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現世の浮竹?

時は院生時代まで遡る。

「京楽!」

浮竹は、京楽と寮の外の甘味屋の前で待ち合わせしていた。

いつもなら、寮の部屋から直接いくのだが、今日はデートだった。

院生の服のままだが、もらった翡翠の髪飾りで、肩より伸びた髪を結いあげてまとめていた。

今、院生の4回生だった。

「浮竹、今日はかわいいね。いつもかわいいけど、いつもよりかわいい」

自分があげた髪飾りをしていてくれることが、とても嬉しかった。

「甘味屋、入ろうか」

「ああ」

甘味屋でまずおはぎを注文した。それから、ぜんざい、白玉餡蜜、羊羹、桜もち、団子、杏仁豆腐・・・3人分をペロリと平らげた。

「うふふふ~~」

「なんだ、気持ち悪いな」

「いや、かわいいなぁと思って」

「かっこいいと言え!」

無理な相談だった。

そもそも、翡翠の髪飾りで髪を結い上げてる時点でかわいすぎるのだ。

ちらちらと、女性客だけでなく男性客の視線を集める浮竹のかわいさに、京楽はできることなら浮竹を隠してしまいたいと思った。

お茶を飲んで一服する。

これだけ甘味物を食べても太らない。おまけに、昼食や夕食も平らげる。

「この後どうする?」

「現世に行ってみたい」

山じいの許可を得て、現世にやってきた。

時は戦国時代。

「姫!」

「え?」

「貴様、姫に何をしている!姫、そのように髪を短くして・・・何があったのですか」

次々と、武装した兵士たちが集まってきた。

一般人に手をあげるわけにもいかず、京楽は大人しく捕まっていた。

「姫、さぁこちらへ」

「あの、俺は違うんだ。姫とかじゃなくって・・・・・」

「何を言っておられる、姫。今夜は殿との結婚式・・・姫の姿が見えず、途方にくれていた次第です。見つかってよかった」

どうやら、現世のどこかの武家の姫が家出したらしい。しかも浮竹にそっくりなそうで、髪の色さえ何も言われなかった。

京楽が捕らえらえられているので、下手な行動には移れない。

仕方なしに、一人で着替えられるといって、十二単を適当に着込んだ。

「あれまぁ姫、着方が間違っております」

侍女に、十二単を整えてもらって、浮竹は殿とやらと会った。

「おお、姫、いなくなって心配したのだ」

とてもごつい、お世辞にも美男と言える男じゃなかった。小太りで、浮竹の傍にくるとねっとりとした視線を送ってくる。

「姫・・・今宵、我らは結ばれる。さぁ、褥へ・・・・」

服の上から体を弄られて、このままではいけないと思い、殿という身分とはいえ、一般人には悪いが気を失ってもらおう。

「破道の4、白雷!」

かなり手加減した。殿とやらは焦げて意識を失った。

見張りの兵士たちを次々と気絶させて、京楽が捕らわれている牢屋にいき、京楽を助け出す。

「いやあ、助かったよ。脱獄もできたけど、騒ぎを広げるわけにもいかないね・・・それにしてもその恰好、恐ろしいほどに似合っているね。姫と言われるだけのことはあるよ」

二人して、城を抜け出した。

途中、女性と出会った。

「え、私?」

「え、俺?」

本当にそっくりだった。違うのは身長と髪の長さくらいで。

浮竹のほうがわずかに背が高かった。

事情を説明すると、姫は泣きだした。

「すみません、私が結婚が嫌になって城をぬけだしたせいで、迷惑をかけてしまい・・・・」

姫は、ここ数日の間で恐怖のあまり髪が白くなってしまったのだという。

姫は、もう決意していた。

この時代、結婚は政略結婚が多い。本当に好きな相手は側室にしてしまうとかも多かった。

「私はもう行きます。どうか、ご武運を・・・・」

姫は、城の方へ行ってしまった。

「止めなくてもよかったのかい」

「止めても、あの姫が結婚しないと、姫の家のほうの武家が責を問われる」

「ああ、そうか・・・・武家って厄介だね。きっと政略結婚だろうけど」

「尸魂界に戻ろう」

「そうだね。現世の海でも見ようと思ってきたんだけど、こんな厄介ごともうごめんだ」

尸魂界にに戻ると、院生の服を取り返すのを忘れていたことに気づく。

「どうしよう。この格好、まるで花街の遊女だ」

「遊女でも十二単なんて豪華なもの、着ないと思うけどね」

浮竹は、山に身を隠した。

「院生の服をもってきてくれ。ここに隠れておくから」

「分かったよ」

京楽は、一度寮に戻ると、浮竹の院生服を手に山に戻ってきてくれた。

「ああもう!どうやって脱げばいいんだ」

「手伝ってあげる」

京楽に手伝ってもらい、浮竹はなんとか院生の服に着替えた。

「君の肌・・・すべすべだね」

「盛るなよ!」

「分かってるよ。でも、姫の姿よかったなぁ。かわいかった。今のままでも十分かわいいけど」

京楽は、珍しいからと、十二単を残すらしかった。

「いつか、また着てほしいな」

「ごめんこうむる」

すっかり夜になってしまっていた。

「また、来週の日曜デートしようよ、今日のやり直しに」

「ああ。でも、もうしばらく現世にはいかない・・・」

また、姫と間違われたくない。

京楽以外の男に、服の上からであるとはいえ、体を弄られた時拒絶反応か、吐き気がした。

「俺は、お前以外の男に触られるのが嫌だ」

その言葉に、京楽が真面目な顔になる。

「あの殿とやらに何かされたの?」

「服の上から体を弄られただけだ。でも、それだけで悪寒がした」

京楽は浮竹を抱き締めた。

「君に他の男が触れるのさえ、僕も嫌だ」

寮の自室に戻ると、どちらともなしに唇を重ねた。

とさりと、ベッドに横になりながら、あの姫は大丈夫だろうかと考えながら、体温を共有しあった。

睦みあうことはなく、その日は眠るだけだった。

次の週の日曜、また甘味屋に行った。

それからは本屋で小説を買い込んで、衣服屋で普段着用の着物を買った。

夜は居酒屋に入り、二人で飲んだ。

「あの姫、大丈夫だろうか。恐怖で髪が白くなるくらいだ。婚姻が嫌だったんだろうな」

「だからって助けてあげることもできないしね。浮竹にそっくりだったから、できれば助けてあげたいけどそういうわけにもいかないし」

その後、浮竹と京楽は気になって仕方なくて、もう一度現世にいった。

浮竹は念のためにフードで顔を隠していた。

「あ、あなたたちはあの時の!」

姫に出会うと、姫は幸せそうな顔をしていた。

「殿が、思った以上に優しい方でした。私、あの方となら幸せになれそうです」

「よかった・・・・・・」

浮竹はフードをとった。

「本当、そっくり。まるで私の兄上であるといっても、通用しそうですね」

「本当に、不思議なくらいに似ているな。俺は浮竹という」

「まぁ。先祖に、浮竹という名の戦神がいたと聞きます。きっと、血がどこかでつながっているのでしょう」

「なるほど・・・・」

昔、浮竹一族のある男が、尸魂界を捨てて人間になり、現世にいったという話を聞いたことがあった。

多分、その血筋なのだろう。

「俺とあなたは、どこかで血がつながっているようだ。このまま、幸せになれることを祈ってます」

「ありがとうございます。殿の世継ぎを立派に産んでみせます。あなたも、その方とずっと結ばれていますように」

「浮竹のことは、僕に任せておけば大丈夫だから」

「なっ」

浮竹が顔を朱くしながら、京楽の耳を引っ張った。

「では、俺たちはこの辺で」

尸魂界へと戻った。現世の人間と会話をすること禁じられているわけではないが、過度の干渉は禁じられていた。

もう会うこともないだろうと思いながら、現世を後にする。

「本当に不思議な方たち・・・・」

姫は、その後10人の子宝に恵まれ、殿と一緒に幸せな人生を送ることになるのだが、それは浮竹と京楽には知らせることは、ついにかなわなかったという。


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