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魔王浮竹と・・・・

これは、第16代目魔王浮竹十四郎が、魔王になったばかりのお話。

「魔王か・・・・抽選であたったけど、どうすればいいもんか」

魔王城はぼろかった。広さはそこそこあるのだが、ぼろくて雨漏りが酷く、隙間風もふいてくる。

魔王の加護で健康な肉体を手に入れたはいいが、魔王としての仕事は、人間や冒険者や勇者を迫害したり倒したりすることではなく、ただ「魔王」として存在することを求められた。

玉座と書かれたパイプ椅子に座ると、ギィと嫌な音をたてた。

とりあえず、配下がどうなっているのか、人間関係表をもらったので、見た。


セーラちゃん95歳、侍女。種族、人間。よぼよぼなばあさんの侍女。

ダイコーン 大根。兵士。でもただの大根。

キンギョー 年齢10歳の金魚。でかいだけ。兵士。非常食。

タロー&ジロー 飼われてる犬。6歳と7歳。兵士。非常食。

サイッショ 宰相。魔族。年齢999歳。あと1年で寿命で他界。

他にもニンジンとかブロッコリーとかいろいろ兵士がいたが、全部野菜だった。

自家栽培している野菜だ。

兵士と書いてあるのだから、意思をもった存在かと思ったが、ただの野菜で、その晩ダイコーンが調理されて夕食としてでてきた。

「兵士を・・・兵士を食べてしまった!」

浮竹は、涙を流しながらダイコーンこと大根を食べた。

「おいしかった。ダイコーン、お前は兵士としての務めを果たして、食料となった。また大根の苗を新たに植えるから、復活を楽しみにしている!」

浮竹は、魔王らしく高笑いをした。

「ふははははは!・・・・だめだ、キャラじゃない」

そんなこんなで、魔王の加護により元気な肉体を得た浮竹は、近くの町で冒険者ギルドに登録して、モンスターを狩りまくったりして、報酬を得た。

名前はダイコーン。偽名だ。

浮竹が得た金で、鶏や牛や豚、ヤギを購入して、自給自足の生活を開始した。雨漏りも直したし、隙間風が入ってこないようにまではできた。

だが、玉座はいつもパイプ椅子だった。

浮竹の得る金は、宰相のサイッショによって管理されて、農業に金を大分あてていた。

完全なる自給自足ができあがった。

兵士の募集もした。人間魔族他種族関係なしで募集したら、98歳のおばあちゃん、名前はミルルちゃんが、兵士として名乗りをあげてくれた。

よぼよぼすぎて、兵士には無理だと、侍女になってもらった。

1日の3分の2を寝て過ごして、自給自足の魔王城で飯を食って、時折洗濯をしてくれるだけの侍女だった。

ある日、侍女のセーラちゃんがぽっくり逝ってしまった。

葬式をあげたが、神官を呼ぶ金などなく、お香典は銅貨3枚。

浮竹の、お小遣いだった。

1日銅貨3枚。

銅貨が10枚で、大根が買える。

タロー&ジローは、最近自給自足が普及したおかげで餌がよくなったせいか、こえてきた。

「食べごろですなぁ」

宰相のサイッショがそう言うが、さすがに浮竹は犬を食べることはできないので、このまま兵士として飼育することにした。

「はぁ・・・・誰か、遊びにでもきてくれないかなぁ」

魔王浮竹は、もっぱら畑仕事をしているが、家畜の世話とかも終わると暇になる。

宰相のサイッショは年齢のせいか、よく寝ていた。魔族の寿命は千年。きっちりと、そう定められていた。

浮竹は、魔王であることを隠してLVあげに夢中になった。

魔王の加護にLV制限突破というものがある。普通はLV99でカンストでそれ以上あがらないのだが、LV500まで、魔王の加護があればLVがあがるのである。

念願のドラゴン退治とかしてみたが、素材は損傷がひどく、何も売れなかった。LVだけがめきめきとあがっているせいで、オーバーキルになってしまうのだ。

退治依頼も出ていないので、銅貨1枚にもなりゃしねぇ。

でも、そんなモンスター討伐を続けていたせいで、LV415まであがってしまった。

「やば。LVあげすぎたかな」

いずれ勇者パーティーがくるだろうが、浮竹一人で対処するしかないだろう。

しかし、LVが415もあれば、たとえどんな勇者がきても大丈夫だろう。



やがて、勇者がやってきた。

なんと、幼馴染で大好きだった京楽だったのだ。

「京楽が勇者?本当なのか?」

京楽は、勇者の証である聖剣エクスカリバーを見せてくれた。

「売ったら金になるだろうなぁ」

じゅるり。

思考が、金へと結びつく。

勇者京楽は、魔王浮竹と敵対するどころか、恋人同士になってしまった。

その次の日、宰相のサイッショはショックで心臓発作をおこし、死んでしまった。

葬式はあげたが、お香典は白金貨3枚。

京楽がもってきた白金貨100枚の中から、使わせてもらった。お香典は遺族に渡る。

長年魔王の宰相をしてきたサイッショには、もっと払ってあげたかったが、基本貧乏なので京楽の金を使うことさえ躊躇われるし、白金貨3枚ということで落ち着いた。

ちなみに、宰相をしていた頃の賃金は、日給銅貨15枚だった。

なにせ、貧乏なもので。よく宰相をやめずに、続けてくれたものだ。


やがて、新しい勇者と名乗る少年と、そのパーティーが、打倒魔王、打倒裏切者の元勇者と旗を掲げてやってきた。

「浮竹、僕が相手するよ」

「いいのか?俺だとオーバーキルになるから、頼む」

勇者京楽は、LV395。魔王浮竹のLVにかなり近いので、オーバーキルになりそうだが、手をぬくことには長けていてた。

「ファイアボール」

勇者と名乗る少年が、新しい人造聖剣エクスカリバーできりかかってきたところに、魔法を放った。

少年は、頭も衣服も真っ黒焦げになって、はげのフルチンになっていた。

「ちなみに、毛根死滅したからね?僕の浮竹に手を出そうとするやつには、容赦しないよ?」

にこにことと、勇者京楽は魔王浮竹を庇護する。

「きええええ!これでもくらえ!ポイズンブレス!」

勇者パーティーの魔法使いが、毒の霧を生み出す魔法を使った。

「エアストーム」

それを、浮竹が風で押し流した。

自分たちで毒の霧に蝕まれて、勇者パーティーは瓦解した。

「また遊びにこいよ」

きえええと叫びながら撤退する勇者パーティーに、浮竹は手を振った。

「浮竹、いい魔王っぷりだねぇ」

「え、そうか?」

「うん、魔王だからってえばりもせずに、勇者パーティーにはちゃんと対処するし。一応は、魔王らしいところもあるじゃない」

「京楽が来るまでは、勇者や冒険者パーティーがきたことはなかったんだがな」

「え、じゃああの勇者パーティーがきたのは僕のせい?」

「まぁ、どうでもいいじゃないか。今日は兵士のダイコーンこと大根をつかったりしたおでんが夕食だ。さぁ、まずは大根を引き抜くところからはじめるぞ。その他の具材は京楽の金で買っておいたから」

京楽が王様から受け取った、準備金の白金貨100枚は、魔王浮竹と京楽の食費にたまに宛がわれたりした。

京楽も浮竹も、手を抜いてモンスターを倒し、素材を売ることを覚えた。

ドラゴン討伐なんかもして、けっこう有名なパーティーになっていた。

その名も「勇者と魔王」

そのまんまだが、二人を本物の勇者や魔王と知る者はいなかった。

認識阻害魔法を自分たちにかけており、その姿を見た者たちには、勇者と魔王の顔ではなく、別人に映るのだ。

勇者と魔王は、自給自足を続けながら、たまに狩りにってモンスター討伐をして素材を売って金にして、魔王城の修繕費用にあてたりしていた。

兵士はもういらない。

魔王浮竹の隣には、いつも勇者京楽がいた。

二人は恋人同士で、そしてパーティーメンバーだった。

新しい勇者はまた性懲りもなく、魔王浮竹討伐だとやってくる。毛根はもう死んでいるので、ハゲだった。

いつもフルチンにされて、新しい勇者はいつも泣いて帰っていた。

「また遊びにこいよー。今度は、かつら用意しといてやるからな。後、股間用にでっかいはっぱとか・・・・・」

浮竹は、にこにこと泣きながら逃げ出す勇者パーティーに手を振るのだった。




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