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禁忌という名の4

「ん・・・・・・・・・」

朝気づくと、腕の中に浮竹がいなかった。

「浮竹!?」

急いで服を着替えて、寝室から執務室にいくと、そこに浮竹はいた。

ぽたぽたと、ただ涙を零していた。

「どうしたの、浮竹」

「聞いたんだ。全て」

「何を?」

浮竹は、翡翠の瞳を伏せた。

「俺は浮竹十四郎のクローンで、紛い者。偽物だって」

その言葉に、京楽の方が傷ついた顔になった。

「どうしてだ!どうして俺はクローンなんだ!京楽への、この想いも偽物なのか!?」

涙を零しながら、縋りつくてくる浮竹を抱き締める。京楽の黒曜石の瞳からも、涙が零れ落ちた。

「違うよ・・・君は、浮竹十四郎だ。君のその想いも、僕の君への想いも、本物だ」

「でも!」

言葉を封じるように、唇で唇を塞いでいた。

「クローンでも、君は浮竹十四郎で、その心の元になっている義魂丸は特別で、君を愛した花の神からもらったものなんだよ」

「花の神?俺が赤子の時に祝福を受けた?」

「そう。その花の神が、もう一度僕に、浮竹を・・・君をくれたんだ・・・ほら、君の肌や髪からは、祝福を受けた証の甘い花の香がする」

自分の髪の匂いをかいで、そこから甘い花の香がすることに、少しばかり浮竹が安心する。

「俺の存在は、祝福を受けているんだな?」

「そうだよ」

そう思い込むしか、京楽に道はなかった。花の神が、戯れに与えた命だとしても。

今の浮竹に、本当の浮竹が持っていた霊圧はほとんどない。存在するだけの霊圧はあるが、とても死神としてやっていけそうにもないし、そうさせる気も京楽にはなかった。

「君はね、僕の傍にただいて、笑っていてくれれば、それでいいんだよ。君が欲しいものは、叶うならばなんでも与えよう。でもね、忘れないで。君は僕のものだよ」

狂ったオルゴールが、旋律の外れた音楽を奏でるように。

二人の存在は、世界にとって異質だった。


「京楽総隊長!」

七緒が、緊急連絡をしにやってくる。

「なんだって!虚の群れに破面が多数まざっているだって!?」

何故今更、破面が・・・・・・・・。

「仕方ない、出動だ!浮竹、ちょっと行ってくるから、いい子にして待っていてね」

頭を撫でられて、寝室に取り残された。

京楽は、10番隊と11番隊にも命じて、虚及び破面の殲滅を命じた。総隊長である京楽本人も出撃した。

10番隊の日番谷とは、喧嘩別れしたようなかんじだったが、ちゃんと協力してくれたし、一緒に殲滅に力をかしてくれた。

「なんだよ京楽・・・・ふぬけになったんじゃねーのかよ」

「口の減らないお子様だね、君も・・・・僕はまだまだ現役だよ!」

京楽総隊長は、その日卍解した。そして、その力を瀞霊廷中に見せつけた。

その圧倒的な力に、浮竹のクローン問題を口にしようとしていた者たちは、口を閉ざした。

「僕に何か意見がある者は、一番隊の執務室にきなさい。ただし、僕は今の浮竹を愛している。その仲を壊すような者に容赦はしないよ」

そう言って、京楽は愛しい浮竹の待つ、一番隊の執務室の奥にある寝室に向かった。


「これ・・・・・なんだろう?」

浮竹は、薄くなっていく自分の手を見ていた。

何もない場所から、花びらが降ってくる。

「なんだ!?」

それは、院生時代の京楽の姿をしていた。

「私は、花の神---------------愛児よ」

浮竹は、数歩下がった。

「君を司る義魂丸は、その体と溶け合い一つになった。君は、誰かに愛され、その愛を感じなけば、その存在は消滅してしまう。体が透明になって、最後は消えてしまうんだよ・・・・」

「浮竹!」

その言葉を、京楽も聞いていた。

「狂った花の王よ。愛児に「愛」を与えて「愛」をかんじさせてあげなさい」

それだけ言い残して、花の神は花びらになって散っていった。散っていく花びらは光となり、空間に溶けていく。

「浮竹、おいで」

「京楽・・・俺は・・・・・」

「いいから、おいで」

すーっと、透明になっていく指先を、京楽が掴んだ。半透明なその手にキスをすると、透明だった浮竹の手に色と現実感が戻ってきた。

「こんな俺でいいのか?俺は、クローンなんだぞ」

今にも泣きそうな顔をしていた。

「君を生み出させたのは僕だ」

ドクンと、浮竹の鼓動が高鳴る。

「君を失いたくなくて・・・・・君を作り上げた。君だけを、ただ狂おしいくらいに愛している」

たくさん口づけられて、浮竹は甘い吐息をもらす。

「ああっ、京楽・・・・・・・・」

「君は、僕の傍にいて僕の愛を感じとっていればいい。何も怖いことはないよ」

抱き締められた。

何度も口づけられている頃には、立っていられなくなった。

「本当に、俺でいいのか?お前の浮竹は-----------」

「今は、君が「浮竹」だよ」

ベッドに横にさせて、これでもかと愛を囁いて、混じり合った。

(手・・・…透けてない・・・・・・・)

不思議な感覚だった。

口づけを受けた場所から、ぽかぽかと何かが体全体に染み込んでいく。

これが「愛される」ということなのだろうか。

そして、その愛を知るということなのだろうか。

京楽を見る。本当に、幸せそうな顔をして、こっちを覗き込んでくる。

「まだ、足りないかい?僕の愛は」

「十分だ!」

これ以上抱かれたら、こっちの身がもたない。

でも、本当に心が暖かかった。

これが、愛されるということのか。

誰かに愛され、その愛を感じなけば、その存在は消滅してしまう。

でも、逆に愛を感じていればずっと生きられるということなのだろうか。

「ぽかぽかする・・・」

「どの辺が?」

「心臓のあたりが・・・・」

京楽が、浮竹の胸に耳をあてる。

トクントクンと、心臓は脈打っている。

「俺は浮竹十四郎---------------そう思っていいんだな?」

「そうだよ。君は浮竹十四郎だ」

狂ったオルゴールの旋律は、いつしか静かな子守歌になっていた。

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