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院生時代の部屋15

浮竹が浮気した。

否、付き合っていないのだから、これは浮気にならないだろうか。

女生徒に告白されて、OKをしたらしい。

京楽はずっとイライラしていた。ただでさえもてる浮竹なのに、誰かと付き合いだしたら、歯止めが利かなくなるんじゃないかと思った。

京楽も京楽で、少し前までは女生徒をはべらせ、抱く相手がいなくなると廓で遊女や花魁を買った。色子に手をだしたことはまだないが、一度買ってどうやって同性同士でするのかを事細かに聞いたことはあった。

「浮竹」

寮の部屋に戻ると、浮竹は疲れた顔で、溜息を零していた。

「どうした、京楽」

「またなんで・・・・・あんな女の子と、付き合いだしたんだい?」

見た目もあまりよくないし、どっちかていうと影を引きずっていて、いじめの対象にされるような暗い女の子だった。

「君なら、もっと綺麗な子、いくらでもいるでしょうに」

「それはこっちの台詞だぞ京楽。俺を好きにならずとも、前までいっぱい女の子を侍らしていたじゃないか。廓に通って遊女や花魁を買って」

「僕は君がいいんだ。君がいれば、他に何もいらない」

「俺はお前のことは好きだが、恋愛感情は抱いていない」

「知ってる。でも、君が誰のものでもないからよかったんだよ。誰かと付き合いだすなんて・・・・」

今すぐにでも、無理やり抱いて、自分のものにしようかとも思った。

でも、浮竹のことだから、そうやって手に入れても、水のように手の隙間から零れ出て、形をかえていなくなってしまうかもしれない。
そう考えただけで怖くて、手を出せない。

「あの子・・・・・病気なんだ。もう長くない。あと2か月の命らしい。学院も来週いっぱいで辞めるそうだ。最後の思い出に付き合って欲しいと言われて、OKした。あの子の、残り僅かな命の花になれればと思って」

「・・・・そうか」

事情は把握した。

この場合、京楽でもあの女の子と付き合っただろう。

「いい思い出、作れるといいね」

「そうだ、京楽!」

「なんだい?」

「お前も、一緒に付き合ってくれ。俺じゃあ、女性と付き合ったことがないんで、いまいちよく分からないんだ。あの子は、お前のことも・・・・というか、俺とお前の関係を好いていたそうだから、一緒に付き合っても問題はないと思うんだ。それに京楽なら、女性の扱い方もうまいだろうし」

「その話のった」

三角関係になる。
でも、女の子と一緒に浮竹と付き合えるのだ。願ったり叶ったりだ。

次の日の休日、女の子と一緒に甘味屋にいった。

「ここの白玉あんみつはとても美味しいんだ」

「嬉しいですわ。こんな私なんかが、お二人と付き合えるなんて」

女の子は、名前を紫苑(しおん)といった。

「紫苑ちゃん、お金は僕がもつから、好きなだけ食べるといいよ。浮竹も」

浮竹は、本当に何処に入るのか、その細い体に入るのかもわからないような量を食べる。店のメニューを上からつぶしていく。もう少しで、店のメニュー全覇ということろで、浮竹は食べ終えた。

「すごいですわ、浮竹様。こんなに食べてしまうなんて」

紫苑は、笑うと可愛かった。

甘味屋での勘定を払って、店の外に出ると、京楽が提案した。

「紫苑ちゃん、服買いに行こう。それから髪もきってイメチェンして、化粧もしよう」

「どうしてですの?」

「君、宝石の原石だよ。磨けば光る」

京楽は、紫苑を連れて服屋にいくと、西洋風のワンピースを着せた。それに麦わら帽子。長く前髪を覆っていた髪はバッサリと切って、短めのショートカットにする。

化粧品店で、メイクしてもらい、唇に紅をひいただけで、印象ががらっと変わった。

美少女だった。

「これが私・・・」

鏡を見て、唖然としている。

「嬉しいですわ。京楽さま、ありがとうございます。浮竹さま、さぁ次はどこへいきましょうか」

「そうだな。動物と触れ合える牧場にでもいこうか。触れ合い動物園みたいなとこ」

少し遠出になるので、人力車をかりて移動した。

まだ瞬歩は使えないので。

「わぁ、たくさんいますのね。餌をやっても構わないのかしら」

兎がたくさんいた。

人参が売ってあった。カットした人参を玉の中にいれて、お金を入れたら玉がでてくるしかけになってあった。

200環ほどいれると、3つばかりの玉がでてきた。

えさだえさだと、兎たちが集まってくる。

「うふふ、くすぐったい」

「同じくくすぐったいな・・・・・・」

京楽は、浮竹だけを見ていた。紫苑のことなど、最初からどうでもよかったのだ。

二人で、兎を抱っこしている写真をとった。浮竹と紫苑をいれたツーショットで写真をとる。

ひとしきり兎と戯れた後は、犬猫のルームに移動した。

「ああごめん、僕猫アレルギーなんだ。ここで待ってるから、二人で楽しんできて」

「そうか。初耳だな。分かった」

「まぁ、浮竹さま、京楽さまの分まで楽しみましょう」

二人は、1時間ほどでてこなかった。よほど犬猫に夢中になったのだろう。出てきた二人が、犬と猫の毛だらけになっていた。

「京楽さま・・・・・・・・けほっ!げほごほげほっ!」

急に、紫苑が胸に手をあてて苦しみ出した。
咳とともに、ごぽりと血を吐いた。

「いけない!」

浮竹は、紫苑を抱き上げた。

「人にうつる病ではないから・・・・・病院に急ごう」

人力車で、病院にまで連れてってもらう。

「ああ・・・私、今日一日とても幸せでしたわ。もう、居なくなってもいいくらいに」

「何をいってるんだ。君はまだ生きれる。生きるべきだ」

「私・・・・浮竹さまと同じ肺の病ですの、京楽さま。浮竹さまをとってしまおうとして、ごめんなさい・・・・・・・」

「君は・・・・・・・」

紫苑は、京楽の浮竹への想いを気づいているのだ。まぁ学院内でも、付き合っていそうで付き合ていないで有名だったが。

「わたくし、こんなに穏やかで楽しい気持ちになれたのは初めてですわ。勇気をだして、浮竹さまに告白してよかった・・・・・・・」

そのまま、紫苑は緊急入院した。

次の日とその次の日と、面会する。

それが2週間くらい続いた時、彼女は静かに息を引き取った。

「京楽・・・・・・:」

「なんだい?」

「俺は、紫苑の光になれただろうか」

「十分になれたさ。僕もね」

浮竹は、自分の胸の部分の服を掴んだ。

「いつか俺も・・・・肺の病の発作で、あんな風に死にそうな気がして怖いんだ」

「大丈夫、君はここにいる。それに、肺の病が進行しないように、ミミハギ様を宿しているんだろう?君は死なないさ」

「京楽・・・・・・」

浮竹は、珍しく気弱になっていた。

京楽の手をとって、自分の胸に当てる。

「俺の鼓動は、分かるか?」

「分かるよ。ちゃんと脈打ってる」

「そうか・・・・・」

京楽に抱きしめられて、浮竹は一粒の涙を零した。紫苑のための、涙だ、

「彼女は、天国にいけたかな?」

「いけたよ、きっと」

死者を思うのは、悪いことではない。葬式は身内だけでするということらしく、最期をみとどけれなかったが、浮竹も京楽も特別ということで、葬式に出ることを許された。

花を添えた。京楽の金でかった、赤い大量の薔薇を。薔薇のベッドに眠るように、死んだ彼女の棺桶を赤い薔薇まみれにする。赤い薔薇は普通の値段だが、まず何より薔薇自体が高い。こんなに大量の薔薇を抱いてあの世にいけるのは、きっと幸せなのだろうと、紫苑の母親は泣いていた。

「俺も同じ病なんです」

「そうですか・・・・あの子が苦しみを、あなたの分までもっていってくれればいいんですが」

紫苑の母親は、若すぎる娘の死に泣いていた。父親も兄弟も。親族全員が。

その中で、院生の服をきた京楽と浮竹だけが泣いていなかった。異物感に、少し早めに彼女の棺に薔薇の花を添えると、葬式の会場を後にした。

「元気だしなよ、浮竹」

「俺は元気だぞ?」

そういう浮竹は、青白い顔をしていた。寮への帰り道で、途中で止まった浮竹が、空を見上げた。

遠くで、遺体を焼く煙が見えた。

「いつか俺がああなっても、京楽、俺のことを忘れないでくれ」

「ならないよ。君は僕の傍にずっと居るんだ」

「ああ、そうなれればいいな・・・・・・・・」

手を繋ぎあい、触れるだけのキスを交わす。

「浮竹」

「なんだ」

「好きだ。愛してる」

「知っている」

「答えは?」

「保留だ」

「いつになったら、ちゃんとした返事をくれるんだい?」

「学院を卒業するまでには」

「あと3年もあるのか・・・・・短いようで、長いね」

一輪の薔薇の花を、京楽は浮竹の肩より少し伸びた髪にさした。

「君は綺麗だよ」

「京楽も、かっこいいぞ」

寮の部屋につくと、いつもの日常が幕をあける。




「こら京楽、また風呂壊したな!」

「いや、今回は僕じゃないよ!」

「じゃあ、今まではお前の仕業ってことか」

「えーとそれは・・・・・」

「そこに正座しろーーーー!」

がみがみと浮竹からきついお説教をくらい、キスするのもハグも1週間禁止と言い渡されて、涙する京楽の姿があったという。





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