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祓い屋京浮シリーズ17

その昔、京楽には友達がいなかった。

水龍神の次男として生まれ、水龍神として育てられ生きてきた。

高貴な者たちに囲まれて、ちっぽけで寂しい人生を送っていた。

ある日、いつも遊びに出かける湖で出会った水虎(すいこ)がはじめての友達となった。

水虎は人の生気を吸って生きる。

その水虎は、魚の生気を分けてもらい、ひっそりとちっぽけで寂しい人生を送っていた。

孤独な者同士惹かれあい、親友になっていた。

その水虎の名前は風流(かる)

風流は、暇を持て余した京楽が来るたびに相手をしてくれて、湖の中で呼吸する術を二人は知っていたので、よく澄んだ湖に潜り、遊んだ。

魚釣りをしたりして、それを焼いて夕飯にして、京楽は家に帰らずに、風流の家に泊まったりもした。

風流は両親が産み落として放置していたのを、哀れに思った近くの村人が育ててくれた。

生気を吸うというのが分かり、育ててくれた人が早くに亡くなったので、風流のせいにされて退治されそうになったのを、逃げ出して湖の洞穴に住むようになった。

食事は生気だ。魚の生気をたくさんの魚から分けてもらい、生きてきた。

風流を育ててくれた恩人は、風流が知らない間に子供の頃に生気を吸ってしまい、早くに亡くなった事実を知って、風流は人との関わりを絶ち、あやかしの世界で生きた。

そのあやかしの中に、京楽という高貴な変り者がいて、その京楽はときに生気を分けてくれた。

魚の生気だけではどうしようもない時がたまに訪れる。

その時は、釣った魚と引き換えに、水龍神の一族に少しだけ生気を分けてもらっていた。

ある日、水虎の風流が消えて10年が経ち、20年が経ち、30年が経った。

京楽は浮竹と出会い、浮竹を伴侶として式になることを受諾した。

風流のことを忘れたことは、一度もなかった。

人や術者に退治されたとは聞かないから、どこか遠い土地で生きているのだと信じていた。

「水虎(すいこ)の退治依頼がきた。場所はお前の生まれ育った湖の近く。人の生気を食いつくして、もう10人も殺しているらしい。名があり、名は風流(かる)というらしい」

「水虎の風流だって!何かの間違いじゃないの!その子、僕の親友だった子だよ。今から40年ほど前のことだけど」

あやかしの寿命は長い。

種族によっては、40年など子供の時代と言ってもいい。

「お前の親友でも、ことは急を要する。今から発つぞ。明日には、お前の生まれ故郷の湖につく」

海燕をドライバーにして、車で移動した。

浮竹は車の中で仮眠していたが、京楽は信じられないと眠れないでいた。

あの、明るくて優しい風流が、人の生気を吸うとしても、吸い付き殺すまでするとは考えられなかった。

湖につくと、京楽の一族が顔を出した。

「春水、戻ってくる気になったのですか」

「違います、母上。友達の水虎が人を襲っているので、それを止めにきただけです。僕は浮竹の式であり、もう湖の守護者ではありません」

それだけ言って、京楽は水龍神の一族の住む城をあとにした。浮竹は、水龍神を式にしているので、安全な結界をはった車の中で待ってもらっていた。

「大丈夫だったか?」

「うーん。母上や兄上は、顔を真っ赤にして怒ってたけどね。人間の支配下にいるなんて、プライドがないのかとか言われた」

去り際に投げかけられた言葉を、思い出す。

肉親よりも、伴侶して愛する者をとっただけの話である。

「じゃあ、水虎の最新の被害が出た村に行くぞ」

「うん」

海燕は寝ていない。その気になれば寝る必要などないのだ。

何故なら、浮竹の式だからだ。

同じく、京楽も寝る必要はないのだが、浮竹の生活に合わせて眠ることを覚えてから、よく昼寝とかしていた。

「着きました」

海燕が、車のドアを開く。

浮竹がまず降りて、次に京楽が降りた。

「まずは、聞き込みだ」

被害者の家族や、他の村人たちに聞いてまわっても、水虎の風流が出て生気をとっていったの一点張りで、思うような収穫は得られなかったが、一人の村人が重要なことを話してくれた。

「風流には、伴侶と子供がいるそうなんです。多分、どっちかが死にかけてる。だから、大量の生気を奪っていく」

「ありがとう。戸締りをしっかりして、夜は外に出ないように」

「はい。高名な術者さんだとお聞きしました。どうか、風流とその一家を殺してください」

京楽は、身を切る思いだった。

かつての親友を、この手にかけないといけない。

「マオ、レツ、この式を湖の周囲に置いてきてくれ。監視役にする。風流は湖の中に住んでいるようだ。陸にあがったところを、叩く」

「ちょっと待って、浮竹。風流は僕の親友なんだ。昔は魚の生気をもらって、細々と生きていたんだ。人を襲うはずが・・・・・」

「どれだけ昔の話だ」

「よ、四十年前・・・・・」

「人は変わる。同じように、あやかしも変わる」

「そうだけど・・・・」

「今回は死者が多すぎる。話し合いはなしだ」

「浮竹・・・・」

京楽は、自分の力のなさに歯がゆさを覚えた。

村に2日滞在した日の夜、湖のほとりに風流が出た。式が警戒音を鳴らして知らせてくれた。

「行くぞ、京楽!」

「あ、うん」

風流が現れた場所に行くと、ちょうど若い娘から生気を吸い取っている風流がいた。

「水虎の風流だな。人を殺し過ぎた報いだ。滅べ」

「ちょっと待って!風流、僕だよ。分かるかい?京楽春水だよ。ねぇ、風流、なんでこんなことを・・・・・・・」

「ああ、そんな親友のふりをしていたやつもいたな。俺が人に捕まってどんな目にあったのかも知らないくせに。俺の子が死にそうなんだ。生気が欲しい。その術者と春水、お前たちは村人とは比較にならないほどの生気を漲らせている。もらうぞ!」

生気をいきなり吸われて、怯んだ浮竹を押し倒して、更に生気を吸おうとしている風流に向かって、京楽は浄化の炎で、風流を包み込んだ。

「うぎゃあああああああ!!!」

「風流・・・・優しかったあのころの君は、もういないんだね。浮竹に手を出す者は、たとえ親友であっても容赦はしない!滅びよ!」

「娘と妻を、見逃してやってくれ。どうか、退治は俺だけに・・・・・」

「無理な相談だ。風虎は全て駆除する。それだけの数の人を、お前は殺した」

「自業自得というやつか。水龍神という恵まれた種族に生まれたお前が羨ましい、春水」

「風流!」

浄化の炎が弱まる。それを、浮竹が力を注いで風流を青白い炎で包み込み、この世から消滅させる。

「せめて、娘と妻だけは・・・・・・・」

そう言い残して、風流は死んでいった。

「京楽」

「今は、そっとしておいて」


翌日、風流を退治したとして、二人は丁重に村で迎えられた。

「まだ、風流の妻と娘がいる。水虎だ。また人を襲うかもしれない。追加料金はいらないので、退治にとりかかる。船を出してくれる人が欲しい」

「あ、それなら俺が出します。半年前にかったボートでよければ」

「それで十分だ。京楽、分かっているな?」

「・・・うん。僕の力で、湖の風流の家族のいる位置の湖の水をよけさせて、泳げなくなっている間に叩く」

「そうだ。行くぞ」

「うん」

覚悟を決めた後楽は、浮竹が探知した風流と同じ水虎のいる場所の湖の水をなくして、まだ幼い病気で弱っている水虎の風流の娘と、それを必死で守ろうとする妻を、容赦なく二人は浄化した。


「この度は、本当にありがとうございます。お陰で、もう死者が出ることはないでしょう。報酬金は、遺族の方も敵討ちをしてくれたと出してくださいまして、1千万ほどになります」

「ありがたく、いただいておく。また、何かあやかしや霊関係で、トラブルがあったら言ってくれ。格安料金で仕事を引き受けよう」

「そちらの連れのお方、顔色が悪いようですが・・・・・」

「構わないでくれ。海燕、出してくれ」

車に乗り込み、浮竹と京楽は京楽の生まれ故郷を後にする。

「僕は・・・自分が情けない。親友一人救えない」

「でも、俺を助けてくれただろう」

「当たり前でしょ!君は僕のもので、僕の伴侶だよ。傷つける者は、例え肉親でも容赦しない」

「ああ。お前の選択は、間違っていない。10人も死んだんだ。滅んでも仕方ない」

「うん・・・・・・」

「ほら、膝をかしてやる。泣きたいなら、泣け」

「ちゅん!!!」

人の姿で泣くのは恥ずかしいので、小鳥の姿になって、京楽は涙を流した。

「ちゅんちゅん。ちゅん~~~」

「ああ、お前はよくやった。よく我慢した」

「ちゅん」

「帰ろう。家に。そして深く眠れ。つらいなら、記憶を俺が消してやろう」

「ちゅんちゅんん(記憶は消さないで。風流と過ごした大切な思い出もあるから)」

「そうか。じゃあ、今はただ眠れ」

「ちゅん(うん)」


風流の件は、京楽の心に深い傷を残した。

それを取り除いてやるのは、浮竹しかいない。浮竹が笑うだけで、そんな嫌な記憶が薄らいていく。

浮竹が怒るだけで、愛しさが溢れてくる。



「君は、僕の太陽だ・・・・・・・・」

「変なやつ」

京楽の身を焦がす愛を受け止めつつ、浮竹は静かに目を閉じるのだった。

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