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院生時代の部屋 お年玉

「ほれ、春水に十四郎。お年玉じゃ」

本来なら、もらう年齢をすでに過ぎているのだが、山本総隊長は甘いので、溺愛する二人の愛弟子にお年玉をあげていた。

「山じいありがとう・・・・でも2万か・・・・・しけてるな」

「こりゃ、春水、聞こえておるぞ!」

「先生、ありがとうございます・・・3万入ってた」

「ちょっと、山じい、浮竹とのこの差は何!」

京楽が、浮竹と1万も違うことにショックを受けた。

「そりゃ、悪戯小僧の春水と、品行方正な十四郎の差じゃ」

「くーー、なんか悔しい」

「ありがとうございます先生、このお金で新しい手袋が欲しかったので買おうかな・・・」

浮竹は、欲しがっていたふわふわの手袋を思い出した。

「使い道は自由にするがよい。春水、酒に消えることは許さんぞ」

「えー、自由にしていいって言ったじゃない」

「十四郎は下らぬことに使わぬが、春水お主は廓にいく金にでもしてしまいそうで、禁じておかねば心配じゃ」

「山じい、僕去年の秋以降から廓にはいってないよ」

「それはよいことじゃが、かわりに十四郎に迫っておるのじゃろう」

「それはそうだけど・・・・・」

山本総隊長は、京楽の頭を殴った。

「くれぐれも、無理強いはせぬように!十四郎も、何かあればわしのところに来い」

「はい、先生」

山本総隊長は、それだけ言うと一番隊の執務室に戻るために、学院を後にした。

今は、年間年始の休みで、ちょうど年が明けたばかりだった。

わざわざ呼び出されて、二人とも怒られるのかとびくびくしていたが、お年玉と聞いて喜んだ。正確には、浮竹だけが。金がありあまっている京楽にとっては、お年玉ははした金だ。

でも、山本総隊長の気持ちは嬉しかった。

「帰ろうか、京楽」

「そうだね」

山本総隊長の去った学院は、シーンと静かだった。

「そうそう、京楽家の料理人を呼んだんだ。今日の夕飯は、食堂でとるけど、いつもより豪華にしておくから楽しみにしておいて」

「京楽家お抱えの料理人か。少し、楽しみだ」

そのまま、伝令神機で、尸魂界ネットにアクセスしたりして、時間を潰していると、夕食の時刻になった。

「食堂に、そろそろ移動しようか」

食堂は、いつもより人が疎らだった。

年末年始は、故郷に帰る学生が多い。

浮竹は、夏に帰郷したばかりなので、今年の年末年始は寮で過ごすことにした。京楽は、親から見合いの件があるから一度帰ってこいと言われていたが、無視した。

今まで散々放りだしておいで、学院に入り、護廷13隊入りが決定して、貴族の京楽家に箔がつくので、今のうちに婚約者を決めておきたいらしい。

京楽が、浮竹に懸想していることは、両親にも知られていた。だから、早くに見合いを進めて婚姻させようと躍起になっていた。

「じゃーん伊勢海老が2匹に茹でたカニまるまる1匹分!」

「本当に豪華だな」

浮竹は、出されたメニューを味わって食べてくれた。

「おいしい・・・・」

浮竹が食べきれる量に調整させておいたので、食べ残しはなかった。

茹でたカニは身がとられて、ほじくる必要がないようにしていたので、手が汚れるとかもなかった。

「ありがとう、京楽。ごちそうさま」

「どういたしまして」

夕食を食べ終わり。寮の自室の前にくると、高そうな着物をきた少女がいた。美しく、どこかの上流貴族の姫君らしい。おつきの者が控えていた。

「春水様!お逢いしとうございました。見合いの話、ちっとも受けてくださらないので、このような辺鄙なところまでわざわざ足を運びましたのよ?」

「桔梗院サクラ・・・・だっけ?」

「はい、春水様!」

「帰ってくれない?邪魔だ」

「そんな!もう、正式に婚約を交わしたことになっているのです。未来の妻にそれはあまりにも酷い仕打ち」

ドクンと、浮竹の鼓動が鳴った、

「僕はこの子・・・・浮竹十四郎のことだけが好きなんだ。君と結婚なんてしない。帰って、父上と母上に言ってくれないかい。勝手なことをするなら、京楽家とは縁を切ると」

「そんな・・・この、お前のせいで!」

サクラは、浮竹をぶった。

「何するの!」

火がついたように、京楽が怒り、サクラの頬を思い切り叩いた。

「春水様、酷い!」

「こっちの台詞だよ!」

「・・・ゴホッゴホッゴホッ」

ぽたぽたと、咳をした浮竹の手の隙間から、血が滴った。

「浮竹!」

「きゃああいやああ!うつってしまう!春水様、そんな者に近寄らないで!」

切れた京楽は、拳で美しいサクラの顔を殴った。鼻血をだして、サクラが泣き叫ぶ。

「春水様がこんな暴力男だなんて!この結婚話、なかったことにしていただきます!」

走り去っていくサクラに、反吐が出そうな顔をした。

「こっちからごめんだよ。浮竹、大丈夫!?」

「部屋で・・鎮静剤を・・・お前が見合いと思ったら突然発作が・・・・」

浮竹の薬の中から鎮静剤を取り出して、浮竹の腕に注射する。

「薬が、少し効いてきた・・・・・・」

もう、それ以上血を吐くことはなかった。

「キスしてもいい?」

「血の味がするぞ」

「それでもいい」

浮竹とキスをすると、血の味が確かにした。

それさえ、愛しい。

「ゆっくりお眠り・・・・」

「ああ・・・」

次の日、起きると浮竹のパンツを頭に被った京楽がいた。

ああ、いつもの日常がかえってきたと、浮竹は安堵するのだった。
 


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