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禁忌という名の7

4月になった。

最近浮竹の様子がおかしい。今までのよう甘えてくるが、どこか違う場所を見つめていた。

全ての隊長と副隊長のところにいって、挨拶をしたり遊びにいったりした。

12番隊の涅マユリのところにいくと、こう言われた。

「偽りの命にしてはもったものだネ。約1年か・・・・もう、存在することの限界もきているようだしネ。新しい器はもうできている。君が死ねば、不完全ではあるが君に真似て作った義魂丸をクローン体に与えて、それを京楽総隊長が受け取る」

「そうか・・・・・・」

京楽が愛する浮竹が消えるわけではない。代替わりするのだ。だが、今の浮竹のような豊かな感情表現のない、静かな人形のようなものになるだろう。

不完全な義魂丸では、それで手一杯なのだ。

花の神が、祝福にと与えてくれたこの命------------最後まで、京楽の傍に在ろう。



キスされて、キスをしかしたら、不思議そうな顔をされた。

「何を考えているの?」

「何も・・・・」

「何か、僕に隠しているね?」

「何も隠していない」

京楽が「こっち側」へくることを望んでいるといったら、京楽はなんて答えるだろう。

総隊長としての責務と責任がある。

これは、浮竹が思い描いただけの我儘。

「なんでもない」

そう答えると、京楽は浮竹を抱き締めた。

「涅隊長から、代替わりになる話は聞いているが、僕の「浮竹」は君だけだよ。君以外の「浮竹」はいらない」

「俺がもうすぐ消えることも、知っているのか?」

とても辛そうな顔をされた。

「知っている。花の神に教えられた。あと半月の命だって・・・・・・」

「京楽。この一年間、お前に愛されて生きていて本当によかったと思う。どうが、別れの時は笑って別れよう」

つっと、涙が頬を伝った。

「無理しないで」

「無理なんてしてない」

「じゃあ、なんで泣いてるの」

「泣いてなんて・・・あれ?涙が出てる。おかしいな、何処も痛くないのに・・・」

浮竹の翡翠の瞳の光彩が、オパール色に輝いた。

それは、クローンの浮竹だけがもつ、特別な光。

浮竹からする甘い花の香は今もする。でも、だんだんとその香は強くなってきていた。

最後の花を咲かせるために、花は艶やかに咲いた。


「君を失いたくない」

京楽の腕の中で、まどろみながら浮竹は、京楽を誘う。

「じゃあ、一緒にきてくれるか・・・・・ふふ、嘘だ」

悲しそうに臥せられる翡翠色の瞳に口づける。

「その時がきたら、答えは分かるよ」


京楽は、またしばらく総隊長に白哉を代わりにしてもらい、浮竹が味わったことのないような現世のいろんな場所を、二人で海で漂う海月のようにふわふわと彷徨った。

4月15日。

クローンの浮竹は、1歳を迎えようとしていた。

たくさんの者から、祝いの言葉とものをもらった。


朽木家で、浮竹の新しい誕生日が祝われた。

4月で少し散りかけているが、まだ桜の花はあった。少し季節は遅いが、花見をしよう。そんな話になって、みんな無礼講で酒を飲みあった。

浮竹は、昔のように甘い果実酒を飲んでいた。

「これも飲んでよ、浮竹隊長~。ひっく」

「こら松本おおおおお!」

松本にからまれながらも、杯は酒で満たさせていた。

「このお酒~うぃっく。高かったんですから~」

飲んでみると、その甘さに驚いた。

ふわりと一枚の桜の花が散ってきて、浮竹の杯の上に浮かんだ。

「みんな、ありがとう。俺は、とても嬉しい」

涙が零れた。

ここまで、受け入れてもらえるとは思っていなかった。

「いい年したおっさんが泣くなよ」

日番谷に頭を撫でてもらって、浮竹は少し恥ずかしそうにしていた。

その日は、夕方で解散になった。片付けられていく宴の後で、浮竹はまだ花の咲いている桜の木の下にいた。

「浮竹?」

「愛している・・・・京楽」

桜の木の下で、キスをした。

「そういえば、初めて告白を受けたのも、桜の木の下だったな」

「そうだね」

二人して、懐かしそうに想いを馳せる。

あやふやだが、クローン浮竹には生前の浮竹の記憶があった。院生時代の記憶もちゃんともっていた。

抱き締めあい、桜の木の下に座り込んだ。

さぁぁぁぁぁぁ。


桜の雨が降ってきた。

ちらちらと咲いている桜が散っていくのではない。それは、白哉の千本桜に似ていた。

「時間か・・・」

京楽の腕の中の浮竹が、ふと立ち上がった。

「どこへ行くの」

「もう、行かなきゃ・・・・」

「だめだよ。君は僕のものだ。僕以外の者の傍にいってはだめだ」

京楽は、黒曜石の瞳に涙を浮かべていた。

その京楽の頭を撫でる。

「言っただろう?別れの時は笑顔でって・・・・・」

そういう浮竹も、泣いていた。



「愛児--------------迎えに来た」

花の神は、院生時代の京楽の姿をしていた。

「京楽。またいつか、どこかで巡り合おう。きっときっと、何かに転生して、お前の元へいくから」

「花の神-----------浮竹は、渡さない」

「ほう?」

院生時代の京楽の姿をした花の神が、不敵な笑みを浮かべる。

「その覚悟があるなら、我が手をとれ。愛児の、浮竹以外の全てを失う覚悟があるなら」

花の神の手を、京楽はとった。

「京楽!?」

「僕はね・・・・我儘なんだ。君のことに関しては、とにかく我儘で・・・・・」

ふっと、笑った。

ぶわりと、京楽の体から甘い花の香がした。

「だめだ、こっちにくるな!戻れ、京楽!」

「本当は、一緒にいたいくせに。ずっと僕と一緒にいたいでしょう?」

「だけど!」

まず、花の神が花びらとなって散っていった。

次に浮竹の体が。その次に京楽の体が。

「総隊長には、朽木白哉がつく・・・・・・」

「京楽!」

「もう、後のことは頼んであるんだ。さぁ、一緒にいこう、浮竹。いつまでも、君と共に・・・・・・・」

「京楽・・・・」

「愛している、十四郎」

「俺も愛している、春水」

花びらとなって散っていきながら口づけを交わす。

それが、二人がこの世界でした最後の会話。







ゆらりと。水底で、花の神は目覚めた。

傍らには愛児。その傍らには、同じく愛児となった京楽の姿があった。



花の神が目覚めると、愛児である二人も目覚めた。

そして、お互いを抱きしめあいながら、愛を囁く。

「愛してる」

「愛してるよ」

二人の愛児は、花の神の傍らで眠りについた。

いつかいつか---------------。

この命が、再び芽吹くまで。

「好きだ。愛している」

「好きだよ。愛してるよ」

幾千幾万の時を、無限に。


それは禁忌という名の願い。

共に世界に在れるようにとの願い。

禁忌の世界に墜ちた二人は、今日も永久に愛を囁きあう。



          禁忌という名の  fin

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