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翡翠を愛する者

先代王は、戦ばかりしていて民は疲弊していた。

後宮には正妃がいて、他に寵姫も何人もいたが、一番最初に子を授かったのは正妃で、正妃は他の寵姫が妊娠すると、刺客を放っては毒殺したり暗殺したりしていた。

なので、寵姫たちは王との夜伽に恐怖を抱き、後宮から抜け出る寵姫の数も多かった。

帰る場所もなく、逃げることができない寵姫たちは、子を身ごもると自ら流産した。

「春水。あなたは王となるのよ。この国でただ一人の王子であり、王太子であるあなたは、私の一番の宝物よ」

母に溺愛されたが、父には愛されなかった。

父が愛したのは、隣国との戦争で捕虜として捕らえられて、奴隷の身分に落とされた浮竹十四郎という美しい少女のような少年だった。

正妃は、男であるから子は成せぬので、浮竹のことを放置していた。

浮竹には決して子はできぬ。ならば放置すればいい。

下手に暗殺したりして、王の不興を買う必要はない。王が奴隷の浮竹に夢中になって、他に寵姫を増やさないようになったので、正妃はむしろ安堵した。

京楽は、幼い頃から正妃の後ろ盾のもと、帝王学を学んでいた。いずれ、王となるために。

ただ、京楽には欲しいものがあった。

それは、浮竹。

父が愛する、王子でありながら奴隷の身分である少年に初めて出会った時に、一目見て恋に落ちた。

「遊ぼうよ」

そう声をかけると、浮竹は少女の恰好をさせられており、悲しそうな顔をした。

「俺は所詮奴隷だ。お前とは釣り合わない。貴族の子供でも、友人にしたらどうだ」

京楽の周りには貴族の子もいたが、遊び相手にしようも、友人になって将来いい地位につこうとしているのが丸見えで、京楽には友人がいなかった。

友人と呼べるとしたら、後宮の寵姫たち。

京楽が対等の立場でいてくれるので、後宮の寵姫たちは京楽に心を開いていた。

母である正妃としては、少々不満もあるが、寵姫たちに恋をしているわけでもないので、京楽の自由にさせてくれた。

浮竹は、他のどの寵姫よりも美しかった。

幼い幼年時代に、男としてのものを切り落とされてしまって、中性的な容姿で美少女のような姿を保ち続けていて、正妃も一度女と間違えて暗殺しようと思ったほど、王の寵愛が濃かった。

「ねぇ、僕のお嫁さんになって」

「ばかか、お前は。俺は奴隷だぞ?しかもお前の父の、特別な、女でもないのに寵姫だ。男が寵姫だなんて、ほんとに笑える。でも、もう俺には子を残すこともできない」

「だったら、僕の寵姫になってよ」

「王が死んだなら、好きにすればいい」

王太子であった京楽は、幼い頃から後宮で育った。やがて王がなくなり、王となった京楽は戦争を終結させ、税を減らし、福祉制度や医療体制を発展させて、民に支えられていた。

先代王の正妃であり、国母となった京楽の母は、先代王が死んで数か月後に、流行り病で死亡した。

京楽は、一人だった。

そして、先代王の寵姫たちに金を与えて館を贈り、後宮を出させると、浮竹を寵姫として後宮に置いた。

周囲の者は不安がった。その不安は、王である京楽が、先代王が気まぐれに寵愛していた隣国の王子であるが、奴隷の身分である浮竹という少年を愛していることにあった。

後宮に囲い、他の寵姫をもたない京楽。

隣国はすでに滅んでおり、京楽の国の領土になっている。

奴隷の身分を解放することは容易いが、そうすると浮竹はふらりと消えてしまいそうで、京楽は浮竹を奴隷のままにしていた。

だが、その扱いは後宮の姫君のようだ。

幾度も家臣から妃を娶るようにと言われても、京楽は頷かない。

後宮には、有力貴族たちの娘がいれられたが、京楽の命令で全員後宮から追い出された。

「浮竹、愛しているよ」

「京楽も、変わっているな」

京楽の寵愛を受けながらも、浮竹は心ここにあらずといった雰囲気だった。まだ、夜伽を命じたことはなかった。

たくさんの豪華な贈り物をした。

でも、浮竹はもらうだけであまり身に着けない。

数人の女官をつけたが、浮竹は自分のことはほとんど自分一人でしていた。

ある日、珍しい精霊猫が手に入ったので、浮竹にプレゼントすると、浮竹は大層喜んでくれた。

「かわいいなぁ」

緑色の瞳に、白い毛並みの猫で、浮竹と同じ色をしていた。

「ヒスイという名前にする」

精霊猫は、その名の通り、精霊の一種だ。普通の猫よりも長生きをして、飼い主に幸福をもたらすとされていた。

「浮竹、今日の夜、僕の寝室にきて」

ああ。やっぱり、この時がきたか。

散々、先代王に愛されたこの体は、男が喜ぶことを教えられており、京楽に命じられて湯浴みをして着飾った浮竹は、先代王にされたように、京楽の寝室にくるとまず京楽のものを舐めようとした。

「ちょっと、浮竹!いきなりすぎるよ!少し、話をしようよ」

「しないのか?」

「したいけど・・・」

京楽は押し倒されていた。

「ならさっさと・・・・」

「浮竹!僕は、浮竹を大事にしたいんだ。先代王と僕は違う。夜伽といっても、無理に抱かない」

「でも、抱きたいんだろう?」

浮竹が小首を傾げる。

まだあどけなさが残っていて、美少女にしか見えなかった。

「今日は、一緒に眠るだけにしよう。後、キスだけさせて」

京楽は紳士的だった。

寵姫にされたというのに、無理やり抱かない。

「んんっ・・・・」

口づけられて、浮竹は唇を開いた。

ぬるりと、京楽の舌が入ってくる。

「ふあっ・・・・」

久しぶりの感覚に、浮竹は京楽にしなだれかかっていた。

「俺がほしいなら、奪ってもいいんだぞ」

「今日はまだ、最後までしない。また今度ね」

「ふ・・・・・」

ぴちゃりと音をたてて、浮竹の舌をとらえて絡めあいながら、京楽は細い浮竹の体を抱きしめた。

「ちゃんと食べてる?本当に男の子?」

「胸、ないだろう。それに幼少期に男のものを切断されて、二次性徴がない。お前の父は、それが珍しいのか、中性的なところがいいと、よく俺を・・・・」

「やめて、聞きたくない。先代王とのことは、禁句だよ。僕の前では言わないで」

「分かった。すまなかった」

浮竹は、素直に謝罪した。

「ほら、冷えるからこっちにおいで」

大きな天蓋つきのベッドに招き入れられた。京楽は本当に抱くつもりはないようで、浮竹を抱きしめて、一緒に眠りについた。

朝起きると、浮竹の姿がなかった。

京楽は慌てたが、隣の部屋で精霊猫のヒスイと戯れている姿を発見して、安堵する。

それから、毎日一緒に食事するようになり、湯浴みも一緒にするようになった。

幼少期に男のものを切断されたというのは本当で、浮竹の体は細くしやなかだが、男性としては機能していなかった。

「なぁ、お前は俺のどこがいいんだ?」

執務をしている京楽の傍で、書類をのぞき込みながら、浮竹が問う。

「君に一目ぼれしたんだよ、君が城に連れてこられたその日に。父のものになったと聞いた時、腸が煮えくり返りそうだった」

「なら、奪えばよかったのに」

「母のようにはなりたくない。暗殺するしか、君を奪う方法はなかっただろうし・・・」

「そういえばお前、妃は娶らないのか?」

「いらない。君がいてくれれば、それでいい」

「言っとくが、俺は子供は産めないぞ。見えないかもしれないが、男なんだから」

最近の浮竹は、浮竹の願い通り姫君の恰好ではなく、中性的な恰好をしていた。

「ねぇ、今日の夜、君を抱いてもいいかい?」

「好きにすればいい。俺はお前の寵姫だ。お前のものだ」

「僕のもの・・・・いい響きだね」

京楽は、浮竹に翡翠の首飾りを贈った。精霊猫のヒスイ用に。

その夜、浮竹は夜伽のために肌を磨かれて、薄い化粧を施されて、薄い絹の衣服を着せられて京楽の元にやってきた。

「本当に、綺麗だね」

「化粧とか、めんどくさいんだがな」

「落としていいよ」

「じゃあ、ちょっと・・・・」

水桶で顔を洗い、化粧を落としたが、それでも浮竹は美しかった。長い白髪が、ふわりと開け放たれた窓から入ってきた夜風に流れる。

「君を抱くよ。いいかい?」

「元々そのために後宮に囲っているんだろう。好きにしろ」

「僕は君が好きだ。君は、僕のこと好きかい?」

「嫌いじゃない」

絹の衣服を脱がせていく。

肌はしっとりとしていて、触り心地もよく、何より白かった。日焼けを知らないようで、雪のようだった。

首筋にキスマークを残すと、浮竹は京楽に抱き着いた。

「浮竹、好きだよ」

「俺も・・・好きかもしれない」

唇が重なった。ふわりとした感触を楽しんでから、咥内を京楽の舌が侵入していく。

「んんっ・・・・・」

浮竹は、京楽のキスに弱いようで、上あごや下あご、歯茎を舐められると、クタリと力なく京楽に支えられた。

「久しぶりだから、やばいかも」

浮竹は、赤くなっていた。

そんな様子が愛らしくて、ちゅっとリップ音をたてて額に口づけた。

お互い全裸になって、京楽の舌が浮竹の肌を這う。

「んっ」

鎖骨を甘噛みされた。

胸の先端を舌で転がされて、浮竹はびくんと体をはねさせる。

「あっ、あっ」

声を抑えることもできないでいる。

体全体を愛撫して、切り落とされてしまった部分を口に含むと、浮竹は首を振った。

「でないから・・・・そんなことしても、なんの意味も・・・・」

今度は、浮竹が京楽のものを口に含んだ。

随分慣れているようで、先代の父王に嫉妬心を覚えた。

「もういいから・・・後ろ、向いて。解すから」

「んっ」

潤滑油を手に取り、濡れないそこを濡らしていく。

「指、入れるよ?」

「あ、いちいち言わなくていい・・・・」

ぬめっと、指が一本入ってきた。

久しぶりの感触に、浮竹は息を吸って吐いて、無理に体に力を入らないようにした。

二本、三本と指が足されいく。

「ああ!」

ある部分を触ると、浮竹がびくんと反応した。

「ここ?ここがいいんだね?」

「や・・・・・・やめ・・・・ああ、んあ・・・・・」

そこを集中的にいじると、浮竹は涙を零した。

「あ、いきたい・・・いく」

「後ろで、いけるんだ」

「あ、意地悪・・・・・・」

涙をなめとって、京楽は浮竹を抱きしめた。

「愛してるよ、十四郎」

「あ、春水、春水・・・・」

浮竹は、体を拓く。

京楽は指で蕾を解して、潤滑油でとろとろになるまで指でいじっていた。その間にも、浮竹はドライでまたいってしまっていた。

「あ・・・・早く、来い。俺の胎の奥に出せ」

京楽は自分のものに潤滑油を塗りまくって、浮竹と手を重ね合わせて、中に侵入する。

「んっ・・・・・・あ、あ、あ・・・・」

ずずっと、音を立てて、京楽のものを飲み込んでいく。

そこは、男を受け入れることに慣れているのか、中がひくついて京楽を締め上げた。

「んあっ・・・・・もっと奥に」

「一度、中に出すよ?」

「あ。お前のものになるから、お前のものでいっぱいにしてくれ」

浮竹は、京楽に口づける。

ずちゅんと奥を衝かれて、京楽は浮竹の中に熱を放ち、浮竹もドライでいっていた。

「あ、あ、おかしくなる・・・・・ああっ」

「もっといっぱい、感じて?」

京楽は、浮竹の中から一度出ると、浮竹を後ろ向きにさせて後ろから突き上げた。

「ああ、んあ、あ、あ・・・・・・」

浮竹の少女のように高い声が、寝室に響く。

二次性徴をしていないので、浮竹は声が高かった。声変わりをしていないのだ。

「あ、あ、あ・・・・・・」

ぐちゅぐちゅと内部を犯してやる。

浮竹は京楽の背中に爪を立てて、その肩に噛みついた。

「あ、もっと・・・ひあああああ!」

前立腺をすりあげられて、浮竹が啼くと、京楽は満足そうに息を吐いた。

「もう、完全に僕のものだね」

「んあっ・・・・春水、しゅんすい・・・・・」

「僕はここにいるよ、十四郎。君の中にいる」

「あ・・・・・一緒に、いってくれ」

「うん」

騎乗位になり、下から浮竹を突き上げると、ぽろぽろと快感による涙を零しながら、浮竹は京楽の上で白い長い髪を乱した。

「いくよ・・・・・奥に、いっぱい注いであげる。種付けしてあげるから、胎で身籠って」

「あ・・・・・いく、いくから・・・・・あああっ!!」

京楽が浮竹の最奥に精液をぶちまけるのと、浮竹がドライでいくのとほぼ同時だった。

「ん・・・・・・」

ぬくと、潤滑油と体液が混ざったものが、こぽりと溢れてきた。

それを濡れた絹の布でふき取って、京楽は浮竹を抱き上げた。

「京楽?」

「中に出したもの、かき出さないと。風呂場に行こう」

「先代王は、抱いたら俺を追い出したぞ」

「僕はそんなこと、絶対にしない。ちゃんと後処理もするから」

王の寝室には、少し狭いが、湯船があり、湯はきちんと張られていた。

そこに浮竹を下して、中にだしたものをかき出す。

「んあ・・・・ああっ」

「だめだよ、声だしちゃ。また君を貪りたくなる」

「俺の所有者はお前なんだろう?好きにすればいい」

「君を大切にしたいんだ」

「うん。大切にされてるって、もう分かってる」

体を洗ってやり、髪もまた洗ってから、二人で湯船に浸かった。

「俺には、夢があるんだ」

「どんな?」

「自由になって、世界を知りたい」

「君は僕だけのものだ。自由にはある程度させてあげるけど、世界を見るとしたら、僕と一緒にならいいよ。いつか君に、この世界を見せてあげる」

「本当に?」

「うん。約束するよ。そうだな、とりあえず来週あたり遠出でもしようか」

「俺が逃げるって思わないのか?」

「逃げれないように、奴隷だって印の金の鎖を首に巻き付けているでしょ。一般奴隷は銅の鎖だけど、君には金の鎖だ。ああ、白金のほうがいいかもね。今度、新しい鎖を作ってあげる。君に似合いそうな細工の綺麗なものを」

奴隷なのは仕方ない。そうでもないと、他の有力者が理由をつけて仲を引き裂こうとするだろう。奴隷なら、王に仕えるのは当たり前になる。

「好きにしろ。どのみち、お前から逃げても俺に行く場所はない」

浮竹の故郷は滅んだ。今は京楽の国の一部になっている。

京楽は、その後も妃を娶ることはせず、浮竹を寵愛した。王位は先代王の弟の息子を王太子としてたてた。

京楽は、よく浮竹を連れて世界を回った。

浮竹は、幸せそうだった。

京楽も、浮竹の幸せそうな顔を見て嬉し気だった。

二人の間には、子供こそできなかったが、法を捻じ曲げて合法的に婚姻し、王太子となった幼子をかわいがった。

浮竹は、婚姻と同時に奴隷の身分を解放されて、同時に爵位を賜った。辺境伯であったが、直轄する地域にとどまらずに、王城で暮らしていた。

京楽は浮竹を愛し、同時に浮竹もまた京楽を愛した。

浮竹の瞳の色の翡翠が、その国の象徴になった。

翡翠を愛する者。

それは王である。

王は、それから代々翡翠を国の宝石とした。





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