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翡翠に溶ける番外編

「浮竹」

花の神を半身に宿らせて、薄紅色の髪になった京楽が、浮竹の元を訪れた。

死ぬはずだった命を救われたが、代わりに京楽が神の器になった。

「浮竹、大丈夫?」

肺の病は癒えたのだが、熱を出す虚弱体質はそのままで、今日も浮竹は熱を出していた。

肺の病が癒えたが、熱が出やすくなってしまい、前とあまり変わらぬくらいに臥せっていた。
今の浮竹に霊圧はない。もっていた膨大な霊圧は、生命力に変換されてしまった。

「おはぎもってきたんだけど・・・・食べれる?」

「ああ・・・今日は微熱なんだ。頭が少し痛いが、肺の発作を思えばこれくらい平気だ」

布団に半身を起こした浮竹の背を支えてやり、まずは白湯を飲ませた。

「そういえば、最近甘味屋に行っていないな・・・・・・」

「熱が下がったたら、行こうね」

「ああ、そうだな」

二人で寄り添いあう。

死ぬはずだった浮竹の運命を変えた、花の神。

運命を変えられた、浮竹。

運命を変えられることを望み、器となった京楽。

思いは様々だが、こうやってまた一緒に生きれることが嬉しかった。

もう、浮竹に死の気配はない。

肺の病は、花の神の力で癒された。

浮竹は、京楽がもってきてくれたおはぎを食べた。

もう、浮竹は13番隊隊長ではない。その地位は、ルキアが継いだ。

霊圧を失くした浮竹は、13番隊の隊長補佐となっていた。もう戦う力はないが、書類仕事などを任されていた。

「お互い、早く引退したいものだな」

「その気になれば、君は引退できたのに」

「まだ、人生長いんだぞ。それに俺だけ引退しても、お前が引退しないと意味がない。一緒に生きると、決めたんだ」

ふわりと、窓から風が入ってきた。

薄紅になってしまった瞳を瞬かせて、京楽は微笑む。

「じいさんになるまで、お互い引退はなしかな」

「じいさんか・・・・後何百年あるんだろう」

途方もない時間があるだろう。ここまで約500年。さらに千年ほどは時間がいりそうだった。

「今日は、泊まっていっていいかい?」

「ああ」

雨乾堂は、取り壊されることがなかった。

浮竹が生きているからだ。

ただ、ルキアのために新しく13番隊の執務室と隊首室ができた。

「今日も頑張るか」

熱が引いた浮竹は、京楽のいる一番隊の執務室に仕事を持ち込み、一緒に時間を過ごした。

総隊長となった京楽は、仕事をさぼりまくるわけにもいかず、昔のように雨乾堂にくる回数がぐっと減った。

会いに来れないなら、こっちから会いに行けばいいのだ。

大戦を経てもなお、生きていられる。

それがこんなに穏やかで静かで、そして愛しいものだとは思わなかった。

「京楽、おはよう」

「ああ、浮竹おはよう」

今日の京楽は、花の神が所用でどこかににいってしまったせいで、瞳も神の色も元の黒だった。

「花の神は?」

「なんか、神力を貯めるためとかいってどっかいったよ」

「そうか。黒いままのお前の髪と瞳の色を見るのも、久し振りだな」

「僕はどっちでもいいけどね」

花の神の器になったことで、契約は成っている。

浮竹が死ぬことは、もうない。

「仕事が終わったら、久し振りに甘味屋にでも行かないかい」

「行く!」

浮竹が食いついてきた。

翡翠に溶けた浮竹は、たゆたうように人生を漂っている。その手を繋ぎ止めるのは、京楽の役割だった。

翡翠に溶けて。

桜のように、溶けて溶けて。

ただ、たゆたう。

けれど、愛し合う。

翡翠は、愛し合うことで輝きを増すのだった。






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