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満月

酒に酔うたびに、京楽は浮竹に「好きだよ」と囁いた。

京楽が酒に酔うほど弱くないことを、浮竹は知っていた。

だから、長いこと「好きだよ」と言われて、「そうか」としか答えなかった。


はぁあああ。

長い長い溜息を、浮竹はついた。

今日は満月。

月見の季節で、あと1時間ほどすると、京楽が酒をもって遊びにくる予定だった。

「隊長、いい加減、諦めて想いに答えてやったらどうですか」

副官の海燕が、重い溜息をつく上官を見る。

すでに酒盛りを始めていた。

団子を食いながら、浮竹と酒を飲みかわしあっていた。

京楽とは二人で月見をする予定だったので、海燕とはその前に少しだけ月見をした。

「でもなぁ。もう200年以上はただの親友だったんだぞ・・・・・・」

「隊長も好きなんでしょ、京楽隊長のこと」

「それが問題なんだ」

今更、好きと、言えるだろうか。

言った瞬間に、今まで築いていた友情が全て壊れそうで怖かった。


「あ、時間なんで俺下がりますね。あとは京楽隊長と月見楽しんでくださいね」

「あ、海燕!」

待ってくれ、お前もいてくれと言う前に、海燕は下がって去って行ってしまった。

「はぁ・・・・・」

「どうしたんですか、ため息なんかついて」

「海燕か?下がったんじゃないのか?それに声がおかしいぞ」

「いや、ちょっと風邪引いたみたいで」

やけに低い声に、海燕が本当に風邪でも引いたのかと思いつつ、相手は海燕だと思って口にした。

「風邪には気をつけろ。京楽のことが好きすぎて、どうにかなりそうなんだ」

「なんだ、そんなこと」

「へ?」

背後から、抱きしめられた。

ふわりと香る金木犀の香水の甘ったるい匂いに、浮竹の体が強張る。

「お前・・・・海燕の真似なんかして・・・・冗談だ、冗談」

京楽だった。

「君は海燕君の前では嘘は言わないの、知ってるよ」

「京楽・・・・・・」

「僕は、君が好きだよ、浮竹」

「俺は・・・・・・」

「君も、僕のこと好きでいてくれたんだね」

「いや、俺は」

京楽の腕から逃れて、浮竹と京楽は向かいあいながら、お互いの杯(さかずき)に酒を注ぎ合った。

「いい月夜だね」

「そうだな」

浮竹は顔を真っ赤にして、京楽はその様を見て酒を飲んで楽しんでいた。

「いいね、今の君の表情。ぐっとくる」

「京楽、あまり人をからかうな」

「どうして?前からしつこいほど言っているけど、僕は浮竹が大好きだよ。友達としてじゃなくって、恋心で。もちろん友達としても大好きだよ」

「俺は・・・・その・・・・」

「酒のせいにしちゃいなよ」

京楽の飲む強い日本酒をすすめられて、つい飲んでしまった。

くらりと、酔いが体中を回る。

「ああ、好きだ。大好きだばかやろーーー」

浮竹は、もうどうにでもなれと、叫んでいた。

「僕を?」

「ああそうだ。京楽、大好きだ。統学院の頃から好きだった」

「僕もだよ、奇遇だねぇ。お互い好きだったのに、200年経ってやっとお互いの想いが通じ合ったんだね」

けらけらと笑って、京楽は酒を飲みほした。

「さて」

お互い、正座になって、改めて向かい合った。

「僕は君が好きだよ、浮竹。恋人になってくれないかい」

「京楽・・・・俺でいいのか。俺は病弱だし、何より同じ男だ」

「統学院で一目ぼれして、はや200年。全部ひっくるめて、好きだよ」

「俺も、お前が好きだ、京楽・・・・・・」

触れ合うだけのキスを、一度。

次は、舌が絡み合うようなキスを二度。

「ま、待て!」

「どうしてだい?」

「そ、その好きだとは言ったが、こういう関係になるにはまだ心の準備が!」

「そんなの、酒の勢いに任せちゃいなよ」

「ちょ、ま、京楽!」

その日の晩、浮竹は京楽においしくいただかれたそうな。




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