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血と聖水外伝「ムーンライト」

ムーンストリアは、すでに200人以上の人間を嬲り殺しにしてきた。全て、彼女を処刑においやった人間ばかり。無関係な人間は巻き込んでいない。
魔女と呼ばれた彼女の背後には、教会がらみの大きな不正があった。それは法王さえ巻き込むほどの、大きな不正。

人を、ヴァンパイア化せずに不老する方法。それを探っていた人間たちが見つけた、ヴァンパイアの核である心臓から生き血をとり、それを凝固させて100日間月光の元に晒し、さらに生命と太陽の女神であるライフエルの祝福を受けて作られた、幾粒かの錠剤を巡る疑惑と、謎。
その元になったのは、魔女として処刑されてしまった、彼女の、そう、高位であるハイ・ヴァンパイアの心臓の血。
その方法を知っていたのは、魔女として火あぶりになった彼女自身であった。ハイ・ヴァンパイアとして普通のヴァンパイアやロード、マスターが生きる限界をこえた数千年を生き、限りなく始祖に近かった彼女の血しか、その方法で完璧なる人に不老を与える、魔法薬にはなりえなかった。魔法薬の作り方、その方法を、彼女がある聖職者に教えてしまったのが、全ての間違いであった。
彼女を、ハイ・ヴァンパイアであると知った人間たちは、彼女を捕らえ、異端審問にかけて拷問し、核である心臓から生き血を取り出した。そして、凝固させて100日間月光の元に晒して、生命と太陽の女神ライフエルを、こともあろうか法王自身が召還し、できあがった数粒の魔法薬に祝福を与えた。

法王は、それがなんであるかを知ってはいなかったそうだが。
それでも、殺意が泉のように沸いてくる。こんなことのために、彼女は殺されてしまったのか。ハイ・ヴァンパイアであった彼女は、誰よりも人間を愛していたというのに。法王に洗礼が叶ったとき、涙さえ流したというのに。

嗚呼。

憎い。世界の全てが。生きている人間の全てが憎い。
憎くて仕方ない。
もう、狂っているのかもしれない、自分は。

ムーンストリアは、月光の光を浴びながら笑った。孤独に。

そのムーンストリアの首には、多大な懸賞金がかけられていた。背後には、教会を関係とする聖職者の匂いを漂わせていた。
その退治の依頼を引き受けたのは、ティエリア・アーデ。
血の神として恐れられる、ネイの血族だ。
ネイとは、この世界で生れ落ちた新人類たるヴァンパイアを食らう使徒。使徒にして絶対なる皇帝。生きるヴァンパイアたちの神。
今はロックオンと名乗っている。元々の名はネイであり、そしてニールとも名乗っている。
かつて千年ほど前に、大規模な魔女狩りを人間国家に引き起こして、3つの国家を滅亡においやった、血の神は、今日も暢気にホームでティエリアが作った食事をほおばり、いつものように頭にフェンリルを乗せて、ティエリアが銀の武器を手入れしている様子を、遠巻きにみていた。

「いつもながら精が出るなぁ」
「まぁ、仕事ですから」
ティエリアは苦笑して、銀の短剣を磨き上げてから、いつも愛用している2丁の銃をホルダーにしまう。それから、大切な銀の弾丸の在庫を確認し、水銀の詰まった、数の少ない弾丸の数も確認する。
その弾丸の中につまっている水銀は、全てロックオンの血だ。
ティエリアの血にも水銀が混じっているが、マスターであるロックオンの水銀は濃い。
水銀は、銀よりも致命的な傷をヴァンパイアに与える。
ティエリアはヴァンアパイアハンターであり、そのマスターであり、ティエリアを血族としたロックオンもヴァンパイアで、いつもはぐうらたらしているが、戦闘などではティエリアを補佐する良きパートナーであった。

「今回は、ハイ・ヴァンパイアがハントの相手だそうだな。ハイ・ヴァンパイアは始祖に近い」
「そうなんですか?」
「ああ。始祖は・・・・・ヴァンアパイアの中でもヴァンパイアらしくない、人間を愛する者たちばかりだ。だが、その血族で、マスターを殺された元人間となると、話は変わるな」
ロックオンは、食後のコーヒーを飲みながら、溜息を大きくついた。
「銀はきかないと?」
「いや、有効だろう。聖水も。だが、やはり水銀が一番きくな」
ティエリアがしまったばかりの、水銀のつまった弾丸を指さす。
「そうですか。では、あなたか僕の血をビームサーベルに纏わせて戦うのが一番ですか?」

ロックオンは、別名「水銀のニール」として有名で、滅びた3つの王国は水銀に汚染されまくって生態系が崩れ、他の人間国家から絶滅宣言を受けて、この地上の地図から削除された。当時はたくさんの魔法使いなどが、その領土を焦土とするためにかりだされたものだ。もう千年も昔の話だが。
水銀に汚染されたまま生き延びたのが女性だったため、周辺諸国では魔女狩りが頻繁に行われた暗黒の歴史も付随している。全ては、ネイでありニールでる、ロックオンのためにおこった出来事。
何百万人もの人間が死んだ。他の種族も、多数の生命も。
そんなこと、今のロックオンには知ったことじゃないといったかんじであるが。元々、ロックオンをネイと知った人間が、その血族になろうと争いをおこし、それが戦争に発展し、ロックオンからぬかれた血が王国にばらまかれて、人間たちは自滅の道を辿ったのが、ネイ(ニール)が滅ぼしたという3つの王国の真実である。

「まぁ、水銀の血の武器で戦うか、それとも銃に水銀の弾丸をつめて撃つか。まぁそれが一番きくだろうさ。相手に戦う意思があるのなら」
「?戦う意思がないとでも?」
「ハイ・ヴァンパイアは同族争いを極端に嫌う。血族の上位にも興味を示さないし。人間に紛れて生きている固体ばかりだ」
「それでも。僕は、ムーンストリアという固体を殲滅しなければなりません。なぜなら、彼は人間を殺した」
「まぁ、殺したくもなるだろうなぁ」
裏に隠された、魔女として処刑されたハイ・ヴァンパイアの存在を知っていて、ロックオンはお手上げだとばかりに、ジェスチャーをする。
いかに血の神であるからとて、他のヴァンパイアをどうこうする権利はない。殺人を止める権利も。
ヴァンパイアを支配しているが、実際は身の内に潜ませる獣であるエーテルイーターをてなづけておく、一種の手段である。

同族食い。
それが、この血の神がもつ能力。
禁忌とされる、エーテルイーターを自在に操り、支配する皇帝。血の帝国に存在する表の皇帝、ヴァンパイアたちを守るメザーリアという女帝とは反対の位置に存在する、ヴァンパイアを粛清する使徒。
時に同じ種族であるヴァンパイア、エターナルヴァンパイアたちを支配し、守り、そして生きるために掟を破りヴァンパイアに堕ちた者や、ハンターの標的となったヴァンパイアのエナジーを啜る、獣。
この世界に存在せし3柱神、ルシエード、アルテナ、ウシャスにも匹敵する存在であるネイ。
その血族ティエリア。

なぜ、姫王とまで呼ばれ、ブラット帝国でその地位が確立されているのに、ティエリアが帝国に移らないかは、彼が人工ヴァンパイアであり、ヴァンパイアを狩るために人工的に生み出された存在が故だろ。
霊子学の極みの産物。
それが、ティエリアそして同じヴァンパイアハンターをする仲間であり友であるリジェネ、刹那である

 

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