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言葉のでない病

肺の病で、長い間臥せっていた。はじめは毎日京楽が来てくれたのだが、仕事が山積みだと七緒に引っ張っいかれてしまった。

寝ているところを、起こしてはいけないと、仙太郎も清音もいなかった。

4日ぶりに目を覚ました浮竹は、腹がすいていて死にそうだった。

点滴はもう終わり、栄養補給は十分だったのだが、とにかく腹が減った。

(清音、仙太郎!)

声をだしたはずなのに、掠れてまともな声が出なかった。

はっきりいって、飢え死にしそうなくらい腹が減っていた。

立ち上がろうにも、病み上がりで半身を起こすのがやっとだった。さてどうしよう?逡巡していると、京楽が現れた。

「ああ、起きたみたいだね。声でないでしょ。肺の病の他に、声が出にくくなる病を発症したらしいよ。心配しなくても、すぐに治るし、後遺症はないそうだよ」

(そうなのか)

京楽は、器用にも唇の動きだけで言葉が分かる、いわゆる読唇術を身につけているらしかった。

「そうだよ。心配しなくても、あと2~3日で治るらしいから」

(腹が減った)

「ああ、そうかい。今厨房にいって、何かもらってくるから、待ってなさいな」

そう言って、京楽は13番隊の隊舎へ消えて行った。

戻ってきた京楽の手には、鮭などの具がいれられたおにぎりがあった。

「ほら、少しずつ食べて。4日ぶりだから、あまり勢いをつけて食べたら、胃が受け付けないからね」

(ありがとう)

「どしいたしまして」

浮竹は、なるべくゆっくりおにぎりを食べた。食べ終わって、一心地ついたところで、お茶を飲む。

そして、声が出ない病のための薬というものを見て、辟易とした顔になった。

コオロギだった。コオロギの乾燥したものが、薬だというのだ。確かに、蜂の子やイナゴの佃煮だの、この国に虫を食べる分化はある。コオロギは最近タンパク質がいいということで、粉末状にしたものが売られているし、最近の食糧不足の現世において、注目されつつある食材だった。

しかし、コオロギを乾燥さえたものは、そのままコオロギの形をしていた。

(これ、食べないと治らないのか?せめて粉末状にしたものはないのか?)

「ないらしいよ。諦めて、飲み込んで」

いやいやと、浮竹は乾燥したコオロギを口にした。なんと、甘かった。

京楽が、浮竹のために砂糖を入れて煮込んだのだ。

煮込んでも、薬の効能に変化はないらしく、浮竹が飲みやすいようにした。

(こんなところにまで気を配てもらって、すまない)

「いいんだよ。愛しい君のためなら、なんだってするよ」

(じゃあ裸踊りをしてくれ)

冗談で言ったつもりだったのだが、京楽が脱ぎだしたので慌てて止めた。

(冗談だ。すまない)

「物好きだなぁと思っただけだから、平気だよ」

(まだ腹が減っている。甘味ものはないか?)

「ちょっと、また厨房いってくるね」

数分して、京楽が戻ってきた。

その手には、お汁粉の入った器を乗せたおぼんがあった。

(ありがとう、京楽)

浮竹は、お汁粉を食べた。数日ぶりの甘味ものが、こんなに美味しいものだとは思わなかった。いつでも美味しいのだが、腹が減っている今はいつもの2倍は美味しくかんじられた。

(ごちそうさま)

「お粗末様でした」

京楽が、浮竹の白い髪を撫でた。

「早く、君の錫が転がるような声が聞きたいね。会話はできるけど、やっぱり声があるほうがいい」

(それは当たり前だ)

「早く治るためにも、もっと食べて栄養つけて、薬のんで寝ないと」

(また、コオロギなのか?)

「そうだよ。新種の病らしくて、今のところ、コオロギで治るということしか分かってない。症状は、声がでなくなることと、悪寒、熱、咳・・・・・ほとんど、風邪みたいな症状だね」

(だからか・・・・・・風邪をひいていないのに、悪寒と咳がでる)

「うん。君が発作で倒れた時、卯ノ花隊長が診てくれたんだ。それで、この通称「口なし病」を発症しているってこともわかってね」

(そうか・・・この病は「口なし病」というのか)

「そうだよ。今、流魂街を中心に流行ってるらしい」

(自然には治らないのか?)

流魂街の民は貧しい。医者にかかる金もないだろう。

「放置していても治るらしいけど、治るまでに10日以上かかるらしいよ」

(結構長いな)

「そうだね。早く特効薬が完成して、流魂街の民にも普及するといいんだけど」

(いろいろとありがとう、京楽。仕事は片付いたのか?)

「うん。君のことを思って、自分でもすごい早さで片付けたよ」

(仕事をためこむのは、ほどごどにな)

「そういう君は、臥せっていた分の仕事をしようとしないこと。まだ病み上がりなんだから、無理しちゃだめだよ」

(分かった)

浮竹は、横になった。京楽がついてくれているというだけで、元気が出てくる気がする。

(少し、眠る・・・・)

「おやすみ」

次におきると、なんと3日経っていた。

「どうなってるんだ。あ、声が・・・・・」

京楽がやってきた。

「京楽、この「口なし病」ってどうなってるんだ?寝てたら、3日も経っていたぞ」

「ああ、説明不足だったね。コオロギの薬を飲むと、治るまで自然と眠り続けるんだって」

「そうか・・・・・」

1週間も、眠り続けていtことになるのだろうか。

「とにかく、今は食事よりも湯あみだ!まともに体もふけなかったから、湯あみだ!」

綺麗好きな浮竹には、1週間も入浴できないことは拷問に近かった。

いつもの2倍の時間をかけて体を清めて、雨乾堂に戻ってくる。

「髪、乾かしてあげる」

ドライヤーをもちだした京楽に、後は任せた。

「髪、伸びたな・・・・・そろそろ切ろうか」

「もう少し伸ばしてよ」

「どうしてだ?」

「ラプンツェルごっこができる」

童話のランプツェルほど、髪は長くないのだが。

「お前がそういうのなら、もう少し伸ばすか・・・・・・」

浮竹は、京楽にとことん甘い。でも、そんな京楽も、浮竹にはとことん甘いのであった。





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