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赤薔薇姫

「うん・・・・悪くない」

浮竹は、仕立てられたばかりの隊長羽織を見て、満足そうだった。

「それ、君の着るサイズじゃないね」

「ああ。朽木用のものだ」

「ルキアちゃんのか・・・・・って、君引退するつもりなの!?」

京楽に揺さぶられて、勘違いだと声をかける。

「あくまで、未来の話だ。俺がもうだめになって、隊長を続けられなくなったら、朽木に13番隊隊長になってほしいんだ」

「未来の話なら、君が引退するなら僕も引退するよ」

「おいおい、隊長が一気に二人も引退すると、護廷13隊に響くぞ」

そんなことはどうでもいいのだと、浮竹を抱き締める。

「僕より先に逝ったりしないでよ」

「そういうお前こそ、俺より先に逝くなよ」

元々、海燕のために仕立てた隊長羽織だった。だが海燕が亡くなり、長い間副官を置かなかった。ルキアが副隊長になり、ルキアのその姿を見ていて思ったのだ。

もしも、自分以外に13番隊を率いるのはルキアしかいない、と。

あくまで、仮定の話である。

浮竹はまだまだ隊長を引退するつもりはなかったし、ルキア用にあつらえた隊長羽織を彼女に渡すことは当分ないだろう。

でも、いつか、と思う。

この命が尽きた時には、ルキアに着てもらいたい。

それが数年後か数十年後か数百年後かは分からないが、ルキアになら13番隊を任せてもいいという気持ちが沸いてきたのだ。

13番隊副隊長として、頑張っているルキアを見ていると、そんな気分になってくる。

まだ副官になって間もないのに、もう13番隊の隊士たちの心を掴んでいた。人の上に立つべき人物だ。

「縁起でもない話はやめよう」

「そうだね」

「おはぎ食べる?昨日もってきたんだけど、食べずにお互い寝ちゃったから」

「食べる」

二人して、しばらくの間おはぎを食べていた。

昨日は、髪に白薔薇をさしていた。

ちなみに、今日は赤い薔薇だ。最近の京楽は、薔薇にはまっているのか、薔薇の花束をもってきたり、それを手折って浮竹の髪に飾ることが多かった。

今日は、赤い薔薇を髪に飾られた。

なんの意味があるのかは分からないが、別に動きに制限がかかるわけでも、雨乾堂の外にいくわけでもないので、京楽のしたいままにさせていた。

きっと、今度はピンクや黄色、紫の薔薇を持ってきそうだ。

京楽の手には、99本の真紅の薔薇の花束があった。

数が多すぎて、花瓶に飾れないというと、そのままでいいと京楽はいう。

「京楽、最近薔薇にこっているのか?」

「んーなんとなくね」

「花に興味をもつなんて珍しいな」

「知ってる?薔薇の花には、本数によって意味があるんだよ。ちなみに赤の薔薇は情熱や愛しているって意味をもつ。99本で、永遠の愛って意味があるらしい。僕から君へ贈るにはぴったりだと思ってね」

蒼い薔薇の花束は50本だった。

「この前の蒼薔薇は?」

「奇跡って意味をもってて、50本で永久にって意味をもつんだよ」

「へぇ・・・・・・」

薔薇には、色での意味だけでなく、本数で意味が変わるなんて、浮竹は初めて知った。

今まで、誰かに花を贈られたことがないわけではないけれど、花言葉の意味なんかを含めて贈られたことはなかった。

誕生日プレゼントに、女性死神から赤い薔薇を送られたことがあるなと、ふと思い出す。

彼女も、花言葉の意味をこめて贈ってくれたのだろうか・・・・。

「浮竹?」

「いや、なんでもないんだ」

「真紅の薔薇は嫌いかい?」

「嫌いってわけじゃあないが・・・・吐く血の色を連想するから・・・・っていってたら、血の花に見えてきた」

「重症だね」

「そうだな」

真紅の薔薇を雨乾堂のテーブルの上に置いて、京楽は浮竹を抱き締める。

「僕は、君の真っ赤な血は嫌いだけど、真紅の薔薇は好きだよ。真っ赤な色って綺麗じゃないか」

「そうだな。俺は赤い花なら彼岸花が好きだ」

「彼岸花は縁起が悪いって言われるけど綺麗だよね。花言葉は情熱、あきらめ、悲しき思いで」

「本当にどうしたんだ、京楽。やけに花に詳しいじゃないか」

「何、君に贈ろうと思ってた花の中に、彼岸花も候補にあっただけだよ」

「雨乾堂の庭には、去年彼岸花が植えてあるんだ。時期がきたら、真っ赤な絨毯ができる」

「そうか。今から楽しみだね」

「ああ・・・・・・」

「僕だけの赤薔薇姫」

髪にさした真紅の薔薇をもう一度、髪に飾り直す京楽。

浮竹は、文句も言わないし、拒否もしない。

「今度は、紫の薔薇でももってこようと思っているんじゃないか?」

「半分あたりで半分正解。今度もってくるのは黄色い薔薇だよ」

「色が違うだけじゃないか」

「色が違うだけでも、大きく意味が違うんだよ」

「京楽は、本当に薔薇が好きだな」

「そうだね。贈り物にもなるから。桜の可憐な花もすきだけど、すぐに散っちゃうからね。薔薇なら、長くもつから」

「蒼薔薇は、悪くなかった」

今も、掛軸の前に、ドライフラワーになった蒼薔薇が飾られている。

「真紅の薔薇もいいものだよ」

「この前の白い薔薇も悪くないが・・・やっぱり、蒼薔薇が一番うれしかったかな」

京楽が、手を叩いた。

「知り合いに頼んで、蒼薔薇をわけてもらおうか。お金は飛ぶけど、庭に埋めればいつでも見れるよ」

「いや、そこまでしてもらわなくていい。それに、彼岸花もそろそろ咲くし」

もうすぐ、彼岸花でできた真っ赤な絨毯が見れる。

それが今からでも楽しみなのだと、浮竹は言う。

「ああ、決してお前からもらったこの真紅の薔薇が嬉しくないわけじゃなうからな!」

「知ってるよ、それくらい」

また抱き締められて、深い口づけを交わした。

「ん・・・・」

「彼岸花が咲いたら、それを肴に酒盛りでしようか」

「お、いいな」

今から楽しみだと、浮竹は笑うのだった。




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