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小説掲載プログ
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海燕の一日。

「いい加減に起きてください」

「寒い~~布団から出たくないー」

布団にしがみついたままの浮竹を、海燕が離させようとするが、浮竹はなかなか布団を離してくれなかった。

「火鉢用意しますから」

「じゃあ、用意するまでの間布団の中にいる」

「だめです!」

「けち!」

浮竹はしぶしぶ起き出した。時刻を見ると、朝の10時を回っていた。顔を洗い、服を着替えると浮竹は朝餉はまだかと海燕を急かした。

「今火鉢の用意してるから、少し待ってください」

寒いので、押し入れからだした毛布にくるまっていた。

火鉢が用意され、それにあたりながら、でも毛布も被っている。

「ああ、もう11時だ。朝餉はなしにして、少し早いけど昼餉にしましょう」

朝餉が食べれない程度で文句をいう浮竹ではないが、本当に副官泣かせだ。

冬になると、毎年こうだ。

寒いのが苦手らしく、気づけばいつも毛布を被っていた。

毛布を最初はとっていたのだが、直すたびに毛布を取り出してまた被るので、もうそのままにしておいた。

「腹減ったー。昼餉でいいから早くー」

ああ、本当にこの上官は手がかかる。

子供みたいだ。

海燕はそう思いながらも、世話を焼く。

こんな浮竹が、嫌いではないのだ。むしろ好ましく思ってしまう。

もっと他の隊長は自立して、きっと副官が起こしにくることなどないのだろう。執務室と隊首室と療養室をかねた雨乾堂だからできる我儘を、できるだけ叶えてあげていた。

昼餉を食べて、満足したらしい浮竹は、やっと仕事にとりかかった。

真剣な表情で、文机に向かっている。

さっきまでの我儘な浮竹の姿の片鱗すらにおわせなかった。毛布も、被っていない。

一度仕事に取り掛かると、休憩時間になるまで大抵動かない。

子供のような浮竹と、時折戦闘に参加する、凛とした佇まいや、仕事をしている真剣な時のどれが一体本当の浮竹であるのかが、時折分からなくなる。

3時になって、休憩の時間になった。

お茶を入れて、おはぎを菓子として出すと、浮竹は嬉し気にそれを食した。

そして、また毛布を被りだす。

「遊びにきたよー浮竹ー」

「まだ仕事が残っているから、まだ構ってやれないぞ。今は休憩時間だ」

「別にいいけど・・・・毛布、また被ってるの?今日は特別寒い日でもないよ」

「寒いものは寒いんだ」

火鉢に当たりながら、最後のおはぎを食べる終えると、毛布を放りだして、文机に向かう。

真剣な表情の浮竹に、京楽は海燕を見た。

「この子、大変でしょ。手がかかって。そのくせ、こうして真面目に仕事したり、戦闘の時は先陣を切ったり部下を庇ったり・・・・どれが本当の浮竹か、分からなくなるでしょ」

「そうなんですよ」

「僕にも、未だにどれが本当の浮竹なのか分からなくなるよ。ただ、本質は甘えっ子みたいなところがあるからね」

「京楽、暇なら手伝え。ハンコを押していくだけだ。お前にもできるだろう。いつも俺がお前の分の仕事を手伝うんだ。たまには反対があってもいいだろ」

「はいはい。謹んでお受けいたしますよ」

わざと丁寧語を使うと、浮竹はむすっとなった。

「嫌味か」

「別に~」

6時まで、そうして仕事をして、鐘が鳴り響き、死神の職務の終了時間を告げる。

「はー。今日もがんばった。海燕、肩をもんでくれ」

「はいはい。けっこう凝ってますね」

「そりゃ、休憩時間があったといっても、6時間以上は執務仕事をしていたんだ。肩もこる」

他の隊の副隊長は、上官の肩をもむなんて真似、しないだろう。

浮竹の身の周りの世話まで任されている海燕だが、この仕事を大変だと思ったことはなかった。

「僕も揉んであげる」

「京楽は、変なところ触ってくるからいやだ」

「ちぇっ」

京楽は、笠を被り直して、幸せそうな浮竹を眩しそうに見つめていた。

「今日は、泊まるんだろう?」

「うん」

前々から、その予定で通していた。

急にきて、夕餉が突然二人分になって、厨房係を忙しくさせることもあるが、今日みたいに前々から二人分の食事が必要だと分かっていれば、厨房係も苦労しなくて済む。

「夕餉の支度しますから、湯浴みにいってください」

「わかった」

「はいはい」

京楽は、泊まりにくるとき8番隊で湯浴みをしてこない。雨乾堂の風呂で、浮竹と一緒に湯浴みをするのが常だった。

まぁ、恋人同士なので、海燕も何も言わない。

ただ、ごくたまに湯浴みの時に盛られて、浮竹がのぼせてしまうことがあったので、その時は怒ったが。

「はぁ、我ながらできる副官だ」

夕餉を二人分おいて、座布団も二人分用意して、お茶も用意する。

海燕が夕餉をとるのは、浮竹たちが食べ終えてからだ。

湯浴みをすませた浮竹と京楽が雨乾堂に戻ってきた。浮竹は、いつもより甘い花の香を濃くしていた。その手の趣味の男なら、整った容姿にこの匂いでいちころだろう。その手の趣味がない京楽でさえ、浮竹を選んでいるのだ。

「今日は蕎麦か」

蕎麦に、タイの蒸し焼き、白飯、胡瓜と蛸の酢のもの、味噌汁、デザート。

食べきれる量だけなので、浮竹のタイの蒸し焼きはきってあったし、白飯も少ない。

浮竹は、甘味物なら3人前はペロリと平らげるが、普通の飯は京楽が食う3分の2くらいしか食べないので、最初の頃その量を京楽にも出してしまい、京楽は腹をすかせて寝る前に空腹を抱えてよくお腹を鳴らしていた。

改善されるようになったのは、海燕の働きによるものだ。

本当に、よくできた副官だ、海燕は。

浮竹は幸せ者だと、京楽は思う。

「浮竹、海燕君に感謝しないといけないよ」

「そんなもの、毎日してる」

そう面と向かって言われて、海燕のほうが恥ずかしい思いをした。

「ああもう、そういうことはどうでもいいから、早く食べてください。片付けないと、俺も飯食えません」

「すまん、海燕。なんなら、ここに夕餉をもってきて、3人で食うか?」

「いえ、いいです。2人の邪魔はしたくないので」

仲睦まじく、デザートを浮竹にあげる京楽を見てから、雨乾堂を後にする。

30分程経ってから、夕餉の膳を下げに海燕がきた。

浮竹と京楽は、暇なのか花札をしていた。

「ふう・・・・」

これで、一日の業務は終了だ。布団は、浮竹が自分でしくので、流石に夜まで世話は焼けない。

少し遅めの夕餉を海燕はとって、自分の屋敷に帰るのだった。

志波海燕の一日は他の副隊長よりも少しだけ早く、そして遅いのだった。






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