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発作の次の日

ごほごほと、咳込む浮竹の背をさすってやった。

吐血こそしないものの、呼吸がしにくそうで苦しそうだった。

「ごほっごほっ・・・・・」

ぱたたたた。

鮮血が、浮竹の手から漏れて布団に滴り落ちる。

「大丈夫?今4番隊に連れていくからね」

腕の中で抱えられて、瞬歩で4番隊の救護詰所に行った。

ちょうど、11番隊の遠征が終了し、怪我人がたくさん運ばれている状態で、卯ノ花に診てもらうことはできなかったが、副隊長の勇音に診てもらえた。

「軽い発作ですね。薬をだしておきます。回道はすでにかけたので、あとは自然回復に任せるしかありません」

いつものことなので、浮竹は平気な顔をしていた。

血こそ吐いたが、苦しいほどの発作ではなかったのだ。出歩いてもいいと言われたら、きっと甘味屋にでも行ってしまいそうな元気さだ。

「ちゃんと、布団に横になるんだよ?」

幼子に言い聞かせるように、浮竹を抱いて瞬歩で雨乾堂に戻った。

血でよごれた布団を変えて、真新しい布団の上に横になる。

「すまないな・・・・遊びにきてくれたのに」

「いいんだよ。君が元気なのが何よりだから」

そう言って笑う京楽の、その優しさが好きだった。

体を重ねあうようになって、数百年。変わらない関係は、別れというものを匂わせることなく、続いている。

次の日、浮竹は6番隊の白哉のところに訪れていた。

「白哉、人生ゲームをしよう」

「兄は・・・・発作を起こしたのではないのか。昨日、救護詰所に運ばれたと聞いたぞ」

「ああ、もう大丈夫だ」

そう言って、白哉とあと恋次も巻き込んで人生ゲームを始めた。

昔も人生ゲームをして遊んでいたが、いつも白哉の一人勝ちだった。今回はそういうわけではなく、浮竹が億万長者になって、子供も4人もうけてゴールした。

白哉は借金にまみれた人生でゴールした。

恋次は、普通に会社員で子供を二人もうけてゴール。

「納得がいかぬ。なぜ私が借金まみれなのだ」

「いや、白哉これはゲームだから」

そう言っても、白哉は納得がいかないようで、もう1回人生ゲームをした。

白哉が石油を掘り当てて石油王になり、何人もの妻をめとってのゴールとなった。

浮竹と恋次は借金まみれのゴールだった。

「隊長、このゲーム極端すぎませんか。億万長者か借金王って」

恋次が、不服そうにそう言葉を出すが、白哉はいたって冷静だった。

「私が金持ちになるのは当たり前なのだ。現実でもそうであるのだから」

「うわー」

浮竹は、少し引いた。

「浮竹、浮竹いるかい?」

その時、6番隊の執務室に京楽がやってきた。

「どうしたんだ、京楽」

「どうしたんじゃないよ!昨日発作起こしたばかりで、何朽木隊長と阿散井君と遊んでるの!」

「いや、暇だったから・・・・・・」

浮竹はそう言うが、京楽は本気で心配していた。

「すまないね、朽木隊長」

「いや、ただ人生ゲームで遊んでいただけだ」

「浮竹、戻るよ」

ひょいっと浮竹を肩に担ぎあげて、京楽は6番隊の執務室を去ろうとして、恋次に人生ゲームを渡された。

「浮竹隊長のものです。もっていってください」

「人生ゲームねぇ・・・・」

浮竹を抱えた反対側の手で人生ゲームを持って、京楽は雨乾堂に戻った。

「ねぇ、浮竹。昨日発作を起こしたばかりなのに、なんで君は出歩くの」

「発作なんていつものことだ。治まってしまえば、あとはなんてことない」

「浮竹は、もっと自分の体を大事にしなよ」

京楽が、心配そうな声を出す。

「癒えない肺病だ・・・人生をそれで狂わされてるんだ。気分がいい時くらい出歩いてもいいだろう」

「だめだよ。少なくとも、発作をおこした次の日は安静にしていなきゃ」

「でも暇なんだ」

「僕を呼んで。話相手になってあげるから」

浮竹は、逡巡したあげく、京楽の顔を見る。

「怒っているのか?」

「少しね。それより、呆れてる。まぁ、君が元気そうで何よりだけど」

「じゃあ、二人で人生ゲームでもするか」

「寝ていなくていいの?」

「本当に、今日は調子がいいんだ」

確かに、頬に赤みがさしているし、元気そうだった。

「二人だけの人生ゲームってなんかつまらなさそうだね」

「じゃあ、朽木と仙太郎と清音を呼ぼう」

白哉のところで人生ゲームをしていたのは昼休みだった。

仕事があるのに、いいのかなと思いながらも、京楽は頷いた。

そして、ルキア、仙太郎、清音が呼ばれた。

「人生ゲームですか。一護の妹と遊んだことがあります」

「私は遊んだことありません。できるでしょうか」

「不細工女は人生ゲームでも借金王になるんだろ?」

「なんですってぇ!」

「清音も仙太郎も、仲よくしないか。ルールを説明する・・・・・」

そうやって、5人で人生ゲームをした。大人数でやると楽しくて、つい3回もやってしまった。

浮竹は、3回とも借金まみれでゴールした。京楽は3回とも大金持ちでゴールした。

ルキアと仙太郎と清音は、ばらばらだった。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。仕事があるので、2時間ばかり付き合ってもらって、3人は仕事に戻っていった。

「僕はゲームの中でも大金持ちか。君が借金まみれなら、君を救ってあげられるね」

「まぁ、現実も借金まみれとまではいかないが、金はあまりないからな」

浮竹が苦笑する。

京楽の金で助けてもらっている部分も多い。

浮竹が、家族への仕送りをやめれば金はあるのだが、子供の頃に借金をしてまで薬代を捻出してくれた両親のためにも、仕送りはやめれない。

「仕事は仙太郎と清音が片付けてしまっていたし・・・もうすることもないな」

「花札でもしようか?」

「飽きた」

「じゃあ、昔話でもしよう」

「そうだな」

京楽は、今日も仕事はさぼりだった。後で伊勢にどやされることになるだろうが、傍にいてくれて浮竹は嬉しかった。

「院生時代の話でもするか」

他愛ない、京楽がよくさぼって、それを浮竹が見つけて授業に出させるという話題だった。

あの頃から、今も変わらない関係。数百年も続くとは思わなかった。

でも、別れることなんて頭にない。

「昔のほうがまだ発作が少なかったな・・・年とともに体力が落ちているんだろうな」

「僕ら、まだまだ現役だよ。そんなおじいさんくさいこと言わないでよ。浮竹もまだ十分若いよ」

「だが、ここ数百年と同じ隊長であるのは、先生と俺とお前と卯ノ花隊長くらいだろう。あとは若い子たちが隊長になって消えていったり・・・年はとりたくないものだな」

苦笑いを零す浮竹の髪を、京楽は手ですいた。

「まだまだ僕らも現役なんだから。そう悲観することもないよ」

「そうだな」

京楽の手は優しかった。

頭を撫でられて、次に抱き寄せられた。

「ん・・・・」

口づけを交わして、離れる。

「今日は無理だぞ。元気がいいといっても、睦み合う気はない」

「分かってるよ。発作を起こした数日は抱かない。僕たちの暗黙のルール、ちゃんと守るから」

京楽の言葉にほっとする。

「今日は泊まっていけ」

「わかったよ」

昔なら海燕がいたが、彼が死んで50年は経過している。

今は、副官は空席だった。

いつか、副官を置くならルキアだろう。そう確信めいたものを、浮竹は思う。

「一緒にお風呂に入ろう」

「ああ」

夕飯を食べて、風呂に入り布団に寝転んで、また昔話に花を咲かせた。

いつか副官を置くようになったら、また違う日々がくるのだろう。

そう思うのだった。





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