に生きていたかった。その願いが強すぎたために、幽霊になって憑いてしまったのかと思ったほどだった。

「明日も早いのか?」

「ううん。明日は久しぶりの非番だよ」

「そうか!実は行きたいところがあるんだ」

「どこだい?」

「その・・・・京楽には悪いんだが、実家へ一度もどってみたいんだ」

「分かった。君をお嫁さんにもらっているって報告だね」

「京楽!」

浮竹は真っ赤になっていた。

「両親には、長いこと顔を出さなかった上に、葬儀の時にはもうしゃべることもできなかったから・・・・幽霊であれるうちに、言葉を交わしておきたくて」

「分かったよ。明日は、君の故郷へ行こう」

「すまない、京楽」

浮竹は、10秒間くらい具現化すると、ちゅっと音をたてて京楽の頬にキスをした。

「どうせなら、唇にしてくれたらいいのに」

「そんな、人が見てるかもしれないだろう!」

「こんな夜中に出歩いてるのは、不寝番か飲みいったりしてる死神たちだけだよ」

「じゃあ・・・・」

今度は、1分間ほど具現化した。

唇を重ねあう。舌が絡まった。

「ああ・・・・んっ、京楽」

思い切り抱きしめられていたが、時間切れになって宙を抱いた。

「ああ、残念。一度でいいから、1日中君が触れる日がこないかな」

「誰かにとり憑けば可能だが、そんなの嫌だろう?」

「他人にとり憑くのがそもそもいやだね。浮竹が僕以外にとり憑くなんてだめだよ」

「京楽の霊圧を浴び続けているから、そのうち1時間くらいなら実体化できるかもしれない」

「ほんとに!?エッチしてもいい?」

浮竹は真っ赤になった。

「ま、まぁ仕方ないか。お前にはもう5年以上も我慢させてるんだものな」

京楽の一人エッチをなるべく見ないようにして、おかずにと一人で喘ぐという虚しい行為は、週に2回くらいあった。

キスなら今まで何度かしてきたが、流石に交わることまではできなかった。

「とにかく、今日はもう帰ろう。お酒のせいか、眠い」

「寝てていいよ」

「ああ、じゃあ先に寝る」

京楽に憑いているので、寝ていても京楽が移動すると移動した。


次の日になって、浮竹と京楽は、浮竹の故郷に来ていた。

「十四郎・・・本当に、十四郎なの!?」

「十四郎!」

「お兄様!」

「兄ちゃん!」

「兄貴!」

家族全員に、京楽がもみくちゃにされた。

「あ、すみません京楽様・・・・その十四郎はどうして。成仏できなかったのでしょうか?」

「うーん、よく分からないんだけど、突然ある日こうして幽霊になってとり憑かれてね。でも祟りとかないし、虚化するわけでもないし、害は全くないんだ」

「十四郎、幽霊らしいけど、元気にやっているの?」

「ああ、母上。幽霊だけど、食事もできるし味も分かるんだ。けっこう、幽霊ライフエンジョイしてる」

「まぁ。それなら、今日は手料理を作るから、久しぶりに食べてね」

幽霊になった浮竹をすぐ受け入れるあたり、浮竹の家系は適応力が高すぎると、京楽は思った。

浮竹も、幽霊になったことを最初は悩んでいたようだが、3日ほどすると飽きて、幽霊でいることを楽しみだした。

といっても、京楽に憑いているので、京楽がいる範囲から2~3メートルほどしか移動できないが。

「母上の料理はうまいんだぞ、京楽。お前も食え」

「ご相伴に預かります」

「まぁ、上流貴族である京楽家の方には、味気ないかもしれませんが・・・・」

浮竹は、気分が済むまで両親と妹弟たちと会話をした。

夜になって、湯殿をかりて湯浴みをした。

「あーきもちいい・・・今日は、楽しかったなぁ」

「まだ、ご飯があるでしょ」

「そうだった。母上が、丹精込めて作ってくれるらしいから」

浮竹が死に、仕送りのなくなった浮竹の家族は、一時期借金を背負った。死亡という形で、遺族年金として、仕送りをしていた額を毎月送られるようになって、浮竹の家族はなんとか生きていけるようになった。仕送りに頼り切りだった妹や弟たちも、職を得るいい機会にはなった。

だが、兄の死は大きかった。

浮竹の死を一番嘆いたのは京楽であるが、家族もそれに劣らないほど嘆いた。

その日の夕飯のために、浮竹の父親が、山に入って猪をとってきた。

その日の夕食は、牡丹鍋だった。

「猪食べるのはじめてだけど・・・・・意外と美味しいね」

「そうだろう」

浮竹の器にもられた肉は、さっと消える。

兄弟が多いだけあって、たくさんあった猪の肉も、すぐになくなってしまった。

次に出されたのは、鮎の塩焼きだった。これも量があったが、8人兄弟で両親しかも京楽つきということもあって11人が食事をするとえらいことになるのが分かった。

母親だけでなく、2人の妹に、5人の弟たちも料理を手伝うので、ただ食べているだけなのは、京楽と浮竹と、浮竹の父だった。

浮竹の父親は、猪としとめたり、鮎をとってきたりで疲れているからだ。

浮竹家では、鶏もたくさんかわれていて、他にもうずらもいた。畑も広いし、鮎を養殖している。

自給自足っぽい生活を送りつつ、足りない部分を、今まで浮竹の仕送りで補ってきたのだ。

確かに職をもっていない弟もいたが、ちゃんと畑仕事や狩りはしていたし、浮竹の家族が京楽が思っていたよりしっかりしていた。

浮竹の仕送りに頼り切りだと聞いた時は、なんて酷い家族だろうと思い、職を得させようと動いて、逆に浮竹に怒られたことがあった。

「まぁなんだかんだで。浮竹十四郎は、京楽春水が、責任をもって面倒を見ます。嫁にいったと思ってください。浮竹に会いにきたいなら、いつでも一番隊執務室を訪れてください」

瀞霊廷の端っこに住んでいる浮竹一族は、嫁にいってしまった浮竹を、京楽に「どうか幸せにしてください」と言って、次の日別れの時に涙を流しながら手を振っていた。

「なぁ、浮竹」

「言わなくていい。俺の一族は、ちょっと変なんだ」

「うん、そうだね」

普通、幽霊で嫁にもらったなんて言い出すと、怒る。それが、涙を流して幸せにしください・・・適応力がありすぎて、京楽もびっくりだった。

幽霊浮竹は、好きなだけ家族と話ができて、すっきりした顔をしていた。

結局、肺の病でなくなったので、両親も弟妹も、とても悲しんだのだ。

浮竹はもやはり、病気が急激に進行して亡くなったので、家族と言葉を交わしたかったのだ。

それが叶って、京楽も嬉しかった。

「時々でいいから、また故郷に足を向けてもらってもいいか?」

「浮竹をお嫁さんにもらったからね。勿論だよ」

「京楽十四郎か、俺は?」

くすくすと、二人で笑いあった。

幽霊浮竹と、生身の京楽の奇妙な同棲生活は、今後も続きそうであった。






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