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お母さんな海燕

「おはよう、海燕」

「ええっ。隊長がこんな時間に一人で起きるなんて!明日は雨かな?」

今朝の7時だった。

いつもだらだらと寝ている浮竹が起きるのは10時くらいだ。

9時から仕事は始まっているのだが、この上司、ねぎたないので放っておけば昼過ぎまで寝る。

「朝餉を食べる」

「今日も食べないと思って用意してませんよ。仕方ない一般隊士の食事になりますが」

「ああ、それでかまわない」

朝餉を食べて、体操をした。

「何してるんですか」

「食後の運動だ」

「やっぱり明日は雨が降る!」

9時になり、仕事にとりかかる。

ささっと終わらせてしまい、昼までには今日の仕事は終わってしまった。

「明日の分もやるか」

「隊長、無理しないでくださいよ」

「ああ」

明日の分の仕事をして、昼餉をとっているところに、京楽がやってきた。

「やあ、春水、今日もいい天気だな」

京楽は、眉を顰めてひょいっと浮竹を抱き上げた。

「どうしたんですか、京楽隊長」

「この子、今日は真面目だったでしょ」

「ええ、そうですが・・・・・」

「やっぱり。熱あるよ、この子」

海燕が、驚愕の表情になる。

「ええ!嘘だ、こんなに元気そうじゃないですか」

「たまーにあるんだよねぇ。熱出しても自覚しないで真面目になるんだよ。仕事とかもできるから気づかないまま放置しておくと、倒れる。睦み事以外で僕を春水とは呼ばないからね」

「おい、俺は熱なんて・・・・・ないと思ったらあったーー!!」

自分の額に手をあてて、はっきりと熱いのを自覚した。

「道理で、体全体が重くて、だるいわけだ」

「症状あるなら最初から言ってください!」

「いやぁ、清々しい朝だったから。仕事もばりばりできたし」

「熱だしてるんだから、薬のんでちゃんと休もうね」

京楽が、浮竹の頭を撫でる。

「まあ、今日の分の仕事はできているから、それでもいいか」

海燕の手で、お日様に干していた布団がしかれて、その上に横になった。

「太陽の匂いがしてぽかぽかだ。おい京楽、人間ほっかいろになれ」

季節はまだ冬。

寒いのだ。

京楽は笠をとり、浮竹の隣に寝た。

「あんたら・・・昼間っから、盛らないでくださいね?」

「いやだなぁ、海燕君。熱のある浮竹に手を出すほど、飢えてないよ」

「あったかい・・・・」

毛布と布団を深く被って、浮竹はうとうとしだした」

「ああ、薬飲まさなきゃ」

「そうだ、解熱剤を」

海燕がもってきた解熱剤を、コップの水と一緒に放り込んで、口移しで飲ました。

「んんう・・・・あっ」

ごくりと嚥下した。

「ほら、もう邪魔しないから寝ていいよ」

「じゃあ寝る・・・・おやすみ」

「ああ。おやすみ」

浮竹が眠ると、京楽は布団から出て去ろうとする。

「どこいくんですか?」

「いやぁ、仕事貯めこみすぎちゃってねぇ。浮竹がこれだど暇だから、たまには仕事しようかなぁと思って」

「どんだけ貯めこんでるんですか」

「んー。半月分くらいかなぁ。1月分を過ぎると、七緒ちゃんに怒られるから、1か月分たまる前にぼちぼち処理いていくんだ」

その言葉に、七緒に心から同情した。

「あんたの副隊長もかわいそうですね」

「いやぁ、海燕君ほどじゃあないよ。七緒ちゃんは、いつも通り仕事して、仕事はたまりまくったら、切れて僕が連れていかれるだけだから」

「まぁ。浮竹隊長は私生活まで面倒みてますから・・・・・」

「それが大変そうなんだよ。浮竹、基本的に怠惰だからね」

「この前なんて昼過ぎまで寝てましたよ」

「学院時代から、朝には弱かったなぁ。まあ、週末の休みくらいしか寝過ごすとこはなかったけど」

「それって、隊長にとっては今が毎日が休みみたいなもんなんでしょうか」

「さぁ、それは浮竹に聞いてみないと分からないよ」

その浮竹は、幸せそうな顔で眠っていた。

熱も、起きる頃には下がっているだろう。

「まぁ、浮竹も忙しかった席官は副官時代を体験してるから、今は君がいてくれるせいで安心して寝てるんじゃないかな」

「それでも、寝すぎです」

「まぁ、臥せって寝てる時が多いから。癖になっちゃうんだろうね。吐血して2週間くらいの入院が終わって退院する頃には、寝すぎてちょっと昼夜逆転生活送ってたし」

「入院は暇ですからね・・・」

海燕が副官になっても、年に2回位は吐血を繰り返して入院していた。

お見舞いにいくと、いつもすまなさそうにしていた。

「まぁ、発作じゃなかっただけよしとするしかないよ。じゃあ、僕戻るから。夕刻過ぎにまた様子を見にくるから」

その時間帯は、海燕の1日が終了して、もう雨乾堂にはいない。

後のことは京楽に任せることになる。

浮竹は、7時頃に起き出してきた。

夕餉が置いてあった。

熱が下がったのを確認して、夕餉が二人分あるのに首を傾げる。

「京楽のか?まぁいいや、デザートもらっちゃおう」

よく甘味屋で注文する白玉餡蜜だった。

「浮竹、調子はどう?」

「あ、京楽。今日泊まるのか?」

「うん、その予定だよ」

「だから、夕餉がもう一人前あったのか。デザートもらってしまったけど、いいよな?」

「別に構わないよ」

京楽も、夕餉をとった。

少し冷めていたが美味しかった。

浮竹の額に手をあてる。

「うん、熱はもう大丈夫なようだね。今日は普通に寝ようか。また熱がぶり返したら困るから」

「ああ」

二人は一組の布団で寝ようとした。

「寝すぎて寝れない・・・・・」

「仕方ないねぇ。これ飲みなさい」

眠剤を渡された。

コップの水と一緒に飲み干す。

とろんとした眠気がすぐに襲ってきて、浮竹は眠ってしまった。

眠剤に耐性がないのだ。

たまに寝れない時用に処方してもらっているものだが、浮竹にはきついようだった。

次の日、薬のせいで眠ったままの浮竹に怒る海燕に、事情を話して、自然と起きるまま放置してもらった。

「ふあ~~~よく寝た。寝すぎで頭が痛い・・・・・」

「ったく、どんだけ寝るんですあんたは。11時ですよ」

「ちっ」

「今舌打ちしましたね!?もっと、寝ていたかったって思ったでしょう!」

「気のせいだ」

「ほら、さっさと起きて着替えて顔洗う!それから飯たべて、さっさと仕事にとりかかってください!」

その様子を見ていた京楽は、笑った。

「何がおかしいんでか、京楽隊長」

「まるで、お母さんみたいだなと思って」

「ええ!こんなでっかい子供いりません!こんな世話のかかる子、こっちから願い下げです!」

「海燕~旗減った飯~」

洗面所から間延びして聞こえてくる声に、京楽はまた笑う。

「頑張れ、海燕母さん」

「だああああああ!あんたらはもう!!!!」

頭をかきむしりながら、それでも海燕は二人分の昼餉を用意するのであった。


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