祓い屋京浮シリーズ26
鬼蜘蛛。
上半身が鬼で、下半身が蜘蛛のあやかしであった。
普通は人のいる場所に現れず、巣を作って蜘蛛の糸で、動物や他の妖怪がかかるのを待ち、食べる。
人は襲わないわけではなく、人を襲うと退治されてしまうと知っているので、人が自分の巣にかかると食い殺さずに逃がした。
そんな鬼蜘蛛が、人の多い街に現れて巣を作った。
無論人がかかり、その鬼蜘蛛は人を食べた。
それだけでも厄介なのに、その鬼蜘蛛は、食べた人の姿をとるのだという。
すぐに依頼が舞い込んできた。
鬼蜘蛛に妹を食い殺された兄からの依頼だった。
「鬼蜘蛛を退治してください!妹が食い殺されたあげく、妹の姿をとって、人を巣に近づけて襲って食べるんです!」
「要件は分かった。すぐに退治に趣こう。街で巣を作るなんて異常だ。術者に退治してくれと言っているようなものだ」
「お願いします」
「ねぇ、浮竹。鬼蜘蛛ってけっこうパワーのある妖怪だよ。大丈夫?」
「俺が危うくなったら、お前が助けてくれるだろう?」
耳元で囁くと、京楽は自分の胸を叩いた。
「君のピンチには、僕がいるからね!大船に乗ったつもりでいてよ!」
水龍神化した浮竹は、神でもあるため、あやかしになど食われないだろうが、用心するにこしたことはない。
依頼者の後を追って、街に向かい、鬼蜘蛛が巣をはっている場所を教えてもらった。
「もう、妹の姿をとっていないかもしれません。食った人間に自由に変化できるので」
「厄介だねぇ」
「そうだな」
式のマオとレツを放ち、巣に誰もかかっていないことを確認すると、浮竹と京楽は巣に青白い炎を放った。
「あーんあーん」
子供の泣き声がして、浮竹が走り寄る。
「しっかりしろ!今、助けてやるからな」
蜘蛛の巣の端っこに、マオとレツを放った後で、子供が巣にひっかかった。
「あーんあーん。食わせろおおお」
子供は、ばりばりと音をたてて元の鬼蜘蛛の姿に戻ると、浮竹の肩に噛みついた。
「ぐげげげ、なんだこの血は!体が焼けるううう」
血しぶきをあげて、浮竹がよろめく。
京楽はすぐに浮竹の肩の傷を再生させて、浮竹の体を受け止めた。
「俺の血は、神聖なものらしい。水龍神だからな。それより、子供を食ったのか!」
「ぎぎゃぎゃ。子供は、そうだなぁ、三人くらい食ったなぁ」
「被害者の数は不明だが、十人はこしていそうだな。京楽、刀を」
浮竹が、京楽のためだけに与えた、霊刀を京楽は抜き放つ。
浄化の力できらきら虹色に輝いていた。
「試し斬りには、いい相手だね」
「俺の霊力の全てを一度こめてある。鬼蜘蛛程度なら、紙のように切れるだろう」
「ギャギャギャ!俺に食い殺されろ!白い長い髪のお前、外見が気に入った。食ったら、お前の姿になろう」
「そんな浮竹はご免だよ。食わせる気もないし、傷つけた報いは受けてもらわないとね!」
京楽は、霊刀で鬼蜘蛛の下半身の足を切り飛ばす。
「痛い、痛い!」
「被害者の人間も痛がっていただろう。それを、お前は食った。人を食うあやかしは放置できない。滅せよ!」
浮竹が霊力で五芒星を描き、その中心に京楽が立つ。
霊刀が、血のように真紅に輝いた。
「人生にさよならはできたかい、鬼蜘蛛。じゃあね」
「ぎゃああああああああああ」
全ての足を切り飛ばされて、胴体と下半身に切り分けられた鬼蜘蛛は、上半身だけで逃げようとする。
血が、瘴気となって辺りに漂う。
「この程度の瘴気、なんてことはない。滅べ」
浮竹は、霊力でできた弓で矢を放った。
「ぎいやあああああ!!」
それは上半身だけになった鬼蜘蛛の額にささり、鬼蜘蛛の上半身を浄化の炎が青白く燃え上がる。
「ねぇ、この霊刀に名前つけていい?」
「好きにしろ。巣を全て焼き払うぞ」
「君の力で真紅に輝くから、「シンク」がいいな」
「シンクか。悪くない」
鬼蜘蛛の残った下半身と巣を浄化の炎で焼いていくと、建物の奥に蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされら物体があった。
静かだが、呼吸をしていた。
「生存者か!後で食おうとしていたんだろうな。今、助けるからな!」
ばりばりと、糸をはがされてでてきたのは、鬼蜘蛛の子供だった。
「お兄ちゃん、だあれ?」
まだあどけなさを残す、上半身は人の姿をかろうじで保っていた。
鬼蜘蛛になりきる前の、幼体であった。
「かわいそうだが、ここで処分する」
「母様はどこ。人の肉を早く食べたい。お兄ちゃんが、今日のえさ?」
「シンク、頼むよ!」
シンクと名付けられた霊刀は、幼体の鬼蜘蛛の首をはねた。
ころころころ・・・・。
転がってきた首を、浮竹が焼いていく。
「アハハハ。これで、ボクを殺したつもり?」
灰となったはずの鬼蜘蛛の幼体が、再生していく。
「どういうことだ!」
「浮竹、気をつけて!シンク、結界だ」
結界をはって、濃い瘴気を漂わせる鬼蜘蛛の幼体から離れた。
「ふふふ、人を食ったのはボクさ。母上は、捕まえただけ。食った人の姿に化けると、人は面白いように罠にかかる」
「京楽、そのまま結界の維持を。俺が片を付ける」
浮竹は、浄化ではなく破壊の炎を手の平に生み出す。それを、左手で生み出した浄化の炎を混ぜ合わせた。
すると、小さなブラックホールができた。
「永遠に、苦しむがいい。人を食い殺し続けた、罰だ」
「嫌だ、ボクはもっと人を食って、力をつけて、この世を支配・・・・・・・」
「名も知らぬ鬼蜘蛛よ、さらばだ」
浮竹は、生まれたブラックホールを鬼蜘蛛の幼体に投げた。
「いやだ、ボクはもッと生きて人を食うんだあああ」
鬼蜘蛛の幼体は、ブラックホールに飲みこまれていなくなってしまった。
周囲の瘴気も吸いとり、更には建物まで吸い込もうとする。
「浮竹、力が過剰だよ。抑えて」
「ああ、分かっている。強力な術だが、少し強力すぎるか・・・・・」
ブラックホールを閉じて、浮竹は結界を解いた京楽に近寄り、シンクに吸い込んだ鬼蜘蛛の妖力を分け与えた。
「この霊刀は進化する。京楽の力と、屠った獲物と、分け与えられた力で」
「うわお。すごい刀だね」
「大切にしろよ。俺の出せる全霊力を注ぎ込んだ一品だからな」
「うん。大切にするよ。毎日手入れする」
「さて、鬼蜘蛛の件は片付いた。依頼者に報告しよう」
「うん、そうだね」
神の名を冠する二人にとって、鬼蜘蛛は脅威ではないが、隙を見せたら傷を負う可能性もある相手だった。
実際、浮竹は肩を怪我した。
「君を傷つける者は、僕とシンクが容赦しない」
「俺がやられても、正気を保っていろよ」
「縁起でもないこと言わないでよ」
「ふふ。帰ろうか」
「そうだね。帰ろう」
依頼者に報告し、依頼料をもらって家に帰る。
鬼蜘蛛に限らず、最近あやかしが活発化してきていた。
さてはて、次の依頼は何か。
浮竹と京楽は、束の間の穏やかな時間を過ごすのだった。
上半身が鬼で、下半身が蜘蛛のあやかしであった。
普通は人のいる場所に現れず、巣を作って蜘蛛の糸で、動物や他の妖怪がかかるのを待ち、食べる。
人は襲わないわけではなく、人を襲うと退治されてしまうと知っているので、人が自分の巣にかかると食い殺さずに逃がした。
そんな鬼蜘蛛が、人の多い街に現れて巣を作った。
無論人がかかり、その鬼蜘蛛は人を食べた。
それだけでも厄介なのに、その鬼蜘蛛は、食べた人の姿をとるのだという。
すぐに依頼が舞い込んできた。
鬼蜘蛛に妹を食い殺された兄からの依頼だった。
「鬼蜘蛛を退治してください!妹が食い殺されたあげく、妹の姿をとって、人を巣に近づけて襲って食べるんです!」
「要件は分かった。すぐに退治に趣こう。街で巣を作るなんて異常だ。術者に退治してくれと言っているようなものだ」
「お願いします」
「ねぇ、浮竹。鬼蜘蛛ってけっこうパワーのある妖怪だよ。大丈夫?」
「俺が危うくなったら、お前が助けてくれるだろう?」
耳元で囁くと、京楽は自分の胸を叩いた。
「君のピンチには、僕がいるからね!大船に乗ったつもりでいてよ!」
水龍神化した浮竹は、神でもあるため、あやかしになど食われないだろうが、用心するにこしたことはない。
依頼者の後を追って、街に向かい、鬼蜘蛛が巣をはっている場所を教えてもらった。
「もう、妹の姿をとっていないかもしれません。食った人間に自由に変化できるので」
「厄介だねぇ」
「そうだな」
式のマオとレツを放ち、巣に誰もかかっていないことを確認すると、浮竹と京楽は巣に青白い炎を放った。
「あーんあーん」
子供の泣き声がして、浮竹が走り寄る。
「しっかりしろ!今、助けてやるからな」
蜘蛛の巣の端っこに、マオとレツを放った後で、子供が巣にひっかかった。
「あーんあーん。食わせろおおお」
子供は、ばりばりと音をたてて元の鬼蜘蛛の姿に戻ると、浮竹の肩に噛みついた。
「ぐげげげ、なんだこの血は!体が焼けるううう」
血しぶきをあげて、浮竹がよろめく。
京楽はすぐに浮竹の肩の傷を再生させて、浮竹の体を受け止めた。
「俺の血は、神聖なものらしい。水龍神だからな。それより、子供を食ったのか!」
「ぎぎゃぎゃ。子供は、そうだなぁ、三人くらい食ったなぁ」
「被害者の数は不明だが、十人はこしていそうだな。京楽、刀を」
浮竹が、京楽のためだけに与えた、霊刀を京楽は抜き放つ。
浄化の力できらきら虹色に輝いていた。
「試し斬りには、いい相手だね」
「俺の霊力の全てを一度こめてある。鬼蜘蛛程度なら、紙のように切れるだろう」
「ギャギャギャ!俺に食い殺されろ!白い長い髪のお前、外見が気に入った。食ったら、お前の姿になろう」
「そんな浮竹はご免だよ。食わせる気もないし、傷つけた報いは受けてもらわないとね!」
京楽は、霊刀で鬼蜘蛛の下半身の足を切り飛ばす。
「痛い、痛い!」
「被害者の人間も痛がっていただろう。それを、お前は食った。人を食うあやかしは放置できない。滅せよ!」
浮竹が霊力で五芒星を描き、その中心に京楽が立つ。
霊刀が、血のように真紅に輝いた。
「人生にさよならはできたかい、鬼蜘蛛。じゃあね」
「ぎゃああああああああああ」
全ての足を切り飛ばされて、胴体と下半身に切り分けられた鬼蜘蛛は、上半身だけで逃げようとする。
血が、瘴気となって辺りに漂う。
「この程度の瘴気、なんてことはない。滅べ」
浮竹は、霊力でできた弓で矢を放った。
「ぎいやあああああ!!」
それは上半身だけになった鬼蜘蛛の額にささり、鬼蜘蛛の上半身を浄化の炎が青白く燃え上がる。
「ねぇ、この霊刀に名前つけていい?」
「好きにしろ。巣を全て焼き払うぞ」
「君の力で真紅に輝くから、「シンク」がいいな」
「シンクか。悪くない」
鬼蜘蛛の残った下半身と巣を浄化の炎で焼いていくと、建物の奥に蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされら物体があった。
静かだが、呼吸をしていた。
「生存者か!後で食おうとしていたんだろうな。今、助けるからな!」
ばりばりと、糸をはがされてでてきたのは、鬼蜘蛛の子供だった。
「お兄ちゃん、だあれ?」
まだあどけなさを残す、上半身は人の姿をかろうじで保っていた。
鬼蜘蛛になりきる前の、幼体であった。
「かわいそうだが、ここで処分する」
「母様はどこ。人の肉を早く食べたい。お兄ちゃんが、今日のえさ?」
「シンク、頼むよ!」
シンクと名付けられた霊刀は、幼体の鬼蜘蛛の首をはねた。
ころころころ・・・・。
転がってきた首を、浮竹が焼いていく。
「アハハハ。これで、ボクを殺したつもり?」
灰となったはずの鬼蜘蛛の幼体が、再生していく。
「どういうことだ!」
「浮竹、気をつけて!シンク、結界だ」
結界をはって、濃い瘴気を漂わせる鬼蜘蛛の幼体から離れた。
「ふふふ、人を食ったのはボクさ。母上は、捕まえただけ。食った人の姿に化けると、人は面白いように罠にかかる」
「京楽、そのまま結界の維持を。俺が片を付ける」
浮竹は、浄化ではなく破壊の炎を手の平に生み出す。それを、左手で生み出した浄化の炎を混ぜ合わせた。
すると、小さなブラックホールができた。
「永遠に、苦しむがいい。人を食い殺し続けた、罰だ」
「嫌だ、ボクはもっと人を食って、力をつけて、この世を支配・・・・・・・」
「名も知らぬ鬼蜘蛛よ、さらばだ」
浮竹は、生まれたブラックホールを鬼蜘蛛の幼体に投げた。
「いやだ、ボクはもッと生きて人を食うんだあああ」
鬼蜘蛛の幼体は、ブラックホールに飲みこまれていなくなってしまった。
周囲の瘴気も吸いとり、更には建物まで吸い込もうとする。
「浮竹、力が過剰だよ。抑えて」
「ああ、分かっている。強力な術だが、少し強力すぎるか・・・・・」
ブラックホールを閉じて、浮竹は結界を解いた京楽に近寄り、シンクに吸い込んだ鬼蜘蛛の妖力を分け与えた。
「この霊刀は進化する。京楽の力と、屠った獲物と、分け与えられた力で」
「うわお。すごい刀だね」
「大切にしろよ。俺の出せる全霊力を注ぎ込んだ一品だからな」
「うん。大切にするよ。毎日手入れする」
「さて、鬼蜘蛛の件は片付いた。依頼者に報告しよう」
「うん、そうだね」
神の名を冠する二人にとって、鬼蜘蛛は脅威ではないが、隙を見せたら傷を負う可能性もある相手だった。
実際、浮竹は肩を怪我した。
「君を傷つける者は、僕とシンクが容赦しない」
「俺がやられても、正気を保っていろよ」
「縁起でもないこと言わないでよ」
「ふふ。帰ろうか」
「そうだね。帰ろう」
依頼者に報告し、依頼料をもらって家に帰る。
鬼蜘蛛に限らず、最近あやかしが活発化してきていた。
さてはて、次の依頼は何か。
浮竹と京楽は、束の間の穏やかな時間を過ごすのだった。
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