煙管煙草
「煙管煙草、貸してくれないか」
「え、いいけど。浮竹って、吸うの?」
「一度吸ってみたいと思って」
ゆっくりと火をつけて、煙草の煙を肺にとりいれて、紫煙をあげた。
咳込むことはなかった。
「どう?」
「なんともいえない。おいしいとも感じないし、まずいとも感じない。そうだな、しいていえば煙草の香が染みつきそうであんまりよくはないか」
煙管煙草を、京楽に返す。
京楽は、それを吸った。
「これは大人の味だからね」
「む。俺が子供とでもいいたいのか」
「君、確か珈琲もダメでしょ」
「何か文句でもあるのか」
「酒はいけるけど、ビールもだめだし。甘いお菓子は大好きだし、お酒も甘いものが好きだし」
「なんだ、何か文句でもあるのか。はっきりいえ」
浮竹が京楽から、煙管煙草を取り上げた。
「味覚がお子様なんだよ」
その言葉に、浮竹は煙管煙草の中身を灰皿にいれた。
「ああっ、まだ吸えたのに・・・まぁいいか」
煙草の1つや2つ程度、かかるお金はたかが知れている。
「味覚がお子様で悪かったな。ふん」
気分を害したらしい浮竹の長い白髪を手にとってキスをする。
そのまま、どんどん近づき、浮竹の手にキスをした。唇が重なる頃には、浮竹はとろんとした目つきになっていた。
「んっ・・・・・煙草の味がする」
「キスでの煙草の味は、でも、嫌いじゃないでしょ?」
「ああ。でも、肺に悪いし俺はお前にあんまり吸ってほしくないけどな」
「たまにしか吸わないよ。いつもはただくわえてるだけ」
そういえば、よく屋根の上に寝転がって煙管煙草をくわえている京楽に出会うことはあるが、いつも紫煙があがっていなかった。
本当に、時折なのだろう。
京楽から煙草の匂いがするのは、けっこう少ない。
いつも、柑橘系の香水をつけているので、その匂いが浮竹は好きだった。
今日は、柚子の香がした。
「んんっ・・・・・香水、変えたのか?」
「うん。柚子のやつに。嫌い?」
「そんなことは、ない・・・・・・んっ」
何度も口づけられ、肌を手が這っていく。
「あっ、このままするのか?」
「今日は、調子ちょっと悪いでしょ?止めておくよ」
「微熱があるからな・・・・・・」
額に手を当てられる。
確かに、少しだけ体温が高かった。
こんな調子の時に抱かれると、高熱を出すことが多いので、抱かないと言われて内心ほっとしたのと、残念がるもう一人の自分がいることに気づく。
ぼーっとしていると、だんだんと呼吸が苦しくなってきた。
「すまない、熱があがってきたみたいだ・・・・遊びに来てくれたのはうれしいが、寝る」
布団を敷かれて、その上で横になった。
眠気はあまりなかったが、目を閉じているといつの間にか闇に落ちるように意識をなくしいった。
「うう・・・・・」
「浮竹?」
何か、悪夢でも見ているのだろうか。
起こしてあげようかとも考えたが、せっかく寝ているので様子を見る。
「死ぬな、京楽・・・・・・・」
ぽろりと、閉じられた翡翠の瞳から涙が滴り落ちた。
これは、起こしたほうがいいなと思い、浮竹を揺さぶる。
「浮竹、起きて、起きて」
「はっ!京楽!?生きていたのか、よかった・・・・・!」
そのまま、泣きだしてしまった浮竹を、雨乾堂の入口からじーっと見てくる影があった。
「あ、海燕君、これは違うんだ、別に浮竹を泣かしたのは僕じゃないんだよ!」
「隊長、泣いてるじゃないですか。京楽隊長以外に人がいないなら、京楽隊長のせいでしょう」
海燕は、熱を出してしまった浮竹の様子を見に来たのだ。
「ほら、浮竹も泣いていないで、海燕君に誤解だといってよ」
「京楽のせいだ。京楽のせいで泣いている」
まだ夢の中で、自分を庇って真っ赤な血を出して死んでしまった京楽の姿が脳から離れなくて、浮竹は涙を滲ませながら、京楽のせいだと繰り返す。
熱は、下がっていないようだった。
「浮竹、解熱剤飲んでもう一度寝よう」
海燕も、やっと事情を呑み込んだのか、京楽に薬と水を渡した。
「ん・・・・・」
口移しで薬を飲まされる。
浮竹はしばらく、熱が高いせいで意識を朦朧とさせていたが、解熱剤に含まれる睡眠薬の成分がきいたのか、すーすーと静かな寝息をたてだした。
「はぁ・・・・やっと、寝てくれた」
浮竹の長い白髪を手で梳くと、さらさらと零れ落ちた。
「本当に、抱かなくて正解だったね」
「京楽隊長、あんたこんな病人を抱くつもりだったんですか!」
「いや、高熱出す前だよ!微熱あったから、やめたし!」
「もしも抱いてたら、もっと酷いことになってましたね」
多分、数日は寝込むことになっただろう。
そうならなくて良かったと、二人して安堵した。
「浮竹隊長は、この通り熱でやられてますけど、今日は泊まっていくんでしょう?」
「うん。浮竹の傍にいてあげたいしね」
「一応、夕餉隊長の分はおかゆで、京楽隊長の分は普通ので用意しておきますね」
「ありがとう、海燕君」
本当に、よくできた副官だ。
海燕がいるから、京楽も安心して浮竹を任せれた。
することもないので、浮竹の寝顔ばかり見ていた。畳に寝そべっていると、いつの間にか睡魔がきて眠ってしまっていた。
「京楽、おい京楽」
「あれ、どうしたの。熱はもういいの?」
浮竹が、畳の上で寝てしまった京楽を起こした。
「それより、こんな畳の上で寝ていたら、風邪をひくぞ」
「大丈夫、僕は鍛えてるから」
「そういう問題じゃないだろう。なんでこんな場所で寝ていたんだ?」
「君の寝顔をずっと見ていたら、いつの間にか寝落ちしちゃたったみたい」
「そうか。せっかく遊びにきてくれたのに、俺が熱を出して寝込んだせいで・・・その、悪かった」
「いや、いいんだよ。それより、熱はもう下がったんだね?」
「ああ、お陰様で」
海燕を呼んで、二人分の夕餉をもってきてもらった。
念のためお粥だったのだが、浮竹は文句も言わずに平らげた。
ただのお粥ではなかった。いろんな海の幸が混じっていて、見ているだけでも美味しそうだった。
「なんか、浮竹が食べていたお粥のほうがおいしそうだね」
京楽のメニューはカツ丼だった。
「うまかったぞ。俺はお粥を食べる時が多いから、料理人がいろいろと工夫してくれるんだ」
デザートは、苺だった。
京楽の分まで苺を食べて、満足した浮竹は食べ終えた京楽と湯あみをした。
風邪をひかないようにと、髪をちゃんと乾かす。
「そうだ、今日どうして僕が死んだ夢なんて見てたんだい?」
「ああ・・・・大分内容を忘れてしまったが、俺を庇って京楽が倒れて、血を流して死んでしまう夢だった」
ちくりと、胸が痛む。
京楽に抱き着くと、京楽は頭を撫でてくれた。
「僕は、誰かにやられて死ぬような玉じゃないよ」
「ああ、そうだな」
まだ病み上がりなので、深酒をしないように注意しながら酒を飲み交わした。
「煙管煙草、貸してくれないか」
「吸うのかい?」
「ああ」
ゆっくりと火をつけて、紫煙をあげる。
数分一服して、浮竹は満足した。煙管煙草を返されて、中身を灰皿に落として、直す。
「もう、寝ようか」
「そうだね」
布団を2組しかれていたが、浮竹が求めるので同じ寝具で、二人寄り添いあって眠った。
もう、浮竹は悪夢を見なかった。
京楽の腕の中で、微睡む。とても幸福な夢を見た。京楽と結婚し、養子をとって引退するまで隊長を続ける夢だった。
京楽も、その日は寝落ちしてしまっていたにも関わらず、深い眠りに入るのだった。
「え、いいけど。浮竹って、吸うの?」
「一度吸ってみたいと思って」
ゆっくりと火をつけて、煙草の煙を肺にとりいれて、紫煙をあげた。
咳込むことはなかった。
「どう?」
「なんともいえない。おいしいとも感じないし、まずいとも感じない。そうだな、しいていえば煙草の香が染みつきそうであんまりよくはないか」
煙管煙草を、京楽に返す。
京楽は、それを吸った。
「これは大人の味だからね」
「む。俺が子供とでもいいたいのか」
「君、確か珈琲もダメでしょ」
「何か文句でもあるのか」
「酒はいけるけど、ビールもだめだし。甘いお菓子は大好きだし、お酒も甘いものが好きだし」
「なんだ、何か文句でもあるのか。はっきりいえ」
浮竹が京楽から、煙管煙草を取り上げた。
「味覚がお子様なんだよ」
その言葉に、浮竹は煙管煙草の中身を灰皿にいれた。
「ああっ、まだ吸えたのに・・・まぁいいか」
煙草の1つや2つ程度、かかるお金はたかが知れている。
「味覚がお子様で悪かったな。ふん」
気分を害したらしい浮竹の長い白髪を手にとってキスをする。
そのまま、どんどん近づき、浮竹の手にキスをした。唇が重なる頃には、浮竹はとろんとした目つきになっていた。
「んっ・・・・・煙草の味がする」
「キスでの煙草の味は、でも、嫌いじゃないでしょ?」
「ああ。でも、肺に悪いし俺はお前にあんまり吸ってほしくないけどな」
「たまにしか吸わないよ。いつもはただくわえてるだけ」
そういえば、よく屋根の上に寝転がって煙管煙草をくわえている京楽に出会うことはあるが、いつも紫煙があがっていなかった。
本当に、時折なのだろう。
京楽から煙草の匂いがするのは、けっこう少ない。
いつも、柑橘系の香水をつけているので、その匂いが浮竹は好きだった。
今日は、柚子の香がした。
「んんっ・・・・・香水、変えたのか?」
「うん。柚子のやつに。嫌い?」
「そんなことは、ない・・・・・・んっ」
何度も口づけられ、肌を手が這っていく。
「あっ、このままするのか?」
「今日は、調子ちょっと悪いでしょ?止めておくよ」
「微熱があるからな・・・・・・」
額に手を当てられる。
確かに、少しだけ体温が高かった。
こんな調子の時に抱かれると、高熱を出すことが多いので、抱かないと言われて内心ほっとしたのと、残念がるもう一人の自分がいることに気づく。
ぼーっとしていると、だんだんと呼吸が苦しくなってきた。
「すまない、熱があがってきたみたいだ・・・・遊びに来てくれたのはうれしいが、寝る」
布団を敷かれて、その上で横になった。
眠気はあまりなかったが、目を閉じているといつの間にか闇に落ちるように意識をなくしいった。
「うう・・・・・」
「浮竹?」
何か、悪夢でも見ているのだろうか。
起こしてあげようかとも考えたが、せっかく寝ているので様子を見る。
「死ぬな、京楽・・・・・・・」
ぽろりと、閉じられた翡翠の瞳から涙が滴り落ちた。
これは、起こしたほうがいいなと思い、浮竹を揺さぶる。
「浮竹、起きて、起きて」
「はっ!京楽!?生きていたのか、よかった・・・・・!」
そのまま、泣きだしてしまった浮竹を、雨乾堂の入口からじーっと見てくる影があった。
「あ、海燕君、これは違うんだ、別に浮竹を泣かしたのは僕じゃないんだよ!」
「隊長、泣いてるじゃないですか。京楽隊長以外に人がいないなら、京楽隊長のせいでしょう」
海燕は、熱を出してしまった浮竹の様子を見に来たのだ。
「ほら、浮竹も泣いていないで、海燕君に誤解だといってよ」
「京楽のせいだ。京楽のせいで泣いている」
まだ夢の中で、自分を庇って真っ赤な血を出して死んでしまった京楽の姿が脳から離れなくて、浮竹は涙を滲ませながら、京楽のせいだと繰り返す。
熱は、下がっていないようだった。
「浮竹、解熱剤飲んでもう一度寝よう」
海燕も、やっと事情を呑み込んだのか、京楽に薬と水を渡した。
「ん・・・・・」
口移しで薬を飲まされる。
浮竹はしばらく、熱が高いせいで意識を朦朧とさせていたが、解熱剤に含まれる睡眠薬の成分がきいたのか、すーすーと静かな寝息をたてだした。
「はぁ・・・・やっと、寝てくれた」
浮竹の長い白髪を手で梳くと、さらさらと零れ落ちた。
「本当に、抱かなくて正解だったね」
「京楽隊長、あんたこんな病人を抱くつもりだったんですか!」
「いや、高熱出す前だよ!微熱あったから、やめたし!」
「もしも抱いてたら、もっと酷いことになってましたね」
多分、数日は寝込むことになっただろう。
そうならなくて良かったと、二人して安堵した。
「浮竹隊長は、この通り熱でやられてますけど、今日は泊まっていくんでしょう?」
「うん。浮竹の傍にいてあげたいしね」
「一応、夕餉隊長の分はおかゆで、京楽隊長の分は普通ので用意しておきますね」
「ありがとう、海燕君」
本当に、よくできた副官だ。
海燕がいるから、京楽も安心して浮竹を任せれた。
することもないので、浮竹の寝顔ばかり見ていた。畳に寝そべっていると、いつの間にか睡魔がきて眠ってしまっていた。
「京楽、おい京楽」
「あれ、どうしたの。熱はもういいの?」
浮竹が、畳の上で寝てしまった京楽を起こした。
「それより、こんな畳の上で寝ていたら、風邪をひくぞ」
「大丈夫、僕は鍛えてるから」
「そういう問題じゃないだろう。なんでこんな場所で寝ていたんだ?」
「君の寝顔をずっと見ていたら、いつの間にか寝落ちしちゃたったみたい」
「そうか。せっかく遊びにきてくれたのに、俺が熱を出して寝込んだせいで・・・その、悪かった」
「いや、いいんだよ。それより、熱はもう下がったんだね?」
「ああ、お陰様で」
海燕を呼んで、二人分の夕餉をもってきてもらった。
念のためお粥だったのだが、浮竹は文句も言わずに平らげた。
ただのお粥ではなかった。いろんな海の幸が混じっていて、見ているだけでも美味しそうだった。
「なんか、浮竹が食べていたお粥のほうがおいしそうだね」
京楽のメニューはカツ丼だった。
「うまかったぞ。俺はお粥を食べる時が多いから、料理人がいろいろと工夫してくれるんだ」
デザートは、苺だった。
京楽の分まで苺を食べて、満足した浮竹は食べ終えた京楽と湯あみをした。
風邪をひかないようにと、髪をちゃんと乾かす。
「そうだ、今日どうして僕が死んだ夢なんて見てたんだい?」
「ああ・・・・大分内容を忘れてしまったが、俺を庇って京楽が倒れて、血を流して死んでしまう夢だった」
ちくりと、胸が痛む。
京楽に抱き着くと、京楽は頭を撫でてくれた。
「僕は、誰かにやられて死ぬような玉じゃないよ」
「ああ、そうだな」
まだ病み上がりなので、深酒をしないように注意しながら酒を飲み交わした。
「煙管煙草、貸してくれないか」
「吸うのかい?」
「ああ」
ゆっくりと火をつけて、紫煙をあげる。
数分一服して、浮竹は満足した。煙管煙草を返されて、中身を灰皿に落として、直す。
「もう、寝ようか」
「そうだね」
布団を2組しかれていたが、浮竹が求めるので同じ寝具で、二人寄り添いあって眠った。
もう、浮竹は悪夢を見なかった。
京楽の腕の中で、微睡む。とても幸福な夢を見た。京楽と結婚し、養子をとって引退するまで隊長を続ける夢だった。
京楽も、その日は寝落ちしてしまっていたにも関わらず、深い眠りに入るのだった。
PR
- トラックバックURLはこちら