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院生時代の部屋8

「構ってよ~ねー浮竹~」

その日も休日だった。

前は浮竹が暇すぎてごろごろしていたが、今度は反対に京楽が暇だとうるさい。

「うるさい。俺はすることがあるんだ」

課題のレポートをまとめていたところだった。

ちょうど終わり、どうしようかと考える。

「浮竹も、たまには息抜きしようよ。面白いところ、連れてってあげるから」

はて。

京楽の言う面白いところ?

一抹の不安と好奇心にかられて、京楽の外出に付き合った。

「・・・・・・・・」

「ねぇ、やっぱりお酌されるほうが美味しいでしょ?」

遊女たちに囲まれて、浮竹はやっぱりこうかと、期待した自分がばかだったと思った。

京楽の面白い場所。それは廓だった。

「京楽の旦那、この子ほんとにいいですかい?」

「なんだ?」

「ちょっとだけ、こっちにきてね」

「おい、どうするつもりだ」

一番身分が高そうな花魁に笏をされていた浮竹は、遊女たちに連れられて奥の座敷に消えた。

「だあああああああ!」

浮竹が、乱れた着物で現れた。女ものだった。

髪は梳られ、肩より少し長い位置の髪は綺麗に結われて、翡翠の髪飾りで留められていた。

「やぁ、やっぱり似合うね」

「京楽~~~~~」

首を締めあげるが、京楽は楽しそうにお酒を飲んでいた。

「さぁ、お酌してよ」

「このまま絞め殺してやろうか」

「怖い怖い」

浮竹は、やけになって酒を飲みだした。
京楽の杯にも酒を注いでやる。べろんべろんに酔っぱらわせてやると、酒をこれでもかと飲ませたが、酔うどころか顔色一つ変えない。

それがつまらなくて、自分も飲んでいると、酔ってしまったのか世界が廻りだした。

「くそ・・・こんな遊女の恰好させられただけで終わるとは—-----無念」

「遊女っていうより、色子かな?浮竹は男の子だしね」

「余計悪いわ!」

怒りに任せて。京楽に酒を浴びせた。

「あちゃー。このお酒、高いんだよ」

「いくらだ」

ごにょごにょ。

思っているより桁が2つほど違って、青くなる。

「お、お前が悪いだからな。こんな遊女だか色子だかしらんが、こんな格好させるから」

「とっても似合っているよ」

「嬉しくない」

「僕もお酒でびしょびしょだし、着替えようか」

「さっさと元に恰好に戻させろ」

「だめ。浮竹はその格好で寮まで戻ること」

「何!」

「もう、さっき来ていた衣服は処分させちゃったからね」

「京楽!」

怒るが、服がないのでは仕方ない。裸で帰れるはずがない。

「男ものの服はないのか」

「僕の分しかないよ」

「お前のびしょびしょになった服でいい。着替える」

「ちょっと!そんなの着たら絶対熱出すよ」

「止めるな!」

浮竹が、着替えようとするのを、京楽はその喉に強い酒を流しこんだ。

「ん・・・・・」

喉が焼けるようだった。何度か飲まされているうちに、意識が途切れる。

酔っぱらって眠ってしまった浮竹を抱き上げて、京楽は人力車を雇って寮まで帰った。

その日、京楽が浮竹によく似た遊女を連れ帰ってきたと噂になった。それが浮竹自身であるとは誰も思わなったが、浮竹にとってはもう穴があったら入りたい心境だった。

意識を取り戻すと、まず京楽を殴った。

それから着ていた女ものの着物を脱ぐと、普通の院生として支給されている服に着替えた。

髪も元にもどしたが、翡翠の髪飾りと返しても京楽が受け取ってくれなかった。

仕方なく、自分の棚の上に置いた。

京楽が考えていることがよくわからない。色子の恰好をさせて、お酌をしてほしかったのか?

それとももっと深い思惑があったのか?

腑に落ちない心のまま、その日は眠った。

朝起きると、京楽が浮竹のベッドの上にいた。

「お前は・・・・・・・・!」

こりない京楽。

「テープの内側に勝手に入るな!勝手に人のベッドに入ってくるな!」

頭をボカボカ殴られた京楽は、朝から涙目であった。

でも、昨日は可愛かったなぁと、一人でにんまり笑うのだ。

「そこ、きもいから思い出し笑いはやめろ!」

浮竹に怒鳴られても、にまにましていた。その日は、一日中にまにましていたという。



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