黒魔法使いと白魔法使い
この世には、魔法がある。
黒魔法と、白魔法だ。
あと、精霊魔法と神聖魔法もある。
黒魔法は攻撃用の魔法で、白魔法は主に治癒やサポートの役割を果たす魔法だった。
そんな世界に、京楽春水という黒魔法使いと、浮竹十四郎という白魔法使いがいた。
普通、黒魔法使いと白魔法使いは、仲が悪い。
でもこの二人は、仲が悪いどころかできていた。
結婚したての、ほやほやの新婚さんだった。
「京楽、火の魔法でこの野菜を炒めてくれ」
「あいよ。浮竹、浄化する魔法で、この水を飲めるものにしてくれないかな」
浮竹も京楽も、第一級魔法使いなのに、弟子も取らず新婚旅行に魔女の森を飛び出して、人間世界でウフフアハハとやっていた。
そんな二人は、あるパーティーに、ダンジョン攻略の仲間にならないかと勧誘された。
なんでも、前の黒魔法使いは老人で、老衰で死んでしまったのだという。白魔法使いはいなくて、代わりに神官がいて神聖魔法を使っていたのだが、神殿に呼び戻されて治癒する者がいないのだという。
神聖魔法は、神に祈りをささげる事でもたらされる、奇跡を使った魔法だ。
白魔法よりも高位に存在し、けれど使い手は少なかった。
白魔法使いの第一級を所持している浮竹ならば、聖職者の使う神聖魔法よりもすごい魔法が使えた。
例えば、神聖魔法では体が欠損すると、その部分を治癒するだけで、生えてこない。
でも、高位の白魔法になると、欠損した部位が復活する。
浮竹の元には、たまに大けがをして負傷して、体を欠損した者が訪れる。たくさんの謝礼金をもらって、浮竹はそうした者の治癒をおこなった。
昔に失った腕でも生えてくる。
浮竹の名前は、魔法使いの世界ではけっこう有名だった。
一方京楽は。
魔物食いの京楽と呼ばれていた。
黒魔法でモンスターを倒して、モンスターを解体して食べる、魔物食い。
金銭の乏しい冒険者は、時折モンスターを倒して、その肉を食べたりする。食べれるモンスターと食べれないモンスターがいた。
たとえば、亜人系のゴブリンやオーク、リザードマン、アンデット系やゴーストなどの浮遊系は食べれない。
ちなみに、スライムは倒してよく乾燥させると食べれた。
動物系のモンスター、植物系のモンスターは大半が食べれた。
さて。
なんだかんだあって、金には困っていなかったが、暇を持て余していた二人の魔法使いは、そのパーティーに入ることを承諾した。
ただし、京楽の魔物料理を食べること。
これが、引き換え条件だった。
食中毒になれば、白魔法使いの浮竹がいる。なので、パーティーメンバーは、しぶしぶ了承した。
「ああ、スライムがいっぱいだ!あのスライムは、ゴールデンメタルスライム!金だ!」
京楽は、金が好きだった。
浮竹の稼いだ金を管理もしていた。
元々公爵家の次男坊で、次男であるが領地を与えられて管理していた。
その領地はモンスターがよく出て、作物をあらして不作の時が多かった。
魔法使い学園を卒業した京楽は、そんなモンスターを駆除して領民の生活を安定させた。そして動物系モンスターの味を知ってしまい、魔物食いの京楽と呼ばれるようになった。
さて、今日のメニューは。
ゴールデンメタルスライムのみじん切りに玉ねぎを入れて炒めたもの、マンドレイクのスープ、魚人の刺身。
ゴールデンメタルスライムは、表皮の金をはぎ取られて、ただのスライムになっていた。
それを京楽の火魔法で急速に乾燥させて、食べれるようにしたものを、少し甘味のある玉ねぎと一緒に炒めて、ケチャップで味付けをした。
マンドレイクは、引っこ抜くときの悲鳴を聞くと死ぬので、収穫する前に息の根を止める。
魚人は、焼いても食えるが、焼くと苦みがまして、生のほうがうまい。
「本当に、京楽は魔物を食うのが好きだな」
「浮竹だって、なんだかんだいって、僕の魔物料理食べてくれてるじゃない」
二人は、ラブラブだった。
他のパーティーメンバーは、そんな二人をちょっと遠くから見ていた。
「いてててて・・・・この魚人、寄生虫いるんじゃないか!?」
刺身だったので、寄生虫がいたようだ。
パーティーメンバーのタンクである盾使いが、突然の腹痛を訴えた。
「今、退治して治癒する」
ぱぁぁぁと、浮竹の手が光り輝く。呪文の詠唱もなしで、浮竹は盾使いの腹痛を取り除いてしまった。
「京楽、今度からは寄生虫のことも考えて調理してくれ」
盾使いが、そう文句を言うと、京楽はニンマリと笑った。
「浮竹の魔法使う姿、かわいい」
ズコーー。
パーティーメンバーのみんなが、ずっこけた。
「お、次の階層は海原か」
ダンジョンは、時によって階層ごとに地形が変わる。
地味なボロ船に乗って、陸地を目指す。
「水中を歩行できる魔法はないのか?」
そう聞かれて、浮竹はこう答えた。
「水中で呼吸できる魔法ならある」
「それじゃだめだ。荷物が水に浸かって使えなくなってしまう」
「そうだよ、調味料とかいろいろアイテムポケットに入れてるんだから、もしも海水を飲みこんだら、調味料がだめになっちゃう」
京楽も、水中呼吸をして水中の移動は避けたいようだった。
「見ろ、水中にでかい影がある!」
「わーい!クラーケンだ!」
京楽は喜んだ。
他のメンバーは、クラーケンと聞いて臨戦態勢に入った。
浮竹は、パーティーメンバー全員に、スピードがあがる補助の魔法をかけた。
「気をつけろ、下からくるぞ!」
パーティーメンバーのリーダーである剣士がそう言うと、京楽が持っていた杖を掲げた。
「サンダーストーム!」
びびびびびびび。
大量の電撃を浴びて、クラーケンはあの世に旅立って、死体がぷかりと浮かんできた。
「見て、浮竹。イカだよ、イカ!イカ焼きにしよう!今日の夕飯は、イカ焼きだ!」
魔物食いの京楽。
みんなは、京楽の魔法の腕の高さに凄いと思いながらも、あくまでモンスターを食うその魂を、根性あり、と認めた。
ちなみに、その晩に食べたイカ焼きはあほみたいにおいしかった。
魔物食になじんでいないメンバーもおかわりをするほどに。
5階層が海原で、6階層は砂漠だった。
パーティーは、砂漠で夜のうちに急速をとることにした。
「水・・・・水はないか・・・」
喉を乾かした剣士がそういうと、浮竹がもっていた水袋を渡してくれた。
「中身がほとんどないな」
「そうか。足しておく」
浮竹の手がぱぁぁと光り、飲める透明な水がわきだした。おまけに冷たく冷えている。
みんなその水を飲んだり、その水でタオルをひたして体を拭いたり、髪を洗ったりした。
みんなが寝静まる頃、浮竹は京楽と同じテントで、眠りにつこうかというところを、京楽に邪魔された。
「なんだ、眠い」
「少しだけ。好きだよ、十四郎」
抱きしめて、口づけをしてくる京楽に、浮竹が応える。
冒険中だし、仲間もすぐ近くにいるので、交わることはせずにキスとハグだけで終わらせた。
「俺も好きだぞ、春水。イカ焼き、明日の分もあるか?」
浮竹は、クラーケンでできたイカ焼きが気に入ったみたいだった。
「アイテムポケットにアホほど入れたから、いつでも食べれるよ」
アイテムポケットは、その名の通りアイテムを収納できるポケットで、冒険者には重宝される代物だ。
たいていの冒険者がもっているが、せいぜい食料を1週間分いれておくのが限界で、京楽は金に任せて、屋敷が一軒建つような高級なアイテムポケットをもっていた。
京楽のアイテムポケットは、中では時間が経たず、大きな屋敷が丸ごと入るくらいの収納スペースがある。
今寝泊まりしているテントも、京楽のアイテムポケットから出したものだ。
二人は、お互いを抱きしめ合いながら、静かに眠りについた。
そのまま、一行は7階層、8階層、9階層と進み10階層のダンジョン最深部のボスが出る場所にやってきた。
浮竹と京楽を除くパーティーメンバーは、そこのボス、ミノタウロスに負けた。
ちなみに、黒魔法使いの京楽、白魔法使いの浮竹以外のメンバーは、タンクである盾使い、リーダーである剣士、獣人盗賊、新米の斧使いだ。
「ミノタウロス・・・・牛肉だね。霜降り和牛かな」
「バカ、ミノタウロスが霜降り和牛なわけあるか!」
京楽の嬉しそうな声に、浮竹が突っ込みを入れる。
「光よ!」
浮竹は眩しい太陽を生み出して、ミノタウロスの視界を奪った。
「まぶしい・・・ええいままよ!」
剣士が、剣を振りかざす。
斧使いは斧をぶん投げた。
盾使いは、ミノタウロスの暴れる腕を抑えている。
「じっくり焼きましょう。ヘルインフェルノ!」
京楽が出した火の熱さに、みんな耐え切れずミノタウロスを残して後退する。
「京楽、魔法を出すときは何か言え!」
浮竹が、皆の言葉を代弁する。
「あ、ごめん。牛肉食えると思ったら、つい」
京楽は暴走していた。
牛肉が食える。
ずっと昔に食べた、ミノタウロスの肉は、ほっぺが落ちそうに美味しかった。
「じっくりこんがり焼きましょう、おまけのファイアストーム、ヘルインフェルノ、ボルケーノトライアングル!」
火属性の魔法ばかりを放った。
ミノタウロスは、こんがりと焼かれて息絶えた。
「これ、食えるよな?」
極上のステーキの匂いを出すミノタウロスに、皆ごくりと唾を飲んだ。
京楽が、慣れた手つきで解体していき、火の入っていない部分を焼いて、みんなにミノタウロスのステーキを食べさせた。
「やばい、おいしすぎる」
「今までの肉の味じゃねぇ」
「うまい、うまい」
「よかったな、京楽。うん、美味いぞ」
浮竹におかわりを渡しながら、京楽もステーキを食べた。
あの時と同じだ。
ほっぺが落ちるほど、美味しかった。
「さぁ、宝箱の部屋にいくぞ。分配は均等にいこう」
リーダーの剣士の言葉に、浮竹と京楽が異議を唱えた。
「俺たちの分はいい。京楽は公爵家の人間で金は腐るほどあるし、あと俺も治癒魔法でけっこう稼いでいるからな」
「うん、みんなで分けて」
「いいのか、京楽、浮竹」
「うん。魔物食を楽しんでくれる仲間ができて、楽しかったよ」
「俺も、久しぶりに冒険ができた。それだけで十分だ」
京楽と浮竹の言葉に、パーティーメンバーは涙をこらえながら、四人で宝物を分配した。
「さて、帰りますか」
「そうだな」
「このまま、パーティーには残ってくれないのか」
「うーん、魔物食をまだ探求したいけど、今はまだいいかな。また機会があれば、誘ってよ」
「半月後くらいなら、多分暇を持て余してる。魔法使い一級認定の仕事があるから、半月後によければ合流しよう」
そのまま京楽と浮竹は、パーティーから別れて、帰宅した。
「イカ焼き、残ってるか?」
「浮竹、イカ焼き好きだね」
「クラーケンはでかすぎて、食べれないとばかり思っていたからな」
「あはは。リヴァイアサンなら食べれないけど。倒すことはできても、食べれないんじゃ意味ないしね」
リヴァイアサンは海のドラゴンだ。
聖獣としても崇められている。
なんだかんだで、二人はいちゃいちゃしながら冒険を楽しんだのだった。
ダンジョン攻略は、普段会えないモンスターに会い、食べれるから面白いのだ。
また、いつか二人だけでもいいから、ダンジョンに潜ろうと決意するのであった。
黒魔法と、白魔法だ。
あと、精霊魔法と神聖魔法もある。
黒魔法は攻撃用の魔法で、白魔法は主に治癒やサポートの役割を果たす魔法だった。
そんな世界に、京楽春水という黒魔法使いと、浮竹十四郎という白魔法使いがいた。
普通、黒魔法使いと白魔法使いは、仲が悪い。
でもこの二人は、仲が悪いどころかできていた。
結婚したての、ほやほやの新婚さんだった。
「京楽、火の魔法でこの野菜を炒めてくれ」
「あいよ。浮竹、浄化する魔法で、この水を飲めるものにしてくれないかな」
浮竹も京楽も、第一級魔法使いなのに、弟子も取らず新婚旅行に魔女の森を飛び出して、人間世界でウフフアハハとやっていた。
そんな二人は、あるパーティーに、ダンジョン攻略の仲間にならないかと勧誘された。
なんでも、前の黒魔法使いは老人で、老衰で死んでしまったのだという。白魔法使いはいなくて、代わりに神官がいて神聖魔法を使っていたのだが、神殿に呼び戻されて治癒する者がいないのだという。
神聖魔法は、神に祈りをささげる事でもたらされる、奇跡を使った魔法だ。
白魔法よりも高位に存在し、けれど使い手は少なかった。
白魔法使いの第一級を所持している浮竹ならば、聖職者の使う神聖魔法よりもすごい魔法が使えた。
例えば、神聖魔法では体が欠損すると、その部分を治癒するだけで、生えてこない。
でも、高位の白魔法になると、欠損した部位が復活する。
浮竹の元には、たまに大けがをして負傷して、体を欠損した者が訪れる。たくさんの謝礼金をもらって、浮竹はそうした者の治癒をおこなった。
昔に失った腕でも生えてくる。
浮竹の名前は、魔法使いの世界ではけっこう有名だった。
一方京楽は。
魔物食いの京楽と呼ばれていた。
黒魔法でモンスターを倒して、モンスターを解体して食べる、魔物食い。
金銭の乏しい冒険者は、時折モンスターを倒して、その肉を食べたりする。食べれるモンスターと食べれないモンスターがいた。
たとえば、亜人系のゴブリンやオーク、リザードマン、アンデット系やゴーストなどの浮遊系は食べれない。
ちなみに、スライムは倒してよく乾燥させると食べれた。
動物系のモンスター、植物系のモンスターは大半が食べれた。
さて。
なんだかんだあって、金には困っていなかったが、暇を持て余していた二人の魔法使いは、そのパーティーに入ることを承諾した。
ただし、京楽の魔物料理を食べること。
これが、引き換え条件だった。
食中毒になれば、白魔法使いの浮竹がいる。なので、パーティーメンバーは、しぶしぶ了承した。
「ああ、スライムがいっぱいだ!あのスライムは、ゴールデンメタルスライム!金だ!」
京楽は、金が好きだった。
浮竹の稼いだ金を管理もしていた。
元々公爵家の次男坊で、次男であるが領地を与えられて管理していた。
その領地はモンスターがよく出て、作物をあらして不作の時が多かった。
魔法使い学園を卒業した京楽は、そんなモンスターを駆除して領民の生活を安定させた。そして動物系モンスターの味を知ってしまい、魔物食いの京楽と呼ばれるようになった。
さて、今日のメニューは。
ゴールデンメタルスライムのみじん切りに玉ねぎを入れて炒めたもの、マンドレイクのスープ、魚人の刺身。
ゴールデンメタルスライムは、表皮の金をはぎ取られて、ただのスライムになっていた。
それを京楽の火魔法で急速に乾燥させて、食べれるようにしたものを、少し甘味のある玉ねぎと一緒に炒めて、ケチャップで味付けをした。
マンドレイクは、引っこ抜くときの悲鳴を聞くと死ぬので、収穫する前に息の根を止める。
魚人は、焼いても食えるが、焼くと苦みがまして、生のほうがうまい。
「本当に、京楽は魔物を食うのが好きだな」
「浮竹だって、なんだかんだいって、僕の魔物料理食べてくれてるじゃない」
二人は、ラブラブだった。
他のパーティーメンバーは、そんな二人をちょっと遠くから見ていた。
「いてててて・・・・この魚人、寄生虫いるんじゃないか!?」
刺身だったので、寄生虫がいたようだ。
パーティーメンバーのタンクである盾使いが、突然の腹痛を訴えた。
「今、退治して治癒する」
ぱぁぁぁと、浮竹の手が光り輝く。呪文の詠唱もなしで、浮竹は盾使いの腹痛を取り除いてしまった。
「京楽、今度からは寄生虫のことも考えて調理してくれ」
盾使いが、そう文句を言うと、京楽はニンマリと笑った。
「浮竹の魔法使う姿、かわいい」
ズコーー。
パーティーメンバーのみんなが、ずっこけた。
「お、次の階層は海原か」
ダンジョンは、時によって階層ごとに地形が変わる。
地味なボロ船に乗って、陸地を目指す。
「水中を歩行できる魔法はないのか?」
そう聞かれて、浮竹はこう答えた。
「水中で呼吸できる魔法ならある」
「それじゃだめだ。荷物が水に浸かって使えなくなってしまう」
「そうだよ、調味料とかいろいろアイテムポケットに入れてるんだから、もしも海水を飲みこんだら、調味料がだめになっちゃう」
京楽も、水中呼吸をして水中の移動は避けたいようだった。
「見ろ、水中にでかい影がある!」
「わーい!クラーケンだ!」
京楽は喜んだ。
他のメンバーは、クラーケンと聞いて臨戦態勢に入った。
浮竹は、パーティーメンバー全員に、スピードがあがる補助の魔法をかけた。
「気をつけろ、下からくるぞ!」
パーティーメンバーのリーダーである剣士がそう言うと、京楽が持っていた杖を掲げた。
「サンダーストーム!」
びびびびびびび。
大量の電撃を浴びて、クラーケンはあの世に旅立って、死体がぷかりと浮かんできた。
「見て、浮竹。イカだよ、イカ!イカ焼きにしよう!今日の夕飯は、イカ焼きだ!」
魔物食いの京楽。
みんなは、京楽の魔法の腕の高さに凄いと思いながらも、あくまでモンスターを食うその魂を、根性あり、と認めた。
ちなみに、その晩に食べたイカ焼きはあほみたいにおいしかった。
魔物食になじんでいないメンバーもおかわりをするほどに。
5階層が海原で、6階層は砂漠だった。
パーティーは、砂漠で夜のうちに急速をとることにした。
「水・・・・水はないか・・・」
喉を乾かした剣士がそういうと、浮竹がもっていた水袋を渡してくれた。
「中身がほとんどないな」
「そうか。足しておく」
浮竹の手がぱぁぁと光り、飲める透明な水がわきだした。おまけに冷たく冷えている。
みんなその水を飲んだり、その水でタオルをひたして体を拭いたり、髪を洗ったりした。
みんなが寝静まる頃、浮竹は京楽と同じテントで、眠りにつこうかというところを、京楽に邪魔された。
「なんだ、眠い」
「少しだけ。好きだよ、十四郎」
抱きしめて、口づけをしてくる京楽に、浮竹が応える。
冒険中だし、仲間もすぐ近くにいるので、交わることはせずにキスとハグだけで終わらせた。
「俺も好きだぞ、春水。イカ焼き、明日の分もあるか?」
浮竹は、クラーケンでできたイカ焼きが気に入ったみたいだった。
「アイテムポケットにアホほど入れたから、いつでも食べれるよ」
アイテムポケットは、その名の通りアイテムを収納できるポケットで、冒険者には重宝される代物だ。
たいていの冒険者がもっているが、せいぜい食料を1週間分いれておくのが限界で、京楽は金に任せて、屋敷が一軒建つような高級なアイテムポケットをもっていた。
京楽のアイテムポケットは、中では時間が経たず、大きな屋敷が丸ごと入るくらいの収納スペースがある。
今寝泊まりしているテントも、京楽のアイテムポケットから出したものだ。
二人は、お互いを抱きしめ合いながら、静かに眠りについた。
そのまま、一行は7階層、8階層、9階層と進み10階層のダンジョン最深部のボスが出る場所にやってきた。
浮竹と京楽を除くパーティーメンバーは、そこのボス、ミノタウロスに負けた。
ちなみに、黒魔法使いの京楽、白魔法使いの浮竹以外のメンバーは、タンクである盾使い、リーダーである剣士、獣人盗賊、新米の斧使いだ。
「ミノタウロス・・・・牛肉だね。霜降り和牛かな」
「バカ、ミノタウロスが霜降り和牛なわけあるか!」
京楽の嬉しそうな声に、浮竹が突っ込みを入れる。
「光よ!」
浮竹は眩しい太陽を生み出して、ミノタウロスの視界を奪った。
「まぶしい・・・ええいままよ!」
剣士が、剣を振りかざす。
斧使いは斧をぶん投げた。
盾使いは、ミノタウロスの暴れる腕を抑えている。
「じっくり焼きましょう。ヘルインフェルノ!」
京楽が出した火の熱さに、みんな耐え切れずミノタウロスを残して後退する。
「京楽、魔法を出すときは何か言え!」
浮竹が、皆の言葉を代弁する。
「あ、ごめん。牛肉食えると思ったら、つい」
京楽は暴走していた。
牛肉が食える。
ずっと昔に食べた、ミノタウロスの肉は、ほっぺが落ちそうに美味しかった。
「じっくりこんがり焼きましょう、おまけのファイアストーム、ヘルインフェルノ、ボルケーノトライアングル!」
火属性の魔法ばかりを放った。
ミノタウロスは、こんがりと焼かれて息絶えた。
「これ、食えるよな?」
極上のステーキの匂いを出すミノタウロスに、皆ごくりと唾を飲んだ。
京楽が、慣れた手つきで解体していき、火の入っていない部分を焼いて、みんなにミノタウロスのステーキを食べさせた。
「やばい、おいしすぎる」
「今までの肉の味じゃねぇ」
「うまい、うまい」
「よかったな、京楽。うん、美味いぞ」
浮竹におかわりを渡しながら、京楽もステーキを食べた。
あの時と同じだ。
ほっぺが落ちるほど、美味しかった。
「さぁ、宝箱の部屋にいくぞ。分配は均等にいこう」
リーダーの剣士の言葉に、浮竹と京楽が異議を唱えた。
「俺たちの分はいい。京楽は公爵家の人間で金は腐るほどあるし、あと俺も治癒魔法でけっこう稼いでいるからな」
「うん、みんなで分けて」
「いいのか、京楽、浮竹」
「うん。魔物食を楽しんでくれる仲間ができて、楽しかったよ」
「俺も、久しぶりに冒険ができた。それだけで十分だ」
京楽と浮竹の言葉に、パーティーメンバーは涙をこらえながら、四人で宝物を分配した。
「さて、帰りますか」
「そうだな」
「このまま、パーティーには残ってくれないのか」
「うーん、魔物食をまだ探求したいけど、今はまだいいかな。また機会があれば、誘ってよ」
「半月後くらいなら、多分暇を持て余してる。魔法使い一級認定の仕事があるから、半月後によければ合流しよう」
そのまま京楽と浮竹は、パーティーから別れて、帰宅した。
「イカ焼き、残ってるか?」
「浮竹、イカ焼き好きだね」
「クラーケンはでかすぎて、食べれないとばかり思っていたからな」
「あはは。リヴァイアサンなら食べれないけど。倒すことはできても、食べれないんじゃ意味ないしね」
リヴァイアサンは海のドラゴンだ。
聖獣としても崇められている。
なんだかんだで、二人はいちゃいちゃしながら冒険を楽しんだのだった。
ダンジョン攻略は、普段会えないモンスターに会い、食べれるから面白いのだ。
また、いつか二人だけでもいいから、ダンジョンに潜ろうと決意するのであった。
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