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小説掲載プログ
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翡翠に溶ける 桜散る場所で

「おはよう」

「おはよう・・・」

なんでもない毎日が、また始まろうとしている。

1回生の春だった。

遅咲きの桜が散っていた。

「ねぇ、浮竹」

「なんだ?」

「いつか、僕はこの桜の下でその時持っている感情を君にぶつける。それまで、友人でいてくれるかい?」

「俺はこんな体だ・・・・・お前の想いとやらに応えれるかどうかは分からないが、その時抱いていた感情を、俺もぶつける」

「約束だからね」

「ああ」

桜の木の下で、浮竹と京楽は手を握りあった。

清い関係だった。

まだ出会って日も浅いということもあって、キスも1回しかしていない。

「春水様ー!」

「なんだ、桜かい」

幼馴染の、吉祥寺桜。

同じ死神統学院に、合格した、特進クラスの女生徒だった。

「あら、浮竹君いたの?」

浮竹のことを、目の敵にしていた。

「いちゃ悪いか」

「下級貴族如き、春水様となれなれしい!」

「桜!」

叱ると、桜は怯えた顔をした。

「春水様・・・桜のことは、もう抱いてくれませんの?」

その言葉に、浮竹が傷ついた顔になる。

「桜、春水様に抱かれるの好き」

「君とはもう終わったんだ。あっちに行きなさい」

しっしと追い払うと、浮竹は完全にへそを曲げていた。

「吉祥寺桜。上流貴族吉祥寺家の一人娘・・・・お前には、似合いの相手だな」

「ちょっと、浮竹!あの子とは終わったんだから!」

「どうだか」

浮竹は、怒ってそれから1週間口を聞いてくれなかった。

席替えがあった。

浮竹と隣同士になった。結局、浮竹が自分が悪かったと謝ってくれて、入学して早々に関係が破綻ということにはならなかった。

吉祥寺桜は、何かあるごとに浮竹を侮辱して、自分が女であるとアピールしてきた。

5月のうららかなある日、浮竹は桜に呼ばれて校舎の裏まで来ていた。

「本当にいいんですか、桜お嬢様。このお方、春水様の想い人であられるのでは・・・・・」

「春水様のまわりをうろうろとするハエですわ。どうか、思い知らせえてやってくださいな」

屈強な男3人に襲われた。

でも、浮竹はその見た目の良さで、悪戯さえそうになったり、人攫いに攫われそうなったりといった人生を過ごしてきたので、細い見た目とは裏腹に、蹴りを重心に置く護身術を身に着けていて、強かった。

「なっ、生意気な!」

3人の男をのした浮竹を殴った。

なので、浮竹も拳で桜を殴った。

「きゃああああああああああ!」

自分の服をびりびりと破いて、桜は悲鳴をあげた。

それにかけつけた者が、泣き叫ぶ桜と、のされた学院の者ではない気絶している大男3人と、顔を思い切り殴られた痣のある浮竹を見て、目を見開く。

「浮竹君が!浮竹君が、護衛の3人に手をかけて、私を襲おうと!」

肌も露わな泣き叫ぶ桜に、浮竹に視線が集まる。

「嘘だね」

かけつけた京楽が、一言そう言った。

「そんな、私のこの姿を見てください!」

「どうせ、自分で破いたんでしょ」

「春水様、酷い!」

「みんなはどう思う?浮竹が、女の子を襲うような人物に見える?」

すると、浮竹の友人の一人が声をあげた。

「あの浮竹が、そんなことするはずがない!」

「そうだそうだ!」

人込みになっていた。騒ぎの大きさに、教師まで出てきた。

「まぁ!桜が自作自演したというの!?」

「そうだよ。吉祥寺桜は、そんな女だ」

「春水様!」

「めんどくさいから、山じいよんで」

「ひっ」

桜は息を飲むが、もう遅い。

山じいが呼ばれ、ことの真相を桜と浮竹から聞いた。

「吉祥寺桜を、退学処分とする!」

「そんな!桜は何も悪くありません!」

「お主が、十四郎をはめようとしたのは証拠もあがっておる」

「何処に!」

「護衛と言っていた3人が白状しおった。吉祥寺桜の命令で、十四郎を暴力で痛めつけようとしていたと!」

「あんな下賤な者たちの言葉を信じるというのですか!浮竹十四郎は、この桜を手ごめにしようとしたのですよ!?」

「それがありえんのじゃ。十四郎は、まだ女性とも付き合ったことのない清らかな存在じゃ。いきなりその方を襲う真似などせんと、儂が断言する」

「この・・・・・!」

桜は、光るものを手に浮竹にぶつかった。

「う!」

「浮竹!」

「十四郎!」

ナイフが、浮竹の太腿に深々と刺さっていた。

傷は動脈にまで達していた。

「いかん、はよ4番隊の席官を呼べ!」

「あはははは!」

桜は、狂ったように笑っているところを身柄を拘束され、警邏隊に引き渡された。

その場にいた教師たちが、回道を行ったことで、幸いにも失血死は避けられた。浮竹はやってきた4番隊の席官から回道を受けて、傷は塞がったが、失った血までは戻せないということ、輸血のために病院まで搬送された。

「吉祥寺桜・・・・あんな、愚か者だったなんて。はぁ、僕の周りにはろくな女がいないね」

京楽が、浮竹の見舞いにきた。

念のための、肺の検査も兼ねた3日間の入院だった。

「おはぎ、もってきたよ」

げんなりしていた表情の浮竹の顔が輝いた。

「お前の傍にいるのは、苦労するな」

「もう、流石に桜みたいなバカは出てこないはずだから」

浮竹は、おはぎを食べた。

「助かる。ここの病院食、質素すぎる上に味付けが薄い」

「あら、そうですか?」

「うわ、卯ノ花隊長!」

4番隊の卯ノ花が、山本総隊長の愛弟子の様子を見にやってきたのだ。

「な、なんでもないです!」

「まあ、言われな慣れてますけどね。だからといって、食事を豪華にしたり、味付けを変えることはありませんが。そんなに嫌なら、京楽家の料理人に食事を作ってもらったらどうです?それには一向にかまいませんよ」

「京楽、頼めるだろうか」

「任せなさい。美味しい料理、食べさせてあげる」

その日の夕食は、豪華だった。京楽家の料理人の腕は確かで、おいしかった。

やがて、退院の日を迎えた。

まだ傷が痛むので、京楽に肩をかしてもらいながら歩きだす。

そのまま、時は流れる。

1回生の夏休みに入ろうとしていた。

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