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金木犀

「甘い花の匂いがする」

「え、それいつもの君の香でしょ」

「ちがうちがう。もっとこう・・・ああ、金木犀だ」

橙色の小さな花を集めて咲いた木を見上げる。

「ああ、金木犀の匂いか・・・・たしかに、甘ったるいよね」

「俺もこんなに甘い香がするのか?」

「いや・・・君は甘い花の香はするけど、湯あみでシャンプーとか石鹸の匂いがまじっていない限り、甘ったるくないね」

「つまり、湯あみした後は甘ったるいのか?」

「少しね」

溜息をつく。それは生来のもので、赤子の頃花の神に捧げられ、祝福を受けた証として、浮竹はいつも甘い花の香がしていた。

「でも、高級ってかんじの匂いで、悪くはないよ」

散っていく金木犀の花を集めてみた。

その香はけっこう好きだと、浮竹は思う。

「今みたいな10月の半ばに花を咲かして、2週間ばかりで散ってしまうか・・・・・」

花としては2週間もてばいいほうだろう。

「何、金木犀気に入ったの?」

「ああ。けっこう好きだ、この甘い香」

「へぇ。じゃあ、金木犀の香水でも・・・・・・ああ、でも君は元来の甘い花の香があるからね。室内に置いておけるタイプの芳香剤でも買ってあげるよ」

「そんなの売ってるのか?」

「このサイト・・・・・いろいろそろってるから」

伝令神機の、雑貨屋を見せられる。検索すると、金木犀の芳香剤がでてきた。

その値段に驚く。

「3万・・・・・けっこう、高いんだな」

「いや、安いでしょ。このサイト、僕はよく利用しているけど・・・というか、上級貴族向けのサイトだからね。3万は高いのかい?」

「普通なら、高くても3千くらいだろう」

「ふーむ。まぁいいや、ぽちっとな」

テロレロリンと音が鳴って、購入した証のデータが出てきた。

「ここの便利なとこは・・・」

テロレロリン。

音がして、金木犀の芳香剤がぽんっと届いた。

「ほら、ごらんの通り・・・・注文したら、すぐ届くんだ。場所とか関係なく」

「どうなってるんだ一体・・・・」

「僕にもよくわからないけど、技術開発局もかかわってるらしいから、簡易の転送じゃないかな」

「ふーむ」

芳香剤の入った箱をいろんな角度から見てみたが、これといって怪しい箇所はなかった。

「まぁいいか。ありがたくおもらっておく」

「何か欲しいのあれば、君も伝令神機で買うといいよ」

「金がない」

「僕のアドレスとID教えておくから。1500万までは使えるから」

家が1軒買える値段に、浮竹が驚く。

「そんなに、こんな雑貨屋に使うのか?」

「いやー?ただ、僕のクレジットの残高。最近けっこう使ったから、10分の1以下になってるけど」

10倍・・・1億5千・・・・くらりと眩暈をおこしそうだった。

「お前の金銭感覚は、相変わらずだな」

「えーそうかい?まぁ、屋敷買うわけじゃないし、今は1500万でいいかなーって」

「この雑貨屋で屋敷を買うのか?」

「そうだよ。雑貨屋っていうより、なんでも屋だね。職人とかもくるから便利でね・・・他のとこのほうがもっと安くつくだろうけど、手続きとか簡単だから、いつもここを使ってるね」

「13番隊の隊舎の一部に雨漏りがあって、困っているんだ」

「屋根修理だね。頼んでおいたよ。今回は安いね50万だって」

いや、普通5万くらいだろう・・・・思ったが、浮竹は何も言わなかった。京楽の懐から13番隊の隊舎を直させるのに、良心は痛むというより、経費を使わなくてすんでいいなと、ちょっと腹黒くなっていた。

「この芳香剤、雨乾堂に置いてくる」

「ああ、僕もいくよ」

雨乾堂から出て10分もしない道端での会話だったのだ。

風がふく。

ちらちらと、橙色の花が散っていく。

桜の花ような可憐さも美しさもないけれど、これはこれでいいと思えた。

後日、購入履歴を見たのだが、浮竹グッズばかりで、浮竹は京楽の院生時代の変態さを垣間見た気がして、困ったという


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