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花街恋話4

花街に売られて、4か月が経った。

京楽は相変わらず週2くらいのペースで浮竹を買っていく。椿が荒れ狂って浮竹に手を出すので、仕方なく京楽は椿を前のように2週間に一度くらいの頻度で買った。

ある日、花街の外で祭りがあった。

浮竹はとても行きたそうにしていたが、足抜け防止のために遊女や色子が花街を抜けることはできなかった。通行手形がいるのだ。

「京楽、我儘をいっていいか?」

「どうしたんだい」

「花街の外の祭りに行ってみたい」

「祭りに興味があるのかい?」

「幼い頃、父上と母上に連れて行ってもらった」

昔を懐かしんでいるのだ。

「いいよ。通行手形を作ってもらおう。一人では花街の外には出れないけど、僕と一緒なら出れるから」

その日、早速通行手形を作ってもらい、花街の外に出かけた。

「わあ・・・・・」

人の多さに、驚かされた。

花街も人でに賑わっていたが、それの数倍は人がいた。

小遣いをもらい、好きな屋台で好きなものを買った。

林檎飴ばかり買う浮竹に、京楽が苦笑する。

「そんなに林檎飴ばかり買わなくても、林檎飴くらい廓にもっていってあげるよ」

「本当か!」

浮竹が顔を輝かせた。

京楽は、焼そばを二人前買った。浮竹に与えて、昼餉ということにした。

「今だけ、俺は自由だ」

浮竹のはしゃぎ具合に、定期的に外に連れ出してあげようという気になる。

綿あめをお土産に買ってもらい、輪投げ、ビンゴ、金魚すくいをした。

金魚を持って帰るかと聞かれて、少し悲しそうに首を横に振る。

「廓では、勝手に生き物をかっちゃいけないんだ」

「僕が、廓の主人に話しをつけてあげるから」

「いいのか?」

「ああ、勿論だよ」

「やった!」

浮竹は、2匹の金魚を入れてもらい、それを手首にぶら下げて、歩き出す。

こうしてみていれば、また育ち盛りの普通の子供に見えた。

着ている服が女もののせいであるのと、浮竹本来の容姿が美しく整っているせいで、どうみても少女に見えた。

13歳。

それは微妙な年だった。

大人というには幼過ぎて。子供というには少し大きすぎて。

最初、廓にきたときは酷く痩せていて、あばら骨が浮いていた体も、食生活が改善されて、細いがしなやかな筋肉がつくようになった。

「京楽、こっちだ」

お面を売っている屋台で、狐のお面を買う浮竹。京楽の分も買って、お揃いにした。

狐のお面を被った浮竹は、はしゃいでいた。

フランクフルトを食べながら歩いていると、柄の悪そうな若者にぶつかった。

「ああ、嬢ちゃん何してくれてんだ。俺様の服が汚れただろうが!」

「す、すまない」

「はぁ?金だせや金。服が台無しになっちまった」

京楽が何か言う前に、浮竹はもっていた所持金を見せる。子供がもつ額には多すぎて、柄の悪い若者はにやりと笑った。

「有り金おいてけ。それがいやなら、俺の相手でもしてもらおうか」

「はい、そこまでね」

「なんだよ、てめぇ・・・・・・」

「護廷13隊8番隊隊長京楽春水」

「げ、死神かよ。くそ、覚えてろよ」

足早に去っていく柄の悪い若者に、浮竹は不思議そうな顔をしていた。

「死神の隊長って、そんなに恐れられるものなのか?」

「そうだねぇ。一般的には、お近づきになりたくない相手かもね」

「でも、京楽は優しい。俺に、いろんなものを与えてくれるし、いろんなことを教えてくれる」

「それは、君を愛しているからだよ」

肩の上に抱き上げられた。軽い浮竹の体重は、身長も少し13歳にしては低めなので、40キロもないだろう。

「まだ、祭りを見るかい?」

「まだいいのか?いつもなら、仕事があるからって帰るのに」

「今日は特別だよ。明日、久しぶりの非番なんだ」

明日は、一日中浮竹といよう。そう決めた京楽であった。

廓に戻って、夕餉はとらずに湯あみをして普通に二人で眠った。そう毎回抱くわけではない。

次の日になって、まだ浮竹が寝ていたので、顔を洗いに井戸のところまできた。

「京楽のだんなっ。あたしを買っておくれよ」

「椿か・・・・・この前買ったじゃないか」

「もう3週間前のことじゃないか!」

「まだ3週間前だろう。君には他にも馴染の客もいるし・・・・僕が買わなくても、不自由はしないでしょ」

「あたしを身請けしておくれよ!」

「君を身請け?冗談じゃない、僕は気の強すぎる子は好きじゃないんだ。大人しい子がタイプなんでね」

「それは、翡翠のことかい?」

「さぁ、どうだろうね。椿、君は美しい。でも、中身をあければ腐っている。翡翠をいじめたり・・・・もう、僕は君を買うことをしない」

「翡翠め。どうしてくれよう」

「もしも、翡翠に何かしたら、僕が許さないからね」

花魁の命である美貌の顔に、持っていた斬魄刀をあてる。

「一生、残る傷を顔につけるよ?」

ゆらりと、霊圧が高くなる。殺気を迸らせた。

「ひいっ」

椿は、腰を抜かした。そのまま、廓の中に去っていく。


「ん・・・・・京楽?」

寝ていた浮竹が、霊圧の高さに気づいて起きてきた。

「なんだろうこれ・・・・京楽、何かがお前の体を取り囲んで、高まっていく」

「翡翠?霊圧が見えるのかい?」

「これ、霊圧っていうのか?皆に気味悪がられるから言わなかったけど、何もしなくても物を動かせたり、壊すことができる」

「ふむ・・・・確かに、霊圧があるね」

浮竹の中の霊圧を探ると、思っていた以上に霊圧があることが分かった。

「君、死神になるつもりはないかい?」

「死神に?」

「そう。借金を返し終わるか身請けされて自由になったら、真央霊術院っていう、死神になるための学校に通う気はあるかい?」

「今のとこそんな学校に通う気はないかな。だって俺、色子だぞ?そんな身分だったやつが、死神になんて・・・・・」

「なれないこともないよ。真央霊術院は、貧困にあえぐ流魂街の民でも、上級貴族みたいな僕でも受け入れる。元が罪人でも、ちゃんとその罪を償っていれば学院は受け入れるよ。勿論、花街の住人でも」

浮竹は、少し興味を持ったようだった。

昨日、金魚鉢と色硝子と、金魚の餌を買った。

色硝子を入れた金魚鉢の中で、持って帰ってきた金魚が2匹、仲よさげに泳いでいる。それを見ながら、浮竹は言う。

「死神になったら、ずっと京楽の傍にいれるか?」

「さぁ、それはどうだろう。配置される隊によるかな」

「じゃあ、今はこのままでいい」

「どうして?」

「京楽が、俺のところに来てくれるから」

「参ったね・・・・・・」

護廷13隊の8番隊隊長ともあろう者が、僅か13歳の色子に腑抜けにされている。そんな噂でも広まりそうなほど、浮竹にのめりこんでいた。

「翡翠は、身請けしてくれとは言わないんだね」

「だって、俺の場合しょっていた借金そのものプラスで、身請けの金額が途方もない。そんな金を出してくれる酔狂な輩はいない」

確かに、廓の主人松村が提案した身請けの金額は、花魁の椿の身請けの金額の5倍。

屋敷が数件建てられる。

今すぐにそんな巨額の金は動かせないので、翡翠を買うまでに留まっていた。

廓の主人も意地悪なことをする。こっちの足元を見て、出せるぎりぎりの金額まで搾り取るつもりだ。

「今日は一日休みんだ。おいで、翡翠」

京楽の腕の中に寝転んで、浮竹は笑う。

「こんな平和な時間が、ずっと続けばいいのに・・・・・・」


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