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院生時代

院生時代に時は遡る。

その日、浮竹は京楽がやってこないことに、多少の心配を抱えていた。
今日は、学院も2学期を迎え、新しく委員を決める日だった。

事前に、大切な日であるから必ず来いと伝えておいた。なのに、京楽は学校をさぼり、あろうことが廓にいったという。

(どうなっても、知らないからな・・・・・・・・)

クラスの委員長には、浮竹が選ばれた。自薦ではない。推薦から選ばれて、多数決によってだ。それに否を唱えると、もう一度多数決がとられるのだが、浮竹は元々人をまとめるということが得意なので、自然と委員長になることを承諾していた。

いくつかの委員が決まって、最後に風紀委員を決めることになった。

風紀委員はとにかく、朝早くに学校にこないといけない。登校してくる生徒の服装の乱れをチェックするのだ。他の生徒の風紀の乱れを正すために、憎まれやすい。一番人気のない委員であった。

(ほら、やっぱり----------------)

京楽が休みなのをいいことに、風紀委員の名前に京楽が推薦された。
多数決をとる。圧倒的な数で、京楽は風紀委員になった。そもそも、風紀委員になった京楽そのものが、風紀の乱れの塊であるのだが。

「よし、今学期の委員決めはこれにて終了する」

特進クラスを受け持つ教師がそういうのと、チャイムが鳴るのが同時だった。

「おはよ~」

「おはよう」

昼から登校してきた京楽に、浮竹は風紀委員になったぞと言えば、京楽は顔を蒼くした。

「ええっ、風紀委員だって!?そんなバカな!」

「だから、あれほどさぼるなといった。お前がちゃんといれば、否と答えて拒否することができたのに」

もう後の祭りだ。

明日から、京楽を見る教師の目も厳しくなるだろう。さぼることも、なかなかできないかもしれない。

「ああでも・・・・・お前が風紀委員になれば、おちおち廓にもいけなくなるから、それはそれでいいかもな」

「そんな殺生な」

女遊びの塊みたいな京楽から廓を取り上げると・・・・・骨が残りそうだ。

「自業自得だな」

浮竹は、昼食をとるために食堂に移動した。何故か京楽も一緒だった。

「なんだ京楽。食堂にくるなんて珍しいな」

ここ最近、付き合っているいう女生徒の手作り弁当を食べていた京楽は、振られたのだと話した。
友人たちが、京楽を取り囲む。

「京楽が振られた?」

「ああ。翡翠ばっかりおいかけて、こっちを見ていないだって」

「翡翠?なんだそりゃ」

浮竹が、テーブルの下から京楽の足を蹴った。

「いてて」

「どうしたんだ?」

「ううん、なんでもないよ」

翡翠とは、浮竹のことだ。京楽が浮竹のことをたまに翡翠と呼ぶのだ。

「翡翠はご機嫌斜めな時があるから・・・・ああお嬢さん、Bランチ定食大盛で」

食堂のおばちゃんに、お嬢さんという京楽は、年齢に関係なくもてた。

「きゃあ、京楽ちゃん。お嬢さんだなんてやぁねぇ。メガ盛にしとくわ」

浮竹もBランチ定食を頼んでいたが、食が細いため残してしまっていた。

「もったいない。食べないなら、僕がもらうよ?」

「好きにしろ」

おしぼりで口をふいて、浮竹は立ち上がった。

「教室に戻る。委員長としてまとめなきゃいない書類があるから」

その言葉に、京楽が驚いた。

「また今年の今期も、委員長をするの?」

毎年じゃないかと、心配げに見てくる京楽が鬱陶しくて、浮竹がテーブルの下の京楽の足をけった。

「まったく、つれないなぁ」

「どうしたんだ?」

他の友人たちが、京楽の輪に集まりだす。

浮竹は、それを翡翠の視線でちらりと見てから、教室に戻った。

教室には、誰もいなかった。

安堵する。

京楽がまた廓に出かけたことを怒っていたのだ。京楽の、浮竹への気持ちは知っていた。もっと身辺をすっきりさせるなら、真剣に付き合ってもいいと考えていたが、廓に平気で通うような男と関係を持つ気はなかった。

書類をまとめあげても、1時間はある昼休憩は長くて、暇を持て余していた。

ガタン。

音がする方を見たら、京楽がたっていた。

「君さ・・・体弱いのに、また委員長なんて責務おって・・・大丈夫なの?」

「臥せる時もあるが、なんとかなる」

そのまま、手をひっぱられて、カーテンの影に引き込まれた。

「んうっ」

舌が絡まるキスをされた。

「なっ・・・この!」

ひっぱたこうとして、逆に手を引かれて京楽の腕の中にいた。

それから、肩まで伸びた髪に、翡翠の髪飾りを留められた。

「これは?」

「廓で身請けした子からもらった」

「身請け!?」

妾か何かにするのだろうか。

「おっと、勘違いしないで。その子、翡翠の瞳をしてたんだ。君と影が重なって、可愛そうに思えて身請けしたんだ。今では、京楽家の侍女として働いているよ」

「手を出さなかったのか・・・・」

どこかほっとしている自分がいた。

「ねぇ、前にもいったでしょ。廓にはいくけど女は買ってないって」

「信じられるか」

そういうと、また唇を唇で塞がれた。

「どうしたら、信じてくれるの?」

「お前、今も女と付き合っているんだろう?」

「ああ、遊びだけどね。それがいやなら、それもやめる」

「お前は行動が軽すぎる。信じてくれというなら、身辺整理をしてこい」

「わかった」



それから数日して、京楽は女生徒と別れ、廓にもいかなくなった。

放課後、残るようにと言われた。

京楽の変わりように、浮竹自身も戸惑っていた。

「身辺整理、ちゃんとしたよ。君も、いい加減疲れるしょ?僕のものになっちゃいなよ」

「何言って・・・・・あっ」

腰に手が回された。

「細い腰。体もこんなに細い。もっと食べなくちゃ」

口の中に、飴玉をほうりこまれた。

「ん・・・甘い・・・・」

「君、甘いのすきだものね」

「悪いか」

「いいや」

「甘味屋で何かおごれ。そうすれば、考えてやらないこともない」

元から、答えは決まっていたけれど、京楽があまりにも女遊びを繰り返すものだから、答えを保留にしておいたのだ。

「よし、今から甘味屋へ行くよ!」

「おい、京楽!」

浮竹の手をとって、走り出す。

「人が見てるから!」

「そんなこと、どうだっていいじゃない」

京楽は嬉し気だった。

その顔を見ていると、浮竹も仕方ないかと半ば抵抗を諦めた。

「風紀委員がんばるから。君も委員長、がんばってね」

「ああ・・・・・・・」

ふわりと、甘い花の香がした。

浮竹の匂いだ。浮竹からは、香水もなにもつけていないのに、その体と髪からは甘い花の香がした。なんでも、赤子の頃に花の神という地方で祭られている神に捧げられて、愛児となって祝福をうけた証だとか。

「君は甘い花の香が良く似合う」

「俺も、この香は嫌いじゃない・・・・・」

甘味屋に向かって、走り出す。
甘味屋につくと、普段は食が細いのに、よくこれだけのものを食えるなという量を平らげる浮竹を、京楽は幸せそう見ていた。

抹茶アイスを頼んだだけで、他に食べない京楽を見る。

「お前は、それだけでいいのか?」

「うん。僕は、君が食べているその姿を見ていたいから」

顔が真っ赤になっていた。

たまにキスされるが、まだ答えはいっていない。

「俺の答え、聞かせてやる。俺はお前を------------------------」

その言葉を聞いて、ガッツポーズで叫んでいる京楽の姿があった。

今は遠い、院生時代のお話。

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