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翡翠に溶ける 海燕

隊長になって幾千の夜を重ねただろうか。

浮竹には、海燕という信頼できる副官ができた。

3席だった白銀音羽は、虚退治で命を散らせた。

海燕は、二人の関係を黙認しながら、浮竹の世話をよく焼いてくれた。

「ほらもう隊長、さっきからぽろぽろ零して!子供じゃあるまいし!」

昔に比べて、穏やかな日々が多くなった。

もう、若いとはいえない年になっていたが、週に1度は体を重ねていた。

「ああ、またそんなところにキスマーク残されて!京楽隊長、見えるところにキスマーク残すのちやめてもらえませんか!まともに見ていられない!」

「虫よけだよ」

「俺が虫っていいたんですか!」

「そうだよ」

「確かにうちの隊長は美人だけど、あんたと違ってそっちの趣味はないですから」

「でも、この前僕らの睦みあう浮竹の喘ぎ声聞いて、抜いてたでしょ」

「なんで知ってるんだ!ああそうですよ、抜きました!仕方ないでしょう、隊長の声腰にくるんだから!」

「海燕、ぬきたいならいくらでも喘ぎ声くらいあげてやるぞ?」

そう、冗談か本気なのかとれぬ浮竹の言葉に、必要ありませんときっぱり告げた。

浮竹は無防備だ。

京楽以外の男に迫られたことも何度かある。

その度に、なぜ自分がそんな目に合うのか理解していないのだ。

天然のたらしで・・・容姿はいいし、性格もいい。

海燕が女性だったら、きっと惚れて結婚を申し込んでいただろう。

でも、浮竹には京楽がいる。

それはもう少年時代からの付き合いで・・・なんとも用心深いことに、体を重ねるたびにキスマークをつけて、それが消えないうにち上書きするのだ。

「京楽は、海燕のこと嫌いか?」

「あんまり好きじゃないね」

「海燕を京楽をどう思う?」

「性欲の権化。隊長を抱くことか頭にない」

「お、喧嘩売る気かい?買うよ!」

「あんたに喧嘩なんか売っても、勝てるわけないじゃないですか!」

ぎゃあぎゃあいい合う二人の口に、浮竹はおはぎをつっこんだ。

「もぐもぐ・・・おいしいじゃないですか」

「もぐもぐ・・・僕は、浮竹にに少しでも気のある子が、近くにいるのはいやだ」

「大丈夫。海燕は安心できる。確かに俺の声で抜くとかちょっとずれてるけど」

「かなりずれてるよ。まぁ、君の声はほんとに腰にくるから、分からないでもないけど」

海燕いったん雨乾堂を下がり、茶をいれてやってきた。

「お茶です。3時ですから、おやつ許可します」

「やった!」

浮竹は、戸棚からおはぎを取り出すと、京楽と海燕に分けてやりながらゆっくりと食べた。

「長年隊長の傍にいるせいでしょうか・・・俺まで、おはぎが好物になってしまった」

もう、海燕が浮竹の副隊長になって10年以上経過していた。

「あ、これ報告しないと。今後、席官の都と籍をいれることになったんです」

「おい、それ重要案件じゃないか!結婚式は挙げないのか!?」

「お金、無駄にかかるだけですから、結婚式はしません」

海燕はきっぱりと言った。副官とはいえ、給料に限りがる。いつか子供ができたら、教育費がいる。

「そんな、勿体ない・・・・金なら京楽が・・」

「出しません」

「ええ、そんなこと言わずに」

「海燕君が泣いて土下座で謝るなら、出してあげないこともない」

「こっちからお断りです!」

京楽に、海燕が投げてよこした座布団がクリーンヒットした。

「あいた」

「こちとら、没落したとはいえ元5大貴族。金をかりるようなことは、俺のプライドが許せません」

「俺はよく京楽に金出してもらっているがなぁ」

「あんたは、京楽隊長の恋人だから」

「優しいぞ?」

首を傾げてくる仕草に、かわいいと思ってしまった。

「あんただけにです」

「だそうだ、京楽」

「まぁ、別に海燕君が嫌いというわけじゃあないんだけどね。あんまり好きじゃないけど。よく浮竹の面倒見てくれるから、浮竹が酷い発作を起こすことも少なくなったし、熱を出すことも昔に比べれば減った」

「え、あれで減ったんですか。昔の隊長ってどこまで病弱なんだ・・・・・・」

「昔は昔、今は今」

残していた、最後のおはぎを口になる。

空になった皿に、なんともいえない寂寥感を感じて、じっと京楽の顔を見た。

京楽は、海燕の方を向いてニヤリと笑った。

「じゃあ、浮竹が物足りないようだから、僕ら甘味屋に行ってくるよ」

「隊長、今は仕事の時間ですよ」

そう止める海燕の手を引っ張った。

「まぁ、お前もこい。共犯者になろう」

有無をいわせぬ力で引きずられて、仕方なく海燕も甘味屋に同行した。

京楽は面白くなさそうな顔をしていたが、浮竹が甘えてくるので仕方ないかと、納得した。

甘味屋で、おはぎと白玉餡蜜とぜんざいを3人分注文する浮竹に、正気かと聞くと、「これくらい軽い」と言って返されてしまった。

3人前が、ずらっとテーブルに並ぶ。それを、遅くも早くもない速度で、平げてしまう浮竹。

「どこにそんだけ入るんですか・・・その細い体で」

「甘味物は別次元の胃に繋がってるんだ」

「そうなんですか」

納得してしまう海燕がおかしくて、京楽は抹茶アイスを口にしながら、テーブルを叩いていた。

「ほら、海燕も何か頼め」

「じゃあ、おはぎを4つ」

「それだけでいいのか?おーいすみません、羊羹を3つ!」

海燕と京楽の分を頼んだのかと思ったが、一人で食べてしまった。

やがて満足した浮竹が、お冷を飲み干して、外に出ようとする。

「おいあんた、勘定は!」

「ああ、京楽が払ってくれる」

京楽は、浮竹と自分の分は払った。

「海燕君は、自腹ね」

「ああはいはい、最初からこうなるだろうと思って、ちゃんと財布もってきましたから」

京楽は舌打ちした。

「あんた、今舌打ちしましたね!?」

「気のせいだよ」

「本当に、性格がねじ曲がっているんだから・・・・」

「京楽の性格は、温厚で優しいぞ?」

「それは隊長にだけです・・・・・・」

財布を念のためもってきていて助かった。

なかったら、今頃食い逃げとして捕まっているか、京楽に土下座してお金を借りるしかなった。
金銭トラブルは避けたい。

元5大貴族であり、幼い頃は上流貴族として生きていた海燕であるが、家が没落していく様を、子供心に見ながら思った。

お金は大切にしないといけない。

貸し借りはしてはいけない。

浮竹が、純白の髪を、夕焼けの色に染めていく。

キラキラ光っていて、綺麗だった。

行き交う人が、男女の区別なしに振り返る。

「こうだから、僕は浮竹が心配なんだよ」

「なるほど・・・・・」

海燕も納得した。

翡翠の瞳の麗人は、男女の区別なく視線を集めてしまうのだ。


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