雪解け水
「今度、恋次との結婚が決まった」
久しぶりに一護の部屋を訪れたルキアは、はにかみながら笑った。
「そうか。俺も、井上と結婚するんだ」
「そうか」
「ああ」
「結婚式には、貴様も来てくれ」
「いいぞ。ルキアも、俺の結婚式には来てくれよ?」
「勿論だ」
数分の沈黙の後、ルキアが涙を零した。
「貴様のことを・・・・好いておったのだ」
その涙をそっと拭ってやる。
「俺も、ルキアが好きだった。多分、今も」
お互い、もう戻れぬ道まできていた。
婚礼の日も近い。6月上旬に、お互いの結婚式が決まっていた。
「もしも、俺が本当の死神だったら・・・・俺を、選んでくれたか?」
「たわけ。この世界にもしも、などないのだ。だが、もしも貴様が本当の死神であれば、貴様を選んでいたであろう。貴様はどうなのだ。私が人間だったら」
「井上じゃなく、お前を選んでいただろうな」
想い人がいながら、なおも想いは募っていた。
もしも。
その言葉は、ただの逃げ道でしかない。
言いわけだ。
「これが最後になる・・・・きっと、もうこんな時間はない。最初で最後の頼みだ。私を、抱け」
一護は、やや乱暴にルキアの細い体を抱き締めた。
「好きだった。ずっとずっと・・・・お前ばかり、見ていた」
「私も好きだった・・・・ずっと、貴様のあとを目で追っていた」
唇が重なる。
「んっ・・・・・」
ルキアとの初めてのキスは、ルキアが食べていた苺味のキャンディーの味がした。
「一護だから苺?」
「たわけ、違う。恋次にもらったのだ。たくさんの飴玉を。貴様にもくれやる」
懐から、キャンディーの入った袋をとりだして、いくつか一護に渡した。
「レモン、パイナップル、ミカン、苺・・・・・後で、食うわ。今はお前を食う」
そっとベッドに横たえて、口づけする。死覇装を脱がしていく。
その日、最初で最後になるが、ルキアを抱いた。
「結婚おめでとう、恋次」
「おう、ありがとうな!一護、お前に祝ってもらえるなんて、複雑だな」
「戦友だろ、俺らは。戦友の親友だ。ルキアを幸せにしろよ」
白無垢に、井上が提案したヴェールをまとったルキアは、白哉に連れられて、やってくる。
「幸せに」
白哉がルキアにだけ聞こえる声で、そういう。
一護は、その唇の動きを読んだ。
そして、ルキアに近づく。
「幸せになれよ、ルキア」
アメジストの髪飾りで、一護がヴェールの下の髪の毛の、その細いさらさらな毛を留めた。
「これは?」
「結婚のお祝い品。俺と思って、もっててくれ」
「ああ、一護。私は必ず、幸せになる」
ルキアは、嬉しさと悲しみの入り混じった涙を流していた。みんな、それが幸せのあまりに流した涙と思っていた。恋次も白哉も、気づいていなかった。
ルキアが、一護に恋していたなんて。
一護がルキアを好きだったなんて。
相思相愛なのに、結ばれぬ二人は、その日を境に互いに連絡しあうことを止めた。
今まで、時折メールで日常のやりとりをしていた。
やがて少し時が過ぎる。
一護と織姫の結婚式の日がやってきた。
恋次とルキアは、義骸に入ってお祝いにかけつけてくれた。
石田、茶虎たちと一緒に、友人の列に並ぶ。
その細い体を、自然と目で追いかけていたが、隣に織姫がいたのですぐにやめた。
「黒崎君、私、こんなに幸せでいいのかな」
「なにいってんだよ織姫。今更だろう?」
「でも、私、黒崎君は朽木さんと結ばれるんだと思ってた」
「そんなわけあるか。ルキアは死神で、俺は人間だぞ?」
「そ、そうだね」
織姫は、たくさんの涙を零しながら、一護と結婚した。
それから、数年の時が過ぎた。
携帯に、着信があった。見てみると、ルキアからだった。
(今度、恋次と苺花を連れてお前も家にいく。茶虎の世界王チャンピオンへのTVを見るのも兼ねて)
(ああ、遠慮なくこいよ。俺も織姫と一勇と待ってるから)
お互い、子供ができたことは連絡しあっていた。名前も教えあった。でも、それだけだった。
お互いに、愛の結晶を見せ合うことはなかった。
ルキアをはじめとする阿散井一家が、一護の家に集まった。たつきたちの姿もあった。ただ、石田は仕事が忙しいのでこれなかった。
「よう、久しぶり。元気にしてたか?」
長く伸びたルキアの髪。アメジストの髪飾りをしていた。
「たわけ、元気に決まっているであろう」
みんなで、お酒を飲んだ。
飲むことのできない苺花は一勇と部屋で遊んでいた。
夜になった。
たつきたち現世の友人組は家に帰った。
ルキアと恋次と一勇は、黒崎家で泊まることになった。
「朽木さん・・・・じゃなかった、阿散井さんでいいのかな?」
「織姫、もうめんどくさいだろうから下の名前で呼んでくれ」
「じゃあルキアさん」
「さんづけせんでもいい。私も、呼び捨てにしている」
「じゃあ、ルキア!」
「うむ」
「ご飯の準備できたから、子供たち呼んできてくれないかな」
「分かった」
ルキアは子供たちを呼びに行こうとした。
「ちょっと、時間あるか?」
「どうしたのだ、一護」
「お前、まだ俺のこと好きか?」
そう聞かれて、顔が赤くなった。
「な、何を言っておるのだたわけ・・・・・・・今でも、好きだ」
「そっか。俺も今でもお前が好きなんだ」
「たわけ、貴様には織姫がおるであろう」
「そういうお前には、恋次がいるだろう」
お互い以外、誰もいないのを確認して、キスをした。
「また、連絡をメールでとらないか」
「ああ、いいぞ」
そして、ルキアは子供たちを呼びに行った。
お互いが好きで。でも、違う人も好きで、その人と結ばれて。
もう、過去など振り返らないと決めたのに。
気づけば、過去にあったかもしれない道を歩もうとしていた。
一護はルキアを。ルキアは一護を。お互いを好きなきもちのまま、何年も過ごしていたのだ。
互いに夫と妻をもちながら、歩んではいけない一歩を踏み出した。
だが、その曖昧な関係を、誰にも知られてはいけない。
それは、二人だけがもつ、隠し事。
秘密の関係。
体を重ねるわけでなく、ただ精神的に。
(好きだ、ルキア)
(私も好きだ、一護)
メールを見られてしまえば、お互いの家庭は壊れるであろう。
それでも、止まらない。
結婚式の前に、無理やり凍結した時間が、雪解け水のように溶けていく。
雪解け水は、大地に染み渡るように、二人の心に染み渡っていく。
また、一から築きあおう。
恋人ではない。
だが、好きだ。
不倫とも、少し違う気がする。
ぞれは、まるで出会ったあの頃の若き日の関係に、似ていた。
久しぶりに一護の部屋を訪れたルキアは、はにかみながら笑った。
「そうか。俺も、井上と結婚するんだ」
「そうか」
「ああ」
「結婚式には、貴様も来てくれ」
「いいぞ。ルキアも、俺の結婚式には来てくれよ?」
「勿論だ」
数分の沈黙の後、ルキアが涙を零した。
「貴様のことを・・・・好いておったのだ」
その涙をそっと拭ってやる。
「俺も、ルキアが好きだった。多分、今も」
お互い、もう戻れぬ道まできていた。
婚礼の日も近い。6月上旬に、お互いの結婚式が決まっていた。
「もしも、俺が本当の死神だったら・・・・俺を、選んでくれたか?」
「たわけ。この世界にもしも、などないのだ。だが、もしも貴様が本当の死神であれば、貴様を選んでいたであろう。貴様はどうなのだ。私が人間だったら」
「井上じゃなく、お前を選んでいただろうな」
想い人がいながら、なおも想いは募っていた。
もしも。
その言葉は、ただの逃げ道でしかない。
言いわけだ。
「これが最後になる・・・・きっと、もうこんな時間はない。最初で最後の頼みだ。私を、抱け」
一護は、やや乱暴にルキアの細い体を抱き締めた。
「好きだった。ずっとずっと・・・・お前ばかり、見ていた」
「私も好きだった・・・・ずっと、貴様のあとを目で追っていた」
唇が重なる。
「んっ・・・・・」
ルキアとの初めてのキスは、ルキアが食べていた苺味のキャンディーの味がした。
「一護だから苺?」
「たわけ、違う。恋次にもらったのだ。たくさんの飴玉を。貴様にもくれやる」
懐から、キャンディーの入った袋をとりだして、いくつか一護に渡した。
「レモン、パイナップル、ミカン、苺・・・・・後で、食うわ。今はお前を食う」
そっとベッドに横たえて、口づけする。死覇装を脱がしていく。
その日、最初で最後になるが、ルキアを抱いた。
「結婚おめでとう、恋次」
「おう、ありがとうな!一護、お前に祝ってもらえるなんて、複雑だな」
「戦友だろ、俺らは。戦友の親友だ。ルキアを幸せにしろよ」
白無垢に、井上が提案したヴェールをまとったルキアは、白哉に連れられて、やってくる。
「幸せに」
白哉がルキアにだけ聞こえる声で、そういう。
一護は、その唇の動きを読んだ。
そして、ルキアに近づく。
「幸せになれよ、ルキア」
アメジストの髪飾りで、一護がヴェールの下の髪の毛の、その細いさらさらな毛を留めた。
「これは?」
「結婚のお祝い品。俺と思って、もっててくれ」
「ああ、一護。私は必ず、幸せになる」
ルキアは、嬉しさと悲しみの入り混じった涙を流していた。みんな、それが幸せのあまりに流した涙と思っていた。恋次も白哉も、気づいていなかった。
ルキアが、一護に恋していたなんて。
一護がルキアを好きだったなんて。
相思相愛なのに、結ばれぬ二人は、その日を境に互いに連絡しあうことを止めた。
今まで、時折メールで日常のやりとりをしていた。
やがて少し時が過ぎる。
一護と織姫の結婚式の日がやってきた。
恋次とルキアは、義骸に入ってお祝いにかけつけてくれた。
石田、茶虎たちと一緒に、友人の列に並ぶ。
その細い体を、自然と目で追いかけていたが、隣に織姫がいたのですぐにやめた。
「黒崎君、私、こんなに幸せでいいのかな」
「なにいってんだよ織姫。今更だろう?」
「でも、私、黒崎君は朽木さんと結ばれるんだと思ってた」
「そんなわけあるか。ルキアは死神で、俺は人間だぞ?」
「そ、そうだね」
織姫は、たくさんの涙を零しながら、一護と結婚した。
それから、数年の時が過ぎた。
携帯に、着信があった。見てみると、ルキアからだった。
(今度、恋次と苺花を連れてお前も家にいく。茶虎の世界王チャンピオンへのTVを見るのも兼ねて)
(ああ、遠慮なくこいよ。俺も織姫と一勇と待ってるから)
お互い、子供ができたことは連絡しあっていた。名前も教えあった。でも、それだけだった。
お互いに、愛の結晶を見せ合うことはなかった。
ルキアをはじめとする阿散井一家が、一護の家に集まった。たつきたちの姿もあった。ただ、石田は仕事が忙しいのでこれなかった。
「よう、久しぶり。元気にしてたか?」
長く伸びたルキアの髪。アメジストの髪飾りをしていた。
「たわけ、元気に決まっているであろう」
みんなで、お酒を飲んだ。
飲むことのできない苺花は一勇と部屋で遊んでいた。
夜になった。
たつきたち現世の友人組は家に帰った。
ルキアと恋次と一勇は、黒崎家で泊まることになった。
「朽木さん・・・・じゃなかった、阿散井さんでいいのかな?」
「織姫、もうめんどくさいだろうから下の名前で呼んでくれ」
「じゃあルキアさん」
「さんづけせんでもいい。私も、呼び捨てにしている」
「じゃあ、ルキア!」
「うむ」
「ご飯の準備できたから、子供たち呼んできてくれないかな」
「分かった」
ルキアは子供たちを呼びに行こうとした。
「ちょっと、時間あるか?」
「どうしたのだ、一護」
「お前、まだ俺のこと好きか?」
そう聞かれて、顔が赤くなった。
「な、何を言っておるのだたわけ・・・・・・・今でも、好きだ」
「そっか。俺も今でもお前が好きなんだ」
「たわけ、貴様には織姫がおるであろう」
「そういうお前には、恋次がいるだろう」
お互い以外、誰もいないのを確認して、キスをした。
「また、連絡をメールでとらないか」
「ああ、いいぞ」
そして、ルキアは子供たちを呼びに行った。
お互いが好きで。でも、違う人も好きで、その人と結ばれて。
もう、過去など振り返らないと決めたのに。
気づけば、過去にあったかもしれない道を歩もうとしていた。
一護はルキアを。ルキアは一護を。お互いを好きなきもちのまま、何年も過ごしていたのだ。
互いに夫と妻をもちながら、歩んではいけない一歩を踏み出した。
だが、その曖昧な関係を、誰にも知られてはいけない。
それは、二人だけがもつ、隠し事。
秘密の関係。
体を重ねるわけでなく、ただ精神的に。
(好きだ、ルキア)
(私も好きだ、一護)
メールを見られてしまえば、お互いの家庭は壊れるであろう。
それでも、止まらない。
結婚式の前に、無理やり凍結した時間が、雪解け水のように溶けていく。
雪解け水は、大地に染み渡るように、二人の心に染み渡っていく。
また、一から築きあおう。
恋人ではない。
だが、好きだ。
不倫とも、少し違う気がする。
ぞれは、まるで出会ったあの頃の若き日の関係に、似ていた。
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