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祓い屋京浮シリーズ15

禁忌の術を使って、不老になってから半月が経過した。

禁忌の反動か、一時は浄化の力が弱まったが、今は以前よりも浄化の力が強くなっていた。

「伴侶である水龍神である僕が、元の寿命を取り戻したからね。それを従えている君の力が増すのは、仕方のないことだよ」

「そうか。お前のせいか」

「ちゅん!!!」

禁忌の術を使ってから、京楽はさらに浮竹を求めるようになって、それに応じるのも半分くらいになっていた。

「ちゅんちゅん!!」

浮竹を欲しても、応えてくれない場合、京楽は文鳥姿になって飛び回り、浮竹を困らせた。

「しつこいぞ、今日はしない。おとつい、したばかりだろう」

「ちゅんちゅん!!」

「おとついから日にちが経ってるって?当たり前だろうが」

「ちゅん!」

「うるさい!」

がしっと、文鳥姿の京楽は浮竹の手に捕まって、羽をむしられる。

「ちゅん~~~~~」

「自業自得だ」

「ちゅん」

それでもしつこくちゅんちゅんと浮竹にまとわりついて、怒られて、呪符のはられた鳥かごに放り込まれた。

「ごめんなさい、もう言わないから、出してえええ」

文鳥の姿で人語をしゃべる。力を消費するが、そうしないといつまで経っても浮竹に鳥かごにに入れられっぱなしなので、謝った。

「分かればいい」

鳥かごから出されて、京楽は人型に戻ると、浮竹を抱きしめた。

「おい、京楽」

「これくらい、いいでしょ。抱きしめるくらい・・・・・・」

「仕方のないやつだ」

次の日、依頼が飛びこんできた。

浄化と水を司る水龍神が、穢れをふりまいているというのだ。

「僕の他にも水龍神はいるからね」

「血縁関係は?」

「ないわけじゃないと思うけど、多分遠いいとこだろうね」

「祓うしかないか」

「そうだね」

依頼された現地に到着すると、池の魚が全滅して水面にぷかぷか浮かんでいて、水そのものも濁って、穢れが発生していた。

「これは酷いね。早めに対処しないと、人にも被害が出るよ」

「京楽、元になっている水龍神の居場所は分かるか?」

「うん。強い穢れを感じる。穢れを司る禍津神の君といるせいかな。穢れに敏感になった」

「よし、じゃあその水龍神のところに行くぞ」

「あ、浄化の結界を僕と浮竹にはっておくよ。物凄い穢れだ・・・・禍津神の君ほどじゃあないけど」

池の近くに、洞窟があった。

そこに、穢れをふりまいている水龍神がいるらしい。

洞窟に近づくと、空気が淀んでいるのが分かり、生き物の気配がしない上に、周囲の草木は枯れていた。

浮竹と京楽は、結界を維持しながら洞窟に入った。

「誰ぞ。我が領域に踏み込み荒らすのは誰ぞ」

「俺は浮竹十四郎。術者だ。こっちは水龍神で俺の式である京楽春水。名も知らぬ水龍神よ、穢れをふりまく存在となってしまった以上、浄化する」

「京楽春水・・・ああ、あのかわいかった童(わらべ)か」

「京楽、知り合いか」

京楽が、目を見開く。

「君は・・・・狂い咲きの王に魅入られた僕の叔父じゃないか!」

「ふふふ・・・・その狂い咲きの王に見捨てられたのだ。百花夜行をする狂い咲きの王は、椿の化身。狂い咲きの王の大切にしていた椿を、私が不注意から枯らしてしまい、見捨てられた。ご丁寧に、穢れを刻印してくれた」

「狂い咲きの王・・・・花鬼(かき)や全ての植物のあやかしを束ねる王か」

「そうだ」

「狂い咲きの王をなんとかすれな、叔父上は助かるの?」

「いや、もう手遅れだ。穢れの刻印が、心臓にまで達している。このまま生きていると、穢れで周囲の生きとし生ける者を殺すだけだ」

浮竹が、首を横に振った。

「春水よ。私を浄化してくれ」

「叔父上・・・・・」

「せめて、春水、かわいがっていたお前の手で死にたい。どうせ死ぬのであれば」

「分かったよ・・・叔父上ごめん。最後にあがくよ」

京楽は、ありったけの力をこめて、自分の叔父である水龍神の体を浄化した。

「うわあああああああ」

浄化される痛みで、穢れの水龍神は暴れまくった。

「やっぱり、だめか。心臓にまで達していては・・・刻印が身に刻まれただけなら、なんとかなったのに。狂い咲の王・・・・絶対に、許さない」

「春水、このまま浄化してくれ」

「分かったよ、叔父上。いくよ、浮竹」

「ああ」

浮竹と京楽は、凄まじい穢れをふりまく水龍神を浄化すべく、浄化の力をためこむ。

そして、一気に放出した。

「さらばだ、春水、それに術者の人の子よ」

「叔父上、どうか安らかに。仇はとるから」

術の効果の光が消えると、そこには卵があった。

「卵?」

「俺も力があがったからな。浄化して、再生を与えた。卵から、お前の叔父はまた生まれる。ただ、意識は違った存在になって、お前の叔父が生き返るわけじゃあないが」

「十分だよ。叔父上が違う形であれ、また生まれてくるなら」

「水龍神にはなれないぞ。下位の龍だ」

「それでも、いいさ」

周囲の穢れは祓われて、空気は澄んでいるし、枯れていた草木は芽をだして成長し、魚が死んでいた池は死んでいた魚が蘇り、池は澄みきっていた。

「ねぇ、浮竹、君の再生能力、半端なものじゃなくなってない?いくら僕の再生能力も利用したとはいえ、死んでいる魚を生き返らせるなんて」

「その程度だ。魚や小動物が植物が穢れのせいで死んだのなら、蘇らせることもできるが、それ以上の存在になると蘇らせれない」



「いやいや、大したものだよ」

「誰だ!!!」

洞窟から出ると、そこには柔和な顔立ちの男がいた。

「私は狂い咲きの王。名は藍染」

「狂い咲きの王!叔父上の仇か!」

「あれは、死んでしまったのか。新しい椿が咲いたので、穢れの刻印を取り除いてやろうと思ってきたのだが・・・・これでは、君たちが殺してしまったようなものだな」

「な・・・・」

「京楽、離れろ。こいつ、強いぞ。禍津神の俺くらい強い」

「そんなに?」

京楽と浮竹は、狂い咲きの王から距離を取る。

「ふふふ、今は殺さないから安心したまえ。いつか、また」

「待て!!!何故、椿を枯らしたくらいで穢れの刻印を与えた!」

「それは、私が椿の狂い咲きの王だからだ。椿は私の化身でもある。化身を殺されて、怒らないほうが無理だろう?」

「それは・・・・・」

確かに、自分の化身を殺されたら、あやかしなら力も弱くなるし、命に関わることもある。

「では、いずれまた」

そう言って、椿の狂い咲きの王、藍染は椿の花を残して消えてしまった。

「椿の狂い咲きの王・・・・・百鬼夜行ならぬ、百花夜行を支配する植物のあやかしの頂点に君臨する王・・・・・・・」

「京楽?」

「あ、ごめん、浮竹。ちょっといろいろ考えてた」

「もしも、俺たちに立ちはだかるようであれば、全力をもって封印しよう」

「うん、そうだね」

禍津神の浮竹ほどの力があるというが、力の増した今なら、二人がかりで全力を出せば倒せる気がした。

ただ、植物の頂点に君臨するので、殺すと植物そのものが枯れてしまう可能性が高いので、封印という形になるだろう。

「百花夜行か・・・・一度、見てみるか」

その日から、満月になった数日後、百花夜行が行われていた。

月に一度、満月の夜に植物のあやかしやそれに関係するあやかしたちが集い、酒を飲みながら練り歩く。

その最後尾に、藍染はいた。

「見学かい?」

気配を完全に殺していたのに気づかれて、浮竹と京楽は姿を現した。

「どうだい、私の子供たちは。皆美しいだろう」

見目麗しい花鬼(かき)が中心となって、百花夜行は続く。

「京楽春水、私の元にこないか。浄化と再生の力が欲しい」

「京楽、惑わされるな。こんな男の元に行くなよ!」

「言われなくても、浮竹の傍を離れないよ!」

「そうか。じゃあ、浮竹、君が僕の元にくれば・・・・」

藍染は、凄まじい洗脳を浮竹にかけるが、浮竹はそれをなんとか結界で破った。

「俺は術者だ。王とはいえ、あやかしの下につく気はない」

「それは残念だ。京楽、君の叔父上は簡単に私の洗脳にかかったのだけれど、君はそう簡単には洗脳されてはくれないのだろうね」

「当たり前だよ!」

百花夜行はまだ続く。

藍染は、笑い声をあげながら、百花夜行の最後を歩いていくのだった。



「ねぇ、浮竹」

「なんだ」

「きっと、いずれあいつは僕たちの前に立ちふさがる。その時は、封印しよう。力の全てをかけて」

「ああ」

京楽の叔父である、水龍神の卵を持ち帰っていたのだが、それが孵化して、龍の幼体が生まれてきた。

「にゃあああ」

はずなのだが、なぜか猫だった。

「水龍神の眷属の卵なのに、何故に猫なんだ」

「な~お」

「何、マオ、お前のせいか!」

「な~」

なんでも、猫の式神のマオが温め続けていたせいで、マオの霊力に染まってしまって、猫が生まれてきたらしい。

「まぁいい。新しい式にしよう。名前は・・・京楽、お前の叔父の名はなんだ」

「京楽烈火」

「じゃあ、今日からお前はレツだ」

「にゃあああ」

子猫だが、すでに京楽を狙っている。

「ちょっと、この子、文鳥姿になったら絶対マオみたいに襲ってくるよ!」

「まぁ、がんばれ」

「浮竹のばか~~~~」

浮竹に文鳥姿にされて、マオとレツは嬉しそうに文鳥姿の京楽に襲いかかる。

「ちゅんちゅん!!(食われてなるものか!)」

京楽は羽ばたいて、専用の鳥かごに入ると、マオとレツが諦めるまで、鳥かごの中でチュンチュンと鳴いて、浮竹のバカバカと連呼して、夕飯抜きの刑になるのであった。





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