春模様替え
「海燕、そっち持ってくれ」
「はい」
「それはこっちに」
「ちょっと、ここじゃ邪魔になりませんか」
「うーんそうだなぁ。そこの横に置こうか」
「分かりました」
「このちゃぶ台は、右端に設置しよう」
「ここですか?」
「こんなもんで、とりあえずはいいか・・・・・・」
海燕と二人で、浮竹は雨乾堂の模様替えを行っていた。
タンスの位置からちゃぶ台、文机まで、いろいろ移動した。
たんすの裏にはほこりがあったので、それも掃除した。
「うん、我ながら完璧だ」
「ちょっと、文机のあたりが細々としていて、邪魔になりませんか?」
「あれでいいんだ。あれなら、寝転べないだろう?俺は、仕事中疲れると寝転んでしまう癖がたまにあるんだ。そのまま寝てしまったりして、後悔したことは何度もある」
「そうですか。ちゃんと眠い時は昼寝でもいいから、寝てくださいよ!」
「うん、ああ」
海燕は、よくできた副官だ。
上司の浮竹の世話から、執務までこなしてくれる。
よく、寝込んでしまう浮竹の世話をしてくれるのも、海燕だ。ただ、よく京楽がやってくるため、その役割を奪われることはあるが、それはそれで楽でいいと海燕は考えていた。
京楽は、浮竹の世話を、海燕以上に見てくれるから。
「あらー。遊びにきたら、びっくり。雨乾堂じゃないかと思った」
「ちょっと、春模様にかえてみた」
ちょっとした春っぽい置物とか置いてみたり。桜の模様の座布団だったり。
「布団も、花柄に変えてみたんだ」
襖を開けると、薄いピンク色の布団が2組あった。
浮竹と、泊まる時の京楽用のものだ。
「最近ぽかぽかしてきたし、いいんじゃない?」
「そうだろう、そうだろう」
うんうんと、浮竹は頷く。
いい年したおっさんが、花柄ってどうよ?って海燕は思ったが、口には出さない。
まぁ、年中頭が春のような浮竹には、似合っているとも思う。
おっと。心の声が漏れてしまったようだ。
「誰の頭が年中春だって?」
海燕の頭をぐりぐりする浮竹。
「痛い痛い!すみません、もういいません!」
「全く、俺の副官は・・・・・」
「でも、海燕君以上の副官はそうそういないんじゃないかなぁ」
「そうですよ、もっと言ってやってください、京楽隊長!」
「七緒ちゃんと交代する?」
「だめだ、海燕はやらんぞ」
海燕の体を捕獲する浮竹。
「僕だって、七緒ちゃんはあげないよ。かわいいもんねー」
「む。俺の副官の海燕だってかわいいぞ」
「どこが?」
「この、無駄に長い下睫毛とか、無駄にある筋肉とか」
「下睫毛、無駄に長くて悪かったですね!筋肉は無駄についてません、ちゃんと鍛えてるんです」
海燕が、浮竹の手を振り払って、反論する。
「それ、可愛いって言わないよ」
「む」
「むしろ、かわいいのは君だよ、浮竹。副官のことで拗ねたり、言動がかわいい」
「むう」
ぷくーっと、怒る浮竹も可愛かった。
「ああ、君はなんでこんなに可愛いんだろうね?」
「可愛いんじゃない、かっこいいんだ」
「はいはい」
頭を撫でていると、もっとと強請ってくる。
京楽の膝に頭を乗せて、京楽の髪をいじりだす浮竹。
長い白い髪を指で梳いてやりながら、浮竹の機嫌をとる。
「今日は、いいかい?」
「ああ、いいぞ」
「副官がいるのに、何夜の段取りきめてるんですか!」
「いや、海燕は俺たちが体を繋げているシーンも見たことがあるだろうし、これくらい平気だろう?」
「好きで見たわけじゃありません!目撃してしまったのに終わらせない隊長達も悪い!」
「いや、いきなりやめろと言われても無理がある。なぁ、京楽」
「そうだね。途中ではやめれない」
「いい年なんだから、あんまり盛らないでくださいよ」
「大丈夫だ、週2だ」
「そんな生々しい答えはいりません!」
海燕は、浮竹と京楽のために茶を入れていたのだが、京楽には茶を出して、浮竹の分を飲んでしまった。
「海燕、俺のお茶は?」
「はいはい、今入れますから」
新しく買った、桜の模様の湯呑に、茶を注いで浮竹に渡す。
いつも通りの、高い玉露の茶だった。
お茶っぱまで、京楽のお金が回っている。
「本当なら、こういうのいけないことなんですけどね」
自分の隊に金をかけるなら分かるが、他の隊にまで金をかける京楽の酔狂さに、海燕は罪悪感を抱きつつも感謝していた。
お陰で、浮竹は好きなものを好きなだけ食せる。
「そうそう、壬生の甘味屋でおはぎを買っておいたんです。食べますよね?」
「食べる!」
浮竹の答えに苦笑しつつも、隊舎に一度下がって、おはぎをもってきた。
「んー美味しい」
浮竹は幸せそうだった。
京楽と海燕も食べた。
3人分ではたりないだろうと、5人分用意しておいて正解だった。次々とおはぎを平らげていく浮竹は、最後の1つになったおはぎを見て、悲しそうな顔をする。
「俺が食べると、皆の分まで食ってしまうからなぁ」
「気にしないでいいよ。最後のも食べちゃっていいよ」
「隊長、京楽隊長もそう言ってるし、俺はもうおなかいっぱいなんで」
「そうか、じゃあ悪いが最後の1個ももらうな」
もぐもぐと食べていく、浮竹が可愛いと京楽も海燕も思うのだった。
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