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禁忌という名の2

「こんなこと、許されると思っているんですか!」

七緒が、一番最初に糾弾してきた。

「浮竹隊長は、死んだんですよ!?」

「死んでないよ。ここにいる」

一番隊の執務室で、お茶を飲んでいた浮竹は、不思議そうな瞳でこちらを見てきた。その翡翠の瞳と同じ、形見にと渡された極上の翡翠の石を、クローンの浮竹に渡すと、浮竹はこれは自分のものだといって、手放さなかった。

「あの人は違う!」

七緒が、涙を零しながら京楽に縋りついた。

「七緒ちゃん・・・・・」

「もう死んだんです。あの方は・・・・・・どうして、受けいれないんです。どうして、死者を冒涜するような真似をするんですか」

その言葉に、京楽の胸がずきりと痛んだが、もう遅いのだ。

「伊勢副隊長、その辺にしてやってくれないか。京楽が困っている」

「あなたは・・・・・」

あなたは偽物です。

そう言おうとして、言えなかった。

目の前の浮竹は、本当に浮竹そのものに見えて。見た目どころか、少し記憶があやふやなところはあるが、生前の浮竹の記憶をもつという。

そんなの------------まるで、浮竹が生き返ったようではないか。

なんのためにみんな泣いて、死を受け入れたのだと思っているのだろう。また京楽に対する怒りが沸いてきて・・・・・でも、これ以上責めれなくて、七緒は執務室を後にした。

「ここにくるみんなが、まるで俺が死んでいるようなことを言うんだ。おかしいな」

浮竹は、好物のおはぎを食べながら、愛しい京楽の傍に寄り添った。

「俺はここにいるのに」

「そうだよ。君は、今この時を生きている」

とても愛しそうに、浮竹に触れる京楽。

まるで、狂った音を奏でるオルゴール。


また何人かの隊長がやってきて、七緒と同じ様な事を言っては泣き、あるいは怒り・・・・・。

「おい京楽!」

「あ、日番谷隊長!」

日番谷がきたことが嬉しくて、浮竹はその傍にきた。

「浮竹、お前はあっちにいってろ」

「みんなして、意地悪だな・・・・・」

「いいから、少し席を外せ」

「分かった。散歩でもしてくる」

浮竹は、執務室を出ようとした。その手を、京楽が引っ張った。

「だめだよ!浮竹、僕の傍を離れちゃだめだ!」

「どうしたんだ、京楽・・・そんなに、俺を一人にしたくないのか?」

「そうだよ。奥の寝室にいって。すぐに戻るから」

「わかった・・・・・・・・」

しぶしぶ、浮竹は京楽の言葉に従った。


最近の京楽は変だ。雨乾堂もなくなって、行き場所もない。雨乾堂には、浮竹の墓があるという。俺はここにいるのに、墓とはなんなんだろう?


「京楽てめぇ、歯食いしばりやがれ」

日番谷は、京楽を殴った。体が小さい分、パンチにあまり威力がこもらなかったが、それで隊長クラスだ。京楽は倒れなかったが、日番谷がもう一度殴ろうすると、ひょいっと避けた。

「一発目はわざと食らった。でも、二発目はもう食らわない」

「てめぇ、浮竹を愛してるからって、やっていいことと悪いことの区別もできねーのか!」

「できるよ、それくらい。僕は浮竹を、あの子を愛してる。それだけが全てだ」

「それがだめなんだと、言ってるんだ!」

「じゃあどうしろと?あの子を殺せと?」

「それは・・・・・・・・」

日番谷は、浮竹と同じ緑色の瞳をもっている。でも、輝きが全然違う。浮竹が翡翠なら、日番谷はエメラルドだ。

「もう、後には戻れないんだよ。僕は総隊長だ。僕はあの子を13番隊隊長にはしない。あの子を外には出さない。それで、十分だろう?」

「なんでてめぇは!」

日番谷は、怒りに拳を震わせた。

「もう、戻れない。僕は狂っているんだ」

日番谷を追い出して、京楽は浮竹のいる寝室までやってきた。

「京楽。どうして、みんな俺が死んだっていうんだ?」

翡翠の瞳で、小首を傾げてくる浮竹は、とても可愛かった。

「君は、一度死んだんだよ。そして生き返った」

「?・・・・・・・よくわからない。俺はミミハギ様を失って病で死んで、でも生き返った?そうとらえていいんだな?」

「そう、それでいいんだ。全ては、僕の責任だから」

君はクローンで、死んだ浮竹の身代わりだよ。

そんな残酷なことは言えなくて。


浮竹を、ベッドに押し倒した。

「あっ、京楽・・・・・また、するのか?」

浮竹を手に入れてから、毎日のようにその体を抱いた。それでも飽きたりない。

「ああっ京楽・・・・・」

「十四郎・・・・愛している・・・・・」

浮竹の体にいくつも痕を残す。

「春水っ!」

果てて、気を失ってしまった浮竹を抱き締めた。京楽は愛しい者を二度と手放さないと、浮竹が自分の傍から離れるのを許さなかった。

外に出る時は、いつも一緒だった。

浮竹からは、いつもと同じ花の甘い香がした。

浮竹の匂いだ。

京楽は、涅マユリに命令して、浮竹のクローンを作りだした。そこに、特別な義魂丸をいれた。
浮竹を愛し祝福していた花の神から、浮竹という個体を保つためにと、与えられたものだった。

浮竹は赤子の頃、両親がこの命が長く続きますようにと、花の神に捧げられた。花の神------------------別名、椿の狂い咲きの王は、浮竹を愛児として愛した。
その証に、浮竹の体から花の甘い香がした。

今の浮竹も、花の甘い香がした。

この子も、花の神にも愛されている。そう思うだけで、心が穏やかになる。

たとえそれが罪でもいい。

もう一度、浮竹とこの世界を生きれるなら。総隊長という地位も、金も、何もいらない。

「浮竹・・・・・・愛しているよ」

狂った音を奏でるオルゴールは、静かに音を鳴らす。

本来の技術でも、浮竹の記憶と性格をもつ義魂丸は作れた。だが、花の神から贈られたものは特別なのだ。

本来の技術で作られたものは、長くもたない。だが、花の神から贈られたものは、狂うこともなく浮竹としての個体を保ち続ける。

京楽は思う。

世界で、二人きりになれてしまえばいいのにと。

いっそ、浮竹の手をとって、逃げ出そうか。何処か、遠い場所へ。総隊長としての責務も責任も何もかもを捨てて。

「ん・・・・喉、乾いた」

「うん、水もってきてあげるから」

「京楽・・・・どうして、俺は一人で行動してはダメなんだ?どうして、一人で外に出てはだめなんだ?」

京楽は、浮竹にペットボトルに入った水を与えながら、ただ静かに微笑む。

「君が、とても大事だからだよ」

「俺も、お前が大事だ・・・・・・」

二人は、もつれあってベッド倒れこむ。

「「愛してる」」

重なり合う言葉。



ふと、花の神は笑った。愛しい愛児を泣かせるのなら、取り上げようと思っていたが、狂おしいまでの愛を見せられて、笑った。

「あの世界で愛児は二人になり、永久(とこしえ)を与えた。さて、この世界ではどうなる--------------?」

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