花街恋話6
京楽のお陰で、また花街から出ることを許された。
期限は2日。
始めの1日目に、4番隊の隊長に回道を受けて、傷跡は綺麗に消えた。
「本来なら、私がすることではありませんけどね」
「いや、卯ノ花隊長ありがとう。僕の我儘を聞いてくれて」
「せっかくわざわざ花街なんて遠いとこから、私をあてにきてくれたのです。治してあげなければかわいそうではありませんか」
「その、ありがとうございます」
浮竹は、美しい黒髪の女性に少しだけ母親の面影を見た。
生きていれば、これくらいの年齢だっただろう。
「あ・・・・」
見ていると、ポロリと涙が零れた。
「どうしたの」
「母上を思いだしてしまって・・・・・・」
「そう。いい子だから、泣き止んで」
抱き締められて涙をぬぐった。
「すみません、卯ノ花様。不快な気分にさせてしまって」
「あら、いいのですよ。私は心のケアも行うべきだと思っていますから」
「心のケアのほうが、僕が担当してるから」
「それにしても驚きですね。女性にあんなにだらしなかった急落隊長が、僅か13歳の色子の男の子に骨抜きにされているとは」
「だってかわいいんだもん」
「確かに、少女のようで愛らしいですね」
卯ノ花は、浮竹の頭を撫でた。
今日の浮竹は、余所行きの少し豪華な服を着ていた。女物だったけれど。身請けされた自分と同じくらいの体格だった花魁が残していった服だった。
今日は髪飾りをつけていた。螺鈿細工に翡翠をあしらったもので、一級品だった。
「さて、着物ができあがっているから、受け取りにいこうか」
「いいのか?俺なんかが、瀞霊廷に足を運んで」
「許可はもらってあるから、大丈夫だよ」
貴族が住む界隈の一角に、その呉服店はあった。
「うわぁ」
きらきらした金糸銀糸で刺繍のされた、豪華な着物がたくさん置いてあった。
「こんな高そうなものじゃないよな?」
「そう思って、質素に作ってもらったんだ」
それは、萌黄色をした、男の子用と女の子用の2着の着物だった。
いたって普通で、ちょっとした蝶の刺繍が愛らしかった。
「これくらいなら、花街でも、廓でも着れる」
「あとの4着はこれだよ」
薄紫色の着物と、水色の着物だった。
薄紫は紫陽花の、水色のものには桜の刺繍が施されていた。
目の飛び出るような高級品ではないが、刺繍の腕といい、値段は質素なわりには高そうだった。
「いくらしたんだ?」
「教えてあげない。教えたら、受け取ってくれないだろうから」
「けち」
京楽の髭を引っ張った。
「あたたたた、止めなさい」
二人は笑いあって、着物を受け取って店を出た。
行きかう人は、貴族でないと一目で分かる浮竹を、軽蔑の眼差しで見てきた。
浮竹は居心地が悪そうだった。
「ここは直に出よう」
貴族の住む界隈から離れた場所に、京楽の別邸があった。
「今日は、ここで泊まるよ」
「京楽は、本当に金持ちなんだな。家がたくさんあるのか」
「そうだねぇ。本宅を除いて、10軒くらい屋敷があるかな」
「10軒!別荘なんかも、あるんだろう?」
「あるよー。流魂街にも別荘はあるけどね。基本、治安がいいところか人のいない場所に別荘を建てているね」
「さすがは上流貴族・・・・」
「あら、いたの春水」
「母上・・・・・」
「これまた・・・幼い遊女を連れ回したりして。見合いが近づいているのです。身辺整理をきちんとなさい。そこのあなた、春水とはこれで縁を切ってちょうだい」
大粒の宝石をいくつか投げてよこされた。
「母上とはいえ、僕の想い人を侮辱すると許しませんよ」
「ふん、汚らわしい。そんな遊女が何をしてくれるというのです。子を産んでも汚らわしい血の子供が生まれるだけだわ」
「この子は色子です」
「あら、遊びなの。それなら安心したわ。そこのかわいいぼうや、春水とは早めに縁を切ってちょうだいね。春水には、上流貴族の姫君との縁談がまとまりかけているんですから」
浮竹は、それを聞いて屋敷から走り出した。
「待って、翡翠!」
「名前だけは優雅なこと」
「前にもいいました。僕は結婚はしません。どのみち家督は兄上が継ぐ」
「お前は、仮にも護廷13隊の8番隊隊長なんですよ。いい縁談ならいくらでもあるでしょう。色子になんて現(うつつ)を抜かすのはよしなさい」
「僕は本気だ。翡翠を身請けして、死神として生きる」
「待ちなさい、春水!」
母親のことを無視して、浮竹が走って行った道を、その霊圧を元に辿った。
「俺のことはもういい。上流貴族の姫君と結婚して、幸せになれ」
追ってきた京楽に、そう言った。
「じゃあ、どうして泣いているの」
「これは雨が降ってきたから・・・・・」
「こんなにお日様が照っているのに?素直になりなさい、翡翠」
「結婚なんてするな!俺のものだろう!お前の色に染められた。責任をもて」
「うん。責任をもって、身請けする」
「え。今なんて?」
「だから、責任を持って身請けすると言ったんだよ」
「俺を身請けする?冗談だろ」
「これが冗談を言っている顔に見えるかい?」
浮竹は、京楽を屈ませてキスをした。
「約束だぞ。俺を身請けして、幸せにしろ」
「うん」
二人は、川の畔を歩いた。
白い花が咲き乱れていた。
その花で、京楽は花冠を作った。
「器用だな・・・・・」
「君を、愛している。一緒の時を、生きて欲しい」
その編まれた花冠を受け取った。
「同じ時を生きると、誓う」
「翡翠」
「十四郎だ。本当の名前は浮竹十四郎だ」
「浮竹十四郎・・・・・愛しているよ、十四郎」
白い花が、風に吹かれて散っていく。花びらの雨の中、二人は永遠を誓い合った、
永久(とこしえ)を生きよう。
この伴侶と共に。
期限は2日。
始めの1日目に、4番隊の隊長に回道を受けて、傷跡は綺麗に消えた。
「本来なら、私がすることではありませんけどね」
「いや、卯ノ花隊長ありがとう。僕の我儘を聞いてくれて」
「せっかくわざわざ花街なんて遠いとこから、私をあてにきてくれたのです。治してあげなければかわいそうではありませんか」
「その、ありがとうございます」
浮竹は、美しい黒髪の女性に少しだけ母親の面影を見た。
生きていれば、これくらいの年齢だっただろう。
「あ・・・・」
見ていると、ポロリと涙が零れた。
「どうしたの」
「母上を思いだしてしまって・・・・・・」
「そう。いい子だから、泣き止んで」
抱き締められて涙をぬぐった。
「すみません、卯ノ花様。不快な気分にさせてしまって」
「あら、いいのですよ。私は心のケアも行うべきだと思っていますから」
「心のケアのほうが、僕が担当してるから」
「それにしても驚きですね。女性にあんなにだらしなかった急落隊長が、僅か13歳の色子の男の子に骨抜きにされているとは」
「だってかわいいんだもん」
「確かに、少女のようで愛らしいですね」
卯ノ花は、浮竹の頭を撫でた。
今日の浮竹は、余所行きの少し豪華な服を着ていた。女物だったけれど。身請けされた自分と同じくらいの体格だった花魁が残していった服だった。
今日は髪飾りをつけていた。螺鈿細工に翡翠をあしらったもので、一級品だった。
「さて、着物ができあがっているから、受け取りにいこうか」
「いいのか?俺なんかが、瀞霊廷に足を運んで」
「許可はもらってあるから、大丈夫だよ」
貴族が住む界隈の一角に、その呉服店はあった。
「うわぁ」
きらきらした金糸銀糸で刺繍のされた、豪華な着物がたくさん置いてあった。
「こんな高そうなものじゃないよな?」
「そう思って、質素に作ってもらったんだ」
それは、萌黄色をした、男の子用と女の子用の2着の着物だった。
いたって普通で、ちょっとした蝶の刺繍が愛らしかった。
「これくらいなら、花街でも、廓でも着れる」
「あとの4着はこれだよ」
薄紫色の着物と、水色の着物だった。
薄紫は紫陽花の、水色のものには桜の刺繍が施されていた。
目の飛び出るような高級品ではないが、刺繍の腕といい、値段は質素なわりには高そうだった。
「いくらしたんだ?」
「教えてあげない。教えたら、受け取ってくれないだろうから」
「けち」
京楽の髭を引っ張った。
「あたたたた、止めなさい」
二人は笑いあって、着物を受け取って店を出た。
行きかう人は、貴族でないと一目で分かる浮竹を、軽蔑の眼差しで見てきた。
浮竹は居心地が悪そうだった。
「ここは直に出よう」
貴族の住む界隈から離れた場所に、京楽の別邸があった。
「今日は、ここで泊まるよ」
「京楽は、本当に金持ちなんだな。家がたくさんあるのか」
「そうだねぇ。本宅を除いて、10軒くらい屋敷があるかな」
「10軒!別荘なんかも、あるんだろう?」
「あるよー。流魂街にも別荘はあるけどね。基本、治安がいいところか人のいない場所に別荘を建てているね」
「さすがは上流貴族・・・・」
「あら、いたの春水」
「母上・・・・・」
「これまた・・・幼い遊女を連れ回したりして。見合いが近づいているのです。身辺整理をきちんとなさい。そこのあなた、春水とはこれで縁を切ってちょうだい」
大粒の宝石をいくつか投げてよこされた。
「母上とはいえ、僕の想い人を侮辱すると許しませんよ」
「ふん、汚らわしい。そんな遊女が何をしてくれるというのです。子を産んでも汚らわしい血の子供が生まれるだけだわ」
「この子は色子です」
「あら、遊びなの。それなら安心したわ。そこのかわいいぼうや、春水とは早めに縁を切ってちょうだいね。春水には、上流貴族の姫君との縁談がまとまりかけているんですから」
浮竹は、それを聞いて屋敷から走り出した。
「待って、翡翠!」
「名前だけは優雅なこと」
「前にもいいました。僕は結婚はしません。どのみち家督は兄上が継ぐ」
「お前は、仮にも護廷13隊の8番隊隊長なんですよ。いい縁談ならいくらでもあるでしょう。色子になんて現(うつつ)を抜かすのはよしなさい」
「僕は本気だ。翡翠を身請けして、死神として生きる」
「待ちなさい、春水!」
母親のことを無視して、浮竹が走って行った道を、その霊圧を元に辿った。
「俺のことはもういい。上流貴族の姫君と結婚して、幸せになれ」
追ってきた京楽に、そう言った。
「じゃあ、どうして泣いているの」
「これは雨が降ってきたから・・・・・」
「こんなにお日様が照っているのに?素直になりなさい、翡翠」
「結婚なんてするな!俺のものだろう!お前の色に染められた。責任をもて」
「うん。責任をもって、身請けする」
「え。今なんて?」
「だから、責任を持って身請けすると言ったんだよ」
「俺を身請けする?冗談だろ」
「これが冗談を言っている顔に見えるかい?」
浮竹は、京楽を屈ませてキスをした。
「約束だぞ。俺を身請けして、幸せにしろ」
「うん」
二人は、川の畔を歩いた。
白い花が咲き乱れていた。
その花で、京楽は花冠を作った。
「器用だな・・・・・」
「君を、愛している。一緒の時を、生きて欲しい」
その編まれた花冠を受け取った。
「同じ時を生きると、誓う」
「翡翠」
「十四郎だ。本当の名前は浮竹十四郎だ」
「浮竹十四郎・・・・・愛しているよ、十四郎」
白い花が、風に吹かれて散っていく。花びらの雨の中、二人は永遠を誓い合った、
永久(とこしえ)を生きよう。
この伴侶と共に。
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