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院生時代の部屋19

ひゅーひゅー。

喉が鳴る。

「ごほっごほっごほっ」

「大丈夫、浮竹?」

「ごほっ・・・・・うっ」

ごぽりと、血を洗面器の中に吐き出した。

「医務室にいくかい?」

「いい・・・・これくらいなら、薬を飲んで安静にしていれば、なんとかなる」

幼い頃、そうやって過ごしたのだ。もっと酷い発作の時にも、医者にかかる金はなくて薬を飲んで寝ていたこともある。

「でも、こんなに血を吐いて・・・・」

服やベッドを汚したくなかったらから、洗面器をもってきてもらった。その中には血だまりができていた。

少し血を吐きすぎたかもしれない。

くらくらする。

「ごほっごほっ」

苦し気に咳をしていると、京楽が優しく背中を撫でてくれた。

幼い頃とは違うのだ。

心配してくれる親友が隣にいる。それはとても心強いことでもあった。こんな肺の病などに負けてたまるかという気持ちになる。

「薬、飲めるかい?」

錠剤タイプの薬を手渡されて、水の入ったコップを手渡された。

粉薬タイプの薬も何とか飲みほした。

急に効くわけでもないが、心持ちかましになった気がした。

「すまない、少し眠る・・・・・」

鎮静効果のある薬も飲んだので、睡魔が襲ってきた。

「うん。僕は君の傍にいるから、安心しておやすみ」

傍にいる。その言葉を、幼い頃守ってもらったことはなかった。まだ幼い手のかかる妹や弟の世話があったから。両親は共働きで、収入はそこそこあったが、浮竹の病気の薬で金はスグに飛んでいってしまい、生活は食うに困るほどではないが、貧しかった。

いつか、死神になって恩返しをするのだ。

ずっとそう思ってきた。幸いなことに霊圧があり、学院の試験にもうかり、特進クラスになれた。今ここで、終わるわけにはいかないのだ。

「ん・・・・・」

気づくと、4時間は経っていた。

「起きた?浮竹」

「ずっとついててくれたのか・・・・・」

傍に椅子を寄せて、浮竹の手を握ってくれていた。

「大丈夫だとは思ったけど、一人にしておけなかったからね」

「京楽」

「なんだい?」

「その・・・・・・ありがとう」

「どういたしまして」

食堂はすでに閉まっていた。

「夕飯、お弁当二人分買っておいたから。一緒に食べよう」

「ああ、すまない」

薬が効いたおかげで、発作は収まっていた。

とんかつ弁当だった。

もっとあっさりしたものがよかったが、文句は言えない。

「無理に食べなくていいよ」

京楽が、柿を数個ベッドの上に転がした。

「柿か・・・・懐かしいな」

「僕も、子供の頃屋敷に生えてる柿の枝に登ってよくとったよ」

「俺の場合は・・・妹や弟たちが・・・その、柿の生えてる家を見つけると勝手によじ登ってとってしまうから、それを止めさせるのが大変だった」

おなかがすいていたのだ。

幼い妹や弟たちは。

「8人兄弟だっけ」

「ああ。多いだろ」

「そうだね。最近は多くても3人って家が多いから」

「俺の病気のせいで、家族には貧しい思いをさせた。だから、死神になって護廷13隊に入って、仕送りをしたいんだ」

「叶うといいね」

「ああ」

とんかつを口にしてから、半分残して、ベッドの上に転がっている柿を、皮つきのままかじった。

「寂しい?」

「え?」

「いや、そんな大家族からいきなり一人になったでしょ。寂しくない?」

「いや・・・・京楽がいてくれるから、寂しくはない」

その言葉に、京楽が押し黙った。

「俺は、何か変なことを言ったか?」

「無自覚でこれなんだから・・・勘弁してよ」

抱き締められた。

かじっていた柿が、ポロリと落ちる。

「京楽?」

「少しの間でいいから、このままのさせて」

「甘えん坊だな・・・・」

苦笑して、浮竹は京楽を抱き締め返す。

ここに友人がいれば、「あーやっぱりできてる」って言っていたであろう。

今は二人きりだ。

自然と口づけを交わす。

でも、そこまで。

でも、甘い時間はもう少し続きそうであった。

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