花の神
朝になった。
京楽の寝所で起きる。いつものように、何もしないでただ一緒に眠っただけの朝。
チチチチチチ。
小鳥の鳴き声が聞こえて、浮竹は夜着のままベッドからおりて、小鳥用のえさをいれた皿を、いつもの窓辺の下においた。
チチチチチ。
小鳥は、シロとクロと、あと二羽いた。
「ヒナが生まれたのか!」
二羽のヒナは、シロとクロから餌をねだり、大きな口をあけてぴよぴよと鳴いていた。
「おい、京楽!」
浮竹は、京楽を起こした。
「んー今何時」
「それより、シロとクロがヒナを連れてきたんだ!」
「えっ、ヒナかい?」
京楽も興味をそそられたようで、そっと窓辺の下を見る。二羽のヒナは精一杯口を大きくあけて、餌をねだっていた。
「あと半月もしないうちに、巣立ちだろうねぇ」
「そうだな」
この間、綿をおいておいたら、巣作りのために運んではいたが、あれからもう1か月はたつのだろうか。
卵を産んで、ヒナが育ち、巣立ちを目の前にしていた。
「時間が過ぎるのって、結構早いね」
「ああ」
このまま生き続ければ、いずれシロとクロとも別れがくるだろう。でも、その子供たちがいる。しっかりと絆は受け継がれていく。
「今日の予定は?」
「今日は何もないよ」
「珍しいな」
「たまには総隊長にも休暇がないと、やってけないからね」
京楽の、総隊長としての仕事を一緒にすることが多い浮竹には、嬉しいことだった。
いつもは京楽が総隊長としての仕事に追われて、日が落ちる頃に自由になる。昔のくせで、仕事をほっぽりだして浮竹をでかけることはあったが、翌日にはその前の日の分も仕事に追われて、夜になるのだ。
「何する?」
「さぁ、休日だと思っていなかったから、いつものように日番谷隊長のところに遊びに行こうかと思ってた」
「じゃあ、二人で遊びに行こうか」
「ああ、そうしよう」
総隊長が、10番隊の執務室に遊びにいくというのも変だが、とにかく二人は日番谷のところにやってきた。
「何の用だ、この暇人のおっさんどもが!」
日番谷は、京楽と浮竹の姿を見ると、眉間にしわを寄せた。
「まぁまぁ、いいじゃないの日番谷隊長」
京楽が、松本のいれたお茶をすすりながら、茶菓子として置かれていたわかめ大使を食べる。
「このわかめ大使も、大部尸魂界に浸透したねぇ」
朽木白哉が考案したわかめ大使というお菓子は、見た目のせいであまり人気がなかった。浮竹がよくもらいにくるので、浮竹を通じて尸魂界に浸透したといっていいだろう。
「俺は、昔から好きだぞ、このわかめ大使」
あんこがくどくなくて美味いのだと、浮竹はいう。
「仕事でもしてろよおっさんども」
「いや、それが今日は仕事のない日なんだ」
浮竹が、お茶をすする。すでに、マイ湯呑・・・・専用の湯呑があるくらい、日番谷の執務室に出入りしていた。
「菓子食って茶を飲んだら帰れ。俺は用があるんだ」
「まぁまぁ、そう言わずに・・・・・・・・」
京楽が、外から感じる霊圧ににまにましだした。
「これだね?」
小指を立てる。・
「うっせぇ!」
京楽の頭を、どこからもちだしたのか分からないスリッパではたいて、日番谷は執務室の扉をあけた。
「シロちゃん、こんにちわ・・・・って、京楽総隊長に浮竹元隊長!?」
小指の意味に、遅まきに浮竹が気づく。
「すまない、デートがあるならそうはっきり言ってくれ日番谷隊長!」
「ななななな、べ、別にデートじゃねぇ!」
にまにましている京楽を引きずって、浮竹は10番隊の執務室を後にした。
することがなくなって、二人で甘味屋にいく。日番谷と雛森も入ってきたので、二人して遠くの席に移動して、若いカップルを見学する。
分かったことは、雛森は思っていたよりよく食べるのと、日番谷は抹茶アイスばかり食べていた、ことくらいだろうか。
午後になった。
「暇だな」
「暇だね」
二人して、木陰の下で寝転んで、あまりの暇さに午睡をはじめた。
「京楽総隊長!浮竹隊長!」
名を呼ばれ、ゆり動かされて、目覚める。
「ルキアちゃん?」
「ん、朽木か?」
「あたしもいるよー」
苺花と手を繋いで、買い物帰りらしかった。
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ」
「いやぁ、あまりに暇で」
「同じく」
「そんなに暇なら、我が家にきますか?歓迎します」
席官クラスの者たちの屋敷が並んでいる通りに、ルキアの家はあった。恋次の金では買えるはずもない大きさに、朽木という名のもつ意味を知った。
「今は、屋敷の者はいませんので・・・・」
きょろきょろと、ルキアの家の中を見ていく。いたるところに、チャッピー人形が置いてあった。
「ここ、あたしの部屋!入っちゃだめ!チカさんにもまだ見せてないんだよ」
苺花が通せんぼするので、その部屋には入らなかった。
談笑していると、時間が経つのも早くて、恋次が帰宅してきた。
「うわっ、京楽総隊長に浮竹元隊長!なんでこんなとこにいるんすか!」
「いやぁ、あまりに暇だったのでお呼ばれしちゃったの」
「右に同じく」
京楽と浮竹は、阿散井家の団欒にまじって、夕食を食べさせてもらい、1番隊の隊首室に帰ってきた。
湯あみをすませると、もう9時を過ぎていた。
「今日は、日番谷隊長と暇森副隊長のデートも見れたし、阿散井家で楽しく過ごせたし、悪くない一日だった」
浮竹の長い、膝裏まで伸びてしまった髪をドライヤーで乾かしながら、京楽も頷く。
「悪くない一日だったね」
「こんな平和もいいものだな。暇すぎるのはあれだが、明日は久しぶりに朽木のところに遊びにいこうかな。仙太郎と話しもしたいし」
「僕の仕事が終わるまで、待ってくれるかい?」
「勿論だ」
浮竹は、そう笑みを零した。
今はもう雨乾堂はない。そこは、死んでしまった浮竹の墓になっている。
まだ、自分の墓にはいったことがない。
あの墓の前から、今の浮竹は出てきた。花の神に、新しい命を与えられて。
あの墓にいけば、自分が消滅しそうな気がして怖いのだ。
だから、わざと避けている。それを知ってか、京楽も浮竹の墓参り、という行為をやめてしまった。
「今度の休みの日には、山じいの墓参りにいこうか」
「ああ、そうだな」
京楽は、浮竹の墓参りに行こうとは言わない。今ここに、浮竹が生きて動いているからだ。
次の休みがいつになるか分からない。
でも、いつか、と思う。
自分の墓を見て、一区切りつけたい。
赤子の頃、花の神の愛児として祝福を受けた。その花の神の力で生き返った。神掛をしたことに悔いはないが、京楽を残して逝ってしまったことにはとても後悔している。
花の神に愛され、浮竹は生きる。
今を。
ふと、花の神は目覚めた。存在をなくし、意識をなくし、名をなくしていた、
「浮竹十四郎・・・・・・・・」
花の神は、愛児の名を呼ぶ。
それにこたえる者は、誰もいなかった-------------。
京楽の寝所で起きる。いつものように、何もしないでただ一緒に眠っただけの朝。
チチチチチチ。
小鳥の鳴き声が聞こえて、浮竹は夜着のままベッドからおりて、小鳥用のえさをいれた皿を、いつもの窓辺の下においた。
チチチチチ。
小鳥は、シロとクロと、あと二羽いた。
「ヒナが生まれたのか!」
二羽のヒナは、シロとクロから餌をねだり、大きな口をあけてぴよぴよと鳴いていた。
「おい、京楽!」
浮竹は、京楽を起こした。
「んー今何時」
「それより、シロとクロがヒナを連れてきたんだ!」
「えっ、ヒナかい?」
京楽も興味をそそられたようで、そっと窓辺の下を見る。二羽のヒナは精一杯口を大きくあけて、餌をねだっていた。
「あと半月もしないうちに、巣立ちだろうねぇ」
「そうだな」
この間、綿をおいておいたら、巣作りのために運んではいたが、あれからもう1か月はたつのだろうか。
卵を産んで、ヒナが育ち、巣立ちを目の前にしていた。
「時間が過ぎるのって、結構早いね」
「ああ」
このまま生き続ければ、いずれシロとクロとも別れがくるだろう。でも、その子供たちがいる。しっかりと絆は受け継がれていく。
「今日の予定は?」
「今日は何もないよ」
「珍しいな」
「たまには総隊長にも休暇がないと、やってけないからね」
京楽の、総隊長としての仕事を一緒にすることが多い浮竹には、嬉しいことだった。
いつもは京楽が総隊長としての仕事に追われて、日が落ちる頃に自由になる。昔のくせで、仕事をほっぽりだして浮竹をでかけることはあったが、翌日にはその前の日の分も仕事に追われて、夜になるのだ。
「何する?」
「さぁ、休日だと思っていなかったから、いつものように日番谷隊長のところに遊びに行こうかと思ってた」
「じゃあ、二人で遊びに行こうか」
「ああ、そうしよう」
総隊長が、10番隊の執務室に遊びにいくというのも変だが、とにかく二人は日番谷のところにやってきた。
「何の用だ、この暇人のおっさんどもが!」
日番谷は、京楽と浮竹の姿を見ると、眉間にしわを寄せた。
「まぁまぁ、いいじゃないの日番谷隊長」
京楽が、松本のいれたお茶をすすりながら、茶菓子として置かれていたわかめ大使を食べる。
「このわかめ大使も、大部尸魂界に浸透したねぇ」
朽木白哉が考案したわかめ大使というお菓子は、見た目のせいであまり人気がなかった。浮竹がよくもらいにくるので、浮竹を通じて尸魂界に浸透したといっていいだろう。
「俺は、昔から好きだぞ、このわかめ大使」
あんこがくどくなくて美味いのだと、浮竹はいう。
「仕事でもしてろよおっさんども」
「いや、それが今日は仕事のない日なんだ」
浮竹が、お茶をすする。すでに、マイ湯呑・・・・専用の湯呑があるくらい、日番谷の執務室に出入りしていた。
「菓子食って茶を飲んだら帰れ。俺は用があるんだ」
「まぁまぁ、そう言わずに・・・・・・・・」
京楽が、外から感じる霊圧ににまにましだした。
「これだね?」
小指を立てる。・
「うっせぇ!」
京楽の頭を、どこからもちだしたのか分からないスリッパではたいて、日番谷は執務室の扉をあけた。
「シロちゃん、こんにちわ・・・・って、京楽総隊長に浮竹元隊長!?」
小指の意味に、遅まきに浮竹が気づく。
「すまない、デートがあるならそうはっきり言ってくれ日番谷隊長!」
「ななななな、べ、別にデートじゃねぇ!」
にまにましている京楽を引きずって、浮竹は10番隊の執務室を後にした。
することがなくなって、二人で甘味屋にいく。日番谷と雛森も入ってきたので、二人して遠くの席に移動して、若いカップルを見学する。
分かったことは、雛森は思っていたよりよく食べるのと、日番谷は抹茶アイスばかり食べていた、ことくらいだろうか。
午後になった。
「暇だな」
「暇だね」
二人して、木陰の下で寝転んで、あまりの暇さに午睡をはじめた。
「京楽総隊長!浮竹隊長!」
名を呼ばれ、ゆり動かされて、目覚める。
「ルキアちゃん?」
「ん、朽木か?」
「あたしもいるよー」
苺花と手を繋いで、買い物帰りらしかった。
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ」
「いやぁ、あまりに暇で」
「同じく」
「そんなに暇なら、我が家にきますか?歓迎します」
席官クラスの者たちの屋敷が並んでいる通りに、ルキアの家はあった。恋次の金では買えるはずもない大きさに、朽木という名のもつ意味を知った。
「今は、屋敷の者はいませんので・・・・」
きょろきょろと、ルキアの家の中を見ていく。いたるところに、チャッピー人形が置いてあった。
「ここ、あたしの部屋!入っちゃだめ!チカさんにもまだ見せてないんだよ」
苺花が通せんぼするので、その部屋には入らなかった。
談笑していると、時間が経つのも早くて、恋次が帰宅してきた。
「うわっ、京楽総隊長に浮竹元隊長!なんでこんなとこにいるんすか!」
「いやぁ、あまりに暇だったのでお呼ばれしちゃったの」
「右に同じく」
京楽と浮竹は、阿散井家の団欒にまじって、夕食を食べさせてもらい、1番隊の隊首室に帰ってきた。
湯あみをすませると、もう9時を過ぎていた。
「今日は、日番谷隊長と暇森副隊長のデートも見れたし、阿散井家で楽しく過ごせたし、悪くない一日だった」
浮竹の長い、膝裏まで伸びてしまった髪をドライヤーで乾かしながら、京楽も頷く。
「悪くない一日だったね」
「こんな平和もいいものだな。暇すぎるのはあれだが、明日は久しぶりに朽木のところに遊びにいこうかな。仙太郎と話しもしたいし」
「僕の仕事が終わるまで、待ってくれるかい?」
「勿論だ」
浮竹は、そう笑みを零した。
今はもう雨乾堂はない。そこは、死んでしまった浮竹の墓になっている。
まだ、自分の墓にはいったことがない。
あの墓の前から、今の浮竹は出てきた。花の神に、新しい命を与えられて。
あの墓にいけば、自分が消滅しそうな気がして怖いのだ。
だから、わざと避けている。それを知ってか、京楽も浮竹の墓参り、という行為をやめてしまった。
「今度の休みの日には、山じいの墓参りにいこうか」
「ああ、そうだな」
京楽は、浮竹の墓参りに行こうとは言わない。今ここに、浮竹が生きて動いているからだ。
次の休みがいつになるか分からない。
でも、いつか、と思う。
自分の墓を見て、一区切りつけたい。
赤子の頃、花の神の愛児として祝福を受けた。その花の神の力で生き返った。神掛をしたことに悔いはないが、京楽を残して逝ってしまったことにはとても後悔している。
花の神に愛され、浮竹は生きる。
今を。
ふと、花の神は目覚めた。存在をなくし、意識をなくし、名をなくしていた、
「浮竹十四郎・・・・・・・・」
花の神は、愛児の名を呼ぶ。
それにこたえる者は、誰もいなかった-------------。
PR
- トラックバックURLはこちら