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祓い屋京浮シリーズ30

「どうか、海坊主を退治してください」

「海坊主か・・・・」

「はい。突然現れて、船をひっくり返すんです。幸いまだ死者は出ていませんが、漁業に出れなくてとても困っているんです」

依頼人は、漁業を生業とする若い男性だった。

「こちらには、腕のいい術者さんがいると聞いて・・・・」

禍津神の浮竹と、夜刀神の京楽が最近祓い屋を少し休業しているらしく、依頼がこちら側に舞いこんでくる。

「はぁ。夜刀神の京楽にでも紹介されたか・・・・・」

「はい、そうです。京楽さんという術者の方に紹介されました」

「仕方ない、引き受けよう」

「ありがとうございます!」

依頼人の漁師は、ぺこぺこと頭を下げて帰っていった。

「海坊主だって」

話を聞いていた京楽が、海坊主にはあまりいい思い出がないらしく、嫌そうな顔をしていた。

「何か、昔海坊主とあったのか」

「僕が龍の姿で海を泳いでいたら、海坊主に捕まってね。あやうく食べれるところだった」

「食べられる?海坊主はそんなに狂暴ではないだろう」

「うーん、個体差があるんじゃないかな」

京楽は、紙にペンで海坊主を描いた。

「こんなかんじの、海坊主だった」

身の丈は5メートルはあろうかという巨体を、船を比較して描かれてあった。

「海坊主が数が少ないからね。多分、僕を食べようとした海坊主と同じ海坊主じゃないかな」

「ふむ・・・・・」

浮竹は思案する。

そして、ポンと手を叩いた。

「京楽、お前龍の姿になって海を泳げ。その上に俺が乗って、海坊主がお前を食いに現れたところを退治する」

「えー。僕、餌なの?」

「それとも、俺を乗せるのは嫌か?」

「そんなことはないけど・・・・・・」

過去に食われそうになったのは、実はトラウマであった。

まぁ、水龍神だし、少々体を食われたところで再生できるのだが。

「じゃあ、明日出発だ。今日は、もう寝ろ」

「浮竹と一緒に・・・・」

スパーンとハリセンを炸裂させて、浮竹は京楽を追いだして、ベッドで横になる。

「しくしく・・・・・・」

ドアの外で、泣いている京楽を放置して、そのまま眠りについた。


翌日、海燕がドライバーをしてくれる車で、海坊主が出る漁場までやってきた。

いつもなら、カニ漁なので賑わっているのだが、閑散としていた。

「あ、術者の方!船は、出しますか?」

昨日の依頼人がきていた。

依頼料は、漁業組合から出されていて、今は船を出すのを禁止しているのだが、退治してくれるというので特別に船を出してくれるらしい。

「いや、船はいい。式の水龍神を龍の姿にして囮にする」

「式が水龍神!なんか、すごいですね!」

「すごいってー。僕すごいんだってー」

自分をアピールする京楽の頭をハリセンではたいて、浮竹は準備をする。

京楽は、龍の姿になった。

10メートルはあろうかという、長くて巨大な龍だ。

その首元に跨り、浮竹は京楽に海を泳がせた。

依頼人は、あまりの凄さに口をぽかんと開けていた。

「匂いがする。神の匂いが・・・・・うまそう、うまそう」

海坊主が、ざざぁと海を割って現れた。

「わぁ、きたぁ!」

「京楽、浮き上がれ」

「うん!」

京楽は空を飛び上がり、海坊主から距離を取る。

「うまそう。おりてこい、おいてこい。うまそう、うまそう」

「食うことしか能がないらしいな。話をするだけ無駄だろう。いけ、神の雷よ!雷撃の雷よ!」

浮竹は、最近身に着けた雷撃を使った。

海坊主に直撃して、海坊主は真っ黒焦げになって、どーんと海に倒れ込む。

「滅!」

浮竹は、腐るしかない海坊主の体を浄化して灰にした。

「ねぇ、僕の出番は?」

「十分あっただろう。囮になったじゃないか」

「それだけ!?」

「そうだ」

海坊主退治は呆気なく終わり、依頼主からけっこうな額の依頼金をもらって、館に戻った。

『あ、いたいた。どこにいってたんだ?』

館には、禍津神の浮竹と夜刀神の京楽の姿があった。

「ちょっと、海坊主退治に」

『ああ、ボクのとこにきた依頼、そっちに回しちゃったからね』

「祓い屋をしばし休業するそうだな。何かあったのか?」

『うん・・・・まぁ、ちょっといざこざがあってね。ボクは神に完全になってしまって、術者じゃなくなってるし』

「完全にやめるわけではないのだろう?」

『うん。少し休憩を取るくらいかな』

『鳥臭い水龍神、羽をむしってやるから文鳥姿になれ!』

「いやだよ!」

「京楽、相手してやれ」

術者の浮竹が、式の京楽を文鳥姿にした。

禍津神の浮竹が、嬉しそうに文鳥姿の式の京楽を鷲掴みして、羽をむしっていく。

「ちちちちちーーーー!!!」

式の京楽は悲鳴をあげるが、術者の浮竹は知ったことではないといったそぶりだった。

『まぁ、しばらくボクらの分まで依頼が舞い込むかもしれないけど、頼んだよ』

「あんまり忙しいのは好きじゃない。他の術者にでもできそうな件は、他に回すがいいな?」

『好きにしてくれたらいいよ。ああ、十四郎、そんなにむしるとまた羽毛布団作られて使う羽目になるよ?』

『鳥臭い羽毛布団はもうこりごりだ』

禍津神の浮竹は、文鳥姿の京楽をポイ捨てした。

「ちゅんちゅん!!」

むしられた羽を再生させて、式の京楽は術者の浮竹の肩に止まる。

「ちゅん!」

術者の浮竹にかわいさをアピールするが、今のところ効果はない。

「ちゅちゅん!」

『やっぱり・・・・羽を・・・むしりたい・・・・・』

危ない目つきをしている禍津神の浮竹に、ルキアが持ってきたガトーショコラのケーキを出すと、禍津神の浮竹は興味をそちらに変えた。

『うまいな』

『十四郎、式のボクの羽をむしるのは、ほどほどにね』

『分かってる』

『ほんとに分かってるのかな?』

「まぁ、京楽の羽をいつでもむしりにこい。いつでも遊びにきていいぞ」

「ちゅんーーー!!(そりゃないよ!)」

式の京楽の抗議は、ただ空気に吸い込まれるのだった。

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