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皆既月食

「浮竹!」

「んー?」

火鉢にあたりながら、うとうとしていた浮竹は、京楽に名前を呼ばれて、目をこすった。

「今日、皆既月食なんだって!」

「そうか」

興味なさげな浮竹に、京楽が言う。

「なんでも、300年に一度の皆既月食らしいよ。珍しいから、見ようよ」

「寒いからいい」

「またまた。たまには、こういうものも見ておくべきだよ。確かに死神の寿命なら3回くらいは見れるかもしれないけど・・・・・」

「眠いし、どうでもいい」

本当に、どうでもよさそうだった。

「一緒に見てくれたら、壬生の甘味物をいやというほどおごってあげる」

「一緒に見よう」

切り替わりの早い浮竹に苦笑を零す京楽。

「君は、ほんとに甘味物が好きだね」

「悪いか」

「いや、かわいいと思ってね」

長い白い髪は、昨日悪戯に三つ編みにしていたので、波打っていた。綺麗にウェーブのかかった長い白髪は珍しくて、手に取って口づけると、浮竹はまたうとうとし始めていた。

「寝不足なの?」

「昨日、咳込んであまり眠れなかったんだ」

「そうなの。なら、無理はしないほうがいいね」

「甘味物食い放題なんだろう。皆既月食を、一緒に見るぞ」

「起こしてあげるから、2時間くらい仮眠したら?夜になるけど、その時に見よう」

今は、6時だった。

まだ、皆既月食が見れる時刻は10時頃。

2時間ほど、浮竹は眠った。

その寝顔をずっと見ていた。

整った容姿は、白い色にまみれていて、とても儚く見えた。

「ん・・・・腹減った」

8時半頃に起き出した浮竹は、京楽と一緒に少し遅めの夕餉をとる。

清音が、食べ終わった夕餉の膳を下げていった。

「先に湯浴みするか」

「そうだね」

いつものように、一緒に湯浴みをして、そして10時になった。

「そろそろ、時間だよ」

外に出て月を見上げると、紅い月が月食を起こしていた。

「何故、紅いんだ?」

「なんでも、違う星の位置のせいだそうだよ。詳しいことは知らないけど」

「綺麗だけど・・・なんだか、怖い」

「そう?幻想的じゃない」

「紅い月なんて・・・・気味が悪い」

雨乾堂の廊下に佇んでいたが、皆既月食を見ながら酒を飲み交わし始めた。

「寒くない?」

「寒い」

「大丈夫?」

「甘味物のためなら・・・・・」

1時間ほど酒を飲みあって、皆既月食にも飽きて、雨乾堂に戻る。

浮竹は、火鉢に当たりながら、またうとうととしだしていた。

「もう寝なさい」

「ん・・・・布団が冷たい。一緒に寝ろ」

「仕方ないなぁ」

布団をしいて、浮竹は京楽に抱き着いた。

「あったかい・・・・」

「君、体冷たいね。大丈夫?熱出したり、しないでね」

「京楽ほっかいろがあるから、大丈夫だ」

浮竹は、親鳥に甘える雛のようだった。

「ん・・・・あったかい」

京楽にすり寄る。

京楽は、その気はなかったが、浮竹を抱きたくなっていた。

「なんか・・・・かたいものがあたっているが、言っておくが、今日はしないからな」

「けち」

「一緒に皆既月食を見て酒をのんだ。それで今日は終わりだ」

浮竹は、それだけを言うと、眠ってしまった。

眠ってしまった浮竹に抱いた劣情を、浴室で始末すると、京楽は浮竹を起こさないように同じ布団でまた眠るのだった。





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