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祓い屋京浮シリーズ23

「禍津神の浮竹がいなくなった?」

『うん。朝起きると、十四郎がいないんだ。気配を探してもいないし・・・』

「禍津神の浮竹なら、ゲストルームで「鳥臭い」と言いながら、式の京楽の羽で作った羽毛布団にくるまって寝ているぞ?」
 
『ええ、センパイの家におしかけたの!?』

「押しかけたっていうか、朝になると扉の外で寝てた。喧嘩でもしたのか?」

『ううん、ちょっと、その、夜の営みを・・・・・』

術者の京楽は口ごもる。

「ああ、拒絶されたのか。それをしつこくしようとして、逃げられたんだな」

『しつこくなんてしてないよ!』

「式の俺は欲求には素直だが、食い気が多いからな。腹をすかせていたようだったし、俺の家のゲストルームで寝る前にカニ鍋食べてたしな」

『またカニ鍋・・・・・』

「はまってるんだそうだ。毎日カニ鍋なんだろう、そっち」

『お察しの通りで・・・・栄養バランスが崩れるから、だめっていったら涙浮かべられるものだから、つい・・・・』

術者の浮竹は溜息をついた。

「あんまり、甘やかすなよ?たまにはムチも必要だ。アメばかりだと、だめになる」

『分かってはいるんだけどねぇ』

「浮竹おはよー」

「おはよう」

式の京楽が起きてきた。

「なんか、朝に禍津神の浮竹が家の外で寝っ転がってたけど、喧嘩でもしたの?」

『いや、なんていうか』

再び説明するのが恥ずかしくて、術者の京楽は黙り込む。

「カニ鍋を食べにきたけど、眠くなって寝ていただけだ」

術者の浮竹が助け舟を出した。

「またカニ鍋ぇ?禍津神の浮竹がくる度にカニ鍋でしょ。たまには違うのが食べたい」

「じゃあ、今日は松阪牛のシャトーブリアンのステーキにしよう」

「わお、豪華だね!」

「たまには肉を食いたくなるしな。どうせなら、一級品を食べよう。両親が富豪だったせいで、金は腐るほどあるからな。その上で術者をして、依頼料だけでもかなり貯まってるし」

『うわお、お金持ち―』

「そういう術者の京楽も、そこそこ金はあるだろう?」

『あるけど、禍津神様のせいでかなり減ってきてる』

3人は、溜息をついた。

「あのブラックホールをなんとかしない限り、食事代で依頼料も消えるな」

『でも、禍津神様は・・・十四郎は食べるのが好きだから』

「まぁ、気軽にいつでも今まで通り、夕飯を食べにくるといい。朝食でも昼食でもいいぞ。なんなら、夜食だって・・・・」

『それは本当か!?』

起きてきた禍津神の浮竹は、目をキラキラさせながら、術者の己を見ていた。

「俺たちが起きていない時は、ルキアと海燕に言えば、食事を用意できるように手配しておく」

「ちょっと、浮竹、アメとムチでアメが多すぎるよ」

「はっ。あの瞳で見られると、つい・・・・・」

「失礼します。依頼者の方がお見えです」

ルキアが、そう言って入ってきた。

「ああ、通してくれ。京楽、リビングルームに移動するぞ」

客人である、術者の京楽と禍津神の浮竹は、ゲストルームに引っ込んだ。

「のっぺらぼうが出るんです!ただ出るだけならいいけど、顔が欲しいと、人の顔の皮をはいでいくんです!もう被害者が5人も出ていて、みんな顔の皮をはがれて、重症です」

「のっぺらぼうは、普通顔を欲しがらないんだがな」

「ですが、事実顔の皮をはいでいまして。被害者が言うには、「顔が欲しい、顔をよこせ」と言って、逃げても追いかけ続けて、顔の皮をはがれてしまうんです」

「退治するしかないな。この件、引き受けよう」

「大丈夫、浮竹?自分を囮にする気でしょ」

「依頼を受けてくださり、ありがとうござます。前払いで200万・・・どうか、のっぺらぼうを退治してください」

「分かった。京楽、俺も水龍神になったんだ。たとえ、顔の皮をはがれてもすぐ癒しの力で再生できる」

依頼人は、ぺこぺこと何回もお辞儀をして、出ていった。

「さて、のっぺらぼう退治といくか」

『話は聞こえてたぞ!おもしろそうだな、俺も・・・もがー』

『だめだよ、十四郎。これは遊びじゃないんだから。センパイの仕事の邪魔、しちゃだめだよ』

「今回は、俺たちで当たる。禍津神の俺、留守番を頼む」

『カニ鍋してもいいか?』

「好きにしてくれ」



こうして、術者の浮竹と式の京楽は、のっぺらぼう退治に乗り出した。

「ここが、依頼のあった村だ」

海燕に車を運転してもらい、依頼があって被害の出ている村にやってきた。

近くには大きな病院があって、被害者から話を聞いた。

いわく、仕事の帰りに背後から忍び寄って脅かされて、逃げようとすると顔が欲しい、顔をよこせと、顔を皮を無理やりはがれるらしい。

被害者は皆見目麗しい男性で、若かった。

「俺が囮になろう」

生きたま皮をはがされる痛みは、想像を絶するが、浮竹は自分が囮になると言って聞かなかった。

「ねえ、やっぱり僕が囮になるよ」

「俺のほうが、弱そうに見える。髭の生えたお前より、髯のない若い男の顔を好むようだし、自分で言うのもなんだが、顔立ちは整っているほうだ。まだぎりぎり若いし・・・・」

浮竹は、仕事帰りを装って、被害者が出た道を歩いていく。

その上を、空から桜文鳥姿で、違和感がないように、京楽が飛んでついていく。

2日は収穫がなかったが、3日目の夜にのっぺらぼうが出た。

「顔が欲しい。顔をよこせ」

「出たな、のっぺらぼう!お前の悪事もここまでだ。退治する!」

「おのれ、術者か!関係ない、顔をいただくぞ!」

「うっ!」

浮竹は、顔の皮をはがれてしまった。

顔面が血まみれになるが、癒しの力で再生させて、のっぺらぼうが消える前に、その体に式を放つ。

「ぎゃあああああ、顔が、せっかく得た顔が燃えるうううう」

浄化の炎の式札は、のっぺらぼうの顔を焼いた。

浮竹の顔をしていたので、文鳥姿から人型に戻った京楽は、愛する者の顔の皮を奪ったのっぺらぼうが許せなくて、わざとじわりじわりとその身を、最近夜刀神でもある術者の京楽から教えてもらった破壊の力で、焼いていった。

「よくも僕の浮竹を傷つけたね」

「顔が、私の美しい顔が!」

「お前は醜い。どんなに美しい顔の皮をはいだって、それは本当の顔じゃない。のっぺらぼうには顔はないんだから、皮を被ったところで腐ってしまうのがおちだ」

顔の皮をはがされたとは思えない浮竹の言葉に、京楽も頷く。

「浮竹を傷つけた報いだ。被害者たちの分もある。苦しみながら死ぬといい」

京楽は、破壊の力で混沌の炎を生み出し、のっぺらぼうの全身を焼いた。

じわり、じわりと全身を焼かれて、のっぺらぼうが叫ぶ。

「退治するなら、一思いに殺してくれ!痛い、痛い、熱い、熱い!」

「お前がしでかしたことの報いだ。焼け焦げで死んでしまえ」

やっと全身を焼かれて、のっぺらぼうは灰となった。

「浮竹、顔は!?」

「再生させたが?」

「傷跡とかない!?」

「だから、完全に再生させた。俺の再生能力は、お前が知っているだろう」

「それはそうだけど、愛しい人が顔の皮をはがされるなんて、心臓に悪いよ」

「まさかいきなり顔の皮をはがされるなんて思っていなかったからな。まぁ、退治できたし、結果オーライだろ」

「オーライじゃないよ。痛かったでしょ?」

「この程度の痛み、気絶するほどのものじゃない」

「被害者たちは、あまりの痛みに失禁したり気絶したって言ってたけど?」

「俺も今やあやかしだ。痛みに強くなった」

「そう。もう、無茶はしないでね!心臓が止まるかと思った」

「ああ、悪い。心配をかけた。さて依頼主のところに行く前に、被害者たちの傷を癒していこう」

「うん、そうだね」

浄化と再生・・・・癒しを司る水龍神の二人にかかると、顔の皮をはがされた被害者は元の姿にすぐに戻った。

謝礼金をいただいて、その足で依頼者の家にいく。

「被害者の傷まで癒してくれたそうで・・・・被害者の中に俺の兄がいたんです。ありがとうございました。これ、追加の報酬金です」

「ありがたく、いただいておく」

術者は、命をかける仕事だ。

危険な場所に乗り込んで、あやかしを退治したり封印したりする。

「もう、のっぺらぼうは出ませんよね?」

「完全に灰にしたからな。もう出ないはずだ」

そんなやりとりを、遠くから見ている影があった。



「ほお。顔の皮をはがされても、怯むこともないか・・・・・・」

椿の狂い咲きの王であった。


見られているとも知らず、二人は帰路につく。

「神となったその力・・・・私は欲しい」

そう言って、椿の花を残して、狂い咲きの王は消えてしまった。



「ただいま」

『おかえり~』

すっかり、住民と化してしまった禍津神の浮竹が、出迎えてくれた。

『カニ鍋は卒業したぞ!今は松阪牛のステーキにはまってる!』

「そうか。まぁ、好きなように食べるといい」

『ちょっと、センパイどうしたの。顔の皮、再生したね?』

目ざとい術者の京楽に、術者の浮竹は苦笑いを浮かべた。

「ちょっと、のっぺらぼうに顔の皮を奪われてな」

『な、痛かったでしょ!大変じゃない!』

『何、やられたのか!傷は!』

「はいはい、二人とも落ち着いて。浮竹は水龍神となったことで癒しの力が倍くらい強まってるから、大丈夫だよ」

『桜文鳥がついていながら、傷を負わせたのか』

「それには面目もございません・・・・・」

『傷跡が残っていなくても、痛みはあっただろう。かわいそうに』

禍津神の浮竹は、術者の浮竹の頭を撫でた。

「こそばゆい」

術者の浮竹は、式の己の頭を撫で返した。

こうやって仲良くしていると、少し年の離れた兄弟にしか見えない。

「眼福ですな」

『そうだね』

「お腹へった。俺も、松阪牛のステーキ食べる。おい、海燕、食事の用意をしてくれ」

「主の望むままに・・・・・・」

ルキアは、黒崎一護と出かけており、屋敷にいる人型の式は京楽と海燕しかいなかった。

海燕は料理の心得もあるので、式の京楽が料理をしない時は、ルキアと一緒になって術者の浮竹の食事の準備をした。ついでに自分たちと式の京楽の分も。

術者の浮竹の式たちは、人並みに欲を持っていた。

だから、おなかもすかせる。

食べなくても生きていけるが、主である浮竹が自由意思を尊重しているため、食事と睡眠はきっちりととるようにしていた。

「松阪牛のシャトーブリアンのステーキです」

「お、うまそうだな」

『俺も食べたい』

『こら、十四郎はさっき食べたばかりでしょ』

「京楽、お前も食え」

「ああ、うん・・・・・」

式の京楽は、椿の狂い咲の王の視線に実は気づいていたのだが、何も言わなかった。

相手の企みが何かすら分からないのだ。

のっぺらぼうをわざとけしかけたわけでもないようなので、ただ周囲にもう椿の狂い咲の王の気配がないかを探知する。

「食べないなら、禍津神の俺にやるぞ」

「あ、食べるから!!!」

式の京楽のステーキは、半分は禍津神の胃に消えてしまうのであった。



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