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花街

京楽が、廓に通っている。

その言葉を聞いたとき、ちくりと胸の何処かが痛んだ。

「おい、京楽!」

浮竹は、3限目になってやっとでてきた京楽を睨んだ。

「廓にいくのはほどほどにしろ」

「どうして?」

会話の内容が内容なので、廊下の人気のない場所に移動した。

「どうしてって・・・・・俺たちは学生で、死神になるために・・・」

「そんなお堅いこといいじゃない」

「でも」

浮竹は思う。
学生の身分で廓になんて、行けるはずがないと。何より、そんなお金はない。

「君も、一度廓にいってみる?」

「俺は・・・金がないし、そういう場所には・・・」

「僕は、この後学校が終わったら行くよ。おごるから、一緒にいこうよ」

「お前に、ついていく」

気づくと、そんな答えを返していた。



ああああああああ。

ああああああああああああ。

あああああああああああああああ。


俺は何をしているんだろう?親友をずれた道から、軌道修正させるつもりではなかったのだろうか?
頭の中を、いろいろぐるぐると回る思考をまとめられない。

「おいで、浮竹」

手を握られて、廓のある花街までやってきた。

その鮮やかな世界に、浮竹は言葉を失った。

「京楽のだんな、また遊んでいきよ・・・・おや、その子は色子だね。想い人かい?」

「い、色子!?」

何せ、色街なのに手を繋ぎあったままだ。

今の浮竹は、学院の服ではなく私服をきていた。普通の衣服のつもりだったが、この前京楽にもらった着物だった。男でも女でもどちらでも着れる着物だった。

「まあまぁ。浮竹、そんなに驚かなくても」

「お前も、俺が色子に見えるのか?」

京楽に聞くと、京楽は笑った。

「君は容姿がいいから、そんな着物を着ているから、間違われるんだよ」

「これは、お前からもらったものだぞ」

「うん。着てくれてすごく嬉しいよ」

色合いからして、どちらかというと女性が着る着物に見えないこともない。

京楽は、廓に上がることなく花街を案内し、一つの店を指さした。

「髪飾り、買ってあげる」

「おい、俺は男だぞ!」

「いいじゃない。君のその白い髪には、簪や髪飾りがよく似合いそうだ」

ぐいぐい引っ張られて、店の軒先までくる。そして、京楽は小粒の翡翠があしらわれた、螺鈿細工の髪飾りを手に取った。

「おや、京楽の坊ちゃん。想い人ですかい?安くしておきますぜ」

京楽は、色街でも有名らしかった。

上級貴族でほいほい金をばらまいていくので、上客だったのだ。

「これ、もらうよ。勘定はこれで足りるかな?」

浮竹は、目の飛び出るような金額を平気で出す京楽を、揺り動かした。

「京楽、こんな高いのもらえない!」

「いいから、もらってよ。僕の気持ちだから」

「でも!」

「京楽の旦那に甘えときなさいな、お嬢ちゃん」

肩までの髪に、髪飾りをつけられる。そして、店の主人には女性と見間違われていた。

「これが色街・・・・・・・」

くらくらする。

「おもしろいでしょ」

京楽は、悪戯をする子供のように瞳を煌めかせていた。

「あの廓にいこう」

「え」

指さされたのは、陰間茶屋。つまりは、色子となにをする場所だ。

「ちょ、京楽!」

「おや京楽の旦那・・・色子連れで、どうしたんですかい?」

「奥の座敷、借りてもいい?」

「他の色子は呼ばなくていいんですかい?」

「この子を休ませてあげたいだけだから。女のいる廓だと、自分を買え買えとアピールしてきて、うるさくて休めないからね」

「え?」

「浮竹、気づいてないでしょ。熱あるよ」

自分の額に手をあてると、本当にいつの間にか発熱しているらしかった。

陰間茶屋の主人は言う。

「今まで色子に手を出してこなかった旦那の想い人ですかい。かわいい子ですね。学生じゃなかたら、スカウトしたのに」

耳まで真っ赤になった。

「よっと」

京楽は、浮竹を抱き上げると、陰間茶屋の奥の座敷をかりた。

色子は、花魁なみに金がかかる、何せ、その花をうる期間がとても短いのだ。

奥の座敷には、一組の布団。なにをするための、潤滑油だの香油だの、お香だの道具類だの・・・・いろいろそろっていたが、京楽は見向きもしなかった。

「何もしないから。安心して寝るといいよ」

ズキンと、胸の何処かが痛んだ。

気づくと、浮竹は噛みつくようなキスを京楽にしていた。

「今日のお礼!」

荒々しくそういって布団に横になる。

「うん」

京楽は、嬉しそうに隣の畳で寝そべって、浮竹が眠りに入るまでずっとそうしていた。



「ん・・・今何時?」

「夜の10時」

「だあっ!」

浮竹は、飛び起きた。

寮の門限が9時だ。9時になると門がしまる。塀をこえて中に無断で侵入するか、どこかに泊まるしかもう道は残されていなかった。

「帰ってももう閉まってる。どうして起こしてくれなかったんだ」

「だって、君、熱あったし。それに君の寝顔を見ていられて、こっちは幸せだったから」

そんな簡単なことで、幸せを感じられるものなのだろうか。

「もういい。今日はここで泊まる。お金はお前が出せ」

「うん、いいよ」

そっと、抱きしめられた。

「熱、大分さがったね」

「その気がないんだろう。抱き着いてくるな」

「え、あるよ」

「え」

「え」

お互い、顔を見合わせる。

「なかったことにしよう」

浮竹は、耳まで真っ赤になった顔を布団で隠してしまった。

「浮竹・・・・・・」

京楽が、熱っぽく布団にくるまった浮竹に語りかける。

「ずっと好きだった・・・浮竹も、僕とそういうことになっても、構わないの?」

「だから、なかったことにしようと言っている」

「いやだ。僕は君が好きだ」

耳元で囁かれて、浮竹は身を固くした。

「俺も・・・・・お前が、好きだ」

あああああ。

あああああああああああ。

ああああああああああああああああああ。

言ってしまったあああああああああああああああああああ


後悔が、駆け巡る。


「もう、廓で女を買わない。君がいれば、それだけでいい」

「俺は色子じゃないぞ!お前の欲望をすっきりさせるためにいるんじゃない!」

「うん。ただ、隣にいてくれたらいい。それだけで、十分だから」

ちゅっと、音がするキスを頬にされた。

「京楽・・・・・・・・」

もつれあう。抱きしめあい、キスをする。でも、浮竹はそれ以上が怖いので、京楽の手を拒んだ。

「君が、いつか受け入れてくれるまで、いつまでも待ってるから」

京楽に我慢を強き続けて、6回生になっていた。

卒業間近のある日、浮竹は長くなった髪に、あの時の翡翠に螺鈿細工の髪飾りをしていた。

「今日、おれの全部をくれてやる!よく4年も我慢できたものだな」

半ばやけくそ気味に、京楽にそう言うと、浮竹に告白してから女遊びをやめていた京楽は、浮竹を抱き締めた。

「このまま卒業しても、待っているつもりだった。大好きだよ、浮竹」

「俺もお前が大好きだ」

身長差は、ほとんどなくなっていた。その日の夜、相部屋だったのでお互い緊張してぎくしゃくしていたが、口づけを交わしあうと、もうどうでもいいのだと、お互いを貪りあった。

「お前・・・8番隊の3席になるんだってな」

「そういう浮竹こそ、13番隊の3席じゃないか」

卒業していきなり護廷13番隊の席官クラスは初めての例らしい。

「多分、しばらくは忙しいだろうけど、会いにいくから」

「僕も、会いにいくよ」

結ばれた二人の恋人は、口づけをかわしあいながら、まだ見ぬ未来に想いを馳せた。






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