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祓い屋京浮シリーズ5

「雷獣?」

「そうです。建設現場にあった雷獣の石碑を邪魔なので壊したら、空から雷が降ってきて、直撃ではないのですが、人が感電してしまうんです。死者もでています。どうか、空から降りてきたあの雷獣を退治してはいただけないでしょうか」

「石碑を壊されて、怒ってるんだろうね」

京楽が、依頼人に紅茶を出しながら、自分も紅茶を飲んだ。

「雷獣は気性が荒いが、そうそう人に害をなす妖怪じゃない。石碑を別の場所に建て替えても無理だっったのか?」

浮竹が、依頼人に聞くと、依頼人の工事現場の監督は、首を横に振った。

「あいている土地に移したんです。でも雷獣はあの土地に縛られているようで・・・・どうかお願いします。これ以上死者が出る前に雷獣を退治してください!」

「わかった。引き受けよう」

「人が死んでたら退治するしかないね」

依頼人は、顔を輝かせた。

「ルキア、彼を外の車まで送ってやってくれ」

「はい、ご主人様」

人型でメイドで式でもあるルキアは、依頼人を車まで送り届けた。


同じ人型の式である海燕は買い物に出かけている。

残っているのは、式の京楽。人型をとるが水龍神でもある。

浮竹のもっている式の中で最強であった。

同じくらい夜一も強いのだが、気まぐれであまり顔を見せず、猫の式神マオの食事を横取りしては、黒猫姿で町を徘徊していた。

夜一は人型になると褐色の肌をもつ、美女だ。

京楽より古くいるので、一時は京楽が浮竹にちょっかいを出す夜一に嫉妬したりしたものだ。

「死者も出ていることだし、仕方ないから退治するか。式はお前とルキアで行く」

「分かったよ。ルキアちゃんはサポート役かな?」

「ルキアの結界は強いからな。雷獣を足止めするにはちょうどいいだろう」

「じゃあ、早速出発かい?」

「もうすぐ夜だぞ。明日の朝だ」

浮竹は、窓の外から日が暮れていく様子を見ていた。


次の日、浮竹と京楽とルキアは、依頼のあった雷獣を退治すべく、建設現場にきていた。

「おお、いるいる。威嚇されてるねぇ」

ごろごろと、雲が集まって雷の音がした。

「雷獣よ!人を襲うのはやめて、大人しく封印されてはくれないか!」

「人間如きがこの俺を封印するだと?笑止。俺はこの土地を守るように、雷神様から土地に降ろされたのだ。この土地を汚そうとする人間は許さぬ。死んでしまえ」

ごろごろごろ。

がらがらぴしゃん。

雷が、浮竹のいた場所に落ちた。

「話し合いには応じてくれそうにないな」

「雷神って、あの雷神か」

「なんだ、京楽知り合いなのか?」

「いや、水龍神だった頃に何度か会ったことがある。人間嫌いの爺さんだった」

「水龍神か。神であろう者が人間の式になるなど・・・・プライドがないのか!」

雷獣は、京楽に雷を落とした。

「京楽様、大丈夫ですか?」

ルキアがすかさず結界を張り、すでに雷獣のいるフィールドはルキアの結界によって閉じられていた。

「この青二才が!雷獣である俺を閉じ込めれると思ったか!喰らえ、雷よ吠えろ!」

雷獣は、空からではなく自分から雷を打ち、浮竹と京楽とルキアに向かわせる。

その全てを、ルキアが結界で防いだ。

「雷神の子でもあろう雷獣を殺すのは少しかわいそうだけど・・・・縛!」

京楽が呪文を唱えて、雷獣の雷を出せなくして、ルキアが結界で雷獣の動きを封じた。

「おのれ、人間如きがああああ!!!」

暴れまわる雷獣は、京楽の縛で動きの大半を抑えられて、結界の中で自分で自分に向かって雷を放っていた。

「ご主人様、結界を解きます。どうか駆除を」

封印でなく、駆除するということは退治するということだ。

どんな理由があれ、人を殺した妖怪や霊の類は始末されるのが、この業界の基本だった。

「今だ、ルキア、結界を解いてくれ」

「はい!」

「うおおおおおお!!」

雷獣は吠えて、結界が解かれた一瞬の隙をついて、浮竹に強烈な雷をお見舞いする。

「反射!」

「ぬおおおおおお」

自分に自分の最大の雷を返されて、雷獣はもんどりをうって転げまわった。

「おのれええ、おのれええ、人間ごときがあああ」

「僕は水龍神でもあるんだけどねぇ」

式である京楽が、浮竹の前に立って、浮竹を守る。

「水龍神!人ごときの式になるなど」

「おあいにく様。僕は、浮竹の式になれて嬉しいんだよ。僕を怒らせようとしても怒らないよ」

「ぐおおおおお!!!!」

浮竹が呪符を何枚も雷獣に飛ばして、雷を吸収していく。

雷を吸収した呪符は粉々に崩れていく。

「うおおおお、力があああ!!!」

雷獣の本性は雷そのものだ。

「天に召されよ!調伏!」

「ぎゃああああああああ!!!」

「せめて、違う命に芽生えるように。祝福を」

京楽が、退治されて命を削られていく雷獣に小さな祝福を与えた。

すると、退治されたはずの雷獣は、芽吹く緑となって、芽を出した。

「こんな建設現場で生えてきても引っこ抜かれるだけだ。持って帰って植え替えてやろう」

浮竹が、新芽を根ごとゆっくりと掘り起こす。

「浮竹は優しいねぇ」

「別に優しくなんてない。無益な殺生はしたくなかったが、今回は仕方ない」

「ご主人様、土で汚れてしまいます。私にお任せください」

ルキアが、浮竹から植物を受け取る。

「すまないな、ルキア」

「いいえ、私はご主人様の式ですから」

「だそうだぞ、京楽。少しは見習ったらどうだ。おとついは盛りやがって」

「僕は十分浮竹の役に立ってるでしょ?式としてもプライベートでも」

「この色欲魔が!」

どこからか取り出されたハリセンで頭をはたかれると、京楽は桜文鳥になった。

「暴力反対!ちゅんちゅん!」

「ああ、小鳥になって逃げるつもりか!」

「ちゅん!」

「焼き鳥にしてやる」

「いやああああああ」

別の知り合いの術師京楽のもつ、禍津神の式である浮竹に焼き鳥と言われ、鳥扱いされたことを気にしているのか、焼き鳥をいうキーワードは京楽にとっては恐怖そのものだった。

「ちゅん!」

浮竹の肩に乗り、愛らしい姿でちゅんちゅんと鳴かれては、浮竹の怒りも静まるしかない。

「これが水龍神で俺の最強の式神だって言っても、きっと誰も信じないだろうな」

「ちゅん?」

「私は信じます、ご主人様!」

「ああ、ルキアありがとう。ルキアはいい子だな。帰りに白玉餡蜜を奢ってやろう」

「え、やったあ!」

「ちゅんちゅん!」

僕には?と聞いてきた京楽に、浮竹は冷たい視線を向けて。

「今の鳥かご広いからな。もっと狭い鳥かごに変えて、ぶちこむか」

「ちゅんーーー!!!!」

いやあああああ。

そう叫ぶ、京楽であった。

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