色のない世界 終章
「浮竹ーーーーーーーーー!!」
京楽の叫び声も空しく、浮竹は花の神によって天に連れ去られてしまった。
京楽は走り出す。
浮竹の墓のところまで。
あまりのショックに、瞬歩が使えない。
走って走って、こけて。血を流して。それでも走った。心臓の鼓動が限界を告げ、肺が空気を求める。
それさえどうでもいいのだと走った。
浮竹の墓の前にくると、次元が歪んでいた。
「きたか」
花の神の声だけがする。
次元の歪みに足を踏み入れて、浮竹を取り返そうとするが、弾かれてしまう。
「浮竹を返せ!」
「愛児は・・・・十四郎は、お前の愛を忘れてしまうかもしれない。それでも、十四郎を求めるか?」
「たとえ浮竹・・・・いや、十四郎が僕を忘れても、もう一度最初から築きあげる。愛を」
「築きあげるか・・・・・・・」
ゆらりと、花の神が姿を現す。
それは、京楽とそっくりな姿をしていた。院生時代の京楽の姿だった。
「十四郎の記憶に触れた。お前の色に染まって、お前以外に、何もない世界があった」
「僕の覚悟を見せろといったね」
「そうだ。愛児を返してほしければ、どれほどの覚悟があるのか見せてみろ」
「もう、浮竹のいない世界なんていらないよ」
京楽は。
花天狂骨で、自分の心臓を突き刺していた。
「!」
花の神が、怯む。
「お前は・・・・・花に狂い天に骨となるか」
花天狂骨が泣いていた。
「その覚悟、見届けたり。愛児を返してやろう」
浮竹は、自分の墓の前に放り出されていた。全てを見ていた。
「京楽・・・・嘘だろう?」
京楽の心臓から、血がとめどなくあふれ出て、その鼓動は止まっていた。
「京楽、なんとかいってくれ!京楽!!」
京楽の血で真っ赤に染まるのも構わずに、京楽の体をかき抱く。
「花の神よ!京楽を返せ!」
「京楽は、覚悟を見せた。返してほしいなら、お前も覚悟を見せろ」
「京楽のいない世界なんて、いらないんだ。俺も一緒にいく。待っていろ、京楽」
泣き続ける花天狂骨を手にして、首の軽度脈をかき切る。
ばっと吹き出た血が、花の神の顔や服を汚した。
「心中か」
花の神は、意外そうに・・・でも、満足そうに、ふわりと笑みを浮かべた。
「花の神の祝福を受ける者たちよ」
重なり合って倒れている、京楽と浮竹の体が宙に浮かぶ。
「椿の狂い咲きの王の名にて、全てを命じる。花の神の祝福と愛を永久’(とこしえ)に」
ちらちらと、
花が散っていく。まるで桜のように。
散っていく花びらは、浮竹と京楽の傷口に集まって、癒していく。流れ出た血が逆流する。
花天狂骨は、花天狂骨枯松心中.の姿になっていた。
「万物の全てに命じる。花の神、椿の狂い咲き王の名において、今一度、羽ばたきを」
チチチチチ。
白い小鳥が飛んできて、花の神の肩に止まった。
花の神の姿がかすんでいく。
ぴくりと、京楽の指が動いた。同時に、浮竹の指も。
「京楽・・・?」
「浮竹・・・?」
「無事なのかい、浮竹!」
「そういう京楽こそ、生きているのか!?」
お互いを抱き合いながら、互いの無事を確認して、花の神を見る。
ゆらりと、影だけになっていた。その影は、シロと名付けた小鳥の中に入っていく。
「そうか・・・・お前が、花の神だったのか」
シロは、緑の瞳で京楽の肩にとまった。
「お前があまりにも哀れで・・・・我が化身を遣わせ、愛児を授けた。我が名は椿の狂い咲きの王」
シロが翼を広げる。
「そして、今の名はシロ」
花の神は、2つの命にもう一度の始まりを与え、祝福した。永久に在るようにと。
「逝ってしまうのかい?」
「花の神・・・・いや、シロ。俺をこの世界にもう一度在るようにしてくれたことに、感謝を・・・・・・・・・」
シロが羽ばたいた。
「我が祝福を二人に授けた。永久を。我が名は椿の狂い咲きの王。冬になれば、椿が咲く。それを我と思い、大切にしてくれ」
光となって消えていく。
舞い散る羽は、光の花びらとなって消えていった。
いつまでも、その光の痕を見ていた。
浮竹の墓は消えて、むきだしの地面だけがそこにあった。
「帰ろう」
「そうだね」
花の神の祝福を授かった二人は、またこの世界で生まれ落ちた。浮竹だけでなく、京楽からも花の香がするようになっていた。
花の愛児は、二人になった。
花の神は、また存在を失った。でも、名は失わなかった。今の名は椿の狂い咲きの王ではなく、ただのシロだ。
その日、互いの存在を確認しあうようにして、泥ような眠りに落ちた。二人は、花の香をさせて数日間起きなかった。
心配した七緒が、虎徹勇音に診せたが、ただ深い眠りについているだけだと言われた。
やがて、花の愛児となった二人は目覚める。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
狂おしいほどの愛を抱えながら、二人は生きる。
一度命を失ってしまった浮竹は、花の神に愛されてもう一度命を与えられた。それは、時の輪に影響を与える、本当ならあってはいけないこと。
花の神は、均衡を崩さぬために、愛児を取り戻そうとした。でも、愛児を与えるきっかけになった京楽の覚悟次第で、返してやろうと思った。
覚悟はしっかりと受けとった。その覚悟を見届けた愛児もまた、覚悟を見せた
それで充分だった。
花の神は、存在をなくすほどに二人を愛し、祝福を授けた。
もう一度、この世界で芽吹くようにと。
代償は、花の神の命。
やがて、時は巡り冬になった。
京楽は京楽総隊長として。浮竹は元13番隊隊長として生きた。
「見ろ、京楽!椿が咲いている!」
京楽は、椿の花を一輪手折って、浮竹の白い長い髪にさ。浮竹はもまた、一輪手折って京楽の髪にさした。
「僕には、似合わないだろうに」
「お揃いにしたいから、これでいいんだ」
二人が泥のような眠りから目覚めてから、シロがやってくることは一度もなかった。ただ、クロとそひなが成鳥となり、餌を啄みにきた。
「シロは今頃、どうしてるかな?」
「僕らのために散ってしまったからね。でも、冬にはまた椿の花が咲く。きっと、その花のどこかにシロはいるよ」
「椿の花、手折ったのまずかったかな?」
「愛でているんだから、大丈夫じゃない?」
二人は寄り添いあう。
浮竹の墓はもうない。浮竹は今ここに在る。京楽は、浮竹を愛した。浮竹もまた、京楽を愛した。
二人は、永久(とこしえ)を生きる。
花の神に愛された者として。
祝福を受けた者として。
IF 色のない世界 FIN
京楽の叫び声も空しく、浮竹は花の神によって天に連れ去られてしまった。
京楽は走り出す。
浮竹の墓のところまで。
あまりのショックに、瞬歩が使えない。
走って走って、こけて。血を流して。それでも走った。心臓の鼓動が限界を告げ、肺が空気を求める。
それさえどうでもいいのだと走った。
浮竹の墓の前にくると、次元が歪んでいた。
「きたか」
花の神の声だけがする。
次元の歪みに足を踏み入れて、浮竹を取り返そうとするが、弾かれてしまう。
「浮竹を返せ!」
「愛児は・・・・十四郎は、お前の愛を忘れてしまうかもしれない。それでも、十四郎を求めるか?」
「たとえ浮竹・・・・いや、十四郎が僕を忘れても、もう一度最初から築きあげる。愛を」
「築きあげるか・・・・・・・」
ゆらりと、花の神が姿を現す。
それは、京楽とそっくりな姿をしていた。院生時代の京楽の姿だった。
「十四郎の記憶に触れた。お前の色に染まって、お前以外に、何もない世界があった」
「僕の覚悟を見せろといったね」
「そうだ。愛児を返してほしければ、どれほどの覚悟があるのか見せてみろ」
「もう、浮竹のいない世界なんていらないよ」
京楽は。
花天狂骨で、自分の心臓を突き刺していた。
「!」
花の神が、怯む。
「お前は・・・・・花に狂い天に骨となるか」
花天狂骨が泣いていた。
「その覚悟、見届けたり。愛児を返してやろう」
浮竹は、自分の墓の前に放り出されていた。全てを見ていた。
「京楽・・・・嘘だろう?」
京楽の心臓から、血がとめどなくあふれ出て、その鼓動は止まっていた。
「京楽、なんとかいってくれ!京楽!!」
京楽の血で真っ赤に染まるのも構わずに、京楽の体をかき抱く。
「花の神よ!京楽を返せ!」
「京楽は、覚悟を見せた。返してほしいなら、お前も覚悟を見せろ」
「京楽のいない世界なんて、いらないんだ。俺も一緒にいく。待っていろ、京楽」
泣き続ける花天狂骨を手にして、首の軽度脈をかき切る。
ばっと吹き出た血が、花の神の顔や服を汚した。
「心中か」
花の神は、意外そうに・・・でも、満足そうに、ふわりと笑みを浮かべた。
「花の神の祝福を受ける者たちよ」
重なり合って倒れている、京楽と浮竹の体が宙に浮かぶ。
「椿の狂い咲きの王の名にて、全てを命じる。花の神の祝福と愛を永久’(とこしえ)に」
ちらちらと、
花が散っていく。まるで桜のように。
散っていく花びらは、浮竹と京楽の傷口に集まって、癒していく。流れ出た血が逆流する。
花天狂骨は、花天狂骨枯松心中.の姿になっていた。
「万物の全てに命じる。花の神、椿の狂い咲き王の名において、今一度、羽ばたきを」
チチチチチ。
白い小鳥が飛んできて、花の神の肩に止まった。
花の神の姿がかすんでいく。
ぴくりと、京楽の指が動いた。同時に、浮竹の指も。
「京楽・・・?」
「浮竹・・・?」
「無事なのかい、浮竹!」
「そういう京楽こそ、生きているのか!?」
お互いを抱き合いながら、互いの無事を確認して、花の神を見る。
ゆらりと、影だけになっていた。その影は、シロと名付けた小鳥の中に入っていく。
「そうか・・・・お前が、花の神だったのか」
シロは、緑の瞳で京楽の肩にとまった。
「お前があまりにも哀れで・・・・我が化身を遣わせ、愛児を授けた。我が名は椿の狂い咲きの王」
シロが翼を広げる。
「そして、今の名はシロ」
花の神は、2つの命にもう一度の始まりを与え、祝福した。永久に在るようにと。
「逝ってしまうのかい?」
「花の神・・・・いや、シロ。俺をこの世界にもう一度在るようにしてくれたことに、感謝を・・・・・・・・・」
シロが羽ばたいた。
「我が祝福を二人に授けた。永久を。我が名は椿の狂い咲きの王。冬になれば、椿が咲く。それを我と思い、大切にしてくれ」
光となって消えていく。
舞い散る羽は、光の花びらとなって消えていった。
いつまでも、その光の痕を見ていた。
浮竹の墓は消えて、むきだしの地面だけがそこにあった。
「帰ろう」
「そうだね」
花の神の祝福を授かった二人は、またこの世界で生まれ落ちた。浮竹だけでなく、京楽からも花の香がするようになっていた。
花の愛児は、二人になった。
花の神は、また存在を失った。でも、名は失わなかった。今の名は椿の狂い咲きの王ではなく、ただのシロだ。
その日、互いの存在を確認しあうようにして、泥ような眠りに落ちた。二人は、花の香をさせて数日間起きなかった。
心配した七緒が、虎徹勇音に診せたが、ただ深い眠りについているだけだと言われた。
やがて、花の愛児となった二人は目覚める。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
狂おしいほどの愛を抱えながら、二人は生きる。
一度命を失ってしまった浮竹は、花の神に愛されてもう一度命を与えられた。それは、時の輪に影響を与える、本当ならあってはいけないこと。
花の神は、均衡を崩さぬために、愛児を取り戻そうとした。でも、愛児を与えるきっかけになった京楽の覚悟次第で、返してやろうと思った。
覚悟はしっかりと受けとった。その覚悟を見届けた愛児もまた、覚悟を見せた
それで充分だった。
花の神は、存在をなくすほどに二人を愛し、祝福を授けた。
もう一度、この世界で芽吹くようにと。
代償は、花の神の命。
やがて、時は巡り冬になった。
京楽は京楽総隊長として。浮竹は元13番隊隊長として生きた。
「見ろ、京楽!椿が咲いている!」
京楽は、椿の花を一輪手折って、浮竹の白い長い髪にさ。浮竹はもまた、一輪手折って京楽の髪にさした。
「僕には、似合わないだろうに」
「お揃いにしたいから、これでいいんだ」
二人が泥のような眠りから目覚めてから、シロがやってくることは一度もなかった。ただ、クロとそひなが成鳥となり、餌を啄みにきた。
「シロは今頃、どうしてるかな?」
「僕らのために散ってしまったからね。でも、冬にはまた椿の花が咲く。きっと、その花のどこかにシロはいるよ」
「椿の花、手折ったのまずかったかな?」
「愛でているんだから、大丈夫じゃない?」
二人は寄り添いあう。
浮竹の墓はもうない。浮竹は今ここに在る。京楽は、浮竹を愛した。浮竹もまた、京楽を愛した。
二人は、永久(とこしえ)を生きる。
花の神に愛された者として。
祝福を受けた者として。
IF 色のない世界 FIN
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