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魔王と勇者

桜の花が満開だった。

魔王浮竹は、前に言った通り、無礼講の花見パーティーを開催した。

町からコックを雇って、その日のために豪華な食事が用意された。

魔王浮竹と勇者京楽と、後は下働きの者や摂政の魔族なんかが参加していた。身内でのささやかパーティーのはずだった。

「なかなかうまいな、これ」

新勇者は、堂々と魔王城に乗り込んで、無礼講の花見パーティーに交じっていた。

「サンダー・・・・」

「浮竹、今日は無礼講でしょ?いいじゃない、新勇者パーティーがいたって」

新勇者は、タッパをもってきて、料理を詰めるだけ詰め込んでいく。

新勇者だけでなく、女僧侶、少年魔法使い、獣人盗賊、青年戦士まで、タッパーに料理をつめこんでいた。

「浮竹様、どうしましょう!料理の数が足りません!」

「急いで町に買い出しいにってくれ」

「浮竹、我慢だよ、我慢」

「京楽、俺はどうしてもあのモヒカンをやめて辮髪(べんぱつ)になっている、新勇者の頭を燃やしたい」

タッパがいっぱいになたら、限界まで料理を貪る新勇者パーティーに、他の魔族たちがざわざわとしていた。

「ええい、ヘルインフェルノ!」

「あちゃあ!あーちゃちゃちゃちゃちゃあちゃーー!!」

すっかり満州人になりきった新勇者は、拳法を披露しうようとするが、大切な自分の髪の毛が燃えていると知って、わめきだした。

「誰だ、俺の優雅な辮髪を燃やす奴は!」

「どうせアデランスだろ?」

浮竹はにこにこしていた。

その笑顔が怖いと思ったのは、何も京楽だけではないだろう。

「何故ばれている!」

「前のモヒカンもアデランスだったろう」

「べ、別に銀の食器を全部盗んで売ったりしてないからな!」

「へぇ、銀の食器がなくなったの、何故知ってるのかな?」

にこにこ笑う勇者の京楽に、新勇者は指をつきつけた。

「魔王なんかとできている元勇者のお前には分かるまい!俺は世界を救うために冒険をして、この魔王城まできたんだ!魔王浮竹の首をとらない限り、近くに住み着くからな!そして冒険をしていない間金がないから、魔王城のものを盗んで売る!これは正義だ!」

「ほう、正義か。じゃあ、魔王が新勇者を滅ぼすのも正義だよな?」

「え、あ、あれ?」

京楽は、すでに遠く離れていた。

他の魔族たちも、浮竹から離れていた。

「サンダーボルテックス!」

しびびびびび。

「なぜだああああ」

新勇者は、黒焦げになりながらも、魔王である浮竹に魔法を放った。

「カラミティファイア!」

それは、浮竹の白い髪の一部を焦がした。

「新勇者。僕の浮竹を傷つけるとは、いい度胸だね」

「へ、あ、勇者京楽、目を覚ませ!お前はこの魔王に操られているんだろう!」

「へぇ、僕が操られているって?LV限界を突破した僕が?」

「何、レベル限界突破だと!聞いていないぞ!お前たち、チートだな!ずるをしているんだろう!」

「魔王の加護に、レベル限界の突破がある。それがあれば、レベル500まであげられる」

「なにぃ!レベル500だと!お前たち、レベル99をこえているのか」

「こえてるとも。500に近いよ」

「このチート勇者とチート魔王め!正義の剣をくらえ!」

人造聖剣エクスカリバーで斬りかかってきた新勇者を、浮竹はその顔面をハリセンで叩いた。

「おぶ!」

「新勇者を一番ボコボコにした者に、金貨100枚をあげよう」

「まじか」

「やるしかないっしょ」

「俺、やる」

「はらへった」

魔族からの声はなく、代わりに新勇者パーティーが名乗りでた。

少年魔法使いは火の魔法で新勇者をあぶり、女僧侶が杖で新勇者の頭を勝ち割った。

獣人盗賊はナイフで新勇者の服を切り刻み、青年戦士は巨大な岩をもちあげて、それを新勇者に投げつけた。

「きゃあああ、裸にされたあああ!痛いし熱い!!酷い!!」

少年魔法使いは、トドメの魔法をさす。

「ダークエッジ」

黒い闇の刃は、新勇者の少しだけ残っていた辮髪を丸ハゲにした。

「勝者、少年魔法使い!」

わーわー。

魔族たちは喜んだ。

新勇者は、フルチンにされたあげく、辮髪を失い、泣いていた。

「酷い!俺はただ銀の食器を盗んで売って、パーティーの魔物討伐の上前をはねていただけなのに!」

「上前をはねていたですってええ!!」

新勇者は、さらに女僧侶にボコボコにされた。

少年魔法使いは、本当に金貨100枚を渡された。

「よし、今日は焼肉食い放題だ。新勇者はくるなよ」

「酷いいいいいい」

「酷いのはどっちだ!パーティーで退治したモンスターの報奨金はきっちり5分割すると決めていただろう。その上前をはねていたなんて、お前が悪い!」

「うわあああああん!魔王浮竹、あの新勇者パーティーを退治してくれ」

鼻水を垂らしながら全裸で近づいてくるものだから、浮竹は新勇者の足をひっかけてこかした。

「うわあああん。みんな俺をいじめるうううう!!」

「まぁ、とりあえず星になっておいで」

京楽が、新勇者の首を掴むと、そのまま魔王城の彼方の空へ投げ飛ばした。

キラーン。

新勇者は星になった。

花見パーティーは、気にせず続けられ、新勇者のいない新勇者パーティーは、食べて飲んで騒ぎあうのだった。

「新勇者、復活できるのか?」

「さぁ、それはパーティーメンバー次第じゃないかな。まぁ、一応パーティーのリーダーだから、追放はないと思うよ」

「ならいいんだが」

魔王は魔王なりに、新勇者のことを気にかけていた。

それは本当の勇者である京楽もだった。

馬鹿にして吹っ飛ばすが、また復活してきてくれないと楽しくない。

そう思うのであった。

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