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禁忌という名の

神掛を行い、ミミハギ様を失った浮竹は、肺の病を悪化させていく一方だった。

もう、立って戦うこともできないだろう。

ユーハバッハを打ち取った。黒崎一護が。大戦は終了した。

でも尸魂界には癒えない傷ができた。山本元柳斎重國、卯ノ花烈。そして今まさに、浮竹十四郎もその仲間に入ろうとしていた。

「ぐっ・・・・・・・」

「しっかり。息をして」

「ごほっごほっ」

鮮血を散らして、浮竹は今日も吐血する。

ここ毎日ずっとだ。もう何も食べれなくて、点滴と定期的に行われる回道の手当てだけが、浮竹をかろうじでこの世にとどめていた。

「きょうら・・・・く・・・・・」

「どうしたんだい、浮竹」

浮竹は、ずっと身に着けていた翡翠のお守り石を京楽に渡した。

「これを俺と思って・・・・・もっていて、くれ・・・・・・・」

「だめだ、いかないで浮竹。僕を一人にしないで!」

「俺は、幸せだった----------------みんなに出会えて、そしてお前と巡り合えて」

翡翠の視線は、京楽を見て、それから天井を見上げた。

雨乾堂で最期を迎えたい。

その言葉通り、今いる場所は雨乾堂だった。

4番隊から緊急医療用の器具を導入されている。4番隊で新しく隊長となった虎徹勇音が、浮竹に回道を行って、なんとか命を保たせていたが、それも限界にきていた。

「愛してる----------------」

「脈拍低下!」

「酸素マスクを!」

「浮竹ーーーーーーー!!」

京楽の叫びは虚しく、浮竹はそのまま意識不明に陥った。

もう、雨乾堂では、たくさんの人が意識を失ったままの浮竹の手をとって、頑張れと励ましていた。

「そろそろ、休ませてあげないと・・・・」

京楽は、静かな夜に、浮竹の点滴や酸素マスクを外して、その体を雨乾堂の外に抱き上げながら
移動した。

穿界門が開く。

京楽は、浮竹を連れて現世にいった。

「ほら、星がよく見える」

前の日の、天の涙はもうない。晴れた夜空が広がっていた。

「君と、よくこうして星を見に行ったね。酒を飲み交わして・・・・」

つっと、京楽の黒い瞳から涙が零れ落ちた。

「できれば、一緒に引退して、おじいさんになるまで一緒にいたかったなぁ」

もう、京楽は8番隊隊長ではない。総隊長だ。

弱弱しい呼吸の、浮竹の青白くなった唇に、自分の唇を重ねた。

ぽとりぽとりと、京楽の目から涙が零れ落ちて、浮竹の頬を濡らした。

「京楽・・・?」

「浮竹?」

「多分・・・・・これが、最後だ。これを・・・・」

懐から、何かの包みを取り出して、浮竹はそれを京楽に渡した。

それは、一房切り取られた浮竹の白い髪。

「翡翠の石は、お前からもらったものだから・・・・・・せめて、これだけでも・・・・」

浮竹の、肋骨の浮いた痛々しいまでに細くなった体を抱き締める。

涙が止まらなかった。

浮竹からの甘い花の香が強くなる。


「汝----------愛児を求めるか?」


「僕は浮竹を求める」

「たとえ、偽りの愛児でも-------------?」

ふわりと、花びらに包まれた。浮竹が散っていく。

「浮竹・・・・・ずっと、一緒だよ」

「京楽・・・・・・・」

「たとえ、それが禁忌でもいい」

京楽は、散っていく浮竹を、ずっと抱き締めていた。

星が落ちる---------------。

世界が廻りだす。


その日、浮竹は息を引き取った。

尸魂界に戻った京楽の手で、看取られて。


その日から、何かが狂いだした。

いや、狂っていたのは京楽ただ一人。

雨乾堂に作られた浮竹の墓の前にきて、一人で酒盛りをする京楽は、どこかが狂っていた。

「もうすぐ、また君と会えるね---------------」

浮竹の墓に、値の張る高級酒をかけた。

そして、12番隊の、技術開発局に足を向ける。



「順調かい?」

「ああ、京楽総隊長・・・・順調だヨ。でも、こんなことをして、咎められないと思っているのかネ?」

「罰は、いくらでも受けるさ」

目の前には、液体の入った大きなカプセル状のもの。胎児のように、丸まっている人の姿があった。長い白髪と白い肌が特徴的だった。

「おや、もう目覚めるようだヨ」

カプセルの液体が抜かれる。

裸のその体に、京楽はもってきていた死覇装を着せた。

「おかえり、浮竹」

「俺は・・・・誰?お前は・・・誰?」

「君の名は、浮竹十四郎。僕の名は、京楽春水。君は、僕の全てだ」

「全て?・・・・記憶が混濁していて・・・京楽?」

浮竹の白い髪から、霊骸のクローンを作りだした。そして、浮竹の記憶をもつ義魂丸を入れた。

それは、偽りの浮竹十四郎。本物は、もうこの世界にいない。

「さぁ、いこう」

京楽は、浮竹の手を取って歩きだす。

どんなに弾劾されてもいい。浮竹と、一緒にいられるなら。

たとえそれが、禁忌という名の果てにできた戯れの命でも。

もう一度、君を愛せるなら------------------。


浮竹からは、甘い花の香がした。

花の神に愛されている証拠だ。花の神、別名椿の狂い咲きの王は、時空を渡る。ある世界で、浮竹と京楽を愛して、もう一度、命を授けた。

この世界では、命は授けなかった。でも、京楽が望んだから、愛児を----------浮竹の元となる、義魂丸を授けた。

椿に狂った花の王は、同じように一つの花に狂った孤独な王を、静かに見つめる。

王は京楽。花は浮竹。

禁忌の扉は開かれた。

さぁ、狂った愛を奏でよう。

京楽は、浮竹の手を離さずに歩き出す。浮竹には記憶があるが、それはとてもあやふやなもので。浮竹の世界には、京楽だけが色濃く残っていた。

「京楽」

「どうしたんだい、浮竹?」

「愛してる------------」

ただ、その言葉をまた聞きたくて。

「僕もだよ」

星が落ちる。

空が泣く。

世界が廻る。

全ての果てに、たどりつくのは花に狂った王。


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