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花街恋心2

京楽春水と出会った数日後、熱を出して倒れた。それを発見してくれたのは、京楽だった。

「この子、体が弱いんだって?」

「はぁ、京楽の坊ちゃん。おまけに肺の治らない病を患っておりまして・・・・でも、人にうつる病でないので・・・・・」

「こんな状態の子の初見世を?」

「いやぁ、今日の予定だったんですが、この通り熱を出したので次回にしますよ」

「初見世の相手は決まったのかい?」

「それがまだで。店を張って、客引きもかねてと思っていたんですが」

「これも何かの縁だ。この子の初見世の相手をするよ」

「本当ですか、京楽の坊ちゃん!これは翡翠もいい相手に恵まれたものだ。どうか、椿ともども、可愛がってあげてくださいませ」

高熱を出して眠っていた間に、初見世の相手が京楽と決まった。

誰かもわからない男に初めてを奪われるよりは、少しだけであったが、優しく接してくれた京楽ならいいかもしれないと思った。

初見世の日がやってきた。

磨き上げられ、着飾った浮竹は、色子というより幼い遊女に見えた。

「何歳?」

「13」

「嘘、11歳くらいだと思ってた。色子は幼くても客を取らされるからねぇ。そうか、13か・・・・・・」

何やらぶつぶついっていた京楽だったが、浮竹を抱き寄せた。

びくりと、浮竹の体が強張る。

「あの、俺、初めてだから・・・・・」

「安心して。初見世の相手するっていったけど、抱かないから」

「え」

「こんな・・・・11歳くらいにしか見えない子供の初見世なんて、見ちゃいられないよ」

「でも、じゃあお金は・・・・」

「借金、いっぱいあるんだってね。高くついたよ。花魁と同じ値段をふっかけられた。まぁいいんだけど・・・・・・」

「俺は、あの・・・・」

「まだ本調子じゃないんでしょ?いいから寝なさい」

微熱があった。

言われるままに、床に入る。

「そうだね、ちょっと我慢してね」

「?」

「痕とかないと、怪しまれるからね」

「んっ」

首筋やうなじ、鎖骨などにキスマークを残された。

「あ・・・・・」

「かわいい声だね。その気になっちゃいそうで、自分が怖いよ」

京楽は、浮竹に自分のものであるというマーキング行為であるキスマークをつけて、浮竹を解放した。

「翡翠」

「なんだ」

「その性格、いいね。僕に対して媚びへつらわない。普通の色子なら、手練手管で僕を落とそうとするのに、君は初見世だからかもしれないけど、何も知らない。純白の雪のようだ。その髪の色のように」

「この髪の色は嫌いだ」

「そう言わないで。とても綺麗だよ。日の光を受けると、銀色に見える」

「俺は、稼がないとだめなんだ。売られていった妹や弟たちを買い戻すんだ」

「何年先になるんだろうねぇ」

「それでも、諦めない」

布団で寝ていたが、ふと布団の中に京楽を誘った。

「一緒に寝よう」

「ああ、まぁそうだね。このまま一夜を過ごすことになってるから。そうだ、これあげる。もうみんな食べちゃったでしょ?」

たくさんのいろんな味の飴玉が入った袋をもらった。

「あと、これも飲みなさい。肺の薬を溶かしてある」

甘露水と檸檬水をまぜて、甘い味付けにした肺の薬を混ぜた液体をさしだされた。

「ん・・・・」

こくこくと飲んでいくと、肺の痛みが治まった気がした。

「13か・・・・守備範囲は15から・・・・んーでも色子なら13でもありか・・・・うーんうーん」

「おい、京楽」

「あ、なんだい?」

「檸檬水、もっと飲みたい」

「はいはい。今注文してくるから」

檸檬水の他に薔薇水、甘露水を取り寄せた。

けっこうな出費になったが、京楽にとっては痛くもなかった。

夕餉はもう終えたし、お互い湯あみも終わっている。時計をみると、0時をさしていた。

「子供はもう寝る時間だよ。僕も一緒に寝るから、ちょっと布団きつくなるかもしれないけど」

男女が睦みあうために作られた布団だったので、きつくはなかった。

その日、京楽は腕の中に浮竹を抱いて眠った。

寝ている間に、浮竹が「母上・・・」と寝言をいって、一粒の涙を零したのが心に痛くて、この子を守ってあげたいと思った。


朝になり、廓の主人の松村と女将がやってきた。

「どうでしたか、翡翠は」

「とてもいい子だったよ。素直だしね」

「かわいがってもらえたかい、翡翠・・・おっと、キスマークがこんなに。野暮ったい質問だったみたいですなぁ」

朗らかに、松村は笑った。

「翡翠、朝餉の準備をしなさい」

「はい」

「ああ、それから主人」

ずっしりとした金の板を渡された。

「こ、これは!?」

「翡翠は、この廓にいるだけで、体は売らせないように。僕が全部買う。だから、他の男を宛がったり、しないように。これは当座の代金だ」

「へい、京楽の坊ちゃん。翡翠は坊ちゃんのものということで」

金の板をしまいこんで、揉み手で朝餉の準備をする浮竹を呼んだ。

「翡翠」

「はい」

「今日から、京楽坊ちゃんのことを旦那様と呼びなさい」

凄くいやな顔をされた。

「いやいいよ。この子に旦那様なんて呼ばれたら、背徳感がありすぎる」

「でもこの子、呼び捨てにしてしまうでしょう。教えないと、京楽ぼっちゃんのことも」

「いや、すでに京楽って呼び捨てにされてるから」

「こら、翡翠!」

「いや、いいから。僕も、呼び捨てにされた方が気軽だし」

京楽は、1週間に2、3回はやってきた。それが2か月くらい続いた。

全部、翡翠である浮竹を買いにだ。たまに花魁の椿を買っていったりもした。それは2週間に一度くらいだった。

浮竹を買っても、京楽は頭を撫でたり、抱き締めたりするだけだった。

ある日、浮竹が京楽を押し倒した。

「翡翠?」

唇を重ねられた。京楽は我慢が出来ずに、浮竹の舌に舌を絡めて、ディープキスをする。

「んっ・・・・・・あっ」

「翡翠、無理しなくていいから」

「でも、何もしないままただ買われるなんて・・・・・」

「僕の話相手をしてくれているだろう?」

「でも、大金を松村様に払って、他の男に抱かれないようにしているって聞いた」

「君は、他の男に抱かれたいの?」

「嫌だ。抱かれるなら、京楽がいい」

「君って子は・・・・・」

浮竹を抱き上げて、頭を撫でる。

体温を共有しあうように抱き合って、そのまま褥に寝転んだ。

「もしも、僕が君を抱きたいっていったら、純白の雪のような君は、僕の色に染まるのかい?」

「そうだ」

「参ったね・・・・・・」

京楽は、2か月も触れあっているうちに、13歳という幼さを理由に抱くまいと思っていたのだが、浮竹を抱きたくなっていた。

「今度来たとき、君を抱く。いいかい?」

「俺は構わない」

そう、浮竹は答えを返した。


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