看病
「京楽・・・・・・・?」
「ああ、いいから寝てなさいな。40度の熱があるんだよ」
頭ががんがんと割れるように痛かった。
酷い眩暈がする。意識が朦朧としていたが、京楽が近くにいることだけは感じとれた。
風邪を悪化させた浮竹は、そのまま救護詰所で入院となった。
肺炎をおこしかけていたのだ。
点滴の管が痛々しかったが、浮竹が発作以外で入院するのは本当に久しぶりで、京楽も焦った。
看病を兼ねて訪れてみると、浮竹は高熱でうなされていた。
それなのに、京楽がきたら気づくのだ。
「傍に・・・・・いてくれ・・・・」
「ああ、いるとも」
ベッドの傍の椅子に座って、浮竹の手を握りしめる。
暖かな手。
力なく握り返してくる浮竹を思いながら、浮竹の病室のソファーで、京楽は眠った。
起きると、浮竹はまだ熱でうなされていた。
もうここ4日は熱が下がっていない。
京楽は、泊まりこみで浮竹の看病をした。
5日目。やっと、浮竹の熱が下がった。
卯ノ花が回道を何度もかけてのことだった。
肺炎にはならずにすんだ。
「京楽・・・・もしかして、ずっと看病していてくれたのか。一度、8番隊の隊舎に戻ったほうがいい」
「うん。それもそうだね。君の熱も下がったことだし、仕事片付けて、また夜にはくるよ」
まともな食事も睡眠もとれていないだろうに。
それでも、京楽は浮竹を優先する。
そんな京楽が倒れたと聞いて、浮竹が吃驚した。
「ただの寝不足と、軽い貧血ですね」
「まいったねぇ。僕まで病人になちゃった」
念のため1日の入院となった京楽は、卯ノ花の配慮で浮竹の病室にベッドが運び込まれて、二人で一部屋となった。
「京楽、お前はばかか。俺なんて看病して倒れて・・・・・」
「でも、本当に心配したんだよ。高熱が下がらないから」
「だからって、倒れるまで看病するやつがあるか。ちゃんと食事をして寝ろ」
「うん。今後気を付けるよ。今はもう、後の祭りだから」
「はぁ・・・・・・」
京楽も、点滴を打たれた。
「点滴、お揃いだね」
「こんなことでお揃いになっても嬉しくない」
「そうだね」
京楽は、少し困ったような顔をした。
「まさか、この僕が倒れるなんてねぇ。君を心配しすぎたのかな」
「そうだぞ。看病にきて倒れるとか、ばかみたいじゃないか」
「まぁ、僕の不注意だからね。ごめんね」
「謝るな。俺が悪いんだから」
浮竹が、唇をかみしめる。
「元々、倒れた俺のせいだ」
「違うよ、浮竹」
「何が違うんだ」
「僕が倒れたのは僕の不注意だから。泣かないで」
その時、始めて自分が涙を流しているのだと気づいた。
「なんで、涙なんて・・・・・・」
「ねぇ、泣かないで」
「分かっている」
病院服の襟で涙をぬぐって、浮竹はなんとか弱弱しい笑みを刻んだ。
「でも・・・・わざわざ看病しにきてくれて、ありがとう」
浮竹の言葉に、京楽もほっこりする。
「君が入院すると見舞ったり看病する癖がついちゃってるからね」
同じ病室でいることが、とても安心できた。
お互い、退院は明日になった。
次の日、すっかり元気になった浮竹と、調子のよくなった京楽は退院した。
「京楽隊長、看病しに来た方が倒れて入院なんて、笑い話にもなりませんよ。以後気をつけてくださいね」
「ああ、卯ノ花隊長、病室を同じにしてくれてありがとう。お陰で心を伝えあえたよ」
「京楽隊長は、献血してもらわねばなりませんから。早くもっと元気になってくださいね。浮竹隊長も、風邪には気をつけてください」
「卯ノ花隊長、世話になった」
浮竹と京楽は、手を繋ぎあいながら雨乾堂に戻った。
布団をしいて、体を重ねるわけでもなく、ただ抱き締めあいながら、横になった。
「君が肺炎になりかけてるって聞いて、傍から離れられなくなった」
「風邪をこじらせたせいだ。だが、今後は本当に気をつけてくれ。俺を看病して倒れるなんて、これっきりにしてくれ」
「分かってるよ」
唇を重ね合わせる。
それからしばらくごろごろして、二人で風呂に入った。
夕餉を食べて、一緒に床につく。
「こうやって、一緒に寝るのも久しぶりだね」
「ああ、そうだな。流石に体を重ね合わせる元気はまだないが」
「僕もだよ。まだちょっと疲れが残ってる」
二人で会話して、笑い合って、ふざけあって、そして眠りについた。
それ以降、京楽が浮竹の看病で倒れることはなかった。
浮竹が発作をおこして入院せず、雨乾堂に入る時は、京楽は泊まりこみの看病をするが、ちゃんと自分の休息も入れた。
浮竹にとって、京楽はアキレス腱でもある。
親友で恋人で。
京楽が倒れたと聞いたあの時は、本当に驚いたのだ。
浮竹が風邪をひいてこじらせ、熱を出すのもいつものことだが。京楽が看病にやってくることも、いつものことなのだ。
「俺は・・・・京楽を失うと、きっと発狂する」
「突然どうしたの」
「今の関係が永遠に続けばいいのに」
「大丈夫、ずっと続くよ」
きっと。
きっと・・・・・。
でも、それが永遠に続くことはなかった。
浮竹の死で、京楽は一人残され、涙を流すのだ。
「ああ、いいから寝てなさいな。40度の熱があるんだよ」
頭ががんがんと割れるように痛かった。
酷い眩暈がする。意識が朦朧としていたが、京楽が近くにいることだけは感じとれた。
風邪を悪化させた浮竹は、そのまま救護詰所で入院となった。
肺炎をおこしかけていたのだ。
点滴の管が痛々しかったが、浮竹が発作以外で入院するのは本当に久しぶりで、京楽も焦った。
看病を兼ねて訪れてみると、浮竹は高熱でうなされていた。
それなのに、京楽がきたら気づくのだ。
「傍に・・・・・いてくれ・・・・」
「ああ、いるとも」
ベッドの傍の椅子に座って、浮竹の手を握りしめる。
暖かな手。
力なく握り返してくる浮竹を思いながら、浮竹の病室のソファーで、京楽は眠った。
起きると、浮竹はまだ熱でうなされていた。
もうここ4日は熱が下がっていない。
京楽は、泊まりこみで浮竹の看病をした。
5日目。やっと、浮竹の熱が下がった。
卯ノ花が回道を何度もかけてのことだった。
肺炎にはならずにすんだ。
「京楽・・・・もしかして、ずっと看病していてくれたのか。一度、8番隊の隊舎に戻ったほうがいい」
「うん。それもそうだね。君の熱も下がったことだし、仕事片付けて、また夜にはくるよ」
まともな食事も睡眠もとれていないだろうに。
それでも、京楽は浮竹を優先する。
そんな京楽が倒れたと聞いて、浮竹が吃驚した。
「ただの寝不足と、軽い貧血ですね」
「まいったねぇ。僕まで病人になちゃった」
念のため1日の入院となった京楽は、卯ノ花の配慮で浮竹の病室にベッドが運び込まれて、二人で一部屋となった。
「京楽、お前はばかか。俺なんて看病して倒れて・・・・・」
「でも、本当に心配したんだよ。高熱が下がらないから」
「だからって、倒れるまで看病するやつがあるか。ちゃんと食事をして寝ろ」
「うん。今後気を付けるよ。今はもう、後の祭りだから」
「はぁ・・・・・・」
京楽も、点滴を打たれた。
「点滴、お揃いだね」
「こんなことでお揃いになっても嬉しくない」
「そうだね」
京楽は、少し困ったような顔をした。
「まさか、この僕が倒れるなんてねぇ。君を心配しすぎたのかな」
「そうだぞ。看病にきて倒れるとか、ばかみたいじゃないか」
「まぁ、僕の不注意だからね。ごめんね」
「謝るな。俺が悪いんだから」
浮竹が、唇をかみしめる。
「元々、倒れた俺のせいだ」
「違うよ、浮竹」
「何が違うんだ」
「僕が倒れたのは僕の不注意だから。泣かないで」
その時、始めて自分が涙を流しているのだと気づいた。
「なんで、涙なんて・・・・・・」
「ねぇ、泣かないで」
「分かっている」
病院服の襟で涙をぬぐって、浮竹はなんとか弱弱しい笑みを刻んだ。
「でも・・・・わざわざ看病しにきてくれて、ありがとう」
浮竹の言葉に、京楽もほっこりする。
「君が入院すると見舞ったり看病する癖がついちゃってるからね」
同じ病室でいることが、とても安心できた。
お互い、退院は明日になった。
次の日、すっかり元気になった浮竹と、調子のよくなった京楽は退院した。
「京楽隊長、看病しに来た方が倒れて入院なんて、笑い話にもなりませんよ。以後気をつけてくださいね」
「ああ、卯ノ花隊長、病室を同じにしてくれてありがとう。お陰で心を伝えあえたよ」
「京楽隊長は、献血してもらわねばなりませんから。早くもっと元気になってくださいね。浮竹隊長も、風邪には気をつけてください」
「卯ノ花隊長、世話になった」
浮竹と京楽は、手を繋ぎあいながら雨乾堂に戻った。
布団をしいて、体を重ねるわけでもなく、ただ抱き締めあいながら、横になった。
「君が肺炎になりかけてるって聞いて、傍から離れられなくなった」
「風邪をこじらせたせいだ。だが、今後は本当に気をつけてくれ。俺を看病して倒れるなんて、これっきりにしてくれ」
「分かってるよ」
唇を重ね合わせる。
それからしばらくごろごろして、二人で風呂に入った。
夕餉を食べて、一緒に床につく。
「こうやって、一緒に寝るのも久しぶりだね」
「ああ、そうだな。流石に体を重ね合わせる元気はまだないが」
「僕もだよ。まだちょっと疲れが残ってる」
二人で会話して、笑い合って、ふざけあって、そして眠りについた。
それ以降、京楽が浮竹の看病で倒れることはなかった。
浮竹が発作をおこして入院せず、雨乾堂に入る時は、京楽は泊まりこみの看病をするが、ちゃんと自分の休息も入れた。
浮竹にとって、京楽はアキレス腱でもある。
親友で恋人で。
京楽が倒れたと聞いたあの時は、本当に驚いたのだ。
浮竹が風邪をひいてこじらせ、熱を出すのもいつものことだが。京楽が看病にやってくることも、いつものことなのだ。
「俺は・・・・京楽を失うと、きっと発狂する」
「突然どうしたの」
「今の関係が永遠に続けばいいのに」
「大丈夫、ずっと続くよ」
きっと。
きっと・・・・・。
でも、それが永遠に続くことはなかった。
浮竹の死で、京楽は一人残され、涙を流すのだ。
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