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翡翠を想う

浮竹の傍にいるのは、心地よかった。

たくさんの友人ができた。浮竹の親友になれてよかったと思う。

極上の翡翠の瞳をもつ親友は、常に京楽のことを気にかけてくれて、その優越感に浸っている自分がいた。

「しかっかりしないか」

いくら翡翠の瞳に白い髪という、京楽が愛したまだ若かった乳母と同じ色をもっているとはいえ、浮竹は自分と同じ男性だった。

その浮竹を欲しいと思うなんて、どうかしている。

ただ、太陽が欲しかった。できれば、翡翠の瞳をした。浮竹はまさに、その太陽そのものだった。

「君さ・・・・・・・」

放課後、先生に頼まれてプリントを整理していた浮竹に声をかける。

「君さ、なんでそんなに優しいの?」

「何がだ?」

浮竹は、翡翠の瞳で京楽の漆黒の瞳を見つめた。

「女遊びの激しい、こんなできそこない、普通親友にする?」

「確かにお前は女遊びが激しいやつだが、一人の人間としては魅力的だと思うぞ」

「どうして?」

「いろいろ親切にしてくれるし、優しいから」

それは、君だからだよ-------------。

言葉を飲み込んで、京楽はプリントを手にして、浮竹の手伝いをした。



「ああっ、いいっ!」

花魁の翡翠の次に夢中になったのは、青い瞳の遊女だった。蒼(あお)という名前で、京楽は惜しむこともなく金をだして、蒼を抱いた。

「浮竹-----------」

「ああ、京楽の旦那!あたしを浮竹と思っていいから、もっと情けを!」

京楽は、女の欲しがるままに腰をふって、蒼と関係を深めていく。

蒼は、京楽の名を知っていた。何せ、上流貴族だ。四大貴族にまでは及ばないものの、相手が上流貴族のぼんぼんだと知った蒼は、この男に身請けしてもらいたいと思っていた。

だが、京楽にその気はなかった。

それでもいいと、蒼は言った。金さえもらえれば、年季も少なくなる。蒼は、自分に夢中になっている間に京楽の金の全てを吸い付くそうと思っていた。

「浮竹!」

浮竹の代わりに、蒼をいつものように抱いていると、廓の外でちょっとした騒ぎが起こっていた。


「色子のくせに、生意気だぞ!」

「誰が色子だ!俺はただの一般人だ!」

「はぁ?お前、色子だろ。そんな恰好して」

「この格好は起きたら勝手にこうなっていたんだ!」

「色子のくせに生意気な!」

パンっと、乾いた音をたてて、頬をはたかれたその人物は、衣服をきて廓の前に様子を見にきていた京楽と視線を合わせた。

「京楽?」

「浮竹!?」

「え、京楽の旦那の馴染みの色子なんですか?すみません、傷物にはしていませんので」

廓で客引きをしていた男が、京楽に謝る。

この色街で、いろんな廓に出入りして派手に遊んでいるせいか、京楽の名は知れ渡っていた。

「この子は色子なんかじゃないよ!」

京楽は、女ものの着物を着せられて、短い髪に髪飾りをして、唇に紅をひいている浮竹を見た。

「どうしたの!ここは、君のような子が来るところじゃないよ!それに、その恰好はなんなの!本気で、色子の真似をしようとしていたの!?」

自分の馴染みの廓にあがらせて、問い詰めると、浮竹は泣き出した。

「呼び出されて、寮の部屋の外にでたら薬をかがされて・・・・・気づけば、こんな格好にされて、廓の布団の上に寝かされていたんだ!」

まさか泣くとは思っていなかったので、京楽はおろおろしだした。

「知らない男が覆いかぶさってきて・・・・体中をまさぐってきて・・・鬼道で抵抗して逃げてきたけど、廓から色子が抜けたって追ってこられて・・・怖かった」

京楽に抱き着いて、浮竹は泣いていた。身に覚えもないのに、いきなり見知らぬ男に操を奪われかけたのだ。それは怖い思いをしたのだろう。

浮竹の頭を撫でていると、浮竹は安心したのか京楽から離れた。

浮竹からは、甘い花の香がして、その香と今の恰好があまりに似合っていて、なんともいえない気持ちになる。

「浮竹、着換えはないの?」

「ない。気づけばこんな格好だ。自分の容姿は知っている。色子に見えるんだろう?」

「それは・・・・・・」

京楽は、居心地の悪さを覚えた。惚れている相手が、まるで自分に抱かれるためにそんな恰好をしているように見えて。

「廓から、男ものの服をもらうから、それに着替えて、一緒に帰ろう。君をこんな目に合わせたやつを突き止めないと」

京楽は、廓の女将を呼んで、男性ものの着物をもってきてもらった、口止めのために少し多めの金銭を与えると、女将はこのことは内緒するといって、出て行った。

「着替えるから、あっち向いててもらえるか」

「ああごめん」

勿体ないと思った。

本当に色子に見えた。白い短い髪に髪飾りをさして、唇に紅を引き、女ものの着物をきている浮竹は、その姿が似合いすぎて、京楽は浮竹を押し倒したいという欲望にかられた。

それを押し殺していると、蒼がやってきた。

「蒼?」

「この子が、旦那のいっていた、浮竹?」

「蒼!」

「あのね、京楽の旦那はあたしを抱くとき浮竹って・・・・・」

「これ、蒼!」

女将に引っ張られて、蒼が奥の部屋に消えて行った。

「?どういいうことだ?」

「ああもう!君は知らなくていいから!」

まさか、蒼を浮竹の代わりに抱いているなんて言えなくて、適当に誤魔化して廓の外にでた。

髪飾りを外し、紅もぬぐったが、男ものの着物を着ていても、さっきまでの浮竹の姿を知っている京楽には、浮竹が妖艶に見えて仕方なかった。

「犯人に、心当たりはないの?」

「ある。門倉だ。前から言い寄られていたし、門倉の家は廓を経営している。俺が寝かされていた廓は、門倉のものだった。でも襲ってきたのは門倉ではなかった・・・・・・」

いちいち、こんな手の込んだ真似をしておいて、他人に襲わせて・・・もしかして、門倉という男は、無理に犯される浮竹を見て興奮する類の男なのだろうか。それだと、余計に始末が悪い。

学院に帰り、門倉を糾弾すると、門倉は意外とあっさりと自分の罪を認めた。自分を振った浮竹がうとましくて、二度と学院にこれないような目に合わせてやろうとしての犯行だったとかで・・・・・京楽からの嘆願もあり、門倉は退学になった。

その日の夜、寮の部屋のベッドで寝ようとすると、おびえた表情の浮竹がいた。

「一緒のベッドで眠っていいか?怖くて、一人じゃ寝れないんだ・・・・」

その様子に、京楽はいけないと思いつつも、了承していた。

腕の中で眠る浮竹の唇に唇を重ねてみる。浮竹は、安堵しているのかよく眠っていた。

「浮竹・・・・・好きだよ。僕の翡翠。僕の太陽」

京楽は、浮竹を出きしめて、自分も眠りについた。





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