甘い呼び声
浮竹が死んだ。
神掛をおこない、そのまま病気が進行して、京楽の腕の中で息を引き取った。
枯れ枝のように細くなってしまった浮竹の遺体を抱いて、泣いた。
棺の中に白百合がいっぱいいれられて、大戦も終戦したので皆で見送った。
棺の蓋が閉じられる。
そのまま、荼毘に付されるを、京楽はただ黙って見ていた。煙が、空高く昇っていく。
本当は泣き叫びたかった。
でも、京楽は総隊長だ。恋人が死んだからといって、泣き叫んでなどいられない。総隊長としての責務を果たさねばならない。
浮竹の墓は、雨乾堂に建てられた。
浮竹が死んで1か月が経った。
世界は色を失った。
浮竹が死んで半年が経った。
世界はようやく色を戻し始めた。
浮竹が死んで1年が経った。
もう君は、どこにもいないんだね。
そう呟いた。
浮竹が死んでも、世界は廻る。
時折浮竹の墓参りにいっては、夢でいいから会いたいと思った。
すると、その日の夜、本当に夢の中で浮竹が出てきた。
いつもと変わらぬ姿で、元気そうだった。
真っ白な長い髪を風になびかせて、桜吹雪の中に凛として立っていた。
「浮竹!」
京楽は、浮竹を抱き締めた。暖かかった。
キスをすると、浮竹は京楽の背中に手を回した。
そして、柔らかく微笑んだ。
「京楽、俺がいないからって、いつまでもくよくよするなよ。俺は、待っている。お前を。お前を迎えにいく日まで、長生きしろよ」
そういって、浮竹は桜の花びらとなって散ってしまった。
「浮竹!」
目覚めると、涙を流していた。桜の花びらが、どこから入りこんできたのか布団の上に散らばっていた。
「浮竹・・・夢で、会いにきてくれたの?」
京楽は、意を決して浮竹の遺品を引き取ることにした。
翡翠の髪飾り、かんざし、お守り石、螺鈿細工の櫛・・・高価なものから、硝子細工でできた安い髪飾りとかまで。
京楽が学院時代から浮竹が死ぬ前にまでに贈った様々なものがあった。
「懐かしいねぇ・・・・」
翡翠の石を太陽に透かしてみると、翠の影が落ちた。
浮竹の遺品をまとめて、自分の屋敷の一室に保管することにした。
翡翠のお守り石は、いつも浮竹が持っていてくれたものなので、京楽がもつようになった。
世界は・・・・・色づいている。
浮竹を失くしたことは悲しい。ずっと一緒に傍にいたかった。一緒に引退して、老後を送りたかった。
でも、世界は色づいている。
浮竹を失ったことで色を失った世界は、時と共に色づきはじめた。
そうやって、数百年も、気づけば総隊長を続けていた。髪に白いものがまじるようになった。さらに数百年時が経った。
もう、山じいをばかにできない年齢になっていた。
「迎え来たぞ、京楽」
長い白髪の麗人は、京楽の寝ているベッドの傍にくると、京楽に口づけた。
「浮竹・・・・?ずるいな、君だけ年をとっていないなんて」
「いこう。果てのない世界へ。墜ちて墜ちて墜ちて・・・いつか、生まれかわろう」
「なんとも甘い呼び声だね」
「京楽、老衰だ。お前を千年もまたせて、すまなかった。でも、これからはずっと一緒だから。同じ場所に墜ちていこう。俺は輪廻を拒否していた。京楽がくるまでと思って」
「浮竹・・・・・」
気づくと、京楽の姿は浮竹と同じくらいの姿に変わっていた。
「君をずっと待っていたんだ・・・・・・もう、離さない」
浮竹を抱き締めて、二人は桜の花びらになって散っていく。
かつんと、翡翠のお守り石が落ちた。
「あ、あれは大事なものだから」
散っていく中で、京楽が手を伸ばして拾いあげる。
「俺のお守り石・・・・・お前が、持っててくれたのか」
「うん。君だと思って」
唇が重なった。
さらさらと、世界から消えていく。
ただ永久にある安寧の大地へと墜ちていく。
いつか、きっとまた新しい世界で、二人揃って産声をあげて巡り合える。
そんな気がした。
浮竹の甘い呼び声に、京楽は答えた。
京楽は遺体もないまま生死不明となり、京楽の人生の幕は閉じる。
でも、傍らには愛しい浮竹がいるので、京楽は寂しくなかった。
ああ。
墜ちていく。
世界の果てに。
ああ。
愛している。
千年経っても、まだ浮竹を愛している。
ああ。
浮竹が迎えにきてくれてよかった。
甘い呼び声に、そっと身を任せて、ただ墜ちていく--------------------。
神掛をおこない、そのまま病気が進行して、京楽の腕の中で息を引き取った。
枯れ枝のように細くなってしまった浮竹の遺体を抱いて、泣いた。
棺の中に白百合がいっぱいいれられて、大戦も終戦したので皆で見送った。
棺の蓋が閉じられる。
そのまま、荼毘に付されるを、京楽はただ黙って見ていた。煙が、空高く昇っていく。
本当は泣き叫びたかった。
でも、京楽は総隊長だ。恋人が死んだからといって、泣き叫んでなどいられない。総隊長としての責務を果たさねばならない。
浮竹の墓は、雨乾堂に建てられた。
浮竹が死んで1か月が経った。
世界は色を失った。
浮竹が死んで半年が経った。
世界はようやく色を戻し始めた。
浮竹が死んで1年が経った。
もう君は、どこにもいないんだね。
そう呟いた。
浮竹が死んでも、世界は廻る。
時折浮竹の墓参りにいっては、夢でいいから会いたいと思った。
すると、その日の夜、本当に夢の中で浮竹が出てきた。
いつもと変わらぬ姿で、元気そうだった。
真っ白な長い髪を風になびかせて、桜吹雪の中に凛として立っていた。
「浮竹!」
京楽は、浮竹を抱き締めた。暖かかった。
キスをすると、浮竹は京楽の背中に手を回した。
そして、柔らかく微笑んだ。
「京楽、俺がいないからって、いつまでもくよくよするなよ。俺は、待っている。お前を。お前を迎えにいく日まで、長生きしろよ」
そういって、浮竹は桜の花びらとなって散ってしまった。
「浮竹!」
目覚めると、涙を流していた。桜の花びらが、どこから入りこんできたのか布団の上に散らばっていた。
「浮竹・・・夢で、会いにきてくれたの?」
京楽は、意を決して浮竹の遺品を引き取ることにした。
翡翠の髪飾り、かんざし、お守り石、螺鈿細工の櫛・・・高価なものから、硝子細工でできた安い髪飾りとかまで。
京楽が学院時代から浮竹が死ぬ前にまでに贈った様々なものがあった。
「懐かしいねぇ・・・・」
翡翠の石を太陽に透かしてみると、翠の影が落ちた。
浮竹の遺品をまとめて、自分の屋敷の一室に保管することにした。
翡翠のお守り石は、いつも浮竹が持っていてくれたものなので、京楽がもつようになった。
世界は・・・・・色づいている。
浮竹を失くしたことは悲しい。ずっと一緒に傍にいたかった。一緒に引退して、老後を送りたかった。
でも、世界は色づいている。
浮竹を失ったことで色を失った世界は、時と共に色づきはじめた。
そうやって、数百年も、気づけば総隊長を続けていた。髪に白いものがまじるようになった。さらに数百年時が経った。
もう、山じいをばかにできない年齢になっていた。
「迎え来たぞ、京楽」
長い白髪の麗人は、京楽の寝ているベッドの傍にくると、京楽に口づけた。
「浮竹・・・・?ずるいな、君だけ年をとっていないなんて」
「いこう。果てのない世界へ。墜ちて墜ちて墜ちて・・・いつか、生まれかわろう」
「なんとも甘い呼び声だね」
「京楽、老衰だ。お前を千年もまたせて、すまなかった。でも、これからはずっと一緒だから。同じ場所に墜ちていこう。俺は輪廻を拒否していた。京楽がくるまでと思って」
「浮竹・・・・・」
気づくと、京楽の姿は浮竹と同じくらいの姿に変わっていた。
「君をずっと待っていたんだ・・・・・・もう、離さない」
浮竹を抱き締めて、二人は桜の花びらになって散っていく。
かつんと、翡翠のお守り石が落ちた。
「あ、あれは大事なものだから」
散っていく中で、京楽が手を伸ばして拾いあげる。
「俺のお守り石・・・・・お前が、持っててくれたのか」
「うん。君だと思って」
唇が重なった。
さらさらと、世界から消えていく。
ただ永久にある安寧の大地へと墜ちていく。
いつか、きっとまた新しい世界で、二人揃って産声をあげて巡り合える。
そんな気がした。
浮竹の甘い呼び声に、京楽は答えた。
京楽は遺体もないまま生死不明となり、京楽の人生の幕は閉じる。
でも、傍らには愛しい浮竹がいるので、京楽は寂しくなかった。
ああ。
墜ちていく。
世界の果てに。
ああ。
愛している。
千年経っても、まだ浮竹を愛している。
ああ。
浮竹が迎えにきてくれてよかった。
甘い呼び声に、そっと身を任せて、ただ墜ちていく--------------------。
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